地獄
気がつくと、俺は「赤い空」の下にいた。
「ここは……」
見渡す限り、岩と砂だけの荒野。 空には太陽も月もなく、ただドス黒い赤色が広がっている。
確か俺は、あの妖狐の闇に飲まれたはずだ。 なぜ、生きている?
ここは、天国か? いや、絶対に違う。 肌にまとわりつくような、腐った空気。
ここは、地獄だ。 ということは、俺は死んだのか?
わからん。 思考がまとまらない。 とにかく、現状を把握して、ここから脱出しなければ……。
そんな時だった。
真後ろから、
「……ニンゲン?」
という、錆びついた鉄を擦り合わせたような声が聞こえた。
背筋が凍る。 恐る恐る振り返ると……。
そこにいたのは、悪魔だった。 ボロボロの翼、ねじれた角、長い爪。 絵本に出てくるような「見た目通り」の、しかし圧倒的な殺意を持った悪魔。
「う、わぁあああああああああああああッ!!」
俺は、本能的な恐怖に震えながら、反射的に手を突き出した。
「電撃三連!!!」
バチッ、バチッ……。
弱い。 火花のような電撃が飛んだだけだ。
くそっ。 魔力がない。 あの闇に飲まれた時、ほとんど根こそぎ持っていかれたのか、それともこの空間が魔力を阻害しているのか。 俺の中のタンクは、もうスッカラカンだ。
次使ったら、魔力欠乏症でショック死する。
残された武器は、ホルスターに入っている銃と、残弾二発だけ。
俺は背を向けて走った。
「ニンゲン? ニンゲン? ニンゲン?」
悪魔は、壊れたレコードのように繰り返しながら、狂ったように追いかけてくる。 俺の放った微弱な電撃など、蚊ほどにも感じていないようだ。
くそっ。 あの妖狐と同じだ。 この世界の住人(悪魔)には、物理攻撃の銃も、半端な魔法も効かない可能性が高い。 奴らは、半分精神体で、半分物理のような存在なのだろう。
全力で走る。 肺が焼けるように熱い。
だが、数分後。 ついに終わりが来た。
行き止まりの岩壁。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「ニンゲン! ケケケケケケ!!」
追いついた悪魔は、俺をすぐに殺そうとはしなかった。 長い舌で唇を舐め、じっと俺を見下ろしている。 獲物をいたぶるのを楽しんでいる目だ。
「……終わり、か」
お前は弱い、と言わんばかりの嘲笑。 銃を構える力も残っていない。
俺は、救えなかったエルフたちの顔を、リズや兄上、パイルの顔を思い浮かべて、静かに目を閉じた。
すまない。
そして。 来るはずの攻撃は、来なかった。
グイッ。
「え?」
代わりに、俺の体は何者かに強く引っ張られた。 岩壁の隙間――小さな洞窟の中へと、強引に引きずり込まれたのだ。
「しっ。静かに」
誰かの声がした気がした。 だが、精神と肉体の限界を超えていた俺は、確認することもできず。
泥のような睡魔に抵抗できないまま、深い闇へと落ちていった。




