そして…
そんな「日本化」した生活を送っていた、ある日。
エルフ国に、行方不明だった雷帝龍と水星龍の死体が襲撃してきた。 何者か(十中八九、龍王かラズネット)の手によって、魔導回路を埋め込まれ、ただ魔法を乱射するだけの「ゾンビ兵器」として改造されていたのだ。
「グオオオオオオオ……」
腐敗した巨体が迫る。 普通なら国が滅ぶ危機だ。
だが、リズはあくびをしながら指を鳴らした。
「…」
リズは、無言のまま。
核炎
転移
と2属性の極大魔法を、詠唱破棄でたった30秒で完成させた。
結果。 二体の巨大なゾンビ龍は、一瞬にして消滅し――。
ラングダム王国の執務室で、優雅にティータイムを楽しんでいたバークレー王の目の前に、ドサリと「配達」された。
リズが一瞬だけ現れ、優雅な笑みを浮かべて、まるで何事もなかったように、龍のこげた死体が残る。
「ブフォッ!?」
王が紅茶を吹き出し、その後、泡を吹いて倒れ、緊急全国会議(悲鳴)を開催したのはまた別の話。
*
また、ある日。
肉狂いのエルフ・ノブレイが、また懲りずに魔法を使った。 それも、あの問題の肉生成を。
「肉うぅぅぅぅぅぅぅ!!」
カッ!!
ただ、驚きだったのは、今回は「肉」が転移してこなかったことだ。 代わりに――「ノブレイ」が消えた。
そして、食堂に用意されていた俺のステーキの目の前に、ノブレイがシュタッと転移して現れたのだ。
「……へぇ。」
リズが感心したように声を漏らす。
「物体を引き寄せるのではなく、対象(肉)の座標へ自らを転移させるとは……その魔法で自分自身が飛べるとは、驚きだわ」
俺も思った。
いや、それ普通に「対象指定型の転移魔法」じゃん。 しかも、「肉がある場所」という条件付きの。
すごいじゃん。 座標計算なしで高速移動できるとか、戦術的価値が高すぎる。 めっちゃ有能じゃん。
ただ、褒めると調子に乗るので心の中にしまっておく。
当の本人は、あと少しで「現行犯逮捕」になるところだったのに、目の前の肉を見て、
「やったぜえええええ!! いただきまああああす!!」
と狂喜乱舞していた。 (その後、きっちり俺の雷魔法で黒焦げにした)
*
その頃。 ラングダム王国。
英雄龍ドラスは、かつての友・ラングダムと過ごしたこの地でくつろいでいた。 それも、王都の広場に特設された「巨大ステージ」の上で。
(……なんで我、こんなところにいるんだ?)
いや、くつろいではいなかった。 視界を埋め尽くすのは、超満員の観客。 それも、最前列から送られてくる子供たちの熱視線がすごい。
(なんか……国民的マスコットキャラになってしまった)
何もしていないのに、子供たちがキラキラした目で見てくる。 「わあ! ドラス様だ!」「かっこいい!」「本物だ!」
うっ。 そ、その純粋な目はずるい……。 断れない。
我は溜息をつきつつ、ファンサービスとして空に軽く火炎を吐いて花火を作ってやった。
ドォォォン!!
その瞬間、広場が揺れた。
「ドラス!」「ドラス!」「ドラス!」「ドラス!」 「ドラス!」「ドラス!」「ドラス!」「ドラス!」
割れんばかりの「ドラス・コール」。
誰もが笑顔で、我の名を叫んでいる。 本来、龍とは恐れられる存在のはずなのに。
(……フン。悪くない)
なぜ我ごときが、人間の子供相手に愛想を振りまかねばならんのか。 そう思いながらも、かつての英雄と共に見た「守りたかった笑顔」を重ね、胸の奥が温かくなるのを感じる自分がいた。
*
一方その頃。 ドワーフ国。
契約龍アストは、活気あふれる市場の大通りを歩いていた。 黄金に輝くその体は目立つが、ドワーフたちは恐れることなく、親しげに手を振ってくる。
「ようアスト様! 今日もいい鱗してるねぇ!」 「アスト様のおかげで、商売繁盛だよ! ありがとな!」
「契約魔法」。 かつてアストが作ったその魔法は、今や商売や約束事には欠かせない、便利なツールとして定着していた。
この世界の住民は、千年前の「強制的な平和」というしがらみを知らず、ただ純粋に、幸せにこの魔法を使っている。
アストにとっては、千年前に作った魔法の細かい経緯など、どうでもよかった。 ただ、アストが通りを歩くたびに、自分より背の低いドワーフたちから「ありがとう」という言葉をかけられる。
(……ああ)
その声を聞くたびに、千年前。 雪山まで自分を訪ねてきた、三人の「亜人」の若者たちを思い出す。
『ありがとう、龍神様! これで俺たちは争わなくて済む!』
あの日と同じ感謝の言葉。 アストは目を細め、懐かしい気持ちに浸るのだった。
*
その後。 二柱の龍は、それぞれの国で愛される「守護龍兼マスコット」として、末長く祀られることになったとさ。




