英雄龍ドラス3
そして、ついに雷帝龍エレキストが、空を揺るがす声で究極魔法を唱え始めた。
「――我は命ずる。この世の理に。雷の雷神に……」
まずい。 ドラスである我の知識が告げている。 あれは、雷属性の頂点に位置する魔法。詠唱時間は、奴の今の魔力ならおよそ一分。
止めなければならない。 だが、水星龍アクアスが執拗に我の行手を遮る。
相性が、最悪だ。 我の炎は奴の水に防がれ、奴の水は我の炎を貫通する。
「……六種類の英知の中の、雷の究極を、この世に顕現せよ……」
淡々と、しかし確実に、破滅へのカウントダウンが進んでいく。
残り50秒。
契約龍アストは、もう魔力が尽きかけ、飛んでいるのがやっとの状態だ。 次に一撃でも喰らえば、間違いなく致命傷になる。
我は十秒練り上げた広範囲炎魔法を放とうとするが――。
「黄金の魔力ううううぅぅッ!!」
「無駄だ! 水銃弾!」
ドガガガガッ!! アストの展開した黄金の盾が、アクアスの水弾によって削り取られる。
くそおおおッ!! またアストに助けられた。今のは明確に、詠唱中の我の逆鱗を狙っていた。
敵は、本来なら十秒かかる上級魔法を、わずか五秒で連射してくる。 対して我は、七秒はかかる。 龍王の強化によるスペック差が、ここにきて響いている。
残り30秒。
くそっ。 一体どうすれば。 とにかく、詠唱が完了した魔法を叩きつけるしかない!
「煉獄!!」
中級魔法に分類されるが、燃費と威力のバランスが良い我の十八番だ。 紅蓮の炎が渦を巻いて水星龍に襲いかかる。
だが――ジュワァァァッ!!
「ぬるいな、ドラス!」
効かない。 水星龍の纏う水の膜が、我の炎を蒸発させてしまう。
残り20秒。
水星龍が、ターゲットを変えた。 疲れ切って動きの鈍った、契約龍アストの方へ。
「させるかああああああああッ!!」
我は叫び、割り込もうとする。だが、遅い。
「沈め! 水銃弾三連ッ!!」
「炎障壁三連んんん!!」
間に合えッ! 耐えろおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!
だが、祈りも虚しく。 属性有利な水弾は、我の炎の障壁を紙のように突き破り――。
ズドオオオオオオオオンッ!!
アストの体を、無慈悲に貫いた。
「アストォオオオオオオオオオッ!!」
「グ……ガ……」
黄金の光が消える。 大量の血を撒き散らしながら、親友が地上へと墜落していく。
その光景を見ながら、我は絶望に染まった。 もう、守ってくれる盾はない。 そして、時間は満ちた。
「――――ああ。神よ。我に啓示を与えたまえ。この世の精霊と我の魔力で、全てを灰燼に帰せ。 雷の究極よ。 轟雷電」
カッ!!!!
世界が、白く染まった。 空そのものが雷となり、逃げ場のない絶望が降り注ぐ。
ああ。 終わりだ。 ラングダム、すまない。お前の国を守れなかった。
死を覚悟し、目の前に迫る破滅の光を見つめた、その時。
パァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ。
パァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ。
戦場には似つかわしくない、乾いた破裂音が響いた。
え?
直後。
バガアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!!!!
「「ギャアアアアアアアアアアアアアアッ!?」」
究極魔法の雷光ごと。 水星龍も、雷帝龍も。 空の一部が、消し飛んだ。
その爆発は、かつて英雄龍とうたわれたドラスには、英雄の光に見えた。




