龍
〜〜〜ラングダム王国国王視点〜〜〜
執務室の窓ガラスが、遠くの爆音でビリビリと震えている。 俺は、卓上に広げられた戦況地図を見下ろしながら、重い溜息をついた。
現状、俺の手元には「最高の知らせ」と「最悪の知らせ」が、それぞれ二つずつある。
まず、最高の知らせの一つ目。 元エルフ王・ラズネットが前線に到着し、文字通りの「無双」をしていることだ。 海底からの帰還で習得した転移を駆使し、神出鬼没の戦術で敵将を次々と討ち取っているらしい。 「国を滅ぼされたくない」という執念が生んだ鬼神の如き働きは、劣勢だった前線の士気を爆発的に向上させた。
二つ目。 ついに、音信不通だったエルフ国(ベシュタルト領)との連絡がついたことだ。 ソウスとリズだ。彼らが健在ならば、リズの転移魔法で、エルフ国の強力な魔法兵団を即座に王都へ移送できる。 これは、喉から手が出るほど欲しかった最強の切り札だ。
だが、希望と同じ分量の絶望もある。
最悪の知らせの一つ目。 帝都などで暴れていた三龍が飛び去ったことで、足止めを食らっていた帝国軍の本隊がついに動き出したことだ。 その数、およそ二十万。 騎士団の主力に加え、宮廷魔法使い筆頭『核炎』までもが戦地に投入されるという。 さらに、獣人国からも屈強な正規軍が雪崩れ込んでくる。 個の力が強い彼らが組織だって攻めてくれば、ラズネット一人の奮闘など、暴力の波に飲み込まれてしまうだろう。
そして、最悪の知らせの二つ目。 飛び去った三龍の進路だ。 奴らは東へ――つまり、この王都か、その先のエルフ国へ向かっている。 もし戦場に龍が降り立てば、敵味方関係なく全てが灰になる。 あるいは、この王都が第二の帝都のように焼き払われるか……。
思考が暗い方へと沈みかける。 だが、俺は首を振ってそれを打ち消した。
(……いや、大丈夫だ)
俺には、あの厄災がいる。 かつて「龍王」すら子供扱いしたという彼女なら、龍の三体や四体、どうにかしてしまうという謎の確信があった。 それに、ラズネットもいる。 いざとなれば、彼らが龍をなんとかしてくれるはずだ。
そう自分に言い聞かせた、その時だった。
バンッ!!
「申し上げます!!」
伝令兵が、ノックもなしに部屋へ転がり込んできた。 その顔は、恐怖と興奮で引き攣っている。
「ど、どうした! 帝国軍が王都に迫ったか!?」
「ち、違います! 上空です!! 先ほど、かつての『亜人連合アスト国』において契約を司るとされた伝説の古龍、『契約竜アスト』が突如として出現しました!!」
「なんだと!? アストだと!?」
滅びた国の守護竜が、なぜ今頃?
「さらに異常事態です! アストの出現に呼応するように、帝国側で暴れていた我が国の守護竜、『英雄竜ドラス』が、共に飛んでいた水竜と雷竜を裏切りました!! 現在、上空にて『契約竜アスト&英雄竜ドラス』の連合軍と、『水星竜アクアス&雷帝竜エレキスト』の連合軍が……大規模な交戦を開始していますっ!!」
「は……?」
理解が追いつかない。 守護竜が、戻ってきた? 伝説の契約竜と共に、侵略者の龍と戦っている?
ズガァァァァァァァァァンッ!!!!!
直後、鼓膜を破るような爆発音が頭上から降り注いだ。 衝撃で窓ガラスが粉々に砕け散る。
俺は慌ててバルコニーへ飛び出した。
見上げた空は、四色の極光に染まっていた。 赤き炎と、黄金の光。 青き激流と、紫電の雷。
四柱の神ごとき巨竜たちが、王都の空で絡み合い、噛みつき合い、魔法を撃ち合っている。 それは、神話の再現などという生易しいものではなく、世界の終わりを告げる光景だった。
「な、なんだこれは……」
俺はただ、空を見上げて呆然と立ち尽くすしかなかった。




