戦況
〜〜〜バーゼル・レイクリ帝国皇帝視点〜〜〜
相変わらず、ラングダム王国とドワーフ国の連合軍は、澱みなく兵力を投入してくる。 だが、なぜか積極的な攻勢には出ていない。
それもそうだ。 大方、あちらは「龍の対処に追われる帝国がいずれ疲弊する」のを待ち、深入りを避けているのだろう。
だが、その期待は悪い方に裏切られた。 疲弊などという生易しいものではない。
現在、我が帝国は全軍事力を挙げて、帝都を襲う『英雄龍ドラス』と、港湾都市を襲う『水星龍アクアス』に対処している。 しかし、その炎と水は、軍事大国と謳われた帝国の力をもってしても、抑えきれないのだ。
魔法兵団を総動員し、ドラスには相性の良い水属性部隊を、アクアスには雷属性部隊を当てているが、焼け石に水だ。 残りの四属性の魔法兵団のうち、「影」部隊は同盟国である獣人国で暴れる『雷帝龍エレキスト』への援軍に向かわせたが、風と草以外の団長とは連絡すらつかない状況だ。
帝都を守るために主力を割かねば、国そのものが壊滅する。 そのため、王国との前線に送れるのは、騎士団全百隊のうちのわずか三隊(百五十人程度)と、二軍以下の魔法兵団のみ。 あとは同盟に加入した小国からの寄せ集め支援軍――歩兵十万、魔馬兵五千、魔法兵三千ほどだ。
獣人国も、国内の龍への対処で手一杯らしく、援軍は千五百人ほど。
そして、傭兵団と冒険者が合わさり、これほどの人数になったのだ。
唯一の救いは、宗国カルトから派遣された回復魔法部隊が優秀であることと、商国ミシドの豊富な物資供給のおかげで、なんとか戦線を維持できていることだ。
宗国カルトは、草属性は神の属性だといい、神の御前隊とよばれる草属性の隊に入ると、他の国の魔法隊の二十倍ほどの破格の給料がもらえる。所以に、他の国からも草属性の魔法使いが流れてきて、回復魔法に優れており、あまり攻撃性のない草属性でも、戦闘で役に立っているのだ。
対して、ラングダム王国軍は歩兵五万、魔馬兵二千、魔法兵三千ほど。 数では圧倒的にこちらが有利なはずだが……ドワーフ国が提供する優秀な武具と、王国の精鋭魔法兵、そして何よりこちらの指揮系統の混乱が相まって、戦況は泥沼の膠着状態に陥っている。
王国側はおそらく、宮廷魔法使いクラスの戦力を惜しみなく投入しているのだろう。 対するこちらの宮廷魔法使い(核炎使い)は、ドラスの対処にかかりきりだ。
はぁ。一体どうすればいいのか。
頭を抱えていた、その時だった。
「報告!!」 伝令兵が飛び込んできた。
「た、大変です!! 帝都のドラス、および港湾都市のアクアス、獣人国のエレキストが……突如として攻撃を止め、東の方角へ飛び去りました!!」
「なんだと!? 東だと?」
東。 そこには、ラングダム王国。 いや、そのさらに奥にある……『エルフの国』がある方角だ。
三体の龍は、示し合わせたように一直線にそこへ向かっていった。
*
一方その頃、エルフ国。
ラングダム王国からの伝令兵が、必死の形相で現状を説明していた。 バークレー国王はやっと連絡がついたことに安堵し、詳しい説明はこの兵士に任せて通信を切ったらしい。
「――――という状況なのです。帝都などで暴れていた三体の龍が、突如として進路を変え、このエルフ国へ向かっているとの情報が……!」
兵士は震えながら言った。そして、
「わ、私はこれで……。あ、あの、もしよろしければ、一泊させていただいてもよろしいでしょうか?」
……それもそうだ。 帰り道で龍に遭いたくはないだろうし、なにより、改革後の我が国の宿屋(元藁小屋)は、王国の一流ホテルよりも快適そうに見えるからだ。
「ええ、いいわよ。……はぁ。龍か。懐かしいわね」
リズが遠い目をしながら呟いた。
「え、リズ。龍と会ったことあるのか?」
「ええ。昔ね。五十年ほど前のことかしら。 ピクニック気分で雪山山脈の洞窟へ遊びに行って、そこで『龍王』という、他の九つの龍を統べる王様と戦ったことがあるわね」
リズはこめかみを抑えながら言った。
えぇ。
ここにいた全員(俺、グレン、パイル、ネルク)がドン引きした。 頭を抑えたいのはこっちだよ。 あの伝令兵なんて、今の話を聞いて青ざめて部屋に引っ込んでしまったぞ。
そこで、パイルが一番気になっていたことを恐る恐る尋ねた。
「か、勝ったの?」
「……引き分けだったわ」
ふぅ。 その瞬間、俺たちは安堵の息を吐いた。 さすがのリズでも、龍の王には勝てなかったか。なら、今回の龍たちも説得の余地が――。
「私が息をするように全属性の上級魔法をぶっ放し続けてたら、龍王とやらがボロボロになって、『くっ……殺せッ!』って言ったのよ。 だから私、『あなたはクッキーを食べるよりもつまらなかったわ』って言い捨てて、トドメも刺さずにその洞窟を去ったの。だから、勝負はついてないから引き分けよ」
ドン引きーーーーーー。
リズはその年齢により他のエルフよりは魔力量は少ないが、他のエルフは龍王に勝てない。
…なぜなら、普通、上級魔法を詠唱するのには相当の手だれでも、30秒はかかるからだ。それを、リズは1秒でやる。
それが、最近影の薄い兄上のような剣士型が、魔法使い型に相性がいいとされている所以なのだが…。
イミガワカラナイヨ。 ソレ、精神的には「圧勝」以上の「屈辱」ダヨ。 戦士としてのプライドをズタズタにして放置プレイとか、一番恨まれるやつじゃん。
その瞬間、俺たちの思考は見事にシンクロした。
(((((いや、消息不明だった龍たちが急に暴れ始めて、ここに向かって来てるのって……龍王をリズにいたぶられたことへの復讐じゃね??)))))
全ての点と線が繋がった。 この世界大戦の原因、お前かよ。




