天才
俺は、せっせと働くエルフたちを見ながら、ボーっとしていた。
……。 ちょろいな、と思いながら。
そして、これまでの人生を思い返す。 ああ、俺はもう二十六年も生きてきたんだな。 長いようで、短かった。
「何辛気臭い顔しているんですか。まだ十歳なのに、人生に疲れたという年寄りみたいな顔しないでください」
淡々と、しかし的確なツッコミと共に、リズがやって来た。
……。 お前、中身は九十八歳だろ。一番の年長者が何を言う。
「いや……思い描いたものをそのまま作れる魔法があればなぁ、と思ってさ」
それさえあれば、高層ビルも作れる。 車も、銃も、電子機器も。 頑張れば、Wi-Fiだって再現できるかもしれない。
だが、それには圧倒的な魔力が足りない。
そんな時だった。
「それなら……」
リズは、せっせとアリのように働いているエルフたちを目線で指さした。
……。
「天才っ! リズ、お前天才だったんだ!」
「何言ってるの。私はいつでも天才よ。」
いや、ちょうど一ヶ月前までポンコツだったけどね。
魔法を新しく「創造」するときは、魔力を使えば使うほど、その構成強度が上がり、完成後の使い勝手が良くなる。 だが、イメージが必須だ。 リズたちがいくら魔力を持っていても、前世の記憶がなければ、車のエンジン構造も、Wi-Fiの仕組みもイメージできない。
つまり、「俺の知識」と「エルフの魔力」を合体させれば……最強だ。
俺は善は急げと、風魔法拡声を使ってエルフたちを呼び集めた。
「あー、皆さん。ちょっと実験をしたいので、僕に魔力を半分ぐらい分けてくれませんか?」
エルフたちは、一斉に怪訝な目で俺を見た。 「なんで大事な魔力をタダでやらなきゃいけないんだ」という顔だ。
まぁ、そりゃそうか。やはり無料では動かないか。 うーん。どうしても欲しい。
「もし、魔力をくれた人には……今日の夕食に最高級の霜降り肉をあげるわよー」
(ナイスリズ!!)
そうだ、その手があった。
カッ!!
エルフたちの目の色が変わった。 いや、目が発光した。
実は、意識改革によって生活水準が上がり、彼らは「美食」の味を知ってしまったのだ。 罠猟や農耕で食卓が豊かになった結果、かつての「不味い肉」には戻れない体になっていた。
……本当に、高貴なプライドはどこへ行ったんだ。 まあ、魔力なんて一晩寝れば回復する。 寝るだけで最高級の肉が食えるなら、安いものだろう。
(ナイスアシストだ、リズ!!)
天才だ。
そんなことを考えている間に、エルフたちが無我夢中で走ってきた。
「「「「「「「「「「光速身体強化ッッ!!!」」」」」」」」」」
ドッドッドッドッドッ!!!
いや、そこで最高級の身体強化を使わなくても!! 地響きがすごい!
「俺が一番乗りだぁああああ!!」 「私よおおおおおお!! 肉ぅぅぅぅぅ!!」 「お前らどけええええええ!!」
すごく阿鼻叫喚の図になった気がする。 まるで飢えたゾンビの群れだ。
俺は拡声し、
「えー、順番です!! 誰でも来てくれたなら、もれなくプレゼントしますから落ち着いて!!」
と言って、やっと暴動を鎮めたのだった。
*
そこからは、どんどんヤバくなっていった。
何がヤバいって?全てヤバい。
今そこにいた、リズをも超える「規格外」の魔力持ちたちが、俺という器にどんどん魔力を注ぎ込んでいくのだ。
初めの三人だけで、すでに俺のキャパシティを超えた。 魔力を体内に維持するのが限界になり、リズに補助についてもらって圧縮する。
途中で、兄上が通りがかったと思ったら、この場の異常な魔力密度を感じ取って、全力で逃げて行った。 賢明な判断だ。
そして、十人、二十人と増えるにつれ、俺の体は発光し始めた。
太陽を超え、たぶん超新星爆発をした時の光よりも明るくなった。 リズが慌てて、視覚遮断魔法を俺にかけてくれたおかげで失明は免れたが、周囲は真っ白だ。
そして、その場にいた百人(国全体の二分の一)の魔力をそれぞれ半分もらった時。
その魔力量は明らかに、この大陸ごと消し飛ばせそうなほど、禍々しく、重くなっていた。
重い。 空間が歪むほどに、重い。
よし、そろそろ作っていくか。 この膨大なエネルギーを、「一つの魔法式」に鋳造する。
さすがに全て一気に入れると、俺が爆発してクレーターができる。 ……もしかして、この魔力量なら「四重魔法」どころか、「五重魔法」すら超えるかもしれない。
とにかく、集中だ。 少しずつ、少しずつ、魔力を練り上げ、形にしていく。
「魔法創造」
俺は、脳内の設計図を固定する。
明確な、思い描いた物が、詠唱とイメージだけで現実に「物質化」するシステム。 それをこの世界の理に刻み込む。
取り込み、イメージし、圧縮する。 取り込み、イメージし、固定する。 取り込み、イメージし、構築する。
汗が滝のように流れる。 脳が焼き切れそうだ。
だが、やめるわけにはいかない。 これは、俺がこの世界で「現代日本」を再現するための、最初の一歩だ。
取り込み、イメージし、作る。 取り込み、イメージし、作る。 取り込み、イメージし、作る。
*
気づいたら、日が暮れていた。
リズに視覚遮断魔法を解いてもらうと、既に太陽は沈み、空には星が瞬いていた。
あれだけの天文学的な魔力を、全て使い切ったのだ。 たった一つの魔法を作るために。
「はぁ……はぁ……」
圧倒的な疲労と、それを上回る達成感が体を覆っていく。
魔力はもう空っぽだ。 指一本動かせない。
だが、俺の脳内には、確かに新しい「回路」が出来上がっていた。
これさえあれば。 明日は、何を作ろうか。
風呂か? 車か? それとも……戦車か?
俺は泥のように眠りにつきながら、明日を楽しみに待つのだった。




