戦況
〜〜〜ラングダム王国国王視点〜〜〜
そして、その絶望的な戦争は始まった。
王城の作戦司令室は、怒号と悲鳴に似た報告で溢れかえっていた。
「――おい! エルフ国への援軍要請はまだか!!」
俺は地図を叩いて怒鳴った。
「も、申し上げます! 先ほどから何度も通信を試みているのですが、エルフ領全体が正体不明の強力な結界のようなものに覆われており、通信が一切届かないのです!」
「なんだと!? ……くそ、あいつら何をやっているんだ!」
俺は舌打ちをした。 ソウスとリズだ。きっと何かとんでもない防衛魔法でも展開しているのだろうが、こちらの連絡まで遮断してどうする。
「わかった、もういい! 物理的な伝令を走らせろ! 下がれ!」
ガチャン。
戦況は、刻一刻と悪化している。
もちろん、開戦直後に「これは誤解だ」「何者かの工作だ」という使者を帝国へ送った。 だが、三人の使者は誰一人として生きて帰って来なかった。問答無用で殺されたのだ。 もはや、話し合いの余地はない。
唯一の救いは、隣接するドワーフ国が味方についてくれたことだ。 彼らは義理堅く、次々と最新鋭の武具を納品してくれている。 現在、我が軍はそれらの装備を使い、国境付近でちょこまかと攻撃を仕掛けてくる「ハーフフット国」への迎撃に当たっている。
だが、それでも戦力は足りない。
すでに、他の宮廷魔法使いは1人だけ残して戦場に全ブッパした。
また、王国の親衛隊も、騎士団も全てかりだしている。
パイルにも早く帰ってきてほしい。
ハーフフット国の機動力は異常だ。 小柄な体躯を活かしたゲリラ戦術に、我が軍は翻弄されている。
幸いなことに、敵の主力である「レイクリ帝国」と「獣人国」からは、大規模な軍勢は来ていない。 それぞれ百五十人ほどの小隊が旗を掲げて睨みを利かせているだけだ。
……おそらく、それぞれの国内で暴れている「伝説の三龍」への対処で手一杯なのだろう。
だが、油断はできない。 帝国の代わりに主戦力となっているのは、「宗教国カルト」の回復魔法部隊と、「商業国ミシド」の豊富な資金力による傭兵団だ。 彼らの支援を受けたハーフフット軍は、ゾンビのように何度でも蘇り、最高級の装備で襲ってくる。
そして、龍の対処が終われば、帝国と獣国から本物の精鋭たちが雪崩れ込んでくるだろう。 そうなれば、ラングダム王国は終わりだ。
そのためにも、エルフ国の強大な魔法戦力が喉から手が出るほど欲しいのだが……。
その時だった。 司令室の入り口に、予期せぬ人物が立っていた。
「……ラズネット?」
元エルフ王、ラズネットだ。
彼は、以前見た時よりもさらに酷く、頭からつま先まで海水でびしょ濡れになっていた。 服からはポタポタと雫が垂れ、床に水たまりを作っている。
俺は王としての覇気を纏い、彼を睨みつけた。
「貴様……どうやって三日足らずで海底から帰ってきたぁ!!」
リズによって深海へ転移させられたはずだ。 感じられる魔力は微小。空っぽに近い。 恐らく、全魔力を使い果たしてここまで来たのだろう。
ラズネットは、青白い顔で答えた。
「……それは、私が死ぬ気で転移を習得したからだ。 ……それより、陛下。私を、戦力にしたくはないか?」
ふむ。 まさに悪魔の囁きだ。
一度裏切った男を信用する趣味はない。 だが、今の戦況が逼迫しているのは事実だ。 使える駒なら、悪魔でも使いたい。
「……ふむ。それで、そちになんの得がある?」
交渉で必要なのは、相互利益だ。 感情ではなく、損得で結びついた関係の方が、今の状況では信用できる。
ラズネットは、真剣な眼差しで俺を見た。 その瞳に、嘘の色はなかった。
「私は……エルフ国を、私の故郷を滅ぼされたくないだけです」
……なるほど。 方法はどうあれ、彼もまた一国の王だったということか。
「よし、わかった。契約を結ぶぞ」
「もちろんです、陛下」
ラズネットはその場に跪いた。 かつては同格の王だったが、今は属国の民として。
「条件はこうだ。こちらは、貴様の身の安全と、エルフ国の存続を保証する。 対価として、貴様は我が軍の『兵器』となり、レイクリ帝国連合軍を殲滅せよ」
「承知した」
俺たちは同時に手をかざし、詠唱した。
「「契約」」
カッ!! 魔力の光が部屋を満たす。
こうして、ラングダム王国と元エルフ王との間に、奇妙な共闘関係が結ばれたのだった。




