意識改革
というわけで、後日。 俺は意識改革(文明化)のために、エルフ全員を広場に集めていた。
…リズが精神拘束を解いたから、一緒に寝れなくなったことが少し悲しいことはここだけの秘密ね。
ちなみに、視察の結果、お風呂はもちろん存在しなかったし、寝床もなぜか「藁」を手作りで編んだだけの、家畜小屋のような仕様だった。 ここ、本当に高等種族の国か?
「何のために集められたのだろう?」「なんかまずいことしたのかしら?」
エルフたちがざわついているが、関係ない。 俺は風魔法音声拡大を使い、声を張り上げた。
「あー、あー。静粛に。 これより、『ベシュタルト領・意識改革運動』を始める。 まず、住環境についてだ。至急、屋根を直してください。雨漏りを放置するのはやめろ。 次に、あのボロボロの柵を取り壊し、ちゃんとした『城壁』を作ります。一国に城壁がないのは変です。 そして、結界は『調理用』ではなく、『外敵侵入防止用』に作り変えます」
続いて、リズが前に出て補足する。
「食料については、自分たちで森へ行き、狩りをして手に入れてください。家でこもっているだけで、魔物が勝手に結界に飛び込んでくるのを待つのは禁止よ。 農作業も効率化します。その有り余る魔力量で作物に成長をかけまくり、風鋏で収穫し、風圧で運搬してください」
会場がどよめいた。
「えー」「そんなぁ」「やだわぁ」「めんどくさい……」 「魔法で刈り取るとか、作物への愛がない……」 「魔法の水とか、自分のおしっ◯飲むみたいで無理……おえーー」
……最後のやつは無視することにする。
不満たらたらのエルフたちに対し、ここで「とっておきの脅し」を投入する。 パイル、出番だ。
パイルが一歩前に出て、台本通りのセリフを棒読みで叫んだ。
「と、とりあえずっ! 明日までにそれを実行すること! もし、できていなかった場合は……! 全家庭に、魔法で作ったピカピカのバスタブと魔法で作ったフカフカの上質ベッドを強制的に設置してやるからなー! わっはっはー。」
す、清々しいほど棒読みー。
ただ、ナイス演技、パイル! 普通ならご褒美だが、こいつらにとっては拷問だ。
効果は抜群だ。
「うわーっ!!」「そんなぁ!!」「やだわぁ!!」 「魔法で作った風呂に入るなんて……おえーー。無理!」 「俺、お風呂になんて入りたくない! 臭いままでいいぜ、ふっ」
……また最後のやつか。 一人の男のエルフが、腕組みをしてふんぞり返っていた。 見た目は精悍なイケメンだが、発言が汚物だ。
「ちなみに俺、生まれてから一度も風呂に入ってないぜ。フッ」
無視しよう。
「あ、でも俺……二十七年前にうっかり浄化を使っちまったわ。くっそおお、一生の不覚!」
無視……。
「よし、俺は今から絶対に風呂には入らんぞ! 体を洗うのは雨に濡れる時だけだ! ワイルドだろ? ふっ」
俺は、こめかみの血管がピキッとなるのを感じた。
「……お前。今度、うちのリズに、ゼロ距離で全力全開の浄化を使わせるからな」
「ッ!?」
ノブレイと呼ばれていたその男は、顔面蒼白になった。 まるで「死刑宣告」でもされたかのような顔だ。
周りのエルフたちも、「うわぁ、不潔自慢してたら浄化刑だよ……」と冷ややかな目で見ている。
ノブレイは脂汗を流しながら、俺にすがりついてきた。
「な、なぁ! 城壁作り手伝うから! 真面目に働くから! それ(浄化)だけはやめてくれぇぇ!! 俺のアイデンティティが消えちまう!」
その時、横にいた兄上がボソッと呟いた。
「……城壁と、結界の構築もだ」
すかさずパイルが実況を入れる。
「えー。グレン様より追加注文入りました! 『城壁と結界』のセットです! ノブレイ選手、それでいいのか!?」
いや、調子乗ってるのパイルだったわ。
ノブレイはギリギリと歯を食いしばった。
「くっ……わかった! そうしてやるよ! 全部ピカピカに作ってやるから、俺の体だけはピカピカにしないでくれぇぇぇ!!ちなみに俺の名前はノブレイだ。覚えてろよおおおおお。」
そうして、ノブレイは捨て台詞を残して、脱兎のごとく作業現場へ走っていった。
それを見たリズが、悪魔的な笑みを浮かべて全体に告げる。
「皆の者。今のを見たわね? これに免じて、絶対に言いつけを守ってくださいね? さもなければ……全員、ピカピカのツルツルにしてあげるから……」
リズが指先で、魔法をかける仕草をする。 いや、こいつが一番ノリノリで楽しんでるわ。
「わ、わかった!」「ぜ、絶対にノルマ達成してやるんだから!」「けっ。やってやるぜ!」
エルフたちは蜘蛛の子を散らすように、仕事へと散っていった。
……。
こいつらの価値観が、本当にわからない。
魔法で浄化されないために、魔法で作った水を飲むだと? どっちにしろ魔法が嫌なのに、究極の二択を迫られて労働を選んだのか。
この国の改革、前途多難すぎるだろ……。




