視察
俺は、先ほどの「柵で魔物を自動調理する」という現実味のない話し合いの後、村の視察に来ていた。
完全に空気と化していた兄上と、新入りのパイルも、もちろん連れていく。
まず、建物の中を見せてもらったが……酷かった。 床は腐りかけ、天井からはポタポタと雨水が垂れている。
案内役のネルクは、その雨漏りを見て、真顔でこう言った。
「別に、水生成で水を出して飲んでもいいんですけどぉ……。なんか自分の魔力で体から出した水って、おしっ◯みたいで嫌じゃないですか?」
……。
最低の下ネタをぶっこんできた。 こいつ、知的な顔をして、感覚的な理由で雨漏りを放置してやがった。
だったら、外に雨を溜めるバケツを置くとか、川から水を汲んでくるとか、物理的な解決策があるだろおおおお!! なんで「魔法の水が嫌だから、雨漏りをすする」という極論になるんだよ!!
俺が頭を抱えていると、次に昼食の準備風景を見せられた。
「私たちは、別に魔法でパンを作ることも簡単なんですよ? ただ、魔法で作業工程をすっ飛ばしたパンって、なんか『温かみ』がないというか、よろしくないと思うじゃないですか。 だから、あえて魔法を使わずに畑を耕して、小麦を育てて、手作業でパンを作っているんですよ」
それって、あなたの感想ですよね!?
こだわりの無添加オーガニックパン屋かよ。 ただ、彼女らはそれが正義だと思っているらしい。
しかも、「自然な姿」にこだわるあまり、身体強化すら使わずに農作業をするため、効率が最悪。 結果、一日に作れるパンは一人一切れ。 それで飢えている。
……。
お前ら、頭おかしいいいいいいいいい!!
肉も水もパンも、全て魔法を使えば一瞬で解決するじゃないかああああああああ!! 餓死寸前までいって守るプライドか、それは!?
……。
なんか急に、ラズネット(元王)が可哀想になってきたんですけど。
こんな奴らをまとめてたの? え、逆にすごいんだけど。メンタル鋼鉄かよ。
え、ていうことは……。
「ああ、そうですよ。国庫にお金なんて余るほどありますけど、何か問題でも?」
ネルクがあっけらかんと言う。
大問題だよおおおおおおおおおおおお!!
金があるなら、せめて他所から食料と水を買えよおおおおおお!! なんで金を持って餓死しかけてるんだよ!!
「あ、それについてはですね。ここの国のみんな満場一致で、『国のために地産地消しましょう!』ってことになってまして……」
あああああああああああああ。 もう嫌だあああああああああ。 無能な働き者しかいない。
「あの老害も、『魔法を使わないなら、せめて金を使って輸入しろ』とか『文明的な生活をしろ』とか、うるさかったんですよねぇ。はぁ。本当にいなくなってスーッとしましたよ」
ラズネット、偉いいいいいいいいいい!!
え、あいつ、めっちゃ常識人じゃん。 「老害」扱いされてた理由、「まともな説教」をしてたからなの!?
つまり、そのリズの究極魔法で脅してまでも、生活水準を上げさせようとしていたってこと?
よし、次あいつが海底から戻ってきたら説得しよう。 そう、腹を割って話せばわかる。 きっと、俺たちは美味しい酒が飲めるはずだ。
ラズネット様、本当にすみません。 うちの国の連中が、そちらの国の「真のヤバさ」を知らなかったせいで、貴方を悪者扱いしてしまいました。
貴方は、被害者だったんですね。 本当に、すみません。
「あああああああああああああああッ!!」
俺は、たまらず絶叫した。
突然発狂し出した俺を見て、パイルとリズとネルクとグレン兄上は、「うるさいなぁ。」と言わんばかりに顔をしかめる。
「「「「なぜ急に叫び出したのですか(うるさいですね)」」」」
お前らのせいだよおおおおおおおおおおお!!
あ、パイルとグレン兄上は関係ないね。ごめんね。
とにかく。 俺はこの視察で確信した。
魔物はどうでもいい。 どうにかして、この頭のおかしいエルフ達の意識改革をしなければ、この国は勝手に滅びる。




