宣戦布告
あの会議から一ヶ月が経過した頃。
世界最大の大国・レイクリ帝国は、阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。
理由は明白。 帝都の上空に、伝説の災厄が現れたからだ。
「グオォォォォォォォォ!!」
赤き鱗を持つ巨竜――ラングダム王国の建国神話に語られ、その通貨にも描かれている守護竜『ドラス』。 それが今、帝都を炎で焼き払っているのだ。 誰がどう見ても、偶然ではありえないほど通貨の絵柄と一致していた。
さらに、帝国の港湾都市では『水竜アクアス』が暴れ回り、津波を起こしている。
時を同じくして、隣国の獣人国でも、伝承にある雷電龍『エレキスト』が出現。 空を裂くほどの雷撃を操るその姿は、本物でしかありえなかった。
炎、水、雷。 三柱の伝説級ドラゴンによる同時多発テロ。 これらは全て、たった一週間のうちに引き起こされた。
偶然で片付けられる事態ではない。 これは、明確な「攻撃」だった。
帝国政府は、すぐさまラングダム王国へ緊急魔法通信を繋いだ。 異例の問責会議。 だが、通信機から返ってきたのは、ラングダム王の声色をした、しかし酷く無機質な音声だった。
『……お前らのような無能な国と同盟を結んでいたなんて、吐き気がする。同盟は決裂だ。我々はこれより、貴国に宣戦布告する』
プツン。 通信は一方的に切断された。
この瞬間、世界は割れた。
レイクリ帝国は、これをラングダム王国による卑劣な奇襲攻撃と断定。 激怒した皇帝は、即座にラングダム王国への宣戦布告を返し、同盟国である獣人国、商業国、および周辺の小国群を巻き込んで、かつてない規模の連合軍を組織した。
*
一方、ラングダム王国。 王城の執務室は、凍りついたような空気に包まれていた。
「……は?」
バークレー王は、報告を聞いて絶句していた。
身に覚えのないドラゴンの襲撃。 身に覚えのない暴言。 そして、一方的に叩きつけられたレイクリ帝国からの宣戦布告。
「ふざけるなッ!!」
ドンッ!! バークレーは拳を壁に叩きつけた。 拳から血が滲むが、痛みなど感じないほどの怒りと困惑が彼を支配していた。
「くっそ……何が起こっている!? 誰かが我々を嵌めようとしているのか!?」
だが、事態は待ってくれない。 帝国軍はすでに動き出している。
「……あちらがその気なら、こちらも全力で対応するしかない。各地に伝令を飛ばせ! レイクリ帝国、ハーフフット国、獣人国、商業国……あちら側についた国を確認しろ! 速急に、中立国へどちらにつくか判断を仰げ!」
結果は絶望的だった。 大国である帝国の圧力に屈し、ほとんどの国が敵側に回った。
ラングダム王国に残された戦力は、自国の軍と、同盟を維持してくれた「ドワーフ国」、そして属国となったばかりの「エルフ国(ベシュタルト領)」のみ。
世界中が、敵になった。
*
ドワーフ国・王都。 国中が、熱気と鉄の匂いに包まれていた。
緊急体制が敷かれ、全ての工房がフル稼働で武器の錬成と兵の準備を行っている。
「よし! このまま、戦争の準備を急げ!!」
ドワーフ王コナキは、玉座の間で冷静に指揮を執っていた。
正直なところ、ラングダム王国から宣戦布告の事実(と、嵌められたという弁明)を聞かされた時は、目玉が飛び出るほど驚いた。 客観的に見れば、負け戦だ。 大臣たちは「帝国につくべきだ」と猛反対した。
だが、コナキは王国につくことを選んだ。
理由は一つ。 あの少年――ソウス・ベシュタルトだ。
「……フン。自分でもどうかしていると思うわい」
コナキは髭を撫でた。 理屈ではない。 だが、あの少年には「星」を感じるのだ。
長年、鉄を打ち、本物を見極めてきたコナキの直感。 それは、「こっちに賭けた方が面白い」と告げていた。 自分の直感は絶対だ。今まで、直感を信じて間違えたことは一度もない。
「頼むぞ、若造。そして、あの規格外のエルフ嬢ちゃん」
コナキは、遠い空を見つめた。 あの少年たちが、この絶望的な戦況を覆すほどの善戦をしてくれることを、ただ祈るしかなかった。




