話合い
さて。 俺はこれから、二百人あまりのエルフたちに、今後どう動くかの指示を出さなければならない。
まずは現状把握だ。周囲を見渡す。
……酷いな。 まず、村を囲っている防壁――らしきボロボロの木の柵は、控えめに言って最悪だ。隙間だらけで、これでは魔物が入り放題だろう。 エルフの魔法があれば撃退できるとは思うが、防衛ラインとしては機能していない。
次に、住居の作りも悪い。 木を使っているのはいいが、ツギハギだらけで、屋根も雨水が溜まって腐りそうな形になっている。
ラズネットめ、どれだけここを放置していたんだ。
そうして観察していると、一人のエルフの女性が進み出てきた。 見た目は人間で言うと二十歳前後。青い瞳が印象的な、知的な美人だ。
「あの……私たちはどうすればいいのでしょうか」
「あなたの名前は?」
「私は、ネルクと言います。一応、ラズネット元王に次ぐ、この国のまとめ役をしておりました」
へぇ。実質的なリーダーか。 俺は一番気になっていたことを単刀直入に聞いた。
「あの、国の総人口って、ここにいる二百人だけですか?」
「はい。これで全部です」
即答だった。 少なすぎる。一国の人口というより、ただの集落だ。
「……では、この国の軍事力はどのくらいですか?」
「はい。控えめに言って、この大陸で最強です」
彼女は、はっきりと、澄んだ青い瞳で俺を見て言った。 虚勢を張っているようには見えない。事実を述べている目だ。
「そ、そうですか……」
「はい。ただ、そちらのお二方のように、究極魔法を使える者はございません」
うーん。 俺は魔力視で彼女たちを見る。
……あー、なるほど。 全員、魔力量がおかしい。 ネルクさんを含め十人ほどは、あのリズよりも多い魔力を内包している。 他の者も、宮廷魔法使いレベルがゴロゴロいる。
究極魔法が使えないのは、単に「属性の相性」や「技術」の問題か。 素材(魔力)だけなら、確かに大陸最強かもしれない。
……というか、俺の百倍以上の魔力を持つ化け物を見ても驚かなくなってきた自分が怖い。 リズと一緒にいすぎて、感覚が麻痺している。
「と、とりあえず、治安と生活環境が悪すぎます。普段、何を食べていますか?」
「えっと……いい時ならパン一切れと、焼いた肉一個ぐらいでしょうか」
ネルクが後ろのエルフたちに同意を求める。
「そうですよね?」「うんうん。そうそう」「悪い時だと水だけの時もありますわ」
うーん。 想像以上に酷い。飢餓寸前じゃないか。 ラズネットは、相当な悪政を敷いて搾取していたんだろうな。
「えー、明日からはこの国を変えていきます。俺たちが支援しますから」
俺が宣言すると、リズも具体的な案を出した。
「まず、明日にはあのボロボロの柵を直しましょう。そして、森に食料確保用の罠を仕掛けましょう」
うん。それはとてもいい考えだ。 まずは防衛と食料。基本だな。
納得して頷こうとした、その時。
「えっと、柵は直さないでください」
ネルクが真顔で止めた。
え、なんで?
「な、何でですか? あんな隙間だらけじゃ魔物が入ってきますよ」
「それはですね。あの柵を乗り越えて入ってきた魔物を、柵の内側に張ってある「自動迎撃結界」で拘束して、入ってから一秒で『お肉』にするシステムになっているんです」
……はい?
「えーっと。つまり、侵入感知と同時に高加熱が発動する仕組みを結界に組み込んでいまして。反応があり次第、即座に丸焼きにします」
えぇ……。 そんな手の込んだことするの、エルフぐらいだよ。 あ、エルフだからするのか。
「ただ、その方法だと、魔物が死ぬ瞬間の魔力が肉に残留してしまって……味がすごく不味くなるんです。だから、みんなあまり食べたがらないのです。ただ、加熱しないとやはり魔物肉は不味くて食べられなくて…」
ネルクは困ったように眉を下げた。
「ちなみに、結界は一ヶ月に一回ぐらい老朽化するので、全員で再構築しています」
ポカーン。 俺は開いた口が塞がらなかった。
超高等魔法を、「自動魔物調理器」として使っているのか。 しかも、そのせいで飯が不味くてひもじい思いをしている?
その無駄に高い技術力を使って、もっとマシな罠を作れよ!!




