エルフ王国
はぁ。長かった。
「……やっと着いたぁ」
窓の外を見ると、空が白み始めている。もうすぐ日が昇りそうだ。
ていうか、めっちゃ森。 「道」と呼べるものはなく、木々を強引に倒して馬車がギリギリ通れるようにした獣道しかなかった。
もし、この揺れ対策として母上と姉上に空間固定を施していなかったら、二人とも今頃は吐きすぎて脱水症状になっていただろう。 リズ、ありがとうな。流石に、狭い馬車で吐かれたらたまったもんじゃない。
……まぁ、いい。
森を抜けると、少し開けた広場に出た。
そこには、約二百人ほどのエルフが集められていた。 特徴的な長い耳。整った顔立ち。
まず思ったのが、これ国????
え、200人??
そして、もう一つ違和感がある。 老若男女……違う。「若男女」しかいない。 年寄りが一人もいないのだ。全員が二十代前後の若々しい見た目をしている。 エルフは長命だから見た目が変わらないのか、それとも……?
観察していると、リズが馬車から降りて前に出た。
「我々はラングダム王国の使者である。汝らの元君主、ラズネットの裏切りにより、国家連盟から正式にこの地の統治権が譲渡された」
エルフたちの表情がさざめく。 不安、安堵、好奇。 ラズネットの圧政から解放された安堵と、人間ごときに支配される不安が入り混じっているようだ。
「ここは今後、ラングダム王国の公爵、ベシュタルト家によって統治される。現地統治は、私、エルフのリズネットと、その補佐役であるソウス・ベシュタルトが行う」
シーン……。 沈黙が流れる。 まぁ、急に「はいそうですか」とはなれないよな。
馬車の中から様子を窺っていると、横からドスッと肘打ちされた。
「ぐっ……え?」
「お前、今出るんだよ。ほら。リズも、エルフたちも、『ソウス・ベシュタルトとは誰?』って顔してるだろ」
兄上が小声で囁いてきた。
あぁ、そういうことね。 俺は腰を上げると、道連れに兄上の手をガシッと掴んだ。
「ちょっ、ま、なぜ俺も!?」
「僕は、ベシュタルト家次男のソウスです。そして、こちらが一応の護衛である長男、グレンです」
俺は抵抗する兄を引きずり下ろし、エルフたちに紹介した。 兄上は「そういえば俺は護衛だった……」という絶望の顔をしている。
続いて、他の馬車からも家族が出てくる。
「私は、ベシュタルト家当主、ザークです」 「同じく、妻のアーナです」 「同じく、娘のカームです」
そして最後に、厳重な警備と共に国王が出てくる。
バークレー王の周りには四人の宮廷魔法使い。そしてリズ。 グレンも剣を構えて警戒する。 エルフは全員が魔法使いだ。熟練者でも詠唱に一秒かかる魔法使いにとって、接近戦の剣士は天敵となるため、これは正しい布陣だ。
「我はラングダム国国王、バークレー・ラングダムである。今から、我の名の下において、この地を我が国の領地とする」
威厳ある宣言。 エルフたちが一斉に膝をつく。
「「「「「「「ははっ!!」」」」」」」
こうして、統治の引き継ぎは滞りなく終わった――。
「「「「ッ!?」」」」
殺気。
「炎弾十一連ッ!!」
「電気障壁十一連ッ!!」
ドガガガガガッ!!
間一髪。 俺はとっさに障壁を展開し、飛来した炎の弾幕を防いだ。
あ、危ない。 え、エルフの残党が反逆したのか?
土煙が晴れる。 そこに立っていたのは、土に塗れ、衣服もボロボロになった、かつてのエルフ王――ラズネットだった。
「リズゥゥゥゥ!! よくも貴様ァァァ!!」
(えぇ……どうやって深海の底から帰ってきたんだ……執念か?)
とにかく、どうにかしなければ。 俺は轟雷電の並列詠唱を始める。
広場のエルフたちは、新領主に従うか、元王に従うか、動揺している。 バークレー王は、咄嗟の判断で叫んだ。
「エルフたちよ! もし今、ラズネットに味方すれば、世界全ての国に逆らったことになるぞ! 賢明な判断をせよ!」
おお、さすが国王。 その言葉を聞き、エルフたちはラズネットに顔を向け、彼に向かって魔法の構えを取る――。
「転移」
シュンッ。
ん?
リズがラズネットの背後に現れ、その肩を掴んで消えた。
……あ。 察し。
そして、数十秒後。 全身ずぶ濡れになったリズが、海水をしたたらせながら戻ってきた。
「……」
「「「「「「「「「「これはひどい」」」」」」」」」
一応、状況が飲み込めず戸惑っているエルフたちに説明しておく。
「えーっと……。もともとリズがラズネットを海底送りにしていたんだけど、自力で戻ってきたから、今リズがもう一回、もっと深い海底へ送り返してきました」
「「「「「「……」」」」」」
エルフたちは誰一人として言葉を発しなかった。 恐怖で。
「こ、こほん。……それでは、現地組のリズとソウス、あとは任せたぞ」
王様が、そそくさと馬車に戻ろうとする。 俺は、サササと俺の背後に隠れようとした兄上をガシッと掴んで言った。
「兄上もですよっ」
「えぇ……」
結局、王は「パイル」と呼ばれる宮廷魔法使いの女性だけを残して、風のように去っていった。 逃げ足が速すぎる。
残されたのは、俺と、グレンと、リズ。 そして、ペコペコと頭を下げているパイルさん。 あとは、ずっと平伏して沈黙を貫いている二百人のエルフたちだけだった。
「私はパイルですっ。王の命により、ここに残って皆様の戦力になるよう言われました。よろしくお願いしますっ」
黒髪の長い、どこか儚げで美しい女性だ。 彼女は申し訳なさそうに言った。
「私は、お二方のように究極魔法を使えない落ちこぼれですが……精一杯頑張りますっ」
……えぇ。 この国のエリートである「宮廷魔法使い」をして、「落ちこぼれ」発言?
基準がおかしいよ。 究極魔法が使えないのが普通だからね?
俺はこれからの国作りに、一抹の不安を覚えるのだった。
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