そして…
さて、今からエルフ王国へ出発だ。
……と言っても、これからベシュタルト家が管理することになった領地(旧エルフ国)には、責任が重すぎて絶対に行きたくなかったのだが。
俺は屋敷の前で、馬車の準備を進めていた。 同行するのは、優秀でイケメンな剣士の兄、資金担当の父上、そして「カス担当」の母上と姉上だ。
その時、テキパキとした声が聞こえた。
「ソウス、来たわよ。これからエルフ王国に行くんだから、本当に色々な物資が必要ね。食料、毛布、水、野営道具……ブツブツ」
本当に、キャラが変わったなぁ。
以前の「幼女で超・陽キャのトラブルメーカー」から、「幼女で陰キャの計画的エルフ」に大変身だ。 ……まあ、見た目の面では全く変わらない、愛らしい十歳の幼女のままだけどね。
そして、少し遅れて、ラングダム国王バークレー陛下も豪華な馬車で到着した。
え? 来るの? 国王が国を空けていいの?
バークレー王は、俺の疑問を見透かしたように、少し目を細めて言った。
「エルフ国は我が国の新しい『属国』となるのだ。最初の視察に国王が赴くのは、統治の基盤を固める上で当たり前であろう」
……確かに。 ぐうの音も出ない正論だ。
そして、準備をしている最中に、さっきから気になっていたことをリズに聞いてみた。
「なぁリズ。俺たちの魔力なら、転移で一瞬じゃないか? なぜわざわざ二か月もかけて馬車で行くんだ?」
「あーーー。それはね……予言で『馬車を使うべし』と出ていて……ゴニョゴニョ」
「?」
うーん。 よく分からないが、まあいい。 この「預言者」が言うなら、何か深い理由があるのだろう。
とにかく、出発だ。
*
ガタガタガタ……。
「「「「「ニコニコ」」」」」
さて。 馬車の中は、奇妙な空間になっていた。
まず、事前に俺から空間固定の魔法を教わったリズと、バークレー王は、揺れない座席でとてもご機嫌だ。 もちろん、俺と父上と兄上も快適だ。
そして、対照的に。 「カス担当」の可哀想な二人、母上と姉上は、ガタガタと揺れる座席で、今にも泣きそうな顔をして震えている。
「うぅ……気持ち悪い……」 「ソウス……お願い……」
またしても無視しようかと思った、その時。
「ソウス。今ここで、彼女らに魔法を教えてあげなさい。そうすると、将来『いいこと』があるわよ」
リズが、ふと真面目な顔で言った。
「えー。やだよ」
「勘よ」
そう言われると弱い。 前からリズは、妙に勘がいいんだよな。 例えば、さっきの集合時間も、特に伝えていないのに、ピッタリに来たし。
ということで、今回ばかりはご慈悲を与えてやろう。
「……わかったよ。母上、姉上。これは『借り1』だからね。絶対に返してもらうよ」
「「あ、ありがとうございます! ソウス様ーーー!!」」
二人は涙を流して感謝した。 現金なものだ。
この旅は、片道およそ二ヶ月。 その間ずっと揺られ続けるよりは、ここで恩を売っておく方が得策か。
ちなみに、バークレー王は途中で護衛の宮廷魔法使いが守る豪華な馬車へ移動するため、リズはこのまま俺の馬車に同乗することになった。
そうして、俺は自分の哀れな家族二人に対し、ようやく空間固定を教えてやったのだった。
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