戴冠式前夜
よし。
王都の屋敷に到着した俺は、伸びをした。 疲れは精神的にも体力的にも全く問題ない。 あの快適な「魔法の座席」のおかげで、移動の疲労はゼロだ。精神的にも、家族をからかっていたからむしろ元気なくらいだ。
さて、今日は公爵就任式の前夜祭だ。 俺は着替えを済ませると、会場となる王城のパーティーホールへと足を踏み入れた。
「おぉ、美味しそう!!」
会場には、色とりどりの料理が並んでいた。 特に、魚介系の料理が多い。この国は海に面しているため、新鮮な魚と、貴重な「塩」がふんだんに使えるのだ。 もちろん、俺が広めた「カレー」も、すでにこの国の郷土料理として堂々と鎮座している。
そして、何より目を引くのは会場の明るさだ。
これまでの夜会では、高価な「光る魔石」を大量に使っていたため、照明代だけでとんでもない金額が吹っ飛んでいたらしい。 だが今回は、俺の発明した「電球」が会場中を照らしている。 コストは魔石の数十分の一。しかも明るい。
……ナイス、俺。 ちなみに、前の緊急全国会議の時も電球が使われていたが、あれは最後の方で戦闘の余波を受けて全部割れていたな……。
俺は過去のことは忘れて、料理に手を伸ばした。
あぁ、やっぱり「バースの肉」は最高だ。 塩を振って焼いただけのシンプルな料理だが、肉の旨味と塩気が絶妙にマッチしている。
あぁ、うまうま――。
「ソウス、どうだ? 料理は美味しいか」
背後から声をかけてきたのは、父上だ。
「はい父上。めっちゃ美味しいです。それはもう、物凄く」
特に、父上が俺と交わした「洗濯機の利益」とか、今回の「魔法の特許料の九割」とか、そういう意味でも物凄く「美味しい」です。ありがとうございます。
「ニコニコ」
「ニコッ」
俺たちが、黒い含み笑いを浮かべ合っていると、
「何だ。ソウスか。もう来ていたのか」
という、聞き覚えのある声がした。 振り返ると、そこには見知らぬ「優男」風のイケメンが笑みを浮かべて立っていた。
貴族らしい整った服を着こなし、髪を綺麗にセットした美青年だ。
……なんだ、人違いか。 俺の兄上は、もっとこう、脳筋で暑苦しい感じだったはずだ。あんなシュッとしたイケメンじゃない。
スタスタ。
俺は興味を失い、他の料理を取りに向かった。
「ちょっ、おい! 無視するな!」
肩を掴まれる。 あれ、やっぱり兄上なのか。
まじまじと顔を見る。 ……本当に、黙って髪型を整えればイケメンなんだな、この人。 中身は残念な脳筋だが、外見が良いなら護衛としての「見栄え」は最高だ。
これは、いい買い物をしたかもしれない。
「ニコニコ」
「ニコッ」
俺たちが、良心的な笑みを浮かべて見つめ合っていると、
「あら、ソウスじゃない。……行きましょうか、カーム」
「そうね、お母様」
視線の先に、母上とカーム姉上がいた。 二人は俺を一瞥すると、ふいっと顔を背けて歩き去っていった。
つ、冷たい。 まるで汚いものでも見るような目だった。 まだ根に持っているのか。馬車の座席のことを。
(誰のおかげで公爵家まで成り上がれたと思っているんだっ……!)
俺は、内心で盛大にため息をつきながら、気を取り直して他の貴族たちへの挨拶回り(という名の暇つぶし)に向かうのだった。




