ラズネットの行方
あれ?
俺は、死ななかったのか?
あぁ、そうか。 魂がリセットされて、また赤ちゃんからやり直しか……。
……。
だとしたら、この目の前にあるリズの顔は、死に際に見ている走馬灯か幻覚か。
「……あれ、記憶は残っているのか?」
「え?」
リズが、驚いた顔をしている。
ん? 幻覚が喋った?
俺は、死んでいないのか? ペタペタと自分の体を触ってみる。傷がない。服はところどころ破れているけれど...。
あっ。
そういえばこいつ、草の究極魔法、蘇生を使えるんだった。 肉体さえ無事なら、魂を呼び戻せるというチート魔法を。
状況を理解した俺は、顔を上げて、素直に感謝を伝えた。
「……ありがとう。蘇生してくれて」
すると、目の前の幼女――リズは、涼しい顔で髪を払った。
...かわいい。
「いやぁ、別にお礼なんていいわよ。究極魔法を使える私にとっては、これくらい普通のことだから。 それよりも、私の父親のラズネットなら、今はもういないわよ。強制転移で、深海の底に送っておいたから」
……へぇ。 深海の底へ強制転移。水圧で圧死確定じゃないか。 やっぱり、チートやん。
……あれ? こいつ、こんな流暢に喋っていたっけ?
それに、ラスボス級のラズネットを撃退したのに、いつもなら「えへへ~! すごいでしょ! 褒めて褒めて~!」って抱き着いてくるはずなのに。
今のリズは、どこか理知的で、落ち着いている。
「……ちょっと思ったんだけどさぁ。なんでそんなに流暢に喋れて、「すごいでしょ、褒めて」とか言わないの?」
その瞬間。
プシューッ、という音が聞こえそうなほど、リズの顔が赤くなった。
耳まで真っ赤になり、目が泳ぎ始める。
あれっ? 俺、そんなに変なこと言ったかな。
「……じ、実はね。私、ラズネットに生後間もない頃から精神拘束をかけられていたのよ。だから、その……今までのは、私の本意ではなくて……」
彼女は、直前までの自分の言動(よだれを垂らして寝ていたり、幼児言葉だったり)を思い出しているのだろう。
顔の色が、熟れたトマトみたいになっている。 ちょっと、美味しそう。そして、トマトを超えて、吐血したのかと思うくらい真っ赤になったとき。
さすがにちょっと可哀想になってきたので、俺は話題を変えるために質問した。
「そ、その拘束は、生まれてからどのくらいでかけられたんだ?」
「……生後半年ぐらいの時よ。だから、そりゃあ完全に抵抗するのは無理だわ」
へぇ。生後半年か。 まぁ、赤ちゃんだし記憶もないだろうしね。 そりゃあ、抵抗なんて無理だわな。
「その時、必死に抵抗して、術式を書き換えようとしたんだけど……まぁ、少してこずらせたぐらいで、完全に防ぐのは無理だったわ」
……あれ?
エルフって、生まれて半年で自我が芽生えるの? 術式の書き換えを試みるほどに?
「……そんなに、エルフって赤ちゃんの頃から頭いいのか?」
「あぁ。そ、それはね……」
リズが、露骨に目を逸らした。 冷や汗をかいている。
なんだろう。この反応。 何か言えない事情があるのだろうか。
...実は、俺と同じで、前世があるとか?
......。
これ以上追及すると、見た目十歳の子供を大人が虐めているみたいな構図になってしまう。 他の人に見られたら、言い訳ができない。
いや、俺も見た目10歳の子供か。
……ここは、聞かないでおこう。魔法を教えてもらった情けだ。
「わかった。それはいい。それより、もう一つずっと気になっていたんだけど……リズって本当に千歳なの? それとも自称?」
そう聞くと、リズはさらに顔を赤くして、物理的に縮こまっていった。
「……ごめんなさい。盛りました。本当は九十八歳です」
……。
可愛い嘘だった。
ちなみに、俺はいまマウントを取られているような状態なので、顔が近い。
ちょっと目の保養のために離れてほしい。
……ん? 待てよ。
平和な空気に流されていたけれど、俺は何か重要なことを忘れているような……。




