女神との再会
俺は、目の前のエルフ王ラズネットを油断なく観察する。
彼は、俺を一番の脅威だと認定したらしい。他の者には目もくれず、執拗に俺へ魔法攻撃を放ってくる。 他の各国の重鎮たちには、今のうちに逃げて戦争の準備をしてくれ、と伝えてある。
そして、意外だったのが、ドワーフ王コナキがこちらの味方をしてくれたことだ。 ラズネットが「貴様、裏切ったな!」と激昂していたことから、これは彼にとっても想定外の事態だったらしい。
ペールたちが勝つか負けるかは分からないが、こちらの戦況は今のところ、俺とコナキ王の一対二。 数的有利。優勢だ。
*
――そう、優勢だと思っていた時期が、俺にもありました。
現実という壁は、あまりにも高かった。 圧倒的な年齢の差。それはすなわち、積み重ねてきた魔力量の絶対的な差だ。 持久戦になればなるほど、俺たちはじりじりと押されていく。
「ぐ、ぁ……!」
ガガガズサー。
頼みの綱だった前衛のコナキ王が、魔法の直撃を受けて崩れ落ちる。 俺も、全身傷だらけでもう立っているのがやっとだ。まさに満身創痍。
ラズネットが、勝利を確信した歪んだ笑みを浮かべる。 その一瞬の隙。ここしかない。
俺は、ひそかに並行詠唱で紡いでいた最後の切り札、雷の究極魔法を放った。
「穿てぇぇッ!!」
落雷が、ラズネットへと吸い込まれる。 だが。
彼は、ただ笑って、杖を振った。 無詠唱。
「暴風雨竜巻」
放たれたのは、風の究極魔法。 それだけで、俺の希望はついえた。
暴風の壁は、俺の全力の雷撃をいともたやすく相殺し、あろうことかその余波が、勢いを殺さぬまま俺の方へ襲い掛かってくる。 余波と言っても、人間一人を挽肉にするには十分すぎる威力だ。
「くそっ……電気障壁七連展開ッ!!」
もう、限界だった。 残った魂を絞り出し、最後の残りかすで作った防御魔法。 ただ、それすらも圧倒的な暴力の前には薄紙のようだった。無慈悲に、一枚ずつ砕かれていく。
パリン。
最後の結界が割れる音がした。
そして、俺は無惨にも死んだのだった。
*
……。
気まずい。
気が付くと、俺は再び「あの白い部屋」にいた。 そう、転生前に来た、女神の部屋だ。
そして、肝心の女神様はと言えば。
「あわわ、どうしよう、予定より早い、でも魔力は……えっと……」
なんか、めちゃくちゃあたふたしている。威厳ゼロだ。
さて、ずっと聞きたかったことを聞こうか。死んでしまったものは仕方ない。
「あの。それで、なぜ俺にチートを授けなかったのですか?」
「ぎ、ギクッ」
女神の動きが止まる。
「え?」
「そ、それはね。仕方がなかったのよ! 時間がなくて、あと卑弥呼と夏目漱石が……ゴニョゴニョ」
「……」
その瞬間、俺は悟った。 この女神、リズ先生と同じタイプだ。「残念な美人」の類だ。
ただ、不思議と怒りは湧いてこなかった。 卑弥呼とか夏目漱石とかが絡んでいそうなぐらい、深刻な事情があることだけは察せられたからだ。
……。
沈黙。
気まずい。
俺は、この後どうなるのだろうか。 また死んだのだから、今度こそ記憶を消されて、赤ん坊からやり直しか? どうせ記憶がリフレッシュされるなら、その裏事情とやらを詳しく聞きたかったのだが。
「あのー」
俺が声をかけた、その時だった。
カッ、と俺の体が強く光りだした。
それを見た女神は、なぜかとても安心した様子で、へなへなと座り込んだ。
「……魔力量がぁ。はっ。よ、よかった。足りたわ。ふぅ」
またしても意味不明なことを言っている。 足りた? 何が?
光が強くなる。視界が白く染まっていく。 俺の意識が、急速に遠のいていく。
消える寸前。 女神が、俺の目をまっすぐに見て言った。
「リズのことは、大切にね」
その言葉を最後に、俺の意識は完全に途切れた。




