緊急全国会議②
「はぁ? これのどこが育児放棄だというのだ?」
ラズネットは、努めて冷静に、しかし隠し切れない焦りを含んだ声で反論する。 だが、中身は二十七歳の元現代人である少年の頭脳は、冴え渡っていた。
「ではお聞きしますが、普通の親は、精神年齢一歳の子供を、自分の目が届かぬ他国へ放置したりしますか?」
「そ、それは……いや、その時、リズの実年齢は十を超えていた。それなら、全寮制の学校に行かせるのと同じようなことじゃないか」
「あなたは、その時のリズ先生の精神年齢が、本当に十歳相当あったと本気で思うのですか?」
「あ、あぁ。絶対にあった。そうに違いない。……え、あったよね? いや、絶対、ぜった……」
なぜか、ラズネットが自信なさげに周囲に聞き返す事態になっていた。
ソウスは、心の中で敵であるはずのラズネットに同情すら覚えていた。 無理もない。彼が言葉に詰まるのも当然だ。
何せ、その肝心のリズは今――。
椅子からずり落ち、床の上で器用に椅子にもたれかかりながら、だらしなくよだれを垂らして爆睡していたのだから。
「むにゃ……カレー……おかわり……」
その時、敵味方関係なく、その場にいる全員の心が一つになった。
(((((いや、絶対これ今も精神年齢十歳ないだろ!!)))))
「……」
「……」
会議場を、何とも言えない沈黙が支配した。 気まずい。あまりにも気まずすぎる。
そして、十秒ほどその重苦しい静寂が続いた後。 追い詰められたラズネットが、不意に動いた。
「――ならば、実力で連れ戻すまで!!」
「ッ!?」
ラズネットが杖を構える。詠唱破棄。
「火炎弾・十一連起動ッ!!」
放たれたのは、単発ではない。十一発もの高火力の火炎弾。 しかもその狙いは、ソウスだけではない。ラングダム王バークレーや、他国の重鎮たちを無差別に狙っていた。 交渉決裂と見るや、全員を始末して証拠隠滅を図るつもりか。
だが。
「電気障壁・十一連展開」
ガガガガガガガッ!!
爆炎が弾ける音が連続して響く。 しかし、炎は誰一人として焼くことはなかった。それぞれの席の前に展開された、青白い電気の障壁がすべてを防いでいたからだ。
「な……!?」
ラズネットが驚愕に目を見開く。
もし、ソウスがその圧倒的な魔力構築速度で、瞬時に十一の障壁を展開していなければ、確実に誰かが死んでいただろう。 そして、もしソウスに現代日本のマルチタスクの知識がなければ、この常識外れの構築速度は出せなかったはずだ。
やはり、現代知識のアドバンテージは凄まじかった。
その時。 圧倒的な闘気を放ちながら、ハーフフット王ゼインが動いた。
「よっしゃー! ついに暴れられるぜぇ! お前ら人間どもには、前から死んでほしいと思ってたんだよぉ!!」
粗暴な叫びと共に、小柄な体が弾丸のように跳ねる。 狙いは、レイクリ国王バーゼル。
「死ねぇぇぇ!!」
(……セリフで粗暴さを演出し、相手の油断を誘いながら、的確に首を狙った不意打ちか)
ソウスは冷静に分析していた。 あのハーフフット王、ただの筋肉バカに見えて、意外と戦況判断が冷静だ。
「闇落とし。」
ドォォォン!!
ゼインの拳と、即座に反応した護衛のペールの魔法が衝突する。
ただ、闇落としは、近接攻撃に対して、闇の世界に落とす上級魔法だった。
「...行ってくる」
ペールは、無表情なまま、その闇の底に自ら落ちていった。
「リズは絶対にいただく! 我々アスト国は、今ここでラングダム王国および列強諸国に対し、宣戦を布告する!!」
ラズネットが叫ぶ。 もはや会議ではない。エルフとハーフフットによる、一方的な殺し合いの幕開けだ。
会場がパニックに陥り、怒号と魔法が飛び交う中。
「……今だ」
亜人連合アスト国のもう一人の王、ドワーフのコナキだけが、冷徹な目で状況を見つめていた。 彼女は、誰にも聞こえない声で、短く詠唱し、通信を使った。
『……始めろ』
それは、この戦争を利用した、国盗りの合図だった。




