緊急全国会議①
緊急全国会議が、今まさに始まろうとしている。
円卓の中央上座に、今回の会議の発案者、ラングダム王国国王バークレーが座る。 その左側には、フンスと胸を張る自称千歳・精神年齢十歳の「残念エルフ」こと宮廷筆頭魔導士リズ。 右側には、顔面蒼白で「何があった!?」と誰もが心配したくなるような顔色をした、ベシュタルト子爵家次男ソウス。彼はいまだに自分がなぜここに座らされているのか理解していない。
そして、各国の代表が続々と集まってくる。
まず、北の軍事国、レイクリ帝国の国王、バーゼル・レイクリが入室し、リズの隣の席へ。その背後には護衛として獣人の宮廷魔法使いペールが控えた。
次に、亜人連合アスト国から、「お飾りの王」ことドワーフ王コナキが複雑そうな表情でバーゼルの隣へ。 続いて、エルフ王ラズネットとハーフフット王ゼインが、薄ら笑いを浮かべながら、いまだ困惑しているソウスの隣に順に座っていった。
さらに、宗教国家カルト国、商業国家ミシド国、獣人国家シンパカール国の代表も順に着席する。
残りの小国も、入っていく。
そうして、役者は整った。
バークレー・ラングダムが立ち上がり、宣言する。
「これより、ラングダム王国主催の『緊急全国会議』を始める」
深く一礼する。 厳かな雰囲気の中、まばらな拍手が起こった。
「議題は二つだ。まず、ラングダム王国の宮廷魔法使いであるリズが、風属性以外の全属性で究極魔法を習得した件。 そして、こちらのソウス・ベシュタルト子爵家次男が、リズの指導のもと、雷の究極魔法轟雷電を習得した件である」
会場がざわめいた。 頷く者、目を見開いて感嘆する者。
「この二人が……噂の『厄災』リズと『天才発明家』ソウスか……」
誰かがそう呟くのが聞こえた。
ある程度静まると、バークレーは続けた。
「この二人の発表と、今後の処遇を決定するために、本会議を招集した」
通常、竜を討伐した程度の快挙であれば、他国への通達のみで済ませる。わざわざ各国首脳を集めて会議など開かない。 このような大規模な会議が開かれるのは、水生龍ワルトが海中で発見された時以来、実に百五十年ぶりだ。
究極魔法の使い手が一人現れただけでも大ニュースだが、今回は違う。 「五属性の究極魔法を操る怪物」と、「その怪物に育てられ、十歳にして究極魔法を習得した天才」という、二つの特異点が同時に現れたのだ。 これには、世界のパワーバランスを揺るがしかねない重大事として、各国も即座に反応したのである。
「まず、私からの提案だ。この二名は共に我が国の逸材であり、今後も我がラングダム王国に帰属させるものとする」
一瞬の静寂。 そして、鋭い声がそれを切り裂いた。
「異議あり」
エルフ王ラズネットだ。彼の発言によって、会議の火蓋は切って落とされた。
「雷の究極魔法を覚えた少年はともかく、リズネット(リズ)は、我がアスト国の第三王女であり、貴国へは『視察』に赴かせていただけだ。それを自国のものだと主張するのは、いささか強引ではないかね?」
「いいや。其方の国は九十年前に、『視察』という名目で体よく厄介払いをしただけだろう。一度捨てたものを、才能が開花したからといって取り戻そうとするのは、筋が通らない」
バークレーも負けじと反論する。 だが、ラズネットは涼しい顔で切り返した。
「それは感情論だ。事実として、我が国はリズに対し、貴国の通貨で毎年二千ドラスほどの『生活費』という名目で寄付を行っている。金銭的支援を継続している以上、『捨てた』という表現は当たらない」
正論だった。 バークレーが言葉に詰まる。確かに、少額とはいえ金銭のやり取りがあった事実は重い。 流れが、徐々に亜人連合アスト国優勢に傾いていく。
ちなみに、その時ソウスが「あ、僕が呼ばれた理由はそういうことか」と理解して、少しだけホッとしていたのは言うまでもない。
緊迫する空気の中、思わぬところから助け舟が出された。
「レイクリ王国は、ラングダム王国の主張を支持する」
口を開いたのは、バーゼル・レイクリ国王だった。
「根拠は、過去の判例にある。我が国の宮廷魔法使いペールは、かつての獣人国から逃れてきた者だ。百年前の国際会議において、『国を追われ、保護された者の帰属権は、保護した国にある』という結論が出ている。今回のリズのケースは、これに酷似していると言えるだろう」
バーゼルは、隣に座る獣人国家シンパカール国の王に視線を送った。 かつて同胞を追放した過去を持つシンパカールの王は、渋い顔をしながらも、無言で頷くしかなかった。
「確かに、金銭を送っていた事実は認める。だが、それ以外の保護責任はどうだ? 他国の王女が留学する場合、通常なら護衛を百人は付けるはずだ。それを、護衛一人付けずに、たった十歳の少女を他国へ放り込んだ。これは紛れもなく『捨てた』ことを裏付ける証拠ではないか?」
バーゼルの鋭い指摘に、会場が唸る。
その時、苛立ちを隠せないハーフフット王ゼインが「あー、うぜぇ」と吐き捨てて立ち上がった。 瞬間、その場の空気が凍りついたように張り詰める。一触即発かと思われたが、エルフ王ラズネットが「座りなさい」と冷静に制したことで、何とか事なきを得た。
そして、当のリズネット(リズ)はというと……。
よだれを垂らしながら、豪快に寝ていた。
(……どうやら、この精神年齢では、この会議は難しすぎるらしい)
敵味方関係なく、全ての国の王が心を一つにした瞬間であった。
ラズネットは、不利な状況でも冷静さを崩さなかった。
「……なるほど。だが、それが『捨てた』という結論には直結しない。護衛を付けなかったのは、彼女の潜在能力を信じていたからだ。実力だけで身を守れると判断したのだよ」
それは完全な言いがかりだった。 十歳の、精神年齢一歳児だった少女に「実力だけで大丈夫」などと思う親がいるはずがない。だが、それを「嘘だ」と証明する決定的な証拠もまた、存在しなかったのだ。
議論は平行線をたどり、膠着状態に陥るかと思われた。
その時だった。
「あの……」
おずおずと、少年が手を挙げた。
「それって、国として『捨てた』ことにはならないかもしれませんけど……要は『育児放棄』ですよね? それって、一国の王として以前に、親としてどうなんですか?」
ソウスの爆弾発言が、会議場に投下された。
シン……と静まり返る室内。 そして、会議はここから、予想もしない波乱の渦へと巻き込まれていく。




