国王の憂鬱②
~~~バークレー・ラングダム視点~~~
はぁ。深く、重いため息が執務室に響く。 本当に、何なのだろうか、最近のこの国は。
ソウスの発明ラッシュで国政がひっくり返りそうな騒ぎになっているというのに、今度は、よりにもよって「宮廷筆頭魔導士」リズの失踪報告だ。
「まさか、あのリズが失踪するとは……」
報告を聞いた瞬間、驚きのあまり声を出してしまった。 ……もっとも、これが完全に心がこもっていない棒読みだったことは、リズ本人には内緒だが。
正直に言えば、「またか」という気持ちの方が強かった。 リズというエルフは、魔法の才能に関しては歴史上の偉人すら裸足で逃げ出すレベルだが、それ以外の知能――特に常識や空気の読み方に関しては、控えめに言って「ゴミ」以下だからだ。 だが困ったことに、その強さは、控えめに言って「国家規模の厄災」なのだ。
あぁ、どうしたものか。頭痛が痛い。
*
そうして、俺は執務の合間に、ずっと頭を抱えていた。 リズが何をしでかすか、考えただけで寿命が縮む思いだ。
以前、リズが何の前触れもなく執務室に現れ、満面の笑みでこう言い放ったことがあった。 「ねえねえバークレー! 私、風以外の全属性で究極魔法を覚えちゃった!」と。
あの時、俺はもう笑うしかなかった。乾いた笑いが止まらなかった。
究極魔法。それは一人の魔導士が一生をかけて到達できるかどうかの境地だ。現在、世界で確認されている使い手は十人を下回る。 それを、ほぼ全属性?
さらに、その中には草魔法の究極魔法、歴史上で二人しか使用者が確認されていない幻の蘇生魔法まで含まれていた。 死者を蘇らせる魔法だ。こんなものが実在すると知れ渡れば、世界中の権力者が血眼になってリズを狙うだろう。本来なら、即座に緊急全国会議を招集し、国家最高機密に指定すべき案件なのだ。それを、あいつは「新しいお菓子見つけた!」くらいのノリで報告しに来たのだ。
……頼むから、これ以上余計な騒ぎを起こさずに、早く帰ってきてほしい。切実に。
*
そうして、俺の胃壁が限界を迎えそうになっていた三日後。 その厄災は、前触れもなく唐突に目の前に現れた。
空間が歪み、次の瞬間には執務机の前にリズが立っていたのだ。
「……ッ!?」
心臓が止まるかと思った。本当に、転移によるアポなし訪問は心臓に悪い。 俺ももう四十を超えた。この世界の平均寿命は六十歳ほどだ。そろそろ次の世代に王位を譲ろうと考えているのに、このままではストレスで寿命が尽きてしまう。
そして、自称千歳、見た目幼女のエルフは、俺の「今までどこに行っていたんだ!」という悲痛な問いに対して、キョトンとした顔でこう答えた。
「え? ソウス君のところよ。ソウス君の魔力で私が覚醒したから、そのお礼に行ってきたの」
……。
全く意味が分からない。 「魔力で覚醒」とは何事だ。お前は既に覚醒しすぎているだろう。
だが、とにかく行き先はソウスの所だったのか。 それなら、まあ大丈夫だろう。あの少年はリズと違って常識があるし、頭も切れる。リズの暴走をうまくコントロールしてくれたに違いない。
そう、安堵した。思ってしまったのだった。
だが、次の瞬間。リズが爆弾を投下した。
「あ、そうそう。お礼に魔法を教えてあげたらね、ソウス君ったらすごいのよ!」
リズは無邪気に笑って言った。
「あの子、たった三日で雷の究極魔法、轟雷電を覚えちゃった!」
……。
…………は?
思考が停止した。
十歳の少年が? 雷の究極魔法を? あの、天候すら操作し、一撃で軍隊を壊滅させる戦略級魔法を?
あぁ、これはダメだ。 緊急全国会議だ。いや、そんなものでは済まないかもしれない。
そして、ラングダム王国国王、バークレー・ラングダムは、ここ最近で二度目となる、ガチのマジな発狂をしたのだった。執務室に、国王の絶叫が響き渡ったとか、いないとか。




