国王の憂鬱①
~~~バークレー・ラングダム視点~~~
ラングダム王国は、英雄ラングダムと、英雄龍ドラスが立ち上げた国である。
彼らは、強力な魔物が跋扈していた広大な森を、たった一人と一匹で開拓し、人々を受け入れた。 英雄ラングダムは、当時史上十人ほどしかいないS級冒険者として人望が厚く、龍ドラスは、強大な力を持つ「古代十龍」の中でも特に理知的で、人類と同盟を結ぶことを選んだ存在だった。
その強力無比な一人と一匹が作った国の影響力は計り知れず、瞬く間に移民であふれかえった。そして今では、この世界で三大国の一つに数えられるほどの大国へと成長した。
王国の玉座には、代々英雄ラングダムの血を引く者が座り、国の通貨単位は偉大なる龍の名を冠して「ドラス」となった。 ラングダム王国は、「龍と竜に仕える国」として知られ、現在国家が保有する竜の数は一千騎を超える。
ちなみに、国の重要書庫にある記録によれば、龍と竜は明確に区別されている。龍は世界創世の折に現れた十体の特別な存在であり、竜はその亜種とされる。その強さは、文字通り桁違いだという。
建国の祖である英雄龍ドラスは、今も国内のどこかの洞窟で、静かに眠りについているらしい。 他の九体の龍の行方はというと、六体は消息不明、一体は休眠中、一体は生きていることが確認されており、最後の一体は海にいることが確認されている。
……海中にいる龍を確認するのは、至難の業だったそうだ。草魔法と水魔法の複合で水中呼吸の魔法具を作らねばならず、さらに海中では炎・雷・風の属性魔法が水によって著しく弱体化(雷に至っては自分も感電する)するため、海の魔物と戦うだけでも一苦労なのだとか。
(本当に、いつか海を自由に渡れる日は来るのだろうか。果たして、この大陸の外には何があるのだろうか……)
実は、この世界の地形は地球のそれと酷似しており、ラングダム王国は地球でいうアフリカ大陸全土を支配しているような状態なのだが、この世界の住人がそれを知る由はない。
さて。 代々ラングダムの家名を受け継ぐ国王は、多忙を極める。
現国王バークレー・ラングダムは勤勉な男だったが、根は結構な面倒くさがり屋だった。
(はぁ。ベシュタルト家の倅が、また余計な仕事を持って来おって……)
彼は今、ソウスが次々と生み出す発明品への対応で、さらに仕事が増えていたのだ。 ……内心では、国益に繋がるそれらの発明をとてもありがたがっているのだが、激務への愚痴をこぼさずにはいられないのだった。
特に、先日報告を受けた「洗濯機」なるものは、国王に多大なる衝撃を与えた。 これが普及すれば、間違いなく国民が衣服を洗うために費やす無駄な時間が激減するだろう。
……ソウスは知る由もないが、この世界の普通の市民にとって、洗濯というのは重労働であり、ひどく手間のかかるものだった。
まず、井戸から重い水を何度も汲み、大きな樽に入れる。そこに衣服を入れて手洗いした後、汚れを落とすために最低でも五、六回は水を総入れ替えしなければならないのだ。 なにせ、この世界には便利な合成洗剤など存在しないのだから。
たった一回分の洗濯に、毎回三十分から一時間ほどの時間と労力がかかる。 これは国民の生産性を下げる要因でもあった。
バークレー・ラングダムは、名君であった。だから、そういった市民の悩みにも思いを馳せるようにしている。
そして、洗濯機の発明は、大袈裟ではなく、本当に世界の常識を変えてしまう可能性を秘めていると確信していた。 以前の電球やライターだけでも、歴史に残る偉業だというのに。
これは早急に、ベシュタルト子爵家のさらなる昇格を検討する必要があった。
普通、わずか一年の間に二度も爵位が昇格するなど、控えめに言っても異常事態だ。貴族社会の反発も予想される。 だが、ソウスの功績には、それに見合うだけの、いや、それ以上の価値があった。
(本当に、あのソウスという少年は、底が知れない。一体どこでこれほどの知恵を……)
そうして、優秀すぎる臣下の扱いに頭を悩ませている最中に、宮廷筆頭魔導士のリズが突如として失踪した、という報告を聞いた時には、バークレー国王は発狂した。




