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第6話

 その日は、ギルドに入った瞬間、ピリッとした空気を感じた。


「ん、気のせいか?」


 しかしいつもの喧騒に飲まれて、その違和感は消え去った。


「まあいいか、いつもの頼む」


 受付でドリンクと入場券を受け取って、ダンジョンへと向かう。


 目標のレベルまでは、のこりあと少しだ。何事もなくこの調子で通えれば、一週間ほどて到達できるだろう。


「さて、行くか」


 俺は意気揚々と、ダンジョンへ入場していった。





「ひーふーみーよー、よし全員殺ったな」


 地面に転がるゴブリンの死体を数えて、逃げたり隠れたりしたやつがいないのを確認する。

 この作業、軽視されがちだが意外と重要で、死因ランキングの一つにそういったやり残しに不意をつかれたというのがランクインするほどだ。


 だからギルド発行の教本なんかには口酸っぱく書かれているのだが、まあ教本に書かれているくらいで被害がなくなるわけもなく、未だに死因報告は後を絶たない。


「しっかし、そろそろ替え時だな」


 手に持ったナイフを見れば、刃こぼれを起こしている。

 昔から武器の扱いがヘタで、すぐにこうやって限界を迎えてしまう。良い武器なんかを使ったときもあったが、結果は変わらずすぐにダメになったので、ギルドで安く変える武器を繰り返し買い替えて使うのが俺のスタイルだ。


 バッグには替えのナイフが一本だけ忍ばせてある。だが替えるにはまだ早いかと思い、刃こぼれしているナイフを握り直す。


「さて、先に進むか」


 自分が休んでいた痕跡を消してその場から立ち去る。


 しばらく洞窟を走り、脳内で地図を思い出す。


「えっとこの先に街跡があるはずなんだが」


 記憶通り、ダンジョン内に似つかわしくない場所、人が生活していたかのような街跡が目の前に広がる。


「なんだかんだで初めて来るんだよな」


 パーティを組んでいた頃は、この場所は避けていた。複雑な立体構造ということもあり、接敵時に大変な思いをすることがわかりきっていたからだ。

 ではなぜ一人の今ここを通るかといえば、答えは簡単で、目的地までの近道だからだ。


 一人であれば最大速度で離脱できる。戦闘も可能な限り避けることを徹底するとなれば、複雑な立体構造は逆に利用できるものとして目に映る。


 だがしかし、人気がないもう一つの理由。


 それは、街の亡霊たちが街を彷徨っているという噂だ。


 俺は幽霊なんて信じる性質じゃないが、火のないところに煙は立たないという言葉もある。

 だから俺は、これは人避けのための噂だと分析していた。


 その分析が正解だと気付いたときには、すでに手遅れになってしまっていた。


「くそっ、こっちもだめか」


 明らかに柄の悪い連中が道を塞いでいる。しかも道を替えても執拗に先回りされて道を塞がれている。


 いや、塞がれているというよりこれは、誘導されている?


「っ!まずい」


「何がまずいって?」


 すぐに来た道を戻ろうと踵を返すも、すぐ近くにガラの悪い連中が迫っていた。


「何のつもりだ」


「ダンジョン内で一人を囲んですることなんて一つだろ?」


「くっ」


 ダンジョンでやること。それはリンチだ。しかもどれだけ傷をつけても、最終的には殺してしまえば痕跡ごと蘇生室行き。やりすぎるということもないから安心して個人を攻撃できる。


「ちょっとおいたがすぎたな、嬢ちゃん」


「何のことかわかんねぇな」


 周りに視線を走らせる。どこか逃げれる道はないかと。


 しかし、そのどの道も塞がれているどころか、こっちへとガラの悪い連中が迫ってきている。


「なんだ、女の子一人に随分と手の込んだことをするもんだな」


「うるせぇ」


 目に止まらぬ速さで男の手が動いた。それが俺に対するビンタだってことを自覚したのは、遅れてやってきた痛みが頭に届いてからだった。


「ヘタなビンタだこと」


 アタリどころが悪くて耳がキーンと鳴ってしまっている。まあ鼓膜が破れなかっただけマシか。


「おっとそれ以上変な動き見せてみろ?苦しむ時間が長くなるぞ」


「……ちっ」


 男たちの指示通りにナイフを落として、バッグも投げ捨てる。

 ここまでされては仕方がない。俺は帰還用刻印石に手をかけた。


「させるかよ!」


 意識が散っていた俺は男のキックをまともにうけてしまう。身体がくの字に折れ、肺から出た空気が喉を焼く。


「ち、くしょう」


 地面に倒れた俺は、刻印石が遠くに転がってしまったのを見て悟る。


 これから俺はなぶり殺しにあうのだろう。


 刻一刻と、その時が近づいてくる。


 男たちが俺を囲む輪を狭めていく。これがゼロになったときに俺は、さまざまな痛み苦しみの実験台にされるに違いない。




 しかし、だとしたら。




 鈍く腕のバングルが光り輝く。




「くそくらえ、だ」





「こいつまだなにか!」


「手だ、手を封じろ!」


 ばぁか。もうおせえよ。


 さあバングルさんよ、今度はどんな結果を見せてくれるんだ?




 ダンジョン内を白い閃光が駆け抜け、そして大規模な爆発音が地面を揺らした。





「っ!はぁはぁ」


 何度死んでもこの感覚には慣れない。

 腕にぐっと力をいれて起き上がる。どうやら無事に死に戻りできたらしい。


「そうだ」


 そう呟いて姿見を覗き込む。


 しかしそこには、変わらず少女の姿の自分が映し出されているだけだった。


「死ぬたびに性別転換とか思ってたけれど、そういうわけでもないのか」


 だとしたら今度はバングルは何を代償にしたのだろうか。

 しばらく自分をセルフチェックしてみても、その答えはでなかった。


 身体に大きな変化は見られないし、記憶も確かだ。脳に直接作用してどうこうされていたら気づきようもないのだが、これまでの思い出も虫食いなんかになってはいない。


「はぁ。まあわからないか」


 服を着て、蘇生室の扉を開ける。

 いつもの喧騒を聞いて、普段通りのうるささに安心すら覚える。


「しかしさすがに人を殺しすぎたか。今後は後ろにも気をつけなきゃだな」


 ぐっと伸びをしていたところで、後ろから声がかかる。


「あったいちょー!ちょうどよかった、いまいいですか?」


「ん、どうした?」


 シャノンの声に、私は振り返った。


「え、あ、あれ?ん?」


「どうした?」


「なんかたいちょーさん、メスに磨きがかかりました?」


「何をいってるんだか」


 理由のわからないことを言うシャノンの頭めがけて、私はチョップした。


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