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第4話

「さて、始めるか」


 弾の装填を確認し、ドリンクを手に取る。


「ぐっゲホゲホ。この味だけはいつまでたっても慣れねえな」


 魔法ドリンクのエグミをトロピカルなフルーツたちでかき消すかのような、それでいてかき消し切れてないような味だ。

 しかし味とは裏腹に、底からあふれるようにスタミナが出てくる。


「さて、と」


 ダンジョン特有の不快な湿気が肌を撫でる。もはや慣れ親しんだそれを拭い、俺は走り始めた。





「よっと」


「ぐぎゃぎゃ?」


 角から飛び出しながら引き金を引けば、自分の状況がわからないモンスターの胸に風穴が開く。


「ひーふーみーよー、まあこんなところか」


 ドロップアイテムを数えてカバンにしまい、再度走り始める。


 モンスターの行動パターンは決まりきっていて、巡回→感知→索敵→接敵と戦い始めるまでにラグがある。そのラグの間に殺しきれれば、ノーダメージで回ることができる。

 まあもちろん、高層に行けば行くほどモンスターが強くなっていくため、この戦法をつかえる機会はなくなっていくのだが。


「っとあぶね」


 人の気配がして、いそいでブッシュに身を潜める。数は……3人か

 ただ通り過ぎることを願うばかりだが……現実はそううまくいかない。


「よし!ここで少し休もうか」


 よりにもよって眼の前で休憩をとりはじめた。


 殺して先に進むか?


 脳裏にそんな考えがよぎるが、自分で否定する。

 まずパーティの強さが未知数だ。男二人女一人だが、あきらかに片側の男の装備が良い。引率の可能性がある。


 まだ見つかっていないので隠れ続けるという手もある。しかしそれでは時間のロスが出てしまう。

 となると手段として残されているのは……


「やあ、同業。調子はどうだい」


 手を上げながらブッシュから出る。

 探索者たちは瞬時に戦闘態勢へとうつり、武器を抜く。


「まあまあ、まってくれよ。俺はソロだ。戦う気もない」


「いや、信用ならないね」


 男の片割れがそう返す。それもそうだ。警戒するのは探索者として正しい行動だ。

 経験の深そうな男は、一言も言わずにこちらに照準を合わせ続けている。なんどもこの手口にひっかかってきたのだろう。瞳の深刻さからそれが見て取れる。


「わかった。じゃあ武器を下ろすからちょっとまってくれ」


 腰からハンドガンを抜き、ゆっくり床に下ろす。


「なっ?これでわかってくれただろ?」


「いや、どうかな」


「あのなぁ、警戒するのはいいことだが、しすぎにもほどがあるだろ。第一、仕掛ける気ならブッシュにいたときに撃ってるさ」


「た、たしかに。それもそうか」


 そういって納得してくれたようで、男女ともに武器を下ろす。


「はぁ」


 敵対しない……なんて言葉、ダンジョン内で信じないほうがいい。


「さよなら」


 この魔銃が主流となった世界で、魔法対策としてシールドを積むのは当たり前となっている。

 だが、シールドが防げないものも存在する。その一つが……


「ガハッ……な、ナイフ!?」


 すぐに抑えようとしても無駄だ。頸動脈を確実に切りつけた。

 切り裂かれた男が倒れるとともに、女に斬りかかる。


「ひ、いやぁぁっ!」


「反応が遅い」


 いとも簡単に二人を殺す。まあいい勉強量だと思ってほしい。

 しかし最後の一人が……


「なぜ、わかっていて攻撃をしてこなかった?」


「実の経験に勝る勉強法はないだろう?」


「ははっ、時代にそぐわぬとんだスパルタ教師だ」


 敵の連射を、横に側転してよける。物陰に身を潜めながら、自分のハンドガンの位置を確認する。


 くそ、さすがに拾う隙を見逃してくれる相手には思えないな……


 ポーチの中から、得策その1を取り出す。


「なっ煙幕か!」


「隙あり!」


 視界のない中での一方的なエンゲージ、しかし、振りかぶった手をがっしりと掴まれる。


「なっ動かねぇっ」


「筋力が足らんな、嬢ちゃんよぉ!」


 ぐわんと視界が揺れる。地面に叩きつけられたという事実に気がついたのはワンテンポ遅れてからだった。


「かはっ」


 腕があらぬ方向に曲がっている。確実に折れたということだろう。

 痛みにこらえつつ、ポーチからもう一つ取り出す。


「降参するなら楽に殺してやろう」


「わ、わかった。降参だ……」


「ふむ、素直でよろしい」


 相手の緊張の糸が切れる音がした。


 だから、最後の仕掛けは今だ!


「降参なんてするかよぉ!」


 ボンという音とともに、再び煙が撒かれる。


「逃さんぞ!」


 見えなくなる前に、再び腕を掴まれる。折れた腕の方なものだから、尋常ではない痛みに気を失いそうになる。しかし


「小娘め!今度は何を」


「……」


「何を黙って……うぐっ」


 シールドを貫通する攻撃その2。それが状態異常攻撃だ。


「しびれっくそっ」


 この煙は吸い込んだ人を痺れさせる効果がある。しかし煙という都合上、発生中心に対象が近くないと効きが悪くなる。だから腕が掴めるほどの距離まで近づいてくるのを待っていたのだ。


「ぷはっ。お前に恨みはないが、やらせてもらうぜ」


「うぐ、あがが」


 息を止めていた俺と、煙の中で叫んだ相手。どちらが強く痺れたかなんて言わずもがなだ。


「安心しろ、苦しませはしない」


 ビクつく相手を他所に、相手のポーチから帰還用刻印石を取り出し、相手の胸に当てて起動させる。


 ボン


 小さい爆発音とともに、心臓の位置に穴があいて絶命する。


 戦闘終了だ。俺は素早く相手の荷物を物色し、戦闘音によってきた別の敵と遭遇する前にその場を後にする。


 一発目のソロレイドは、腕一本の犠牲とともに終わった。





「えーっと、本当によろしいんですね?」


「ああ、わかってる」


 俺は帰還用刻印石一つ以外をすべてロッカーに預けて、再びダンジョン前に立っていた。

 武器ももたずに、しかも腕が折れた状態で。


「それではお気をつけて?」


「どーも」


 新人のギルド嬢の心配をよそに、俺はダンジョン入口のポータルを起動する。


 暗転した視界がしばらくして戻って来る。いつものダンジョン開始の風景だ。


「ふぅ、よしっ」


 俺は帰還用刻印石に魔力を込める。


 ボン


 死に戻りは便利だ。


「ふう、治ってる治ってる」


 蘇生室から出た俺は、備え付けのローブを羽織り、ギルドの貸しロッカーへと向かう。用意していた服に着替えてローブを返したあと、ちょうどギルド嬢の前を通った。


「……っ」


 つばを飲んだ音がした。そんなおばけをみるような目はやめてほしいな、なんて思う今日この頃であった。


ここまで読んでくださってありがとうございます!

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