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第2話

「え?は、ははっ、えっかわいい~~たいちょー」


「ちょっやめろ!」


「身長もあんなに高かったのにこんなにかわいくなっちゃって~」


 頭をわしわしと撫でてくるシャノンの手を払って髪をととのえる。


「蘇生の失敗なんて聞いたことがありません。ましてや性別が変わるなんて」


 アイシャは手を口にあて、考え込む。


「十中八九、それのせい」


 ロシェが指を指したのは、俺の左腕だ。そこには茨のような形で腕に食い込むバングルが、決して離さないと言わんばかりに存在感を放っていた。



 あのあと蘇生室から出た俺を迎えたのは、三者三様の表情を浮かべるパーティメンバーだった。

 それもそうだ。彼女たちが待っていたのは大柄な男だというのに、出てきたのは小柄な女性だったのだから。


「すまないっす、順番間違えたっす」


「ま、まてシャノン。俺だ」


「……?名乗った覚えはないっすけど」


「いや俺だよ。アズマだ」


「なんでこの子たいちょーさんの名前を」


「そりゃ本人だからな」


 いっそう怪訝な顔をする三人。眼の前に立っているのはどうみても少女なのに、その口からは男口調で知人の名を名乗っているという現実を受け止めきれていないのだろう。


「それならギルドカードを確認しましょう?カードの情報なら名前を偽ることはできないはずです」


「わかった、ちょうどストックを持っている」


 ロシェはポーチから一枚のカードを取り出す。銀色の輝くそれは、ダンジョン探索者の必需品の一つだ。


「それじゃあ失礼して」


 カードを受け取った俺は、カードに魔力を注ぎ込む。カードは魔力に呼応し白く光り、そして情報を映し出す。


「なっ、ほんとにたいちょーの名前じゃないっすか」


「めずらしい名前ですし、同姓同名の可能性は低いと思いますが」


 名前は問題なかった。

 ただしその他が問題だった。


「性別女……隊長さんは男のはず」


「年齢も若返ってるっす」


「それより……」


 そう。問題はそこではなかった。


「ダンジョン探索レベル1……だと……?」


 俺の長年積み上げてきたレベルが、1に戻っていた。


「1レベルですか」


「ダンジョンに入ったことのない一般人くらいじゃないっすか?レベル1なんて」


「でもこの子、蘇生室から出てきた」


「ということは探索者のはずですよね」


 皆が話し合っている中、俺の頭の中はレベル1のことでいっぱいだった。

 そこから先のことはあまり覚えていない。とにかく皆が俺が本人であるということに同意した中、俺は自分のレベルをうわ言のように呟いているだけだった。





「無理です」


「そこをなんとか」


「だめです。規則に従ってください」


「ったく、だめかぁ」


 突き返されたカードを、思わず投げたくなる。


 レベルが戻されたことにより最も影響をうけるのは、ダンジョンへの入場規則だ。


 ダンジョンにはそれぞれ低層・中層・高層があり、上にいけばいくほど難易度とともに報酬が上がっていく。しかしそれぞれの層には足切りのレベル制限が存在するため、低レベルが高層に挑むことはできないようになっている。


「仕方がないっすね。皆でまた低層からやり直すっす」


「いや、それはダメだ」


 きっぱりと断る。それだけは避けたかった。


「高層に行けてるからこそ今の生活が成り立っているんだ。だからここで高層を諦めるなんてできない」


「でもたいちょーは高層に行けないっすよ?」


「ああ、わかってる。だからお前ら3人だけで高層にいってくれ」


「隊長さん抜きで、ですか……?」


「ああ。お前らなら問題ないはずだ」


 実のところ、年齢差のこともあり、俺が先に引退したときのために3人で戦う訓練はさせていた。だから俺が抜けても探索に問題はないはずだ。


「隊長は、どうするの?」


「俺か?まあイチからやり直すさ。なに、すぐにお前らに追いついてみせるさ」


「わかり……ました」


「じゃあな、といっても宿は居候させてもらうから毎朝会うだろうが」


「……なにか困ったら言うといい」


「ああ、頼らせてもらうぜ」


「うう、たいちょー早く高層まで来るんすよ?」


「わかってる。ほら、さっさと次の探索に行け」


 3人を追い払うように探索へと見送る。


「……っ、いけねえ」


 思わず手が震えていた。武者震いであれば格好もついたのに、これが不安からくるものだというのがはっきりわかってしまった。


 低層の探索なんて、ダンジョンの勝手を知っている俺からすれば容易いことだ。

 しかし、それはあくまで『俺』だった頃の話。


 今の俺はか弱い少女であり、肉体的にも精神的にも、昔の自分とは全く違う別物だ。

 戦法から見直さなければ、勝ち目はないだろう。


 ましてや今やソロの身。俺は早急にパーティを組まなければと焦っていた。

 震える手を押さえつけつつ、ギルドカウンターへと再度向かう。


「い、いらっしゃいませ。どのような御用でしょうか」


「パーティ募集の依頼を頼む。一番良い条件で」


 カウンターに金貨袋を叩きつけた俺には、この後に起こる様々な苦難を知る由もなかった。


ここまで読んでくださってありがとうございます!

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