№75 ケレス、大切な家族の命を繋ぎ留める為、宝珠の国へ帰還する
ヨルムンガンドに取り憑かれ意識がないミューと花梨達をケレス達は鳳凰島まで運んだ。
すると、アルトの父からケレスは信じ難い事を告げられる。
そして、愕然となったケレスの前にあの者が救いの手を差し伸ばす……。
ケレス達を乗せた百合は稲叢島ではなく鳳凰島へと着陸した。
何故なら、花梨達の事を優先させたからである。
すると、
「アルト‼ 花梨様の容態は⁉」
と、アルトの父が血相を変えて駆け寄って来た。
「よくないですね。意識がありません」
だが、アルトは平然とそう答え、
「意識がないだって⁉ お前は何をしていたのだ‼」
と、怒りで体をふるわせているアルトの父は怒鳴ったが、
「何って……。大いなる災いが完全に目覚めたんですよ。あなた達の愚かな行為のせいでね」
と、一度瞬きしたアルトは冷静に返した。
「アルト‼」
そして、そのアルトの態度に声を荒げたアルトの父は詰め寄ろうとしたが、
「そんな事をしている暇があれば、花梨様達を休ませてあげてください。
恐らく、マナをヨルムンガンドに喰われたみたいですので。ここはまだ、マナが豊富でしょう?」
と、眉一つ動かさず言ったアルトはアルトの父を蔑む目で見たのである。
「アルト……」
そのアルトを睨んだアルトの父は何かを抑える様に声をふるわせる。
「早く、花梨様と、お草を運べ‼」
そして、アルトの父が命令すると、花梨達は運ばれて行ったが、
「父上。ミュー様は如何なされますか?」
と、アルトが聞くと、
「……申し訳ないが、我が国から出て行ってもらいなさい」
と、冷たい眼差しのアルトの父は信じ難い事を答えたのだ。
「な、何て言いましたか⁉」
そのアルトの父の答えにケレスの頭の中は真っ白になったが、
「その方に大いなる災いが取り憑いているのだろう? だったら、出て行ってもらいなさい‼」
と、言ったアルトの父は意識のないミューを汚いものを見る目で見つめた。
そのアルトの父の行為にケレスは愕然となり、目の前が真っ暗になる。
だが、
「ケレス様、こちらへ!」
と、鼓の叫び声が響いたのだ。
「アルトの婆やさん⁉」
そして、はっとしたケレスの目に鼓が入ると、
「急ぎなさい‼」
と、怒鳴った鼓からケレスは額に扇子をバシッ!と叩きつけられ、
「い、痛っ‼」
という言葉と涙が漏れたケレスが再度 鼓を見ると、
「メイサ‼ 早く追い出せ‼」
と、アルトの父は鼓を怒鳴りつけたが、
「偉そうに命令成されるなレサト‼ これは、私の意志ですわ‼」
と、凄い剣幕で鼓から怒鳴り返され、その迫力にアルトの父は黙ってしまった。
(ひえぇ……。アルトの婆やさん、こえぇ……)
そんな鼓達のやり取りを見ながらケレスは苦笑いしていたが、
「ケレス、早く行こう!」
と、眉間にしわが寄っているアルトに言われケレスはアルトに付いて行った。
すると、そこにアルトのプレジャーボートより立派な船があったのである。
「これは⁉」
そして、そのプレジャーボートの立派さにケレスが言葉を失うと、
「我が鼓家の船舶 リゲルですわ!」
と、鼓から教えられ、
「へえ。アルトの婆やさんも金持ち……」
と、言ったケレスが息を漏らすと、
「そんな事を言ってないで、早く乗るんだ!」
と、さらに眉間のしわが増えていたアルトに急かされ、ケレスはリゲルに乗り込む事となった。
そうやってリゲルに乗り込んだケレスだったがそのリゲルの中もやはり豪華で、
屋敷がそのまま船になっていた。
「あの……。これから何処に行くんですか?」
そのリゲルの中でケレスが重い口を開くと、
「宝珠の国ですわ」
と、険しい顔の鼓は答え、
「……ミューに、あいつが取り憑いてるからですか? ミューを追い出す為ですか‼」
と、鼓の答えに何かがプツリと切れる音が聞えたケレスが怒鳴ると、
「そんな事を言うな。ケレス……。
宝珠の国とは連絡が取れたよ。これからミュー様をお連れするから」
と、穏やかな顔を下アルトから宥められた。
だが、
「ミューがこうなったから追い出すって言うのか⁉」
と、それでも怒りが納まらないケレスが怒鳴ると、
「結果的にはそうなったかもしれないけど、そうじゃないよ」
と、少し眉が下がったアルトに言われ、
「そうじゃないだって……?
そうじゃないか‼ いつもそうだ‼ お前の国は、何も変わってない‼
邪魔になったら追い出す‼ 姉ちゃんの時の様に‼」
と、怒鳴りながらケレスはアルトに詰め寄った。
「……そうだね」
すると、そう言ったアルトは胸が締め付けられる様な悲しい目をしたのである。
「ごめん、アルト……。お前が悪い訳じゃないのに、俺は……」
そして、その目にはっとしたケレスは眉を顰めたが、
「いいんだ、ケレス……」
と、悲しい目のままのアルトは優しく言ってくれ、
「お坊ちゃま。良き友をお持ちになりましたね?」
と、穏やかな顔をした鼓が話しに入ってきた。
「メイサ殿……。僕達はもう対等の関係で、僕はあなたの主人じゃないんだ。
お坊ちゃまなんて呼ばないでくれるかい?」
それからそのメイサを見たアルトの眉はさらに下がったが、
「ほほっ。まだその様な事を? 私は今でもあなた様の執事ですわよ?」
と、言った鼓は扇子で口を隠しながら少女の様に笑ったので、
「あの……。あなた達の今の関係って、どうなっているんですか?」
と、ケレスはつい尋ねてしまったのである。
「僕と、メイサ殿かい?」
そんなケレスから困り顔のアルトが鼓に目を転がすと、
「私の名は、鼓 メイサ。現鼓家の当主です。
そして、お坊ちゃまと私の家の表向きの関係は将軍の座を争うライバル家同士です」
と、凛々しい顔のメイサは答えた。
「将軍の座⁉ アルトとライバル⁉
……って、どういう関係だよ?」
だが、その意味がわからないケレスがアルトとメイサを交互に見ると、
「何て説明したらいいかな……。まあ、君の国でいう国王は、僕達の国でいう将軍なんだ。
そして、その将軍の座は昔から争いの種となっていてね」
と、溜息を漏らしたアルトは説明し始めた。
アルトによると、将軍の座を争っているのは主に龍宮家と鼓家で、
二つの家柄は元を辿れば同じ龍宮家だった。
だが、ある時を境に鼓家は龍宮家と別れ、二つの家柄は不仲となってしまったのである。
それから二つの家が交わる事なく時は流れ、ある時は龍宮家が、
またある時は鼓家が将軍の座に就き、絶えない御家騒動が今の時代まで続いている。
それでも龍宮家が数百年もの間将軍の座を守っていた。
「じゃあ、アルトと婆やさんは親戚同士なのか⁉」
そして、アルトの話を聴き終わったケレスがそう理解すると、
「まあ、遠い親戚ってとこかな?」
と、言ったアルトは頷き、
「はあ……。じゃあ、どうやって将軍は決まるんだ?」
と、ケレスが聞くと、
「それはね、二つの条件があるんだ。一つは、どの家柄の者よりも強くある事」
と、アルトは答え、
「強くある事?」
と、ケレスが首を傾げると、
「そう……。僕達の国で言う強くある事は勿論、水の盾と矛の強さだ。
水の矛と盾をぶつけ合い、誰が一番かを決め、将軍の座を決める。
そう言った仕来りが四半世紀に一度行われるんだ」
と、アルトは説明した。
「それで一番がイヴさんだったのか……」
アルトの話でやっとケレスがそれを理解すると、
「そう。姉上の水の矛は誰の盾をも貫いた。
そして、誰からの矛をも貫かせなかった」
と、アルトは淡々と説明したので、
「はあ、だろうな……。じゃあ、アルトの婆やさんもイヴさんに勝てなかったって事か?」
と、溜息を漏らしたケレスが聞くと、
「いや、メイサ殿はずっとその仕来りには参加していないんだ。水の矛を使えないとか言ってね……。
だから、代わりの者がその仕来りに参加しているんだけど……。本当は使えるんだろう?」
と、言ったアルトは眉間にしわを寄せメイサを、チラッと見た。
「ほほっ? アルトお坊ちゃま、何を仰られるのですか?
私は、その様な事は出来ませんもの……」
だが、そう言ったメイサは扇子で口を隠し、可愛らしく何度も瞬きしたのである。
(この人……。絶対、使える!)
そして、そのメイサでケレスはそう革新した。
「まあ、そんな事はさておき。
姉上が絶対的な強さを誇っていたから今まで下らない争いは起きてなかったんだ」
それから眉間のしわが残ったままのアルトが話を続けたので、
「じゃあ、もう一つの条件って、何だ?」
と、ケレスが聞くと、
「それはね、僕達の国の守り神である龍神、青龍様から認められる事だ」
と、アルトは答えた。
「青龍様って、あの赤い龍の事か⁉」
すると、そのアルトの答えでケレスの目は丸くなったが、
「そうだよ」
と、言ったアルトは眉一つ動かさず頷き、
「あんな怖い神に認められるなんて、有り得るのかよ⁉」
と、言ったケレスの顔が引き攣ると、
「前にも言ったけど、青龍様は普段は以前君達と見たあの川の流れの様な穏やかな御方だ。
そういつも怒っている訳じゃないよ?」
と、溜息交じりにアルトに言われ、
「ま、まあそうかもしんないけど……。じゃあ、その青龍様がいなくちゃ、将軍に誰がなれるんだ?」
と、左口角がピクッと動いたケレスが聞くと、
「さあね。誰でもいいんじゃないかな?
まあ、誰がなっても、帯に流し襷に短しだから、内戦が起こってるんだよ」
と、冷めた目のアルトは答えた。
「色々と難しいんだな……」
そして、アルトの話を聴き終わったケレスが一つ息を吐くと、
「だからこそ、姉上が必要なんだ……。誰からも認められた、姉上がね……」
と、寂しそうに言ったアルトは俯き、
「アルト……」
と、そんなアルトの姿に複雑な思いになったケレスの胸は締め付けられ、徐々に頭が下がっていった。
だが、そんなケレスにあの衝撃がまた走り、その頭は上がったのである。
ケレス君! 落ち込んだり、八つ当たりしている場合じゃないぞ‼
これから君はみんなと協力しなくっちゃいけないんだから!
そんなんだから、またあれを叩きこまれるんだよ?
と言う事で、おわかりでしょうがケレス君に叩きこまれたのが何なのかがわかる次話のタイトルは、
【ケレス、世界の現状を知り、姉の愛を知る】だ!
へぇ~え、ラニーニャちゃんの愛華……♡




