№ 74 ケレス、二者択一を迫られる
ヨルムンガンドが創り出した闇の世界の中で花梨とお草は倒れた。
だが、そんな闇の世界で無事でいるケレス達にヨルムンガンドは首を傾げる。
そして、ある答えを導いたヨルムンガンドはケレス達に襲いかかって来るのだが
その前にミューとクリオネが立ちはだかる……。
「花梨⁉」
ヨルムンガンドが創り出した闇の世界でお草と花梨は倒れた。
そんな花梨達に叫んだミューが近づくと、
「ふぅーん……。お前もこの世界で意識を保てるんだね」
と、ヨルムンガンドの声が聞こえ、暗闇に不気味に輝く巨大な赤紫の瞳が出現した。
その瞳は恐らくヨルムンガンドのものだった。
「あなた⁉ 花梨達に何をしたの‼」
だが、その瞳に怯む事なくミューが怒鳴ると、
「話すつもりはないよ。だが……」
と、ヨルムンガンドの声が聞こえ、その瞳はジロリとケレス達を見渡した。
「何故、お前達は意識を保てているのか……。
やはり……、お前達、喜蝶を隠してるね」
それからヨルムンガンドの呟く声が聞こえその瞳の禍々しさが増すと、
ケレスは動けなくなってしまったのである。
(こいつの目は危険だ……。怖くて、動けなくなる……)
そして、その瞳に竦み上がってしまったケレスは万事が窮した。
「グワオォォーーーン‼」
だがその時だった。
クリオネが叫び、金色の火の粉のヴェールがケレス達を包み込んだのだ。
「クリオネ⁉ 助かったぜ!」
すると、自由になれたケレスの表情は晴れたが、
「厄介な朱雀の雌犬めぇ……。我の邪魔をしおってぇ‼」
と、ヨルムンガンドの怒鳴り声が聞こえたかと思うと、またその瞳が炎のヴェールの間から現れ、
「だが、いつまで我が腹でそうやっていられるかね?」
と、静かなヨルムンガンドの声が聞こえるとヨルムンガンドは紫色に輝く姿となり現れたのである。
そして、ヨルムンガンドとミュー、それにクリオネは暫く睨みあったが、
「……いつまで? もう、終わりよ‼
我が瞳に宿り師炎の力よ。
悪しき者を焼き尽くし払う炎の力よ!
我が意志の下、具現化せよ! 業火煉獄殺‼」
と、ミューが叫ぶと何処からともなく沸き上がった深紅の炎が辺りを明るく照らした。
すると、その炎はクリオネのタビーから出る金色の火の粉と交わりながら明るさを増していき、
黒い霧を全て振り払う炎となり、闇の世界を消し去ったのだ。
(ミュー達、スゲエ‼ このままヨルムンガンドを倒せるんじゃないか?)
元の世界に戻ったケレスはそう思ったが、
「あの時もそうだった……。我の邪魔をする、母 マーサに瓜二つの炎の瞳……」
と、姿はないが何処からともなく聞こえてきたヨルムンガンドの声が不気味に響いたのである。
「お母様ですって⁉」
そして、その言葉にミューが狼狽えると、
「そうさ……。本当に不愉快だ‼ 母と同じく我の邪魔をしおって‼」
と、ヨルムンガンドの怒鳴り声が聞こえたかと思うとヨルムンガンドはミューの前に急に姿を現し、
目にも止まらぬ速さで、自身の尾でミューの体を貫いたのだ。
「ミューーーーー‼」
その時、ケレスの叫び声が空しく響いた。
それからケレスの叫び声が消えると同時にミューの炎の瞳の輝きも消え、
ミューは力なくその場に崩れる様に倒れた。
そして、そのミューの傍にケレスは駆け寄ったが、
「さて、この炎の瞳の娘をどうしようか?」
と、言ったヨルムンガンドがミューの体の上で不敵に笑っていたのである。
しかも、そのヨルムンガンドの尾はミューの胸に刺さっていたのだ。
「ミューから離れろ‼」
そのヨルムンガンドに足が止まったケレスは怒鳴ったが、
「嫌だね」
と、言ったヨルムンガンドはケレスを馬鹿にする様に赤い舌をチロチロと横に動かし、
(くそっ‼ どうしたらいいんだ⁉)
と、ケレスがどうする事も出来ずにいると、
「グワオオォォーーーン‼」
と、吠えたクリオネがヨルムンガンドに襲いかかろうとしたが、
「おやおや⁉ いいのかい? 朱雀の雌犬よ……。
お前の力を今の我に使っても?
と、パチパチと瞬きしたヨルムンガンドが言うと、
「朱雀、やめろ‼ そんな事をしたら、お前の主人が死ぬぞ‼」
と、高杉が怒鳴ったのである。
「キャワン⁉」
すると、クリオネの足は止まり、
「どういう事だ先生⁉」
と、声を荒げたケレスが高杉を見ると
「……嵌合体化とは、つまらん事を考えたな」
と、眉を顰めた高杉がヨルムンガンドを睨みながら言ったが、
「カンゴ……。って、何だよ、それ⁉」
と、言ったケレスは何度か瞬きしてしまった。
「奴は姫君の体に入り込んで、姫君の体を奴の体の一部にしやがったんだ」
そして、高杉はケレスに目を転がしてそう説明したが、
「意味がわからない⁉ ミューはどうなるんだ⁉」
と、叫んだケレスが頭を抱えると、
「このままだと、姫君の体は、奴と同化される……」
と、高杉の口からミューの恐ろしい末路が発せられたのだ。
「嘘だろ⁉」
その高杉の言葉にケレスは言葉を失ったが、
「そうだよ」
と、目を細めたヨルムンガンドから嬉しそうに言われ、
「だから、今の我に攻撃したら……、どうなるか、わかるかい? 朱雀の雌犬よ?」
と、クリオネに目を転がしたヨルムンガンドが笑いながら言うと、
「ガルルルゥゥ……」
と、クリオネは歯を喰いしばって唸った。
「そんな怖い顔をしなさんな。我は望みが叶えば、この娘を解放する」
すると、そう言ったヨルムンガンドは口から赤い舌をチロリと覗かせた。
「望みだって⁉」
そのヨルムンガンドの言葉にケレスが青褪めると、
「そう……。何度も言わせるな‼
我は待つのは嫌いでな。三日だけ待ってやる……。
だが、我の望みが叶わぬ時は、この娘を殺す‼ あの鯰の様に腹を割いてな‼ 世界もな‼
そして、余計な企みをせぬ事だ。この娘の体から我は見ているぞ……」
と、言ったヨルムンガンドはミューの体へ吸い込まれる様に消え、
「ま、待て‼」
と、ケレスは叫んだが、その後ヨルムンガンドは姿を見せず、声も聞こえなかった。
それからヨルムンガンドが消えた世界樹がある中庭をケレスは眺めた。
すると、枯れかけた世界樹の他に、中庭の全ては滅んでいる様だった。
そして、その世界樹の下には倒れたミュー、お草、それに花梨がおり、
ミューの傍にはケレス、クリオネ、高杉、さらに、お草達の傍には百合とアルトがいた。
「キュウウゥゥゥン……」
そんなミューの顔を悲しそうに鳴いたクリオネは舐めたが、動かなかった。
「メヘヘェェ……」
そして、同じ様に鳴いた百合も、お草にすり寄ったが全く反応しなかった。
(どうしよう……。ミュー達、このままじゃ……)
そんなクリオネ達を見たケレスは眉間にしわが寄っただけで何も言葉を掛けれなかった。
だが、
「ここにいても仕方がない。一旦、下りるとしよう」
と、高杉が冷静に言うと、
「そうですね。ここは、滅んでしまった……。
ここにいては危険ですね」
と、同じく冷静に言ったアルトは溜息を漏らし、
「しかし、厄介だ。奴のせいで記憶を読み取る事まで出来なくなってしまった……」
と、言った高杉は右手で頭をグシャグシャッと掻いたのだ。
「えっ⁉ せ、先生、どういう意味だ?」
そして、その高杉の言葉にケレスが目を丸くすると、
「ヨルムンガンドの奴はここにあった全てのマナを喰いやがった。
マナが無くなってしまっては、時読みで記憶を見る事は出来んからな」
と、答えた高杉の眉間には深いしわが出来ており、
「そんなぁ……」
と、ケレスは愕然となった。
「高杉さん。何か他に方法はありますか?」
すると、アルトは高杉を真直ぐ見つめ、
「今の処、ないな」
と、高杉は普通に答えたのだ。
「えっ⁉ な、何を話してんだ?」
そんな二人を見ていたケレスは慌てて誤魔化そうとしたが、
「今更胡麻化しても、高杉さんは君が僕に話していた事に気付いてたよ?。
君は、嘘をつくのが下手だからね」
と、呆れ顔のアルトから言われ、
「そうだ」
と、同じく呆れ顔の高杉からも言われると、
「うぅ……。先生、すみません……」
と、ケレスの眉は下がってしまった。
「次はないぞ」
そして、そんな高杉の目は氷の様に冷たく、
「うぅ……」
と、ケレスは高杉と目も合わせてもらえず、唸る事しか出来なかったのである。
だが、
「ケレス、気を付けよう。君も見ただろう?
ヨルムンガンドは他人の中に入り混めるみたいだからね。
僕達では彼が誰に入り込んだかなんてわからないから、
うっかり先輩について話して彼に情報がバレてしまっては元も子もないよ」
と、そんな事なんてお構いなしのアルトに耳打ちされ、
「アルト……。わかった……」
と、何となく空しくなったがケレスは了承した。
「ハマル。俺が力を貸すから、俺達を連れて下りれるか?」
それから地上に下立つ為、高杉が百合を見ると、
「ウメヘエェ……」
と、鳴いた百合から首を横に振られてしまったが、
「頼むよ、百合君」
と、アルトが優しく言うと、
「メエエ!」
と、百合は元気よく鳴いたのだ。
「……何だ、その態度は?」
そんな百合を不服そうな顔の高杉が睨むと、
「先生、アルトは特別なんです。
精霊とか、霊獣、動物に凄く人気があるんです」
と、ケレスは説明した。
そして、高杉の機嫌は悪いままだったがケレス達は百合の光渡雲に乗り地上へと下りる事となった。
だが、その光渡雲の上ではミューに加え、お草と花梨までも顔色が悪く意識がなかったのだ。
(これからどうなってしまうんだ?
何とかしてミューからヨルムンガンドを追い出さなきゃ、ミューは……。
でも、それには姉ちゃんが……)
そのミュー達の隣にいるケレスの頭に優しく微笑むラニーニャの顔が浮かんできた。
さらに、ケレスにはこんな考えまでも浮かんできたのである。
(姉ちゃん……。俺、どうしたらいいんだ?
ヨルムンガンドなんかに姉ちゃんを絶対に渡せない‼
だけど……。アルトと俺の考えが正しければ、今の世界を救えるのは、姉ちゃんだけだ……。
救いの神子である、姉ちゃんだけなんだ……)
そして、そんなケレスは眉を顰め拳を握り締めた。
ケ、ケレス君⁉ 大変な事になっちゃったね!
どうする? どうしましょう⁉
えっ⁉ て、てかラニーニャちゃんが救いの神子だってぇ‼
ま、まあ、あんな凄い力を使えるんだから、みんなそうだとは思ってたけど……。
えぇっとだね、じゃあミューちゃん達をどうにかしなきゃだけど……。
あぁ……。次の話でもあの人はあんな態度を取るのね……。
そんな次話のタイトルは、【ケレス、大切な家族の命を繋ぎ留める為、宝珠の国へ帰還する】だ!
がんばれミューちゃん! きっと君は助かるから‼




