№ 72 ケレス、同じ志を持った青年と再会する
稲叢島に到着したケレス達だったが、そこは以前見た景色からは考えられないものへと変わっていた。
そして、そんな異様な稲叢島に静かに足音が響く……。
ケレス達は稲叢島に到着した。
(しかし、ここは宝珠の国より状況が悪くないか?)
そして、ケレスはレーヴァレイティン号から降りて早々、そう思った。
それは稲叢島が異様な灰色がかった霧に包まれ宝珠の国より薄暗く、
一段と状況が悪い事が手に取る様にわかったからである。
だが、それ以外にも異変があった。
なので、
「なあ、誰もいないのって変じゃないか? 出迎えとか、ないのか?
それに、街がこんなにも寂れてるなんて……」
と、人気がない事に違和感を持ったケレスが言うと、
「そうね……。水鏡の国と連絡はしているから龍宮家の人が迎えにくるはずなんだけど……」
と、言ったミューは不安気に辺りを見渡した。
そう、稲叢島に起きていた異変。
それは、稲叢島は薄暗いだけでなく、人の姿が全く見えずに寂れていたのだ。
「ま、まさか、ヨルムンガンドの奴に滅ぼされたのか⁉」
この寂れた稲叢島を見たケレスが恐る恐るその言葉を漏らすと足音が聞こえ、
誰かかケレス達にゆっくりと近づいてくるのがわかった。
「だ、誰だ⁉」
そして、その足音に身構えたケレスだったが、
「……誰だ⁉、じゃないだろ。ケレス?」
と、聞き覚えのある呆れ果てた声が霧の中から聞こえたのだ。
「へっ? その声は……、アルト⁉ どうしてお前がここに?」
龍宮家の人はどうしたんだ?」
そう、ケレス達の前に姿を見せたのは、アルトだったのである。
そのアルトがはっきりと見えたケレスが目を丸くすると、
「……これでも僕は一応、龍宮家の者だけど? 君こそ、何でいるんだい?」
と、深い溜息をついて答えたアルトから聞かれたので、
「そ、そうだけど……。どうして、お前なんだ?」
と、戸惑ったケレスがまた聞いてしまうと、
「僕じゃ、不満回?」
と、答えたアルトの眉間に深いしわが出来た。
「そういう問題じゃない‼ 全く、お前は本当に臍曲がりなんだから‼」
そんな変わらないアルトの態度にケレスが苛立つと、
「アルト……。イヴは、どうした?」
と、静かに聞いた花梨の声が聞こえ、
「……姉上は、あなた様が知っての通りですよ?」
と、冷たく答えたアルトがそのままの眼差しを花梨に向けると、
「……そうか」
と、だけ、花梨は小さな声で言った。
(な、何だ? イヴさんに何かあったのか?
と言うか、アルトのあの態度、どうしたってんだ?)
アルトの明らかに花梨への冷たい態度で動揺したケレスがアルトと花梨を交互に見ていると、」
「余り時間がない。単刀直入に言うよ。稲叢島に今は人はいない」
と、視線が合ったアルトから言われ、
「どういう事だ? ヨルムンガンドのせいか?」
と、ケレスが聞くと、
「それだけじゃない。あの事件以降、稲叢島は死の島へ向かってるんだ。
人を含めた生き物はもう住めないよ。
だから、稲叢島の者は鳳凰島に移住してるんだ。今の処、無事だけど、いつまでそれが続くか……」
と、頷いたアルトは答え、
「あの事件って、青龍様が怒って暴れたやつか?」
と、言ったケレスの脳裏に赤き青龍の怒りに満ちた顔が浮かぶと、
「そう。あの事件以降、青龍様はいなくなった……。
それから稲叢島のマナが消滅していったんだ」
と、静かに言ったアルトは瞳を閉じた。
「はっ⁉ いなくなった?」
そのアルトの言葉でケレスの目が丸くなると、
「そいつはマズいな……」
と、言った高杉は眉を顰め、
「そうなんですよ……。頼みの水鏡がああなってしまっては、手の打ち様がないんです」
と、瞳を開け溜息交じりに言ったアルトは高杉を見て話しを続け様としたので、
「どういう意味だよ⁉ ちゃんと説明しろ‼」
と、大声を出して言ったケレスはそれを阻止した。
すると、
「僕達の国、水鏡の国は古来、アマテラス様から水鏡を授けられたんだ。
その水鏡って言うのは、光の神殿の周りにあった青龍様が宿る泉、水鏡の泉の事なんだけど……」
と、アルトは静かに話し始めたが、
「それは、先生からさっき聞いたよ!
えっ……、てかそれって、青龍様そのものって言ってなかったか⁉」
と、アルトの話を遮ったケレスが大声で言うと、
「……そうだよ。だから、困ってるんじゃないか!」
と、大きな溜息をついたアルトから言われ、
「じゃあ、どうすんだよ⁉ ヨルムンガンドを封印なんて出来ないじゃないか‼」
と、叫んだケレスが頭を抱えると、
「取り合えずは、アマテラス様にがんばってもらうしかないんじゃないかな?」
と、言ったアルトは冷静だった。
「がんばってもらう?」
そのアルトの態度で少し落ち着けたケレスの口から言葉が漏れると、
「今のこの状況は、そのヨルムンガンドって奴が世界のマナを牛耳っている事に由来するんだ。
だから、世界樹を介してアマテラス様に力を与え、ヨルムンガンドの力に対抗していただく。
まあ、そうやってヨルムンガンドの力を弱めるって事だね。
その間に青龍様を見つけ出し、封印具である水鏡を再生していただくんだ」
と、アルトは冷静なまま説明し、
「結局、今 出来る事は、それしかないのね……」
と、ミューが小さな声で言うと
「そういう事になります」
と、アルトは静かな声で返事をした。
それからケレス達はアルトの案内でビフレスト山の麓まで歩く事となった。
そして、その間は約一〇分程だったが誰一人口を開く者はおらず、
そのままケレス達はビフレスト山の麓へと到着したのである。
(はぁ……。何か俺の知らない所で大変な事になってたんだな……。
てか、青龍様は何処に行ったんだ? そもそも、何でいなくなったんだよ?
いやでも、もし青龍様が戻って来なかったら、どうなるんだ?)
アルトとの再会で新たに知った事実でケレスは不安を抱えたまま光の神殿へ向かう事となったが、
そんなケレスは放置され、お草が花梨を見ると花梨は小さく頷いた。
すると、
「百合ちゃん、いくよ!」
と、お草は元気良く叫び、
〽 私の、大事な 大事な百合ちゃん。
今日、あなたはどんな雲になる?
みんなを乗せる、素敵なふわふわ雲にな~れ!」
と、楽し気に歌うと百合の羊毛がケレス達を乗せれる程までに、どんどん大きくなった。
「さすが、お草ちゃん!」
そして、光渡雲となった百合を前にケレスが、お草を見てそう言うと、
「ケ、ケレスさん、乗ってください……。
百合ちゃんもアマテラス様の力を享けているから安心していいですから……」
と、もじもじしている お草から言われ、
「そうか。ハマルって、アマテラス様の執事霊獣だったな」
と、ケレスが優しく言うと、お草は小さく頷いた。
それからケレス達全員が百合の光渡雲に乗り込むと、
「百合ちゃん、飛んで!」
と、お草は 命じ、
「メエエェェ!」
と、百合が返事をする様に鳴くと、徐々に浮かび始めた。
そんな百合は順調に浮かび上がっていた。
だが、そんな中でどうしてもケレスは思いを伝えたい相手がいたのである。
なので、
(なあ、アルト……。ちょっと、いいか?)
と、アルトの背に自身の手をそっと当てたケレスは読心術を密かに始めた。
ー☆ー
「ケレス、何だい? 藪から棒に……」
(お前って奴は、相変わらず冷静だな。まあ、内密に聴いて欲しい事があるんだ)
「ふーん……。で、読心術まで使って僕に聴いて欲しい事って、何だい?」
(実は、色々とあってさ……)
読心術を行っているケレスはアルトに全てを話した。
ラニーニャは、生きている事。
だが、ラニーニャが死んだ事にされている事。
ヨルムンガンドの破片と会った事。
そのヨルムンガンドがラニーニャを探している事。
そして、一七年前の真実を記憶石に記録する計画……。
ケレスが知っているその全てをアルトに打ち明けたが、アルトは表情変えずに聞いていた。
だが、
「……やっぱりね」
と、意外過ぎるアルトの心の声がケレスの心に伝わって来たのだ。
(やっぱりって……。どういう意味だよ⁉)
そのアルトの声にケレスは動揺したが、
アルトからはアルトの今の思いと、ずっと心に秘めていた思いが伝わって来た。
そして、その思いが伝わったケレスの心臓は強く内側から叩き、ケレスは思わず息を飲んだ。
何故なら、それはケレスが心の何処かでそう思っていた事だったからである。
(ア、アルト⁉ お前……)
「君だって、そう思っていただろう?」
(そうだ……。俺、薄々、そうだって思ってたんだ!)
「まあ、今はその話はやめよう……。
近くにヨルムンガンドがいるはずだから、全てが上手くいく為にも気を抜くなよ、ケレス?」
(わかった。アルト!)
ー★ーー
アルトとの読唇術を一旦終えたケレスは一息ついた。
だが、
「おい……」
と、不愛想な声の高杉から声をかけられ、
「何だ、先生?」
と、言ったケレスが高杉を見ると、
「何をしていた?」
と、聞いてきた高杉は眉を顰めており、
「えっ⁉ そ、そのぉ……」
と、言ったケレスの左口角はピクピク動き出した。
(ヤバい……。先生達と姉ちゃんの事を言わない約束だったのに……)
それから高杉の睨みに焦ったケレスの左口角は順調に動き続けた。
すると、アルトがフォローに入ってくれたが、
その内容はケレスの左口角の動きを封じるものだったのである。
と言う事でね、ケレス君!
同じ志を持った青年とは、アルト君でした♪
さてさて……。どれだけアルト君を格好良く描こうかしらね? ふふふの、ふ!
だけど、そんなアルト君から重大な発表があるのだよ!
その内容がわかる次話のタイトルは、【ケレス、光雲の上で掛け替えのない友と約束を交わす】だ!
どんな約束を交わすのかしらね?
って、そんな悠長な事を言ってる場合じゃにゃいよ⁉
結構、大変な事になってるんだから!




