№ 66 ケレス、紅蓮の炎により、九死に一生を得る
どうする事も出来ない絶望を前にケレスは生をあきらめていた。
だが、そんなケレスの耳に救世主の唸り声が聞こえる……。
「ガルルルウゥ‼」
生をあきらめ、薄れゆく意識の中、ケレスの耳にはっきりと獣の唸り声が聞えた。
「この声って……」
そして、ケレスがしっかりと意識を手放さずにいるとケレスは温かい火の粉に包まれ、
生をあきらめる絶望感は消えた。
「これって……、オルト⁉」
そう、立ち上がったケレスの目の前には凛々しい顔のオルトが立っていた。
そして、ケレスを守った火の粉の正体は、オルトの炎だったのだ。
「あららぁ? まぁた、面倒臭い奴のお出ましか……」
「グウゥ……」
すると、いつの間にか少し離れた処で黒い霧になっていたがまた具現化したヨルムンガンドに対し、
右前足が肩付近から無くなっていてもしっかりと三足で立っているオルトは威嚇した。
「朱雀の坊や。邪魔なんだけど?」
それからヨルムンガンドは右に首を傾けて見せたが、
「ガオオオーー‼」
と、吠えたオルトは口から炎をヨルムンガンドに向け放出し、その炎はヨルムンガンドに直撃した。
「無駄だよ……。お前程度の攻撃なんて……」
だが、ヨルムンガンドは黒い霧となって広がっただけで、
その霧からはっきりとその声は聞こえたのである。
「そんな体になってまでも、我に抗うのかい? いいだろう……」
すると、そう言ったヨルムンガンドの声がまた聞こえると黒い霧はケレス達を取り囲み、
「さて、どうするかね? このまま兵糧攻めでお前達を殺してもいいのだが……。
死にたくなかったら、喜蝶を渡しなよ」
と、じわりじわりと迫って来た黒い霧からヨルムンガンドの声が聞こえてきたのだ。
「あいつ、俺達を殺す気だ⁉」
そして、焦ったケレスが、ゴクット唾を飲むと、
「グワォン‼」
と、ケレスを見たオルトから吠えられ、
「な、何だ⁉ オルト?」
と、言ったケレスがオルトを見ると、オルトは前部を低くし、
「俺に乗れって言ってんのか?」
と、ケレスが言うと、オルトは左前脚で、カッカと地面を掘り急かしてきたので、
「わかった!」
と、やっとオルトの意思を汲んだケレスがオルトに乗ると、ケレス達の周りに火の粉の壁が出現した。
「グオォーーン‼」
それから炎を纏い吠えたオルトは黒い霧に突撃したが、
「お、オルト⁉」
と、ケレスが叫んだ時にはケレスを乗せた炎の塊のオルトは無事に黒い霧の壁を抜けていたのだ。
「オルト⁉ スッゲェ‼」
そんなオルトの背でケレスは歓喜の声を上げたが、
「ふぅん……。今度は、追いかけっこか?」
と、不服そうなヨルムンガンドの声が聞こえると、黒い霧がケレス達を追いかけて来たのである。
「ひ、ひええぇぇ⁉ あいつ、追いかけてくる気だ‼」
そして迫りくるヨルムンガンドの執着心の塊とも言える黒い霧から逃げているオルトの上で
ケレスがオルトにしがみついていると、
「ウオォーーーン‼」
と、いきなりオルトが空に向け遠吠えをしたので、
「オルト⁉ どうした?」
と、ケレスは声を掛けたが、ケレスを無視したオルトは炎の塊のまま走り続けた。
恐らくそのままオルトは走り続けていたのであろう。
恐らくと言うのは、炎の流れから途切れ途切れにしか外の景色が見えず、
ケレスはオルトが走っているのかもどうかも全くわからなかったからだ。
だが、ある時だった。
「さあ、どうする? 片足がないお前じゃ、これが限界みたいだが?」
こんなヨルムンガンドの余裕な声がすぐ傍から聞こえたのだ。
「く、来るな‼ あっちに行け‼」
そして、左口角が痙攣しそうなケレスはその声に叫んだが、
周りの炎の壁を破る様に出現した黒い霧から一気に取り囲まれ、闇の世界へと誘われた。
すると、その闇の世界の中は何も見えない程暗く、
ケレスは寒いにも関わらず冷や汗を掻いていたのである。
「……追いかけっこは終わりだ。我の勝でな!」
その闇の世界の中でこんなヨルムンガンドの声が聞こえると、
全身の毛を逆立てたオルトだったがその場に崩れる様に倒れてしまったのだ。
「オルト⁉」
そして、そんなオルトにケレスが声を掛けると、
息苦しそうにしているオルトは全身が、ぶるぶるとふるえ出した。
「やぁれやれ……。我に逆らわなければ、もう少し長生き出来たというのに」
すると、そんな絶体絶命のケレス達の前にヨルムンガンドの巨大な瞳が現れ、
「お前、オルトに何をした‼」
と、言ったケレスがその瞳からオルトを庇う様に立ちはだかると、
「特に何もしてないさ」
と、言ったヨルムンガンドは瞳を閉じ、瞳が消えたかと思うと紫色の姿となって出現した。
「じゃあ、何でオルトはこうなってんだ‼」
だが、そんなヨルムンガンドに怯む事なくケレスが怒鳴ると、
「その質問には答えられんが……。
我からすれば、何故お前こそこの空間で意識が保てているのかが疑問だ……」
と、赤い舌をチロリと覗かせて言ったヨルムンガンドからケレスはギロリと睨まれた。
「……やはり、お前は喜蝶の居場所を知ってるね?」
それからケレスを睨みつけたままのヨルムンガンドは、ズルズルと音を出しながらケレスに近づき、
「教えてもらおうか? 教えたら、少しは長生き出来るぞ?」
と、言って、ヨルムンガンドはケレスの目と鼻の先で赤い舌をチロチロと上下に動かしたが、
「誰が教えるか‼ お前みたいな悪い奴なんかに死んでも教えねえよ‼」
と、ケレスが怒鳴ると、
「どんな事をしても吐いてもらおう……。我に逆らった事を悔やむ形でな‼」
と、目を吊り上げて怒鳴ったヨルムンガンドは見上げる程に巨大化した。
そして、あまりにも巨大化したヨルムンガンドにケレスが怯んでいると、
ヨルムンガンドは口が裂ける程開け、ケレスを丸のみする勢いで襲いかかってきたのだ。
「うわああぁーーー‼」
何も抵抗出来ないケレスは叫ぶ事しか出来なかった。
だが、闇を切り裂いた紅蓮の炎がヨルムンガンドに襲いかかったのである。
「この炎は、まさか⁉」
そう、それはケレスの思った通りだった。
その恐ろしくも美しい紅蓮の炎の勢いに圧倒されたケレスの前に、
紅蓮の炎の間からヒロが姿を現したのだ。
「殿下!」
そのヒロの登場にケレスが勝機を見出すとヒロの炎の瞳の輝きがさらに増し、
それに呼応するように威力を増した紅蓮の炎は巨大ヨルムンガンドを一気に包み込んだ。
「お、お前は……炎の瞳の一族……⁉」
すると、ヨルムンガンドの苦しむ声が聞こえ、
「消えろ」
と、静かに言ったヒロがその声の方を睨みつけると、
「覚えておけ……。我は、まだ破片だ……」
と、ヨルムンガンドの憎悪に満ちた声が聞こえた後、巨大ヨルムンガンドは紅蓮の炎で燃え尽きた。
それから闇の世界も一気に消え、ケレス達は元の空間に戻っていたのである。
「た、助かったぁ……」
そして、ほっとしたケレスが、へなへなとその場に座り込むと、
「ワオーーン!」
と、泣きながらパラがオルトに駆け寄り、オルトを何度も舐めた。
すると、オルトのふるえは無くなり、オルトは立ち上がった。
「よかった! オルト、大丈夫か?」
そんなオルト達を見たケレスも立ち上がると、
「ゥワオン!」
と、尻尾を左右に振って鳴いたオルトは、ペロッとケレスの頬を舐め、
「ありがとう、オルト! お前のおかげだ!」
と、言いながらそんなオルトの頭をケレスは感謝の意を込め撫で、
それだけでは足りずオルトを抱きしめると、オルトはそのケレスの気持ちを全身で受けとめてくれた。
だが、
「……あいつは何者だ?」
と、ヒロが痺れを切らしてしまったのである。
「殿下⁉ すみません!
でも、俺も余り知らないんですけど……」
それから慌ててオルトから離れたケレスがヨルムンガンドの話をすると、
ケレスの話を眉を顰め口を真一文字に結んで聴いていたヒロの顔はどんどん険しいものとなった。
「そうか……」
そして、ケレスの話を全て聴き終わったヒロは大きく息を吐いた後、思いも寄らない発言をした。
ふぅ……。ケレス君、危なかったね!
でも、助かって本当に良かったよ!
じゃなきゃ、今回でこの作品は君がああなって終わるというバッドエンドだったからね♪
いやいや……本当に良かった!
で、この良かったね♪という流れのまま次の話は続くんだよ。
そんな次話のタイトルは、【ケレス、消えたはずの希望の光が再び心に灯る】だ!
どんな希望の光かな?




