№ 63 ケレス、皆既日食を祝う
ラニーニャの温かさに包まれた氷の地に氷月の笑い声が響く。
その声にミューが口を開くと氷月からはラニーニャの死に際の話が出るのだが……。
「……何がおかしいの?」
ケレス達を馬鹿にする様なその氷月の笑いにミューは眉を顰めた。
「おかしいさ! ここに、あの女はいないと言うのに、墓参り等と下らん事を言うのだからな?」
すると、氷月はさらに笑いながら答え、
「いるわ! こんなにこの地は、お姉ちゃんの優しさで包まれている物‼」
と、ミューが、語気を強め言うと、
「ああ、そういう意味か……。確かに、そうかもしれん……。
あの女が死んで灰になり、土に返った事でヘルヘイムは復活した訳だしな!」
と、笑いを堪えながら言った氷月は腹を抱え笑い出した。
「本当に感謝する……。貴様達の姉が死んでくれた事になぁ?
そして、貴様の国と昴が不要だと言って、あの女の躯をくれた事をな!」
それから氷月はミューに蔑む目を向けながら続けたので、
「死んでくれて……、ですって? あなたが殺したくせに‼」
と、怒りにふるえているミューが怒鳴ると、
「違うな……。俺は、殺してやったんだ。あの女の、望みを叶えてやったまでだ。
貴様にも見せてやりたかったよ、死に際のあの女の顔を……。
あれは、俺に感謝してたからなぁ?」
と、氷月から茶化され、
「お姉ちゃんがあなたなんかに、感謝?」
と、言ったミューが唇を噛みしめると、
「そぉーさ……。
俺にはなぁ、あの女の死に際の顔は、
『ありがとう。あんな恐ろしい国から解放してくれて』と、言っている様に見えたよ。
よっぽど、貴様達を恨んでいたんだろう……。
ああ、あと、あの女は死ぬ事で世界が救われるとか言ってたな。
それに、しんで会いたい奴がいるとも、な……。
だから、その望みを叶えてやった俺が、感謝してもらえる訳だ」
と、言った氷月はミューに顔を近づけ、憎たらしい顔で笑ったのだ。
すると、パンッ!と音が響く程、ミューが氷月の左頬をはつった。
「いぃっ⁉ ミュー‼」
その光景にケレスが目を丸くすると、
「……これで満足か?
貴様もわかったはずだ……。あの女は、生きる事を望んでいなかった。
この地で穏やかに眠る事を望んでいる、と……」
と、左頬が少し腫れ唇の端が切れている氷月に言われ、
その冷たい眼差しと言葉にミューは何も言えず俯いたまま泣き続けた。
「はぁ……。わかったのなら、さっさと帰れ。
そして、二度と、この地に足を踏み入れるな!」
それから深い溜息をついた氷月は霧の中へと姿を消した。
「……ミュー、帰ろう」
その氷月が見えなくなっても泣き続けるミューに声を掛けたケレスは、
小さく頷いたミューと宝珠の国に帰還する事となった。
そんなケレス達はまずはニフリヘイムへ向かう事となったが、
その飛行機の中では、誰も話さなかった。
そして、ニフリヘイムに到着し、宝珠の国の飛行機に乗り換える時、
「あの、紅さん……」
と、意を決したケレスは紅に声を掛けたのである。
「ケレス様、何でしょう?」
すると、微笑んでいる紅に聞かれ、
「これ、炎月さんに返してもらえますか?」
と、ケレスが南河三の形見の指輪を渡すと、
「ですが、これは……」
と、紅は戸惑いの色を見せたが、
「俺、思い直したんです……。
その指輪は、炎月さんがどうするか決めた方がいいって」
と、眉を顰めたケレスが言うと、
「……あなた様は、厳しい事を頼むのですね」
と、一つ息を吐いた紅は静かに言った。
「あっ、い、いや……。その……」
そんな紅に慌てたケレスの目が泳ぎ出すと、
「ふふっ。いいのですよ……。炎月様にこれを渡して、後悔させてあげますので」
と、指輪を受け取った紅は微笑みながら言ったので、
「後悔?」
と、ケレスが首を傾げると、
「私の様な、いい女をふった事をですよ!」
と、頷き、優しく言った紅は輝く微笑みを見せたのだ。
「紅さん……」
そして、その紅の輝く微笑みでケレスの口元が綻ぶと、
「氷月様は、ああ仰りましたが、どうかまた我が国に来てください」
と、穏やかな顔の紅に言われ、
「はい!」
と、笑って言ったケレスは剣の国をあとにした。
だが、帰りの飛行機の中でケレスは、ふとある事が気になり、ラニーニャの鈴を眺めた。
(でも、氷月様はどうして姉ちゃんが言った事を知っていたんだろう……)
そう、ケレスはラニーニャと話した事がないはずの氷月が、
何故ラニーニャの苦悩を知っていたのかが気になったのだ。
だが、その答えが出ないままラニーニャの遺品の鈴を眺めているケレスは宝珠の国へと帰還した。
そして、ラニーニャの遺品は、指輪はミューが、それ以外はケレスが持つ事となり、
それ等を分配したケレスはイザヴェルに下立った。
すると、そんなケレスは驚いた。
何故なら、イザヴェルは祭りが行われ賑やかだったからである。
(何の祭りだ?)
その賑やかな街並みを歩きながらケレスがぼんやりと辺りを眺めていると、
「さあ! あと一〇分程で皆既日食の始まりだよ。
フィルターはこちら! 今年は、あの太古の昔に大いなる災いが終焉を迎えた日と同じ日だ‼」
という声が聞こえてきた。
そして、お祝いモードが広がる中、
「大いなる災いか……」
と、呟いたケレスが下を向いて歩いていると、
そんなケレスの横を楽しそうな人々や声が次々と追い抜かす様に通り過ぎて行った。
それから皆が楽しそうにしている中をケレスが何も考えずに歩いていると、
いつの間にか日食が始まっており、太陽は西の方が少し欠けていた
すると、
「これから、どうなるの?」
と、何処からか風に乗って小さな男の子の声が聞こえ、
「もうちょっとしたら、真っ暗になるんだよ?」
と、恐らく、その子の母の声も風に乗って聞こえると、
「えぇーー! 怖いよぅ!」
と、男の子の泣きそうな声が聞こえたが、
「大丈夫。光は戻るわ。昔、昔みたいにね」
と、その子の母の優しい声が聞えた。
「光は戻る、か……」
その会話が耳を掠めたケレスは風より小さな声で呟き、
(俺には、戻らないだろうな……)
と、言葉を発せられないケレスは、きゅっと胸が締め付けられ痛みが走った。
それは、現実を受けとめたつもりだったが時が経つにつれて、
ラニーニャの死という現実が重く伸し掛かってきたからだろう。
(やっぱり、信じられないよ、姉ちゃん……)
それからその現実を背負っているケレスが歩いていると、日食は半分程 進み、
ケレスが高杉の家に帰り着く頃には日食はさらに進んで辺りは少し暗くなっていた。
「部屋が綺麗なままだ。先生、まだ帰ってないんだ……」
そして、高杉の部屋を見たケレスは、そのままラニーニャの仕事部屋に入り、
その仕事部屋で形見の鈴をリーン……と鳴らした。
「姉ちゃん。帰ったよ……。仕事部屋、綺麗なままだろ?」
その鈴の音が鳴り止むと同時にケレスが呟くと、ケレスの頬を温かいものが流れており、
「一番、見てほしかったんだ……。ずっと、部屋を綺麗にして待ってたのに……。
何でだよ……、何で‼ 先生や兄貴、アルトに何て言えばいいんだ‼」
と、鈴を握り締めたケレスが声を荒げると、
「なあぁに、暗くなってんだぁ? ひっくっ……」
と、上機嫌な男の声がケレスの背後から聞こえた。
その男の声に、ケレスは聞き覚えがあり、見なくともわかったが、
ケレスが振り返ると、そこには見覚えのある男が立っていた。
いや、それは忘れもしない男、田爪だったのだ。
その田爪からは酒の臭いが漂い、ほろ酔い気分の様だった。
「どおぉしたぁ? こんな良い日に何で泣いてんだぁ?」
すると、そんな田爪からケレスは半開きの目を向けられ、
「何でお前がここにいるんだ‼」
と、苛立ちを隠せないケレスが怒鳴ると、
「つれねぇなぁ……。まあぁだ、あれを忘れずにいるのかい?」
と、ひゃっひゃっと笑っている田爪から言われ、眉を顰めたケレスは田爪を睨みつけたが、
「良い事、教えてやんよ? あれは死んだんだってさぁ。一年以上前にだがな!」
と、両口角を目一杯上げて言った田爪からはその笑い声は消えなかった。
すると、ケレスの中で何かが壊れる音が聞えた。
ケレス君⁉ た、大変だぁ!
いやもうね、大変なの‼ それしか言えないよ!
何故に私がこう言ってるのかがわかる次話のタイトルは、
【ケレス、世界を滅亡に導くものと遭遇する】だぁ!
この話で彼の正体がわかるよ~。
あとね、あの人が活躍するんだよ♪




