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№ 61 ケレス、微笑みの者と再会し、あの日の事を聴く

 ニブリヘイムでケレス達を出迎えたのは微笑みが光るあの者だった。

 その者からケレス達はラニーニャが眠っている場所へ案内される。

 そして、その道中でケレス達はその者からラニーニャの死に際の話を聴く事となるのだが……。

ホンさん⁉」

 ニブリヘイムでケレス達を出迎えたのは微笑んでいるホンだった。

 そのホンに驚いたケレスが目を丸くして叫ぶと、

「こちらにいらしてください」

と、言って頷いたホンは歩き出し、

ケレス達をある飛行機まで案内したのである。

 その飛行機は全体が新雪の様な美しい白色の機体で、

大きさはケレス達が以前フェンリル山からニブリヘイムまで移動した時に乗った物とほぼ同じだった。

「こちらにお乗りください」

 それからケレス達を見つめているホンに静かにそう言われ、

「これで、何処に行くんですか?」

と、怪訝な顔をしたミューが聞くと、

「あなた方のお姉様が眠っている場所、ヘルヘイムですわ」

と、ミューを真直ぐ見つめたホンは答えた。

「ヘルヘイムだって⁉」

 その言葉に驚いたケレスはまた叫んでしまったが、

「あちらの飛行機の中で、全てお話しいたします……」

と、頷いて言ったホンは動じずにその美しい白色の飛行機に乗り込んだ。

 そしてケレス達もその飛行機に乗り込むと、飛行機はそのまま飛び立った。

「お久しぶりですね」

 それからその飛行機の中でケレス達と向かい合わせに座っているホンにそう言われ、

「はい。ホンさん」

と、ケレスは返事をしたが、ケレスの右隣に座っているミューは怪訝な顔のまま黙っていた。

「本当に申し訳ありませんでした。あなた方の大切な方の命を守れなくて……」

 そのミューの態度で眉が下がったホンは頭を下げたが、

「今更謝らないで……。何があったのか、話してくれるだけでいい」

と、冷たい眼差しをホンに向けたミューはその瞳同様の声で言ったので、

「ミュー……」

と、ケレスはミューを見つめる事しか出来なかったが、

口を真一文字に結んだミューはホンを睨んだままだった。

「そうですね……」

 そのミューの眼差しにさらに悲しそうな顔をしたホンだったが、

氷月ビンユエとアルデバランがラニーニャを連れ去った時からの事を話し始めた。

 氷月ビンユエ達が何故あの時、水鏡の国にいたのかはホンは知らなかったが、

氷月ビンユエに命じられたホンはラニーニャの介抱をする事となった。

「……とは言っても、あの方は意識はなく、ずっと苦しんでおられる様でした。

 そして私が見た時には髪を初め、まつ毛、眉毛は白くなっていたのです」

 ここまで淡々とホンが話していると、

「どうして?」

と、声を荒げたミューに聞かれ、

「はっきりとした理由はわかりかねますが、ストレスからではないかと……」

と、眉を顰めたホンは答えた。

「私達はあらゆる治療を施しましたが、あの方の意識が戻る事はありませんでした。

 そして、そんなあの方が唯 生かされている日が一週間程続いたある日、

氷月ビンユエ様があの方の生命維持装置を全て取り除いてしまわれたのです。

 そしてその後すぐに、あの方は静かに息を引き取られました……」

 それからホンがこう続きを話すと、

「じゃあ、氷月ビンユエ様が姉ちゃんを殺したっていうのか⁉」

と、顔が引き攣ったケレスは声を荒げてしまい、

「そういう事になりますわ」

と、言ったホンは悲しい目をケレスに向け、

「どうして⁉ 何で、そんな事をしたの‼」

と、そのホンにさらに厳しい目を向けたミューが怒鳴ると、

氷月ビンユエ様は、こう仰られました……。

 『生きる気がない奴を生かしておいても、苦しめるだけで意味がない』と……。

 そして、氷月ビンユエ様から生命維持装置が取られたあの方は何かから解放された様に

穏やかな顔になって静かに息を引き取られたのです。

 そう、まるで氷月ビンユエ様に礼を言う様に……」

と、ホンは胸に突き刺さる様な静かな声で話した。

「何でよ‼ 意味がわからないわ‼

 何でお姉ちゃんを生かしてくれなかったの‼」

 すると、怒鳴った勢いでミューの目から大粒の涙が零れたが、

「ただ生かすだけが、あの方を助ける事ではないのでは?」

と、それに全く怯まないホンがミューを真直ぐ見つめ言うと、

その言葉を聴いたケレスの心にラニーニャの顔が浮かんできた。

 だが、そのラニーニャの顔はとても胸が苦しくなる様な顔をしていた。

 そう、ラニーニャが自害し、うさ爺に覆い被さった時の穏やかな顔がはっきりと心に浮かんだのだ。

(姉ちゃん……。あのまま死ぬ事が望みだったのか?

 だから、氷月ビンユエ様に礼なんか言ったのか?)

 そして、ケレスはそうしか考えられなくなってしまった。

 すると、

「これを……」

と、言ったホンは机の上に掌にのる程の小さな黒い箱を置き、

ケレス達の方にそれを、そっと押しやってきた。

「これは?」

 その箱を見たケレスがホンに目を転がすと、

「この箱に、あの方の遺品が入っています」

と、小さく頷いたホンは答え、

「遺品……」

と、呟く様に言ったケレスがその箱をじっと見つめていると、

「ケレス様、どうぞ開けてください」

と、ホンに言われ、ケレスが意を決してその箱を開けると、

その中には見覚えのある代物が入っていたのだ。

 そう、その中はラニーニャの右手の薬指にいつも光っていた蝶を模した指輪一個と、

ジャップからの贈り物の雪桜の蕾を模したネックレス、それに、風霊鈴だったのだ。

「これ……」

 そして、それ等を見て胸が締め付けられたケレスが何も言えなくなると、

「もっと早くにお渡ししたかったのですが、宝珠の国の方に断られておりまして……。

 どうか、受け取ってください」

と、眉を顰めたホンに言われ、ケレスがラニーニャの遺品を見つめていると、

「お姉ちゃんの遺骨は? ちゃんと返してもらえますよね?」

と、怒りにふるえている静かなミューの声が聞えたが、

「……それは、無理ですわ」

と、静かな声で言ったホンの声はふるえていなかった。

「何を言ってるの‼ 冗談はよして‼」

 すると、怒りが表情に現れているミューは声を荒げたが、

「無理なのです。あの方の遺骨は、ヘルヘイムの空で散骨されましたので」

と、表情を出さないホンに言われ、

「冗談でしょ‼ 何でそんな事をしたの‼」

と、勢いよく立ち上がったミューが怒鳴ると、

氷月ビンユエ様の命でそうなりました。あの方がダーナだったので……」

と、眉を顰めたホンは答え、

「お姉ちゃんがダーナだったら何⁉ 何で、そうなるの‼」

と、肩が上下に動いているミューが語気を強め言うと、

「……あの方の遺骨でヘルヘイムを復活させる為でしょう」

と、瞳を閉じたホンは暫しの沈黙の後、言った。

「ヘルヘイムを復活⁉」

 その言葉にミューは目を丸くしたが、

「そうです。ダーナは、祈りの力でその地を豊にする。そして、その亡骸でさえその地を豊にする……。

 ですので、その事を知っていた氷月ビンユエ様は、それを実行なされたのです」

と、瞳を閉じたままホンは淡々と話し、

「な、何よそれ⁉

 じゃあ、そんな事の為に氷月ビンユエ様はお姉ちゃんを攫って殺したって言うの‼」

と、怒鳴ったミューが体をふるわせると、

「結果的に、そうなりますね」

と、瞳を開けたホンはミューを真直ぐ見つめ言った。

 そんなホンの話を聴いていると、ケレスはアルトの話を思い出した。

 そう、剣の国はずっとダーナを私利私欲の為に利用して来たという事を!

「……結果的? 最初からそういうつもりだった癖に……。

 剣の国は、昔からダーナの犠牲の上に豊さがあったんだろ‼

 だから、ダーナである姉ちゃんを利用する為に連れて行った‼ 違うか‼」

 そして、腹の底から怒りが沸いて来たケレスがホンを睨みつけると、

「その様な事を言わないで。炎月イェンユエ様は違う考えだったのですから!」

と、言った悲しそうな顔のホンは涙を流し、

炎月イェンユエ

 あなたの婚約者が何を言ったか知りませんが、あの人は姉ちゃんを裏切っていた‼ 騙していた‼

 俺は、あの人だけは絶対に許せない‼」

と、怒鳴ったケレスはホンの後ろに見える炎月イェンを憎しみに満ちた目で睨みつけたが、

「違うのです! あの方は、あなた達のお姉さまを裏切ってなどいませんわ‼」

と、声を荒げて言ったホンはケレスを真直ぐ見つめた。

 そのホンの瞳からは何かを必死に訴える気持ちと胸の奥が痛くなる様な感覚が伝わり、

それに怯んだケレスは何も言えなくなった。

 そして、また瞳を静かに閉じたホンは重い口を開き、

炎月イェンが抱いていた真の思いを話し始めた。



 ケレス君。

 悪いが今回も君に掛けれる言葉があまりない……。

 とりあえず、気を確かに持つ事だ!

 次話はまだまだ重い話となるのだから……。

 そんな次話のタイトルは、【ケレス、すれ違った思いの果てに蘇った地を包む思いを感じる】だ!

 へぇ……。ケレス君、あの人と再会するんだね!

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