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№ 60 ケレス、夢を叶えた先で現実を知る

 王宮中に響く程に声を荒げていたミューに近づいて来た男からケレス達は信じ難い事実を告げられる。

 そして、その事を信じられないケレス達だったが、

次々とその事実を受け止めなくてはならない様に追い込まれてしまう……。

「ミュー……。父上を責めるな。もう戻って来ない奴の家をどうしようと関係ないだろう」

 ケレス達に近づき、この様な信じ難い言葉でミューを諫めたのは、ヒロだった。

「お、お兄様⁉ それ、どういう意味……?」

 それから徐にミューに近づいて来たヒロの顔を見たミューの顔が引き攣ると、

「あいつは、死んだんだ。一年以上前にな……」

と、険しい顔をしたヒロはまた信じられない事を口にしたのだ。

「何を言っているの⁉ だって、お兄様達はずっと剣の国と交渉してるって言ってたじゃない‼」

 それを耳にしたミューの語気は強まったが、

「それは、お前を悲しませない様にする為の嘘だ。

 あいつがいなくなった後、一週間程して剣の国から連絡があった。

 あいつは助からなかった、とな……」

と、言ったヒロの声は落ち着いており、

「嘘よ! そんなの、お姉ちゃんを返さない為のデタラメに決まってるじゃない‼」

と、言ったミューの語気はさらに強まったが、ヒロは無言のまま首を横にゆっくりと振ったのである。

(姉ちゃんが、死んだ? そんな馬鹿な‼)

 ケレスはミュー達の会話が何を言っているのかわからず、頭の整理が出来ずにいた。

 だが、

「……剣の国からあいつの遺体をどうするかと言われたが、

我が国に持ち込む事を昴の奴等がどうしても嫌がってな。

 だから、あいつは剣の国で荼毘に付される事となったのだ」

と、ヒロは静かに話を続けており、

「嘘よ! 嘘‼ そんなの、私は絶対信じないから‼」

と、怒鳴ったミューの瞳が貯まった涙で潤んでくると、

「ミュー、許してくれ。嘘ではないのだ……」

と、ミューのすぐ傍まで近付いて来たホドはミューを真直ぐ見つめ言った。

 そのホドの顔は悲しみに満ちており、決して嘘をついている顔ではなかった。

「お父様……。お願いだから、嘘だと、言って……」

 そしてその事を感じたミューの瞳から抑えきれなくなった涙が零れるとミューは泣き崩れてしまい、

同じく涙を流したホドはミューを優しく抱きしめ、倒れない様に支えた。

 そんなミューはホドの腕の中で鳴き続け、

どうする事も出来なかったケレスはそのまま一人で帰る事となった。

 それからどうやって帰り着いたのか全く覚えていないが、

帰り着いていたケレスはラニーニャの仕事部屋にいた。

「姉ちゃん……。嘘……だよな? 死んでない……、よな?」

 そこで呆然となったケレスは何度もそう言った。

 ラニーニャは、死んでなんかいない。

 絶対に生きてここに帰ってくるはずだ。

 ケレスは未だにそう信じている。

 そう、ニョルズでの異変、それからヒロの言葉を聞いても尚そう信じていた。

 だから、それを言葉にしたのだ。

 だが、誰からもその言葉を否定してもらえなかった。

 そんな事は、わかっていた。

 それでも、ケレスは何度もそう言ったのである。

 そして、誰もいないラニーニャの仕事部屋でケレスのその声だけが悲しく響く中、

ケレスは声を荒げて泣いた。

「何の為に、俺はがんばってきたんだぁ‼

 何も知らなかった……。姉ちゃんが死んでたのに、俺は……俺は‼」

 悔しさや惨めさと言った気持ちがケレスの涙と共に溢れ出し、

その涙はとどまる事を知らなかった。

 そしてケレスの涙は止まらず、高杉が帰ってこないまま次の日の朝を迎えた。

 そんな涙が残っているケレスが、まだラニーニャの仕事部屋で、ぼーっとしていると、

訪問者を知らせるドアベルが、ジーーっと鳴った様な気がした。

 それからそのドアベルの音は何度も鳴り続け、それが気のせいではないとわかったケレスは

ラニーニャの仕事部屋を後にした。

「……はい。どなたですか?」

 そして、そう言ったケレスがドアを開けると、そこに朝日が照らす中、ミューがいたのである。

 そのミューの目はかなり腫れていたが、ミューは精一杯笑っていた。

「ケレス。おはよう!」

 そんなミューからそう言われ、

「ミュー⁉ どうしたんだ?」

と、目が腫れて開かないケレスが精一杯目を開けて言うと、

「……ケレス。剣の国に行こう!」

と、笑顔のままのミューからケレスは思いがけない誘いを受けたのだ。

「ミュー⁉ いきなり、何を言い出すんだ?」

 そのミューの思いも寄らない誘いにケレスが戸惑っていると、

「私、お姉ちゃんを迎えに行きたいの……」

と、言ったミューの目から涙が零れ落ち、

「ミュー……」

と、朝日に照らされ光るミューの涙を見たケレスは呆然となったが、

「私、それぐらいしか出来ないから……」

と、言ったミューはその涙を拭って笑った。

「わかった……。俺も行くよ。姉ちゃんを迎えに!」

 それからケレスもまた涙を流してしまったが、ミューとクリオネとで剣の国へ行く事となった。

 そして、剣の国へは宝珠の国の王族専用の飛行機で向かう事となり、

その飛行機ではケレス達二人は並んで座り、小型犬の姿のクリオネはミューの膝に座った。

 すると、

「ケレス……。知っている事を、全部 教えてほしい……」

と、眉を顰めたミューに言われ、

「知っている事って、何をだ?」

と、ケレスが聞くと、

「お姉ちゃんの事……。もう、私だけ何も知らないなんて、嫌なの!」

と、俯いて答えたミューは両拳を握り締めた。

「ミュー……。わかった。話すよ」

 そんなミューを見つめたケレスは、ラニーニャについて話した。

 新生スレイプニルの事、新生ゴンズの事。

 それから何度も宝珠の国を救った事や水鏡の国を救った事といった奇跡や、

ダーナのせいで多くの者に狙われていた事、それに昴との因縁……。

 さらにその時々で見せたラニーニャの思いをケレスはミューに全て話したのである。

 そしてその話をミューはケレスの目を見つめたまま聴いており、クリオネも耳を傾けていた。

「お姉ちゃん、そんな凄い事してたんだ……。

 私、全然 知らなかった……」

 ケレスの話を聴き終わったミューの眉は下がっており、溜息を漏らすと、

「そうだな……。俺も知らなかったんだ」

と、同じく溜息を漏らしたケレスは言ったが、

「でも、ケレスにはお姉ちゃん、教えてたじゃない?」

と、悔しそうに唇をふるわせているミューに言われ、

「それは、偶々だよ。姉ちゃん、本当は誰にも言いたくなかったんだと思う」

と、眉が下がったケレスが言うと、

「……そうね。お姉ちゃんなら、そうだね!」

と、言ったミューは、くすっと笑い、

「本当は、いつも怯えてた癖にさ……。

 お姉ちゃん、何で私達に言ってくれなかったのかな? 私達じゃ、頼りなかったのかな?」

と、言って、ミューはまた溜息を漏らしたので、

「そうかもしれないけど、姉ちゃん、自分のせいで誰かが傷付くのが一番嫌だったんだよ」

と、眉を顰めたケレスがラニーニャの思いを伝えると、

「……わかってる。だけど、悔しいよ。

 私、何も出来なかった揚げ句、お姉ちゃんを追い込んだんだもの……」

と、言ったミューの目から、ぽろぽろと大粒の涙が零れ落ちた。

「ミュー、泣くな! 陛下達の反対を押し切ってまで、お前の意志を通して決めた事だろ?

 そんな顔して姉ちゃんを迎えになんか行けないぞ‼」

 その涙を見て立ち上がったケレスがそう言うと、クリオネがミューの涙をペロペロと舐め、

「うん。ケレス、クリオネ……」

と、言ったミューだったが、涙は止まらず、

「ミュー、剣の国に着くまでには、泣きやめよ……」

と、言ったケレスは座り直し、自身の頭をミューの頭に、こつんと当てて寄りかかった。

 すると、ミューが何度も頷いた振動がケレスの頭に伝わってきた。

 それから一日以上かけ、飛行機はニブリヘイムへと到着した。

 そして、飛行機からケレス達が降りると、

「ミュー様、ケレス様。お待ちしておりました」

と、言った女性からケレス達は微笑みと共に出迎えられたのである。

 ケレス君……。

 今回、君に掛ける言葉はない。

 なので次話のタイトルだけ伝えておく……。

 【ケレス、微笑みの者と再会し、あの日の事を聴く】

 

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