№ 58 ケレス、絆の時計の針が止まっていた時に世界が出していた答えを知る
ケレスとミューの絆の時は進み出した。
だが、そんな二人は雪桜の園の異変に気付く。
そして、あの人物に約一年前に起こった悍ましい事件を聴いたケレスは
ミューとその場所へ赴くのだが……。
クリオネの背から降りたケレス達は雪桜の園まで歩いた。
その道中でもケレス達は何かがおかしい事はわかり、
雪桜の園に近づくにつれそれが何なのか徐々にはっきりとわかってきた。
そして雪桜の園に到着したケレス達だったがその足は止まってしまった。
いや、止まったのではなく動かなかったのである。
何故なら、それは、雪桜を見たケレス達が唖然となったからだった。
「な、何だ、ここ……⁉」
そして、ケレスがそう言ってしまったのも仕方がない事だったのである。
そう、雪桜の園までに続く道も徐々にそうだったが、雪桜の園の全ての雪桜は枯れており、
さらにその雪桜の周りの全ての植物までもが枯れてしまっていたのだ。
「どうして⁉ 何で、雪桜が枯れているの?
そ、それに他の植物までもが枯れてしまってるなんて……」
その変わり果てた雪桜の園を見たミューが狼狽えていると、
「わからない……。この一年程で一体何があったんだ?」
と、言ったケレスだったが、ふと、ある事に気が付き、青褪めてしまった。
「な、なあ、風がないって、おかしくないか⁉」
そう、ケレスの言う通り、ケレス達の周りは風の音が全く聞えなかったのだ。
これは風の里であるニョルズでは有り得ない事なのである。
「本当だ⁉ 風が吹いてない? それに、精霊や動物、霊獣達がいないわ⁉」
それから他の異変にもミューが気付き、ケレス達が言葉を失っていると、
「ミュー様⁉ それに、ケレスか?」
と、ケレス達は背後から誰かに声を掛けられた。
「ショルズさん⁉」
そして、ケレス達が振り返るとそこにショルズがいた。
そう、その声の持ち主はニョルズの里の長 ショルズだったが、
ショルズは一年ばかしで随分老け込んでいる様に見えた。
そのショルズにケレスが大声で声を掛けると、
「ケレス、すまんな……」
と、言ったショルズの声は物悲しく、
「ショルズさん、ここはどうしちゃったんですか?」
と、ショルズに駆け寄ったミューが聞くと、
「……ミュー様。やはり、あなた様は何も知らされていなかったのですね。
これは話すべきではないかもしれませんが、一年以上前の事です……」
と、暫しの沈黙の後、唇を噛みしめていたショルズは重い口を開き、
ケレス達がニョルズを離れていた時に起こった悍ましい事件について話し始めた。
ショルズによると、昴の者達があの事件以降ニョルズに静養に訪れた時、
昴の者達からある受け入れ難い条件が出された。
その条件とは、うさ爺の家と、その果樹園を全て取り壊す事だった。
「……儂は、どうする事も出来んかった。
そして、昴の方々と、王家の方々の言うがまま、そうする事となって……」
そう話している間、ショルズは眉を顰め、悔しさを滲ませていたが、
「ショルズさん ちょっと待って‼」
と、ミューの怒鳴り声でその話は中断させられた。
「ミュー様?」
そして、気まずそうな顔のショルズがミューを見ると、
「そんな事、私は知らないわ!」
と、言ったミューは瞬きせずにショルズを見つめ、
「……でしょうな。
あなた様にはこの事は酷で、陛下と殿下は内密にしていたのでしょう」
と、言いながら瞳を閉じ、首を横に軽く振ったショルズは続きを話し出した。
「ホフマンさんの家と果樹園を全て焼き払う事となり、
その事は儂を含め、里の一部の者と、王家の方々でとある夜に実行されました。
そして、ホフマンさんの家と果樹園は全て焼き払われてしまった。
ですが、その後この辺りはすっかり変わってしまったのです……」
ここまで淡々と話したショルズは徐に雪桜があった場所へと行き、
そこで何かを探し始めた。
「……見てください」
すると、そこで拾った何かの植物をショルズはケレス達に見せてきたが、
それは小さいまま枯れていた。
「ショルズさん、それは、何?」
そして、その植物を見つめたミューがそう聞くと、
「これは、雪桜の苗木です……。いや、苗木だったと言うべきでしょうか。
ミュー様、あの日からこの地はこの様に何を植えても枯れてしまう不毛の地へと変わりました。
そして、その不毛の地はニョルズ中に広がり続けております……」
と、答えたショルズは深い溜息をつき、
「そんな馬鹿な⁉ だって、ダーナの方々がいるんでしょ?
だったら、マナが豊富になるはず! なのに、どうして不毛の地になったの‼」
と、拳を握り締めているミューは声を荒げて言ったが、
「……ここには、人以外の生き物がいなくなってしまったからでしょうな」
と、静かに言ったショルズは他の枯れた数本の苗木を回収し始めた。
「いなくなった?」
そのショルズの言葉でケレスがゆっくり瞬きすると、
「ダーナの方々のおかげで、この地はマナは豊富だ。
だが、それだけなのだよ。人以外の生き物は、望まないこの地から全て離れてしまった。
彼等がいなくなってしまったら、いくらマナが豊富だろうと植物は育たない……。
そして、育とうともしない。当然の事だ」
と、言いながらショルズは枯れた苗木を全て回収し終え、
「どうして、人以外の生き物はいなくなったの?」
と、その寂し気なショルズの背にニューが聞くと、
「彼等は、あの事を望んでなかった。それが、答えなのでしょう……」
と、俯いて答えたショルズはそれ以上何も言わずに悲しい背を向けこの場を去ってしまった。
そして、ショルズがいなくなった後、事実を受け止めきれていないケレスは呆然となった。
だが、
「……ケレス、お姉ちゃんの家に行こう」
と、ふるえた声のミューに言われ、
「ミュー⁉」
と、はっとしたケレスがミューを見ると、
「私、信じられない。お父様、それに、お兄様がそんな事をしたって……」
と、ケレスを真直ぐ見つめ言ったミューの声はまだふるえており、
「……そうだな。俺も、信じられない!」
と、そのミューの目を真直ぐ見つめてケレスが言うと、
「わん、わん!」
と、何かを訴える様にクリオネが吠えたので、
「うん。クリオネ、行こう!」
と、言ったミューはクリオネの頭を撫で、ケレス達は うさ爺の家へと向かう事となった。
だが、やはり うさ爺の家に向かう道は全て荒野と化しており、以前の面影は全くなくなっていた。
そして、うさ爺の果樹園があったであろう場所が見えてくると、
「ねえ、ケレス……。うさ爺のリンゴ園が、無くなってる……」
と、ミューの呟く様に言った声が聞こえ、
「……そうだな。全部、焼け焦げた跡になってる……」
と、眉を顰めたケレスも呟く様に言うと、
「ショルズさんの話、本当だったら私、どうしたらいいのかな……」
と、言ったミューの声にはすすり泣く声も混じり始め、
「それは、うさ爺の家に着いてからにしよう」
と、言ったケレスは心の奥底から溢れ出しそうな嫌な気持ちを抑える為、唇を噛みしめた。
それから うさ爺の家があったであろう場所に到着したが、
やはりそこは焼け焦げた跡以外、何も無くなっていた。
「……やっぱり、焼けて、何も無くなってる……」
そんな変わり果てた うさ爺の家だった場所に風の音はなく、
代わりに絶望に満ちたミューのこんな声が悲しく聞こえた。
そして、そのミューの声が耳を掠めたケレスは、何も言えず、目の前が真っ暗になった。
(ショルズさんの言う通りなら、うさ爺の家は陛下達によって燃やされた⁉ 昴の人達の言成りで……。
まさか、陛下達は姉ちゃんが災いだって聞かされたのか⁉だから、こんな酷い事を……。
それに、バルや、ぴゅーけんは何処に行ったんだ⁉ 無事なのか?)
その闇の中でケレスが色々と考えていると、
「……ねえ、ケレス。お願いがあるの!」
と、ミューの声が聞こえ、
「ミュー⁉ どうした?」
と、はっとしたケレスにミューは思いも寄らない申し入れをしてきた。
ケレス君、雪桜の園がなくなっちゃったね……。
本当にこれはヒロ達が行ったのかな?
だとしたら……。
それがわかる次話のタイトルは【ケレス、惨劇の日を知り伝え、炎の霊獣の背に乗り駆ける】だ!
次話では久しぶりにケレス君が主人公らしく見えるよん♪
そして、またまたケレス君が……⁉




