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№ 45 ケレス、光からの使者の意志を知ったその先で希望を掴む道を切り開く

 フレースヴェルグと共に光の神殿に下立ったケレス達が目にしたのは会いたかった人物だった。

 そしてその傍らにはあの人物が横たわっていた。

 そんな中、アマテラスの使いがケレス達に示した道とは……。

 ケレス達を乗せたフレースヴェルグが世界樹のある中庭へ下り立つと、

何故かそこだけは雨が降っていなかった。

「ね、姉ちゃん⁉」

「姉貴‼」

「先輩‼」

 だが、そこにいる人物を見てそんな事を忘れる程、各々は叫んだ。

 何故なら、世界樹の根本にはあの根の一族の女が横たわっており、

 その傍には座り込んで泣きじゃくっているラニーニャがいたからである。

 そして、ケレス達は近づいて声を掛けたが、ラニーニャは唯声を発せず泣き続けていた。

(姉ちゃん、無事で良かったけど、この人とどんな関係なんだ?

 それに、この人……。生きてるのか?)

 その二人を見たケレスが何も言えずにいると、またいくつもの落雷の音が鳴り響き、

「な、なあ、長殿⁉

 姉ちゃんが無事だったのはいいけど、これからどうすれば青龍様の怒りを鎮められるんだ?」

と、その音に臆したケレスは聞いたが、

「そうじゃのう……」

と、言って、長は暫くひらひら飛んでいるアマテラスの使いを見つめ、

「その様な事を本当にさせるつもりなのか?」

と、ぽつりと呟く様に尋ねたので、

「長殿? 何を話したんだ?」

と、不思議に思ったケレスが聞くと、

「……ふむ。青龍の怒りを鎮めるには、その娘の力が必要じゃと言っておる

と、長は言い難そうに答え、

「姉ちゃんの力?」

と、言って、首を傾げたケレスだったがある事を思い出した。

(そう言えば、姉ちゃん……。

 スレープニル様が祟り神になりかけた時、不思議な光でそれを防いだ……。

 まさか、あれが鎮静の力なのか⁉)

 そして、

「長殿。姉ちゃんは鎮静の力も使えるのか?」

と、ケレスが聞くと、

「そうじゃな」

と、長はすんなり答え、

「やっぱり……」

と、言ったケレスは俯いてしまい、

(また、姉ちゃんに助けてもらう事になる……。それしか方法はないのか?)

と、唇を噛みしめながら考えたが、他に考えは浮かばなかった。

 すると、

「なあ、ケレス。姉貴なら出来るのか? 青龍の怒りを鎮める事がよ?」

と、ジャップにそう聞かれ、

「……そうみたいだ」

と、ケレスが俯いたまま答えると、

「でも、今の姉貴にそれを頼むっていうのは酷じゃねえか? 他に頼める奴はいねえのか?」

と、またジャップから聞かれたが、

「俺も考えてる。けど、わからない……」

と、ケレスが眉を顰め答えると、

「わからないって……。じゃあ、アルト。何かいい考えはないか?」

と、ジャップはアルトに聞いたが、

「僕にもわからないよ」

と、アルトは考える間もなく答え、

「ああーー‼ どうすりゃいいんだ?」

と、言ったジャップは頭を抱え、ケレス達が何も出来ずにいると、

「方法は一つだ」

と、言ったイェンがケレス達の前に現れた。

「イェンさん⁉ 良かった! 無事だったんですね!」

 そのイェンを見たケレスがそう言うと、頷いたイェンはラニーニャの傍で跪き

「喜蝶。しっかりするんだ」

と、声を掛けたが、ラニーニャはイェンに気付かない程泣いていた。

(姉ちゃん……。イェンさんの声が聴こえてないみたいだ……)

 その光景でケレスが心を痛めたが、

「喜蝶‼ 泣くのはやめろ‼」

と、イェンは怒鳴り、その声でビクっとしたラニーニャが顔を上げると、

イェンとラニーニャの視線がぶつかった。

 それから二人は暫く無言で見つめ合っていたが、

「喜蝶……。今、大変な事になっている。

 青龍が怒りで我を忘れ、水鏡の国を海の底へ鎮め様としているんだ」

と、イェンが静かに今起きている事を伝えると、ラニーニャは小さく頷き、

「このままでは多くの人が死ぬ。わかるな?」

と、イェンが続けると、ラニーニャはまたぽろぽろと涙を流してしまったが、

「泣いている場合じゃない‼ お前にしか救えないんだ‼」

と、イェンが語気を強め言うと、ラニーニャは首を横に振ってさらに多くの涙を流した。

 だが、

「喜蝶。これはお前にしか出来ないんだ……。

 泣いてばかりでは何も救えない。

 ここにはお前の大切な人達がいる。その人達を失ってもいいのか?」

と、それでもイェンが厳しい言葉を続けると、ラニーニャは大きく首を横に振り、

「だったら、やるんだ! お前なら出来る!

 これは、お前にしか出来ないんだ……」

と、言ったイェンがラニーニャを抱き寄せると、ラニーニャはイェンの胸の中で小さく頷き、

「よし、頼む。俺も傍にいる。

 お前を支えるから、皆を救ってくれ」

と、ラニーニャを離したイェンが優しくラニーニャを見つめ言うと、

涙を拭いて笑ったラニーニャは頷いた。

 そして、瞳を閉じたラニーニャが自らの顔の前で手を組み何かを念じると、

ラニーニャの体から淡い青色の光が溢れだしてきた。

(この光……。スレイプニル様の時と同じだ⁉)

 その光を見たケレスがそれを思い出すとその光はどんどん強さを増しながら広がり、

ケレス達がいる庭を全て覆うまでに広がっていった。

「これが鎮静の力なのか?」

 そして、その光の絨毯を見渡しながらケレスがそう聞くと、

「そぉーうじゃ! 小童、その目にしかと焼き付けよ!

 これからあの娘が起こす奇跡をの!」

と、長が答えると同時に徐に瞳を開けたラニーニャは空を見上げ、

両掌を上に向けてその場の光全てを空へと捧げる様にした。

 すると、その光は一気に空へと舞い上がり一本の柱を作り、赤黒い雲へ到達した。

 それからラニーニャが捧げた光の柱が赤黒い雲を貫くとケレス達の上空に一点の光の穴を開け、

雷は鳴りやみ、稲叢島に静けさが訪れた。

 さらにその光の穴から太陽の光がケレス達に降り注がれ光の穴がさらに広がりを見せると、

全ての赤黒い雲は消え去り、以前見た穏やかで神秘的な世界樹がある中庭の景色となった。

 そして、それを見届けたアマテラスの使いは太陽の光に向け、ひらひらと飛んで行った。

「こんなに良い天気だったんだ……」

 その太陽の光の眩しさに目を細めたケレスがそう言うと、

「そうじゃの。良い天気じゃ……」

と、言った長も目を細め、

「姉貴。こんな事も出来たんだ……」

と、目を細めたジャップが空を見上げ言うと、

「……さすが、先輩。青龍様の怒りを鎮めてくれた」

と、空を見上げながら言ったアルトは頷いいて微笑んだが、

「喜蝶⁉ どうした‼」

と、イェンの叫び声が穏やかな景色を壊した。

「えっ⁉ イェンさん?」

 そう、ケレスがイェンを見るとイェンの腕の中でラニーニャがぐったりとしていたのだ。

「姉ちゃん⁉ どうしたんだ‼」

 そして、そう叫んだケレスが慌ててラニーニャに近づくと、

ラニーニャは息苦しそうにしており、ケレス達の声に全く反応しなかった。

「お、おい⁉ 姉貴‼

 どうしちまったんだ⁉ 目を開けてくれ‼」

 そのラニーニャの様子に青褪めたジャップが叫ぶと、

「……もしかして、マナの枯渇?」

と、アルトは、ぽつりと呟き、

「マナの枯渇⁉ 何だそれ?」

と、言ったジャップがアルトを見ると、

「先輩のマナが無くなったんだ」

と、言ったアルトの顔が険しくなっていたので、

「マナが無くなる⁉ どういう意味だ?」

と、ジャップが語気を強め聞くと、

「そのままの意味だよ」

と、感情なくアルトは答え、

「はっきり言え‼ 姉貴はどうなるんだ?」

と、アルトに掴みかかったジャップが声を荒げて聞くと、

「……このままじゃ、先輩は死ぬ」

と、ふるえながらアルトは変えられないラニーニャの未来を答えた。

「何言ってんだ⁉ 冗談よせよアルト‼」

 そんなアルトに怒鳴ったジャップが強く掴みかかると、

「冗談でそんな事を言う訳ないだろ‼」

と、ジャップを突き飛ばしながらアルトは怒鳴り、

「じゃ、じゃあ、助けてくれよアルト! お前は治癒術を使えるんだろ?」

と、そのアルトにジャップは縋る様に言ったが、

「治癒術じゃ、マナの枯渇を治せないんだ……」

と、首を横に振って言ったアルトは泣き崩れ、

「泣いている場合か‼ 他に方法は?」

と、またアルトに掴みかかったジャップが声を荒げて聞いたが、アルトは泣いたままだった。

「ああーーっ‼ そ、そうだ! ベコ!

 お前なら出来るんじゃないか? 俺を助けてくれた時の様に‼」

 すると、ジャップはベコに縋ったが、

「ゥモゥ……」

と、ベコは悲しそうに鳴くだけだったので、

「どうしてだ⁉ 何でだ‼ 誰か、姉貴を助けてくれ‼」

と、狂乱したジャップが叫ぶと、

「もう、やめぬか」

と、冷たい声がジャップを黙らせた。

 その声の主は うさ爺で、その後ろにはアルトの婆やがいた。

「うさ爺⁉」

 その うさ爺の顔は何か思いつめており、ケレスが言葉を失うと、

「……チビを返してくれ」

と、イェンの傍まで来た うさ爺が言ったが、イェンがラニーニャを抱きしめて拒むと、

「お前さん達、満足であろう?

 チビを利用し、この国を救えて……のぉ?

と、冷たく言った鬼の形相の うさ爺は目を見開き、ギロリとケレス達を見渡した。

「利用だって⁉ 俺達はそんなつもりはねえぞ‼」

 そして、ジャップが否定しても、

「結果的にそうなった。お前さん達のエゴで、チビを死に追いやったんじゃ‼」

と、鬼の形相のままの うさ爺から怒鳴なれると、誰も何も言えなくなり、

「……もう、そっとしておいてはくれぬか? これ以上、チビを苦しめないでほしいんじゃ……。

 このまま、静かに逝かせてはくれぬか?」

と、言った うさ爺の顔は悲しみに満ちたものへと変わり、一粒の涙を流した。

「……なあ、長殿。アマテラス様の使いが伝えたかった意志って、これだったのか?

 姉ちゃんが命を落としてまでも、この国を救う事だったのか?」

 それから静けさの中、ふるえた声のケレスが長にそう聞くと、

「……そうじゃな」

と、長は静けさを壊さぬ様に答え、

「長殿……。アマテラス様の使いと話した時、こうなるってわかってたのか?」

と、ケレスも静けさを壊さぬ様に聞くと長は沈黙し、答えず、静けさは続いた。

「何だよ、それ……? 何が一番偉い神様だ?

 人一人の命より、多くの人の命の方が大事なのか‼ そうする事が世界を良い方へ導く事なのか‼

 ふざけるな‼」

 だが、ケレスはその静けさを壊す程、声を荒げて泣き叫んだ。

 心の奥底にある気持ちを一気に吐き出したのだ。

 それでもケレスの中でアマテラスの、いや世界への憎しみは消えなかった。

 すると、

「……冗談じゃねぇ。そんな馬鹿な事が罷り通っていい訳ねえだろうが‼」

と、ジャップも憎しみを込め怒鳴ったが、バシッ!とアルトの頭にアルトの婆やが扇子を叩きつけ、

何故かケレスの額にもそれが音を立てぶつかった。

「い、痛っ⁉ 婆や‼ 何するんだ⁉」

 そして、額を抑えながらアルトが怒鳴ると、

「何をなさっておるのですか! 泣いている暇があればやるべき事をおやりなさい‼」

と、目尻が釣り上がっているアルトの婆やは怒鳴り返したが、

「もう、何も手は打てないんだ……」

と、涙が止まらないアルトが言うと、

「……本当にそうでしょうか?」

と、アルトの婆やはアルトを真直ぐ見つめ問うた。

「……ダーナの供与なら⁉」

 すると、はっとしたアルトは希望を呟き、

「ダーナの供与だって⁉ それで姉ちゃんは助かるのか?」

と、その希望にケレスが縋る様に聞くと、

「ああ。助かる。だけど……」

と、答えたアルトだったが言葉を詰まらせ俯いてしまい、

「何だよ‼ じゃあ、ダーナの人に頼めばいいだけじゃないか‼」

と、それに気付かないジャップは希望に喜びを爆発させて叫んだが、

「……ジャップ、それは叶わないよ。誰もその力を使ってくれないのだから」

と、ふるえた声のアルトの言葉はその希望を一瞬で打ち砕いた。

「どうしてだ⁉ 姉貴はダーナだろ?

 何かの間違いで昴を追い出されたけど、今スゲエ力を使って青龍の怒りを鎮めたじゃねえか‼

 この島を救ったじゃねえか!

 きっと、誰か一人ぐらいは姉貴を救ってくれるに決まってる‼」

 それでもそう言ったジャップが、まだ希望を捨てきれずにいると、

「無駄じゃ。あ奴等はその様には思っておらぬ」

と、言って、うさ爺はその希望を捨てさせ様としたが、

「そんな訳ねえ‼ 俺はダーナの人の所に行く‼ 姉貴を助けてもらうんだ‼」

と、あきらめきれないジャップは叫んで何処かへ走って行こうとしたので、

「兄貴⁉ 何処に行くんだ?」

と、ケレスが聞くと、

「昴に決まってんだろ‼」

と、ジャップは怒鳴って答えたが、

「昴の位置が何処かわかってんのか?」

と、ジャップを落ち着かせる様にケレスが聞くと、

「そ、それは……」

と、言ったジャップの足は止まり、眉を顰めて頭をグシャグシャッと掻いた。

 だが、

「私が御案内いたします!」

と、ジャップの足をまた前に進めさせるアルトの婆やの言葉が飛んで来た。

「アルトの婆やさん⁉ 頼む!」

 すると、ジャップの顔は一瞬で晴れ、

「こちらです!」

と、言ったアルトの婆やは案内を始め、ケレスもそれに続こうとしたが、

アルトは呆然となっており、動かなかった。

「アルト、何してんだ? 行くぞ」

 そのアルトに眉を顰めたケレスは声を掛けたが、 

「ケレス……」

と、呟いたアルトが俯いたままだったので、

「……お前、あの時、姉ちゃんを守るって言ったよな?

 今ここで立ち止まってるって事は、あれは半端な決心だったんだな‼」

と、怒りが溢れてきたケレスが怒鳴りつけると、

「そんな訳ないだろ‼」

と、顔を上げたアルトはケレスの目を真直ぐ見つめ、大きな声で言ったので、

「じゃあ、行くぞ!」

と、ケレスが視線を外さずに言うと、

「わかってる! 君に言われなくてもね!」

と、言ったアルトはすくっと立ち上がった。

「イェンさん。俺達必ずダーナの人を連れてきます。姉ちゃんを助けてもらう為に。

 それまで姉ちゃんの傍にいてあげてください!」

 それから視線をイェンに移したケレスがそう言うと、

「……わかった。頼む!」

と、ケレスを真直ぐ見つめ言ったイェンは頷き、

「それと、たぬてぃ。お前も姉ちゃんの傍にいてやってくれ」

と、ケレスが言うと、たぬてぃは返事をする様に尻尾をパッシッとケレスの顔に当て、

ラニーニャの傍へと浮遊していった。

 そして、ケレスは最後に残された希望を掴む為、アルトの婆や達を追い掛けた。

 ケレス君、ラニーニャちゃんに会えたけど大変な事になっちゃったね……。

 でも、くよくよしない君が私は好きだ!

 特にアルト君に言ったあの言葉とか……。

 ぅうん⁉

 その前に、どうして毎回毎回アルト君の婆やさんの扇子が飛んで来るのかって?

 今回はぶつけられる筋合いはないじゃないかって?

 ……。

 ……そんな事は本人に聞いてくださいな♪

 そんなアルト君の婆やさんとの旅が始まるよん。

 次話【ケレス、たった一つだけ残された希望を掴む為、龍宮家へ乗り込む】でね!

 と言う事は目的地は龍宮家なんだね。

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