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№ 40 ケレス、豪雨の中で行われた交渉で兄とその友の友情を知る

 豪雨の中 姿を現したのは洲之だった。

 そんな洲之はラニーニャを殺そうとするだけでなく、アルトを愚弄する言葉を投げつける。

 そして、それに激怒したジャップが洲之に、そしてアルトに投げ掛けた言葉とは……。

「あーーら♡ やっと、わかったの、か、し、ら? お坊ちゃん?」

 聞きたくなかった声の持ち主。

 それは、洲之だった。

 洲之はそう言って せせら笑いながら何処からともなく蛇腹傘をさして現れたのだ。

「洲之のおばさん‼ 何でいるんだ?」

 その洲之にケレスが怒鳴りつけると、

「はあぁ? 私がこのお坊ちゃんを屋敷牢から出してあげたのよ?

 感謝していただける?

 それにねぇ……、いい加減に覚えてくれる、か、し、ら?

 私は二四歳よ‼ おばさんじゃあないってーーの‼」

と、洲之は怒鳴り返したが、

「何が目当てなんだ?」

と、それを気にせずにケレスが聞くと、

「ふん。今度は無視なぁの? まあ、いい、け、どぉ?」

と、洲之は口を尖らせて言ったが、

「言ったでしょ? 世界が望む姿を見せてあげるって♡」

と、不敵な笑みをうかべ、答えたので、

「姉ちゃんを殺す事がそうだって言いたいのか⁉」

と、その笑顔にたじろんだケレスが怒鳴ると、

「あーーらぁ。ク、ソ、ガ、キ、のくせに、わかってるじゃあな、あ、い♡」

と、言った洲之は蛇の目傘を一度、くるりと回し水滴の渦を作った後、

「そこの落ちこぼれお坊ちゃんにもわからせてあげようとしてるのよ?

 ああーーん、もう! 私ったら、何て優しいのか、し、ら?」

と、しっかりと蛇の目傘の柄を持ちながら嬉しそうに言ったので、

(このおばさん……。話にならない!)

と、その洲之の態度に引いたケレスの表情は強張ってしまった。

 だが、

「……おい、おばさん。いい加減にしろや」

と、同じく引いている険しい顔のジャップから静かに話に入られ、

「あーーら? お馬鹿な兄弟そろって同じ事言うのねぇ?

 私はおばさんじゃないし、あの女は死ななきゃいけないの……。

 わかんないかなぁ?」

と、冷酷な顔の洲之は静かに言ったが、

「馬鹿はお前だ。二つ共間違ってるし、アルトは落ちこぼれなんかじゃねえんだ」

と、低い声で言ったジャップから嫌悪感に溢れた顔で睨みつけられると、

「はあぁ? なぁーーにそれ。ウケるんです、け、ど?

 まあ、あなたの目が節穴で大人の私の魅力がわからないのと、

あの女に騙されているのは仕方がないとして……。

 どぉーして他人のあなたがそこの落ちこぼれお坊ちゃんをかばうのか、し、ら?」

と、そのジャップに洲之は意地悪く笑いながら言ったが、

「アルトは他人じゃねえんだよ! 俺の大事なダチだ‼」

と、ジャップは雨音を打ち消す程の大声で怒鳴った。

 そして、

「それにアルトは天才さ。

 おばさんの目が節穴なんだよ! だから、何にも見えねえんだ!

 おばさんさあ……、その自分の顔を見た事あんのか? スゲエ、嫌な顔してんぞ?

 今度俺が鏡をやるよ! それで一度ぐらい自分の顔を見るこったな!」

と、ジャップが陽気に笑いながら続けると、洲之はふるふると小刻みにふるえ出し、

「何よ……。ほぉーーんと、何も知らない馬鹿共め……」

と、小刻みにふるえながら洲之は呟き、

「あんた達みたいな大馬鹿共に見せてやるんだからぁ‼

 どう足掻いたってあの災い女が死ぬって事を‼

 そこで大人しく見てなさい‼

 世界が望む姿をねっ‼」

と、雨の音をかき消す程の大声で怒鳴ると、

「洲之殿? どうなされたのですか?」

と、言いながらイヴが姿を見せた。

「あーーら、イヴ、さ、ま? この者達が我々の邪魔をしようとしてるんでぇすぅ!

 何とかしてくださいなぁ♡」

 すると、急に態度を変えた洲之は目を輝かせ、甘えた声を出し、

「アルト? それに、貴殿達……。どうしてここに?」

と、言ったイヴは驚きを隠せなかったが、

「姉上‼ 目を覚ましてください‼

 僕達水鏡の国の者は、ダーナを守らなきゃいけないはずです‼

 それなのに、ダーナである先輩を傷付けるなんて間違ってる‼

 それに先輩は……」

と、そのイヴにアルトは必死に訴えたが、

「アルト……。わかってください。

 私達が一番守らなくてはならないものが何なのかを」

と、表情を引き締めたイヴがアルトの言葉を遮る様に静かに言うと、

「さぁーーすがぁ! イヴ様♡

 そうですとも! 我々が一番守らなきゃいけないのは花梨様でぇーーすよね?」

と、声高高に言った洲之が続き、

「そうです。アルト、あなたも龍宮一族ならわかりますよね?」

と、イヴは静かな声で重ねたが、

「わかりません‼

 先輩が誰であろうと、僕は先輩を守ります‼

 それに姉上、姉上も本当はわかってるはずです!

 何を犠牲にしても先輩を守らなきゃいけないって事を‼

 決して傷付けてはいけないって事が‼」

と、それに怯まずアルトが語気を強め言うと、イヴは少しだけ怯んだ。

 だが、

「……イヴ様? 花梨様、今頃イヴ様の助けを待ってますよ?

 花梨様、イヴ様が大好きですもんねぇ……。

 寂しがってます、きっと……。

 大好きなイヴ様に会いたがってるはずです……。

 イヴ様……。花梨様、早く助けてあげなきゃ、殺されちゃいますよ?

 イヴ様、あの女なんかに罪悪感なんて持たないで。全てはあの女が悪いだけなんですから。

 あの女のせいで花梨様が怖い目に合ってるんですよ?

 早くイヴ様が助けてあげなくてはいけないのでは?」

と、それを見た洲之が冷酷な目で静かに言うと、

「そうだ……」

と、邪念を振り払う様に首を横に振ったイヴが呟いたので、

姉上⁉」

と、動揺したアルトが叫ぶと

「ギャオーーーーーーーース‼」

と、雨の音をかき消す獣の鳴き声が轟いた。

 そして、その泣き声の持ち主は、雷雲に映るフレースヴェルグだった。

「あれは、フレースヴェルグ⁉」

 そのフレースヴェルグを見たケレスが叫ぶとフレースヴェルグは高い空から舞い下り、

その上には、勿論あの根の一族の女が乗っていた。

「……どういうつもり?」

 それから根の一族の女が恐ろしい形相でそう言うと、

「話す事は一つ。花梨様と高杉殿を無事に返して頂きたい」

と、根の一族の女を睨みつけながらイヴは要求し、

「無事に、ですって? 私の大事な喜蝶に酷い事しておいて……、よくそんな事言えるわね?」

と、体をふるわせている根の女がイヴを睨み返しながら言うと、

「話している暇ないんじゃな、あ、い? 喜蝶、あと、どれぐらいもつのか、し、ら、ねぇ?」

と、洲之から茶化され、

「貴様ぁ‼」

と、怒鳴った根の一族の女は鬼の形相で洲之を睨みつけたが、

「花梨様と高杉殿を無事に解放すれば、この者を解放すると約束しよう」

と、静かに言ったイヴが間に入ると、

「わかった……。すぐにそうする。

 ただし、約束は守れ!」

と、言い残し、根の一族の女はフレースヴェルグと共にこの場を去って行ったが、

根の一族の女が去ると、地響きがする様な雷鳴が轟き始めた。

(何だろう……。この感じ。どこかで感じた気がする……)

 その胸騒ぎがする雷鳴にケレスが身震いすると、

「姉上‼ 交渉なんかしないで‼ 先輩を解放して僕達で守らなくてはいけないんです‼」

と、アルトはまた必死に訴えたが、

「イヴ様。アルトお坊ちゃん、このままじゃ我々の邪魔をしますよ?

 この人達と……」

と、洲之に言われ、イヴが少し迷いを見せると、

「花梨様を助けたいのならば、イヴ様。正しい御決断を……♡」

と、言った洲之は不敵に笑い、イヴに決断を求めた。

 すると、

「……そうだな」

と、言って、苦しそうな表情のイヴはアルトを見つめ、

「アルト……、すみません。

 そこで、その方達と大人しくしていてください」

と、残酷な決断を下し、

「あ、姉上⁉ やめてください‼」

と、叫んだアルトはケレス達ごと水の泡の中に閉じ込められてしまった。

「これは、イヴさんの水の盾⁉」

 そして、その冬夏青々に気付いたケレスがそう叫ぶと、

「そうじゃな……。儂等を閉じ込め、あ奴等の目的を達成させるつもりじゃろうて」

と、長の静かな怒りにふるえる声が聞こえ、

「目的って……。姉ちゃん達を殺す事か⁉

 嫌だ‼ そんなの駄目だ‼ 何とかしなきゃ‼」

と、ケレスは怒鳴りながら冬夏青々をドンドンと叩いたがビクともせず、

「イヴさん、お願いします‼ 姉ちゃんを助けて‼」

と、その意味がわかっていてもケレスがそう嘆願すると、

「申し訳ありません……。私には、何を犠牲にしても守らなくてはならないものがあるのです」

と、静かに言ったイヴから真直ぐ見つめられ、

「イヴ様。お辛いでしょうが立派な決断ですわん♡」

と、洲之は満足そうに言った後、

「では、私はこれで……。じゃあね。ク、ソ、ガ、キ、ど、も♡」

と言い残し、蛇の目傘をくるくる回しながら何処かへ行き、その後、イヴもケレス達から離れて行き、

ケレス達はイヴが作り出した冬夏青々の中に取り残されてしまった。

 それからケレスがその冬夏青々の中でどうする事も出来ずにいると、

「……なあ、アルト。お前なら出来る。

 この水の盾とやらを壊す事がさ」

と、低い声で言ったジャップはアルトを真直ぐ見つめ

「無理だって。姉上の冬夏青々は、誰にも壊せない。

 それに、僕には水の矛を作る事なんて出来っこない」

と、俯いているアルトが言うと、

「どうしてだ?俺はお前の姉さんに出来て、お前が出来ねえとは思えねえ。

 それに、この水の盾とやらはお前の姉さんの心なんだよな?」

と、一つ息を吐いたジャップが聞くと、

「そうだよ」

と、アルトは俯いたまま答えたが、

「だったら! 猶更だろうが‼」

と、ジャップはアルトの頭をグシャグシャにしながら怒鳴った。

「何すんだ! 君の励ましなんて無意味だよ‼」

 すると、眉間にしわが寄っているアルトは顔を上げて怒鳴り返したが、

「お前の姉さんの心には迷いがある。

 だが、お前はどうだ? 姉貴を守る、助けたいって事に迷いはあんのか?」

と、アルトの怒鳴りを無視したジャップが聞くと、

「……そんなものは、ないよ」

と、はっとしたアルトは自身の髪を整えながら答え、

「おっしっ! さすがアルトだ!」

と、叫んだジャップが、パンっと大きく手を叩いて喜びを爆発させると、

「君は、気が早いね。僕は水の矛を使えた事は一度もないっていうのに」

と、冷ややかな目でジャップを見つめているアルトから冷静に言われたが、

「でも、アルトなら出来る! 俺には、わかる!」

と、自信満々にジャップが言うと、

「はぁ……。君って奴は……!」

と、言って、薄っすら笑顔が見えるアルトは静かに瞳を閉じた。

「アルト? 何やってんだ?」

 そして、そのアルトの様子にジャップが首を傾げると、

「静かにせぬか‼ 今、青色童は精神統一しておる。邪魔するでないわ‼」

と、長がケレスの頭の上でピョンピョン飛び跳ねながら大声を出し、

「だあぁぁ⁉ 俺は何も言ってないのに‼」

と、巻き添えを食ったケレスが頭を押さえながら言うと、

「精神統一? それで水の矛とやらが出来んのか?」

と、そのケレスが目に入らないジャップから聞かれ、

「そうじゃ! 赤色戦士の一点集中もそうであろう?

 己のマナを一点に集めるのに随分と集中すると聞くが?」

と、ケレスを気にせずに答えた長は聞いたが、

「そうか? 俺のはそんな考えてするもんじゃねえしな……」

と、答えたジャップは首を傾げたので、

「んなぁっ⁉」

と、ジャップの拍子抜けすぎる答えに長が言葉を失うと、

「長殿。兄貴には野生的な何かがあって、多分、難しい事は考えてないと思う……」

と、ケレスは説明した。

「そうだ!」

 すると、そのケレスの説明にジャップは胸を張り、

「じゃろうな……」

と、言った長は溜息を漏らしたが、

「うぅっんっ! 良いか?

 普通はああいう特別な技をする時はの、かなりの精神統一が必要とされるのじゃ。

 特に、水の盾と矛は明鏡止水の心が必要とされると聞く」

と、落ち付いて説明すると、

「明鏡止水? 何か難しそうだな……。俺なんか、だっーー!として、バーーン!なんだけどな!」

と、楽し気にジャップが言ったので、

(兄貴……。俺だって、時読みに結構神経使うのに……)

と、そのジャップに引いてしまったケレスの左口角がピクピク動き出すと、

「ギャオーーーーオォーース‼」

と、雷鳴をも打ち消す叫び声と共にフレースヴェルグが上空に現れた。


 ケレス君!

 大変な事になっちゃてるけど、ジャップ君とアルト君の熱き友情って、いいね!

 これからも彼等はこんな感じの関係が続くのかしらね?

 いーな いーな♪

 ぅんん? そんな事を言ってる場合じゃないって……?

 ……あ~ぁ。そんなさ、いい雰囲気をさぁ……。

 そういう事を言うから、君は今回、さっぱり活躍しなかったんじゃないのかね?

 ふーんっだ!

 そんなんだから、君は次でも大して活躍しないんだよぉーーっだ! んべぇーーっだ!

 んで、そんな次話のタイトルは、

【ケレス、虎踞竜蟠の盾を破る慧可断臂の意の矢を目撃する】なのだ☆

 えっ⁉ 何て読むのかって?

 そして、意味はって?

 ……次回までに調べておくんだ、ケレス君!

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