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№ 38 ケレス、大切な家族を取り戻す命を懸けた旅へ出立する

 ラニーニャを助ける為、走っていたケレスはジャップ達に追い着く

 すると、アルトの婆やが海に向かい命じ、その海から浦島に似た亀の霊獣が出て来るのだが……。

 ケレスが追い付くと、アルトの婆やとジャップは浜辺にいた。

「で、これからどうすんだ?」

 そして、アルトの婆やにケレスが尋ねると、

「乙姫。出てきなさい」

と、アルトの婆やが海に向かい言うと、海面から何かが浮き上がってきた。

「こ、これは……、浦島⁉」

 その浮き上がって来たものを見てケレスはそう言ったが、違う事に気付いた。

 何故なら、それは赤色の亀だったからである。

 その亀の甲羅は浦島と同じ深みのある茶色だが、その他は浦島の青白い色とは違い、赤色だった。

「このコって、浦島と同じですか?」

 その赤い亀を見たケレスが尋ねると、

「そうですわ。寿族ですの」

と、頷いたアルトの婆やは答え、

「亀の霊獣のコトブキ族か……。

 何か長生きしそう!」

と、感心したケレスが息を吐いてそう言うと、

「乙姫。お願いします」

と、乙姫に目を転がしたアルトの婆やは言った。

 すると、乙姫はケレス達を乗せれるぐらい大きくなり、

「さあ、皆様。お乗りください」

と、アルトの婆やに言われケレスは乙姫に乗り込もうとしたが、

ケレスに付いて来ていた たぬてぃはその場で下を向いたまま、動こうとはしなかった。

「たぬてぃ……」

  そんなたぬてぃにケレスは心を痛めたが、

「行くぞ、たぬてぃ。姉貴の所へ!」

と、ジャップが笑顔で声を掛けると、たぬてぃは、はっと顔を上げ、

「早く来いよ、たぬてぃ!」

と、言って、笑顔のケレスが左肩を自身でポンポンと叩くと、

たぬてぃは勢いよくケレスの左肩に飛び乗り、ケレスに鼻息をフンッと掛けた。

「よし! 行くぞ! 姉ちゃんを助けに‼」

 そして、そう言ったケレスは、たぬてぃと共に乗り心地の良い乙姫に乗り込み、

その乙姫に乗って沖へ向かうと、見覚えのあるプレジャーボートがあった。

「あれって、アルトのか?」

 それを見たケレスがそう言うと、

「そうです。あなた様方が乗って行った物ですわ」

と、言ったアルトの婆やは頷き、

「皆様。プレジャーボートにお乗りくださいませ」

と、言ったので、ケレス達はプレジャーボートへと乗り換える事となった。

「乙姫。お願いします」

 それからケレス達全員がプレジャーボートに乗り込むと、

アルトの婆やの号令でプレジャーボートは軽快に動き出した。

「やっぱり、乙姫が動かしてるんですか?」

 そして、プレジャーボートの動きにケレスがそう尋ねると、

「そうですわ。乙姫と私のマナの力が主な動力源になっております」

と、頷いたアルトの婆やは答え、

「どうか、イヴ様の非礼を、お許しください」

と、言って、深々と頭を下げた。

 その行為にケレスは少し沈黙し、考えた。

 本当は、イヴを、水鏡の国を、そして、昴を責めたかった。

 だが、ケレスは考えた。

 今、何をするべきかを。

「あの……。俺が龍宮家を抜け出してからの事を教えてもらえますか?」

 そして、ぐっと耐えたケレスがそう尋ねるとアルトの婆やは頷き、

ケレスが抜け出してからの事を話しだした。

 ケレスが龍宮家に囚われていた時、龍宮家ではある話し合いが行われていた。

 その話し合いとは、勿論、花梨をどうやって奪還するのかという事だった。

「私は、アルトお坊ちゃまとその話し合いに参加しておりました。

 ですが話し合い等大して行われず、

昴の方々はあの御方諸共、根の一族の者を殺す事を決定事項としました。

 そして、我が水鏡の者は、私とアルトお坊ちゃまを除いて賛成しました」

 アルトの婆やがここまで話した時、

「アルトは、反対してたんですね?」

と、ケレスが確認すると、

「アルトお坊ちゃまは、ずっと反対されておりました。

 間違っていると言い続けたのですが、その意志は誰にも通じませんでした。

 そして、アルトお坊ちゃまは座敷牢に閉じ込められてしまったのです」

と、眉を顰めたアルトの婆やはふるえた声で恐ろしい現実を話した。

「アルトが座敷牢に閉じ込められたって⁉ どうかしてる‼」

 そして、その事実を知ったジャップがそう言って全身で怒りを露わにすると、

「そうですね……。私はどうする事も出来ませんでした。

 ですが、アルトお坊ちゃまは私にあの御方の命運を託されたのです」

と、言ったアルトの婆やの顔は厳しいものに変わり、

「姉ちゃんの命運……」

と、息を飲んだケレスがぽつりと言うと、

「そうです。

 私は、まずあなた様を助け様としたのですが、あなた様は既にいなくなっておられまして……」

と、言ったアルトの婆やがケレスに目を転がしたので、

「そうなんですけど……。

 俺、龍宮家に閉じ込められてた時アマテラス様の使いに会って、

フェンリル山へ連れて行かれたんだ!」

と、ケレスが事情を話すと、アルトの婆やは驚いた顔をしたので、

「信じてもらえないかもしれないけど、本当なんです!」

と、ケレスが訴えると、

「その様な事があったのですね。無論、信じます。

 あなた様は嘘をつかれないと、アルトお坊ちゃまがおっしゃられてましたので」

と、アルトの婆やは穏やかな顔で言った。

「アルトが人に俺の事なんか話してたとは……」

 すると、その話を聴いたケレスの体はくすぐったくなり頬が赤くなると、

「はい。

 アルトお坊ちゃまはあなた様、それにジャップ様、そして、ラニーニャ様と出会い、

あなた様方の話を良くされておられました」

と、言ったアルトの婆やは目を細め、

「私は、あなた様方に感謝しております。

 あなた様方のおかげで、アルトお坊ちゃまは変わられました。

 孤独から救ってもらえたのです」

と、言って、深々と頭を下げたので、

「ういっ⁉ そんな事、俺したっけ?」

と、大声で言ったケレスの頬がさらに赤くなると、

「そうですね、何から話せば宜しいのか……。

と、言ったアルトの婆やは少し考えた後、

「まず、アルトお坊ちゃまが入れるお茶の味が変わりましたわ。とても美味しくなりました。

 そして、アルトお坊ちゃまが人の気持ちを考える様になったのです。

 最初、私は何があったのかわかり兼ねましたが、あなた様方と出会ってからというもの、

アルトお坊ちゃまは何と言いますか、窮屈な生活の中でも楽しく笑える様になられたのです。

 そして、人の為に何かをする様になられました」

と、話したアルトの婆やの目尻は下がっていた。

「まあ、出会いは最悪なイメージだったけどな……」

 だが、そのアルトの婆やを見たケレスがそう言いながら苦笑いしてしまうと、

「でしょうね。捻くれてましたでしょ?」

と、ほほっと笑った上目遣いのアルトの婆やから言われ、

「あっ……。その……。はい……」

と、申し訳なさげにケレスが言うと、

「そうかぁ? アルトは最初から良い奴だったぞ?」

と、言ったジャップは首を傾げたので、

「でも、アカデミーで会った時は最悪だったんだってば‼」

と、アカデミーでの事を思い出して言ったケレスの語気は強まったが、

「それは、お前がアルトを解ってやれてなかっただけだ。

 そうでなきゃ、アルトはすぐに良い奴なんかになれねえよ!」

と、陽気に言ったジャップから否定され、

「だから、兄貴はすぐに人を信じすぎなだけだ‼」

と、わからずやのジャップにケレスが怒鳴ると、

「まあまあ! 今はアルトの婆やさんの話を最後まで聴こうや!」

と、ジャップはケレスの頭をグシャグシャにしながら言ったので、

「だあぁぁ! やめろって! 何度言えばわかるんだ‼」

「こおーーーれ! 儂がおると何度言えばわかるのじゃぁ‼」

と、ケレスと長から同時に怒鳴なれた。

「ははっ。すまん……」

 すると、ケレス達の勢いに苦笑いをしたジャップは一言謝り、

「アルトの婆やさん。アルトの話もいいが、龍宮家で今、何が行われようとしてんのか話してくれ」

と、静かに言うと、

「そうでしたわね……」

と、アルトの婆やは言って、続きを話し出した。

 アルトの婆やによるとケレスが龍宮家から消えた後、大捜索が行われた。

 しかし、誰も見つける事は出来なかったのである。

 そして、

「不運な事に、ヤン様とハーゼ様は龍宮の者に幽閉されてしまわれました」

と、アルトの婆やから衝撃の事実を告げられ、

「えっ⁉ うさ爺とヤンさんが捕まったのか‼」

と、ショックを受けたケレスが大声で言うと、

「はい。アルトお坊ちゃまと同じ屋敷牢に閉じ込められておられます。

 私は何とか逃げ出し、アルトお坊ちゃま達を助ける機会を窺っていたのですが、

イヴ様がお一人で行動を起こされてしまった……。

 ですから、私はイヴ様を付けて来たのです」

と、アルトの婆やは事の成り行きを話した。

「それで、あなたがここにいたんですね……」

 そのアルトの婆やの話でケレスが納得すると、

「はい。本当はイヴ様を止めたかったのですが……。

 イヴ様は意志が固く、しかも、お一人で全ての責を負う気でいられるみたいです」

と、言ったアルトの婆やは悲しそうな顔をしたので、

「どういう意味ですか?」

と、ケレスが尋ねると、

「本来、水鏡の国の者、特に龍宮家はダーナを守る掟があります。

 ですが、今回、それを破る事をしなければなりません」

と、険しい顔のアルトの婆やは答え、

(そうか……。だから、あの時イヴさんはあんなに悲しそうな顔をしたんだ)

と、ケレスの頭に、あの時のイヴの顔をが思い出されると、

「で? アルトの姉さんがその掟とやらを破ってまでしたい事ってのは、花梨様を助ける事か?」

と、険しい顔のジャップは尋ね、

「そうです。イヴ様はそのお立場故、花梨様を命に代えても守らなくてはなりませんから」

と、アルトの婆やは険しい顔のまま答えたが、

「ふーーん。立場ねぇ……」

と、ぽつりと呟いたジャップは何かを考えだした。

「兄貴?」

 そのジャップの意味深な顔にケレスが首を傾げると、

「私もどうすれば宜しいのかわかりません。

 ですが、アルトお坊ちゃまがラニーニャ様の命運を私に託されました。

 私はその期待に答えたい……。

 私は水鏡の国の者ですが、どんな事をしてもラニーニャ様を助けたい……。

 これは、私個人の意志でもあります!

 それには、あなた様方の力が必要なのです!」

と、アルトの婆やは自身の意志を示したので、

「俺、何が出来るかはわからないけど、やります!」

と、言って、ケレスも意志を示すと、

「お願いいたします。ケレス様」

と、頷いたアルトの婆やは言った。

「それはそうと。アルトの姉さんはどうやって花梨様を助ける気だ?」

 すると、何かが吹っ切れた様な顔になったジャップは尋ね、

「それはわかり兼ねます。

 ですが、イヴ様の性格からして、人質交換はイヴ様お一人で龍神の滝で行うと思いますわ」

と、ジャップに目を転がしたアルトの婆やが答えると、

「龍神の滝か……」

と、呟いたケレスは以前、龍神の滝へ行った時の事を思い出し、

(あの時、姉ちゃんはどういう気持ちだったんだろう……。

 それに、昴に行った時も、明石さんを治した時だって……)

と、色々とラニーニャに思いを馳せているケレスの胸が、きゅっと締め付けられると、

「じゃあ、俺達の目的地は龍神の滝だな?」

と、ジャップから確認され、

「ええ。そうなると思われます。

 そこまでは私が命を懸けても、あなた様方お連れいたします!」

と、真剣な眼差しのアルトの婆やから思いを伝えられると、

(命を懸けるか……。

 そうだ! そうじゃなきゃ、絶対に姉ちゃんを助けられない! 俺も覚悟を決めなきゃ‼)

と、ケレスは心に決めた。

 それからケレスとジャップは龍神の滝まで行く時間、同じ部屋で過ごす事となった。

 そこではあまり話さなかったが、

「……なあ、ケレス」

と、不意にジャップから話し掛けられ、ケレスはジャップを見たが、

ジャップはケレスと目を合わそうとはせずに背を向けたままだった。

「何だ、兄貴?」

 そのジャップに違和感を持ったがケレスが返事をすると、

「姉貴はあの時、俺がアルトの姉さんに負けると思ったんだよな……。

 そして、俺を守る為に、ああした……」

と、ジャップは静かに ふるえた声でそう言って悔しさを滲ませたが、

「……そうじゃないと思う」

と、少し考えた後、ケレスはジャップの背を見つめ言った。

「それじゃあ、お前は姉貴がどう思ってたんだと?」

 すると、背を向けたままのジャップにそう聞かれ、

「俺は、姉ちゃんは誰も傷付けてほしくなかったし、誰も傷付いてほしくなかったんだと思う。

 例え、兄貴がイヴさんを傷付けたとしても、姉ちゃんは悲しんだと思う。

 特に、その魔法の手はそういう事で汚してほしくなかったんだと……。

 だから、姉ちゃんはああする事を選んだんだ」

と、ケレスが真直ぐジャップの目があるであろう部分を見つめながらそう答えると、

「ケレス……。そうだ……。そうだよな!」

と、言って、ジャップは自身の頬をパンパンと強く叩き、

「なーーにしてんだ、俺! そんな事もわからんかったとは!」

と、言って振り返り、ケレスと目を合わせて陽気に笑った。

「そうだよ、兄貴! しっかりしてくれ!」

 そして、そのジャップとしっかり目を合わせたケレスが笑いながらそう言うと、

「ありがとな、ケレス! 俺、しっかりする!

 だから、必ず姉貴を取り戻すぞ‼」

と、力強く言ったジャップは頷き、

「勿論!」

と、言ったケレスも大きく頷いて二人で覚悟を決めた。

 それから約一日が過ぎ、覚悟を決めたケレス達は水鏡の国へと辿り着いた。

 ケレス君。

 今回は格好いい特技とかはなかったけど、すんごく良い事言ったね!

 驚いちゃいました!

 これで少しは君も主人公らしく……。

 って、そんな事を言ってる場合じゃないんだ‼

 あわわわっ⁉

 龍神の滝でぇ……。

 こ、この先は次話、【ケレス、孤独だった青年の発した言葉でその苦悩を知る】で!

 でも、その前に【番外編 龍宮 アルトの憂鬱 10】もよろしく!

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