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№ 36 ケレス、知られざる兄の一面を知る

 喋る子猿 ヘイムダルの襲撃から逃げているケレス達はフェンリル山の木々の間を抜けていた。

 だが、そんなケレス達の上空から新たな敵の襲来を知らせる鳴き声が響きわたる。

 果たして、ケレス達は無事にラニーニャを守る事が出来るのであろうか……。

「な、なあ、未来。何処に行くんだ?」

 何処かへ走り続けているヨルの上でケレスが聞くと、

「アルタルフの私のお爺ちゃんの家だ。

 このままの格好じゃ、みんな凍死してしまう!」

と、未来は真直ぐ前だけを見て答え、

「そ、そうだな……。じゃあ、もっとちゃんとした道を行かねえのか?」

と、足場が悪いのでケレスがそう聞くと、

「ケレス。敵は空からも来てんだ。

 空からの攻撃は出来るだけ避けたい」

と、ジャップから静かにその理由を答えられ、

「そうだな……」

と、ケレスがそれ以上何も言えなくなると、誰かがケレスの左手を握ってきた。

「ね、姉ちゃん⁉」

 それは、ラニーニャだった。

「姉ちゃん、どうしたんだよ?」

 そう聞いたケレスがラニーニャの顔を見ると、ラニーニャの顔は青褪めており、

「姉ちゃん、大丈夫だ! 絶対、俺達が守ってやるから!」

と、ケレスは励ましたが、何故かラニーニャは首を横に振ったので、

「どうしたんだよ? 俺達が信用出来ねえのか?」

と、そのラニーニャの態度に違和感を持ったケレスが聞くと、ラニーニャはさらに首を横に振り、

「姉ちゃん‼ みんなで姉ちゃんを助けようとしてんだ‼

 そんな態度すんなよ‼」

と、苛立ったケレスは怒鳴ってしまったが、

「おい。ケレス。やめろ」

と、静かなジャップの声を聞くと、その苛立ちは一瞬で消えた。

「兄貴? でも……」

 そして、落ち着いたケレスがジャップの顔を見て言いかけると、

「今、一番がんばってんのは姉貴だ。

 これ以上、怖がらせんな」

と、ジャップから静かで、低い声で言われ、

「そ、そうだった……」

と、ケレスは大切な事に気付き、ラニーニャを見ると、ラニーニャは今にも泣きそうな顔をしていた。

「姉ちゃん、ごめん。俺、姉ちゃんを助けたい一心で、その……」

 それからそう言ったケレスは申し訳ない気持ちでいっぱいになったが、

ラニーニャは、ゆっくりと首を横に振ってくれ、

「姉貴。俺達を信じてくれ。今は、それしか言えねえんだ」

と、ジャップがラニーニャを見つめて優しく言うと、

「そうだ! お姉さん。私達を信じろ!」

と、言って、未来もラニーニャを励ましたが、

「ピィーーヒョルルル!」

と、ラニーニャを脅かす聞き慣れない鳥の様な鳴き声が響いた。

 すると、何故かケレスの体はどんどん重くなった。

「何だ⁉ 体が重い? 抑えつけられてる?」

 這いつくばりながらもケレスが状況を理解しようとしたが、

「ヒャーーーゴ⁉」

と、叫んだヨルがその場で蹲り、

「ヨ、ヨルちゃん? どうした?」

と、焦った未来も蹲ると、

「いいぞ、カルトップ! そいつらを抑えておくんだ‼」

と、空の方からヘイムダルの嬉しそうな声が聞え、

「なっ⁉ ヘイムダル‼」

と、蹲っているケレスが空を見上げ言うと、

「ピィーヒョルルル!」

と、先程の泣き声がして、その鳴き声の主が正体を現した。

 それは、飛んでいる鳥だった。

 恐らく鷹だろうか。

 体長は、ケレスの前腕程度の長さと、ケレスの右手を拡げたくらいの幅で、

左程大きくない様だったが、翼を広げると一メートルはありそうだった。

 そして、体の色は、上面が灰褐色で下面は白色、

さらに、綺麗な宝石の様な橙色の鋭い眼差しと、湾曲した青色の嘴を持っていた。

「あいつのせいで、俺達、動けないのか⁉」

 その鷹の様な鳥を見て状況を理解したケレスが言うと、

「そうじゃろう。あやつは、霊獣のヴェズルフェルニル族じゃて。

 風を打ち消す一族じゃな」

と、長の声が聞こえ、

「風を打ち消す? どういう技なんだ?」

と、言ったケレスが眉を顰めると、

「ピーーヒョルルル!」

と、鳴きながらヘイムダルを背に乗せたカルトップが空から舞い降り、

「しししっ☆ さぁーーーてっと、喜蝶。行こっか?」

と、ヘイムダルが笑いながら言って、カルトップから降りて来た。

「くそっ⁉ どうなってんだ⁉ 動け‼」

 そして、その場から動けないケレスが悔しがっていると、

「しししっ☆ 無駄だよ。

 そんな事じゃ動ける訳ないじゃん?

 おば~かさんの人の子!」

と、ヘイムダルはケレスを小馬鹿にする様に言いながらラニーニャの所へ近づいて行き、

「さてさて☆ お馬鹿達は放っといて、そろそろ……」

と、言って、嬉しそうにラニーニャに笑い掛けたが、

「こうすればいいんだろ? 長……」

と、言ったジャップから右手でヘームダルは握られた。

「うきき? な、何で君、動けるんだ⁉」

 そのジャップの右手の中でヘイムダルがじたばたしながら言うと、

「そいつは、風を打ち消す一族 ヴェズルフェルニル族。

 じゃあ、風が起こらねえ様にすればいいってこったろ?」

と、静かに言ったジャップが徐々に右手に力を入れると、

「げっ? 気付いたか……」

と、ヘイムダルは観念した様に言ったが、

「どういう事だ? 兄貴?」

と、わからないケレスが聞くと、

「ん? だから、風を打ち消すってのは、起きる風を止めるって事だ。

 つまり、風を起こさない様に動けば、動きを止められる事はなくなるって訳さ。

 そして、俺はそういうのに長けてるから動けて、こいつを捕まえれたって訳ヨ!」

と、ジャップは陽気に答えた。

 すると、

「ほほう……。やはり赤色戦士はやりおるわい!」

と、そのジャップの説明の後、長の感心した声が聞こえ、

「長殿⁉ そうなら、そうと言ってくれよ……」

と、言ったケレスが肩を落とすと、

「とは言っても、小童では、ああも上手くは動けまいよ?

 それに答えを先に言ってしまっては作戦は失敗するじゃろうて!」

と、長がケレスの頭の上でピョンピョン飛び跳ねながらつっこみ、

「だあぁ! 久しぶりだけど、それは、やめてくれ!」

と、ケレスが頭を押さえながら言うと、

「ピィーーヒョルルル?」

と、カルトップが首を左に傾げ、不思議そうにケレス達を見て鳴いた。

「あっ⁉ お前、何をする気だ?」

 そして、動ける様になったケレスがそのカルトップを警戒すると、

「しししっ☆ カルトップ! 僕を助けるんだ‼」

と、ヘイムダルは命令したが、

「ピィーーヒョルルル?」

と、カルトップは、何言ってるの?と言わんばかりに鳴いてさらに首を傾げ、

ヘイムダルを見捨てて何処かへ飛んで行き、

「あぁーーー‼ 何処行くんだぁーーー‼ 僕を見捨てるなぁ‼」

と、ヘイムダルの叫び声が空しく響いたが、カルトップはそのまま戻って来なかった。

「一体、カルトップは何処に行ったんだ? まさか、仲間を連れに⁉」

 それからカルトップを見送ったケレスがそう言うと、

「違うじゃろうて。あやつは少々、頭が弱くての……。

 司令塔がいなくなり、自由になれた事で楽しげに飛んで行ったみたいじゃ」

と、長から静かに言われ、

「そ、そうなんだ……。何か、気の毒だ」

と、言ったケレスが憐れみの目でヘイムダルを見ると、

「しししっ☆ 僕は、あいつを従わせる事が出来るんだよ?

 人の子さぁ、もう、忘れたのかい?

 本当に、お馬鹿さんだね!」

と、言った、余裕な顔をしているヘイムダルは頭に手をやったが、

「あ、あれ? ない? どこ? ギャラルホルン?」

と、言いながら、頭の上を切る様に手を動かし、焦っった様子になった。

 すると、

「これか? 探し物は」

と、言ったジャップが右手人指し指に刺したヘイムダルのトンガリ帽子をクルクル回しており、

「げっ、ギャラルホルン⁉

 いつの間に……⁉」

と、それを見て言ったヘイムダルが意気消沈すると、

「ふむ。さて、子猿よ……。

 貴様の負けじゃ。観念するんじゃな」

と、ケレスの頭の上にいる長から言われたが、

「僕は負けてない! 僕が人の子になんか負けるか‼」

と、ヘイムダルが、じたばたしながら否定すると、

「負けたのじゃ!」

と、長はバッサリと言い捨て、

「子猿よ、何を企んでおるのじゃ? あの娘を何処に連れて行こうとしておる?」

と、静かに聞くと、

「うぅ……。

 いいかい、鼠の爺さん! とりあえず言える事はね、僕達に喜蝶を渡した方が得策って事!

 じゃないと、喜蝶の命はないよ?」

と、ヘイムダルは苦々しくも答え、

(得策? 姉ちゃん、やっぱり昴の奴等に狙われてるんだ⁉)

と、それを聴いたケレスの顔に焦りの色が見え出すと、

「そこに誰かいるのか?」

と、男の声がし、ケレス達がその声の方を見ると、

白髪混じりの中年の男が猟銃をケレス達に向け構えていた。

 しかし、

「あっ、おじさん⁉ どうしてここにいるんだ?」

と、その男性を見て言った未来の表情が晴れたので、

「おじさん? 知り合いか?」

と、ケレスが聞くと、

「今も、アルタルフに住んでる。良く世話になったんだ!」

と、言った未来が頷いた後、嬉しそうにその男性に近づいた。

 すると、その男性は猟銃を下げたので、

「てか、何でそんな物騒な物を持ってんだ?」

と、それを見たケレスが言うと、

「すまない。ここいらに魔物が出現してたものでな」

と、その男性は話したが、

「そうなんだよ! フェンリル山の方はもっといて、大変だったんだ……」

と、陽気に言いながらジャップは未来を押しのけその男に近づき、

いきなり後ろからはがい締めにし、地面に抑えつけ、

「……で? 誰に頼まれたんだ?」

と、低い声で聞いた。

 そして、ミシミシと鈍い音が聞える中、

ジャップの表情はケレスが見た事もない恐ろしいものへと変わっていった。

 そう、人殺しをいとも簡単に成し遂げる恐ろしいものへと。

「あ、兄貴⁉ 何するんだ⁉」

 そのジャップの表情に慌てたケレスが叫ぶと、

「お前……。その懐に入れてるやつ、誰にもらった? 言えよ」

と、ケレスを無視し、ジャップはその男性の頸部を締め付けながら聞いたが、

「な、何の事だ? 俺は、知らん‼」

と、苦しそうにその男性が答えると、

「そいつは、一般人が持てる代物じゃねえ。対人用の、極めて殺傷能力の低い銃だ。

 軍の奴が人を捕獲する為のよ?」

と、さらに低い声になって言ったジャップが頸部への締付けをさらに強めると、

その男性は気を失った。

「ちっ。やりすぎた……」

 それから恐ろしい顔のままのジャップがそう言ってその男性から離れると、

「ほーーれみろ! 

 僕の言う通り、こっちに喜蝶を渡した方がいいだろ?」

と、ヨルに顔以外氷付けにされているヘイムダルが言ったが、

「どっちにも渡せる訳ねえだろ‼」

と、怒鳴ったジャップがヘイムダルにも殺意を向けると、

「ひええ⁉ そ、そんなに怒るなよ‼」

と、言ったヘイムダルは怯んで涙目になったが、

「私だ。依頼人は……」

と、聞き覚えのある女の声がこの場に静かに響いた。

 ケレス君。

 ヘイムダルはしつこいぞ?

 いちいち怒ってたら駄目!

 落ち着いてだね……。

 ぅうんっ⁉ それどころじゃない、だって?

 ジャップ君はどうしちゃったのか、だって?

 ……ケレス君。

 大切なものを守る時、人は何を犠牲にしても守ろうとするのだよ……。

 そんな雰囲気の話は続きます!

 字話、【ケレス、姉にまた守られる】という感じでね……。

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