№ 34 ケレス、白山に笑顔の花は咲く
フェンリル山の下山中、ケレスは後ろめたい気持ちがあった。
ケレスはその気持ちを誰かに聞いてほしかった。
勿論それを言えたのは信頼できるジャップだけである。
そして聞いてもらったケレスはまた色んな事がわかり、次へ進もうとする。
そんなケレスの下に珍客が現れ……。
「ん? どうした、ケレス?」
何か言いた気なケレスにジャップは振り返って聞いてくれたが、
「あのさ、俺。どうしても兄貴に聞いてほしい事があるんだ……」
と、答えたケレスには後ろめたい気持ちがあって真面にジャップの顔を見る事が出来ずにいると、
「言ってみろ」
と、ジャップの全てを優しく包み込む声が聞えたので、
ケレスの心にずっと閊えていた何かは薄れていった。
そして、ケレスは箸渡しの内容を話す事が出来た。
「俺、箸渡しをしている時、姉ちゃんの心を感じたんだ。
それも、言葉では表せない程の絶望を、さ……」
ケレスはここまでは話す事が出来たがその先を言う事が出来なかった。
それは、その先を言うとジャップから幻滅されると思ったからである。
それでも、
「それで?」
と、ジャップから優しく言われると、
「本当はそれを見て姉ちゃんの心を知った方が良かったんだろうけど。
俺、怖くて見れなかったんだ。逃げたんだ……」
と、言えたがケレスは声をふるわせてしまい、
「そうか……」
と、言ってくれたジャップがケレスを強く抱き寄せると、
「姉ちゃん……。あんな心の闇を持ってんのに、どうして明るくいられるんだろうな……」
と、ふるえた声のままで言ったケレスの目から涙が零れた。
「それは、姉貴が強い奴だからだ」
すると、そのケレスにジャップが力強く言うと、
「それ、未来の母さんにも言われたよ。やっぱ、姉ちゃんは強い人なんだな……」
と、ジャップの顔を見れないケレスはそう言いながら涙を隠す様に、
ジャップに自身の頭を押し付けてしまったが、
「姉貴は強い奴だが、とても弱い奴でもある。
そこのところ、わかってやらねえとな」
と、少し低い声のジャップはそう言ってケレスの頭をがっしりと掴んだ。
「兄貴?」
その言葉の意味がわからないケレスがチラッとジャップを見ると、
「姉貴の奴、本当は繊細で弱いがそれを他人には見せない様にしてんだ。
だから、強い様に見えているが……。
取り合えず、今は俺達が姉貴を気を付けてやらねえといけねえんだ」
と、言って、ジャップがこれからケレス達がやるべき事を示したので、
「兄貴……。そうだよな。姉ちゃん、がんばりすぎてる!」
と、それに賛同出来たケレスが顔を上げると、
「そうだ! だから、俺達で姉貴を支えねえとな!」
と、言って、ジャップは力強く頷き、
「うん。わかってるさ!」
と、言ったケレスも力強く頷くと、
「約束だ。姉貴を支え、守んぞ!」
と、言ったジャップはフェンリル山の晴天に映える笑顔で笑い、
「約束するよ。姉ちゃんを支えるって。そして、守るって!」
と、それに負けない笑顔をケレスは言葉と共に返したが、ジャップの胸に自身の額を押し付けた。
(兄貴達が普通に過ごしていたのも、大変だったんだな。
それに、未来の母さんが言った事の意味がわかった様な気がする。
俺、まだまだ兄貴には勝てないや……)
その会話の中でケレスは色々とわからなかった事が少しだがわかった気がした。
だが、まだ勝てない兄の偉大さに気恥ずかしくなったケレスは、
ジャップに対する気持ちでジャップの顔を真面に見れなくなりそうしてしまったのである。
そんなケレスはジャップを独り占めにしたまま未来の家へと向かって行った。
そして、未来の家に着くとラニーニャは目を覚ました。
「姉さん、大丈夫か?」
そのラニーニャにフェイトが声を掛けると、
ラニーニャは頷き、何かを聞きたそうにフェイトを見つめたので、
「ああ。無事に終わったよ。
あのチビ坊の奴、守り神になるってさ。
んで、姉さんに謝ってたよ」
と、ラニーニャの思いを汲んだフェイトが話すと、ラニーニャは嬉しそうに微笑んだが、
「ったく。姉さんはいつもそうだな!」
と、言ったフェイトがしかめっ面になると、ラニーニャは声を出さずに笑った。
「さぁーて、家に入るか!
姉さん、歩けるか?」
それからフェイトに聞かれたラニーニャは頷き、フェイトとエーリガルから降りたので、
「姉ちゃん! 大丈夫か?」
と、言いながらケレスはラニーニャに駆け寄ったが、
「へなちょこ! 姉さんは疲れてんだ。休ませてやれよ‼」
と、フェイトから怒鳴なれ、ケレスが怯むと、
「はぁーーい! みんな、家に入んぞ!」
と、ジャップがパンパンッと手を叩いた後、
「なあ、姉貴?」
と、言いながらラニーニャに笑い掛けると、ラニーニャは笑いながら頷いた。
そうやって皆で未来の家に入ると、
「みんな、お帰りなさい。無事で良かった!」
と、言った未来の母が優しく出迎えてくれ、
「ただいま。母さん!」
と、言いながら未来は嬉しそうに未来の母に抱き着き、
「あらあら⁉ 困った子ねぇ……」
と、言った未来の母が未来を優しく抱きしめると、
「母さん、聞いて! 凄かったんだ!」
と、目を輝かせている未来は新生ゴンズの話を始め、未来の母はその話を嬉しそうに聞いていた。
「凄かったね。未来、本当にがんばったね!」
そして、話を聴き終わった未来の母がそう言いながら優しく未来の頭を撫でると、
「えへへ。みんな、がんばったんだ!」
と、言った未来からは笑顔が零れ、
「皆さん。本当にありがとうございました!
何と礼を言ったらいいのかわかりません……」
と、言った未来の母は一粒の涙を流した後、ケレス達に頭を下げたが、
「泣かないでください。それに、まだやる事があるんですよ!」
と、言ったケレスが未来の母に笑い掛けると、
「そうね……。まだ、始まったばかりだものね!」
と、涙を拭いながらそう言った未来の母は顔を上げた。
そして、皆で笑うとケレスの腹が、ぐぅーーーっと鳴った。
「あっ……。すみません……」
その音で皆の注目を集めたケレスは恥ずかしくなり俯くと、
「へなちょこさぁ……。どうして、いつもそうなんだよ?」
と、フェイトが揶揄う様に言ったが、ぐぎゅぅーーーーっとフェイトの腹も鳴り、
「フェイトちゃんも同じだ!」
と、言った未来がフェイトを見て笑うと、
「未来‼」
と、大声を出したフェイトは赤面したが、
「あぁーーー! フェイトちゃんが怒ったぁ⁉」
と、未来はさらにフェイトを揶揄った。
「ははっ。お前達、本当に仲がいいな!」
その二人の微笑ましいやり取りを見ていたジャップが笑うと、
「さて、皆さん、何が食べたい?」
と、未来の母から聞かれ、
「そうだな……。ケレス、何がいいか?」
と、ジャップは決定権をケレスに回し、
「えっ、お、俺⁉ いきなりだな‼」
と、ケレスは少し困ったが、
「お粥がいい!」
と、満面の笑みで答えると、
「はい、わかりました! 今から用意しますね。
未来、手伝ってくれる?」
と、未来の母がそう聞きながら未来に笑い掛けると、
「はいな。母さん!」
と、答えた未来は大きく頷いて未来の母と部屋を出て行った。
それから暖炉のある部屋でケレスは座って待っていた。
フェイトはと言うと、ラニーニャを独り占めにしていて、
ジャップは工芸品を売る準備の為、ケレス達が寝る部屋にいるので、この部屋にはいなかった。
「なあ、長殿。いるんだろ?」
そんな中、ケレスは窓の外を見ながら、長に声を掛けた。
すると、
「ふむ。おるわい……」
と、ケレスの頭の上から小さな長の声が聞こえ、
「何だよ? どうしてそんな態度をするんだ?」
と、ケレスが聞いても、
「ふむ……」
と、長は何も答えなかった。
「なあ、長殿……。もしかして、さっきの事、気にしてんのか?」
そして、その長をケレスが気遣うと、
「ふむ……」
と、長は申し訳なさ気にそう返事をしたが、
「なあ、長殿……。下りて来てくれないか?
ちゃんと話がしたいんだ」
と、ケレスが思いを伝えると、
「わかったわい……」
と、呟いた長はケレスの肩に下りてきたが、
「そうじゃなくって、俺の目の前に下りて来てくれよ!」
と、言って、ケレスが自身の右手を出すと、
「ふぬ……」
と、長は、しぶしぶとケレスの右掌に乗ってきたが、長はケレスの顔を見らず、俯いた。
「なあ、長殿。ありがとう!」
その長に明るくケレスが言うと、
「お主……⁉」
と、言った長は少しだけ顔を上げてくれ、
「俺、気にしてなんかねえから!
と言うより、長には感謝してんだぜ!」
と、ケレスは笑顔で感謝の意を述べたが、
「じゃが、儂はお主達を危険な目に合わせた。
あのゴンズの小僧の性格を考えれば、ああなる事ぐらいはわかっておったと言うのに……」
と、言った長はまた俯いてしまったので、
「なぁーーに言ってんだ?
あんなのは危険とは言わないよ!
そんな事より、もっと危険な目に合った俺を長殿は何度も助けてくれたじゃないか!」
と、言って、ケレスは長が元気を出す様に左手の人差し指で長の頬をつんつん突いてみたが、
「じゃが、あの赤色戦士の言う通り、儂のせいであの娘を悲しませた。
儂の力では、あの娘を泣き止ませる事は出来ぬ……」
と、言った長は俯いたまま顔を上げる事はなかった。
すると、いきなり、たぬてぃが長に襲いかかってきた。
「ぬわあぁーーーーー⁉??⁉」
そして、叫びながら床に転げ落ちた長を たぬてぃは左前足で抑えつけ、
「ちょ、ちょいと、やめぬか‼」
と、叫んだ長が暴れても、たぬてぃは爪を出して力を加え、
「ぬわあぁ……⁉
こ、これっ‼ お主、そこで呑気に見とらんで儂を助けぬかぁ‼」
と、長が必死に訴えても、
「何だ。結構、元気じゃんか!」
と、言ったケレスが笑いながら見守っていると、
「笑いごとではないわ‼」
と、長は一段と大きな声で叫んだが、
「しっかりしてくれよ長殿‼
俺、これから姉ちゃんを守らないといけないんだ!」
と、ケレスがそれをかき消す程の大声を出すと、
「今、それどころではなかろうて‼
早く儂を助けるのじゃ‼」
と、叫んだ長は怒り出したが、
「それどころさ‼ 長殿がしっかりしないから、たぬてぃが怒ってんだぞ‼」
と、真面目な顔のケレスが長を叱責すると、
「そんな馬鹿な⁉」
と、青褪めて叫んだ長が たぬてぃを見ると、たぬてぃは舌舐めずりをして長を睨んでいた。
「こ、こ、こやつの、ど、ど、どこにその様な意思があるのじゃ?」
その たぬてぃの恐ろしさにふるえている長に、
「たぬてぃはそう思ってる。なあ、たぬてぃ?」
と、言ったケレスはにやりと笑って たぬてぃを見て、たぬてぃは鼻息をフンッと長に掛け長を睨み、
「じゃ、じゃから、儂は、ど、どうすれば良いのじゃぁ?」
と、二人に答えを迫られても長が答えられずにいると、
「しっかりしてくれればいいんだ! こんなちょっとの事で悄気るなよ‼
これから昴に行くんだ! それから、十六年前の事を確かめないといけないんだ‼
それには、みんなの力がいるんだ‼ それには、長殿の力も絶対にいるんだ‼
でも、弱気な長殿は、いらない‼」
と、気合いを入れる為にケレスが大声で答えを言うと、
「なぬ⁉ 儂が弱気じゃて‼
儂がいらぬ、とな⁉」
と、思いっきり顔を上に上げて怒鳴った長はケレスを睨みつけてきたが、
「ああ、そうさ! 弱気な長殿、はね!」
と、ケレスが冷静に言うと、
「ぐぬぬ……。お主、言う様になったのう!」
と、言った長は歯軋りをしたが、
「お主じゃなくて、小童だろ?」
と、ケレスは笑いながら言って、長の頬を左手の人差し指で突いた。
「んなぁ⁉」
すると、そのケレスの態度に驚いた長の口は開いたままになり、
「小童って言うまでは、やめさせないぜ?」
と、言いながらケレスが たぬてぃを見ると、たぬてぃはワザとらしく口を大きく開け欠伸をし、
「のわあぁ‼ わかったぁ‼
小童よぉ‼」
と、観念した長が叫ぶと、
「うーーーん……。まあ、いっか、たぬてぃ?」
と、ケレスがそう言って大きく息を吐くと、
たぬてぃは、チッと舌打ちの様な仕草をして左前足を離した。
そして、長は眼にも止まらぬ速さで たぬてぃから離れ
「はぁ、はぁ、はぁ……。なんちゅう奴等じゃ‼」
と、ケレスの頭の上へと駆け上がり、隠れ、そう言った。
「ははっ! 長殿、少しは気合いが入ったか?」
その長が面白く、まだケレスが長を揶揄っていると、
「小童目! 覚えておく事じゃな‼」
と、ケレスは怒鳴った長から髪を思いっきり引っ張られ、
「痛たたた‼ やめろって!」
と、頭を押さえながらそう言ったケレスの目から色んな気持ちがこもった涙が零れたが、
「長殿。これからも頼むよ!」
と、言ったケレスが笑顔になると、
「ふん! 儂がおらぬと何も出来ぬ様じゃからの。
小童の傍におってやるわい!」
と、ケレスの髪を離した長は堂々と胸を張ってそう言った。
そんな会話をしていると、
「皆さん。夕食のお粥が出来ましたよ!」
と、言いながら未来の母が部屋へと入って来たので、
「待ってました!」
と、その待ち望んでいた言葉を聞いたケレスはそう言いながら食卓へと小走りで行った。
そして、ケレスが席に座るとラニーニャ達が座り、それから最後にジャップが部屋へと入ってきて、
食事を始める事となった。
今回の粥は、また大鍋に沢山の野菜と海老や、貝類等の海産物が入っている様だった。
「美味そうだ!」
相変わらず良い香りがする粥の匂をケレスが思いっきり嗅ぐと、
「あり合わせで作ったんですけど、お口に会えば幸いです」
と、それを見た未来の母はそう言って、くすくす笑い、
「絶対、美味いに決まってます! 早く食べましょう!」
と、ケレスが急かし、粥は注がれ食事は始まった。
しかし、ケレスが粥を食べていると、
何故か未来の母がケレスの前に小皿に山盛りになった乾燥ナッツを置いたので、
「へっ? これは?」
と、それを見たケレスの匙が止まると、
「あなたの頭の上にいらっしゃる方へ」
と、言った未来の母は長に優しく笑い掛け、
「もしかして、長殿の事ですか?」
と、聞いたケレスが未来の母を見ると、
「当然じゃて!」
と、ケレスの頭の上から駆け下りて来た長は言って、ナッツをカリカリと食べだした。
「長殿……。行儀、悪いぞ?」
その長を見て呆れたケレスがそう言って溜息をつくと、
「これは儂がもらったのじゃ!
早く食わねば、まぁーーた、あやつが儂を狙っておるのでな!」
と、言った長は頬袋をナッツでぱんぱんに膨れさせており、
「たぬてぃ?」
と、ケレスが たぬてぃを見ると、たぬてぃはやはり、ラニーニャの膝から長を狙っている様で、
「そうみたいだな!」
と、言って、笑顔のケレスはまた粥を食べだした。
そして、ケレス達が粥を食べ終わった頃、未来の家のドアをゴンゴンと叩く音がした。
「あら? 何かしら?」
その音に気付いた未来の母が部屋を出て行き、ドアの方へ行くと、未来の母の叫び声が聞こえ、
「母さん⁉」
と、叫んだ未来が慌てて席を立つと、
「キイィーーー‼」
と、未来の母が元気よく鳴いている一際小さい雪ん子を連れて戻って来た。
「あっ! そいつは、アクベンスの洞窟にいた奴⁉」
そして、その雪ん子を見たケレスもそう言って立ち上がると、
「このコは、浩宇よ」
と、未来の母は嬉しそうにその雪ん子の紹介をし、
「ハオユー?」
と、ケレスが浩宇をまじまじと見ると、
「ええ。私の昔からの友達なの。
もう十年以上ずっと姿を見せなかったから、心配してたの」
と、言った未来の母は浩宇と顔を見合わせ笑った。
「そうだったのか。こいつがねぇ……」
それからケレスが浩宇をまじまじと見ていると、
「キイーーーー!」
と、叫んで浩宇はケレスの顔に雪玉をぶつけ、
「でえぇーーー⁉ 何で、俺ばっか……」
と、何故そうなっているのかわからないケレスが立ちつくしていると、
「ごめんなさいね。浩宇は悪戯好きなの。
気に言った人にそういう事をするの」
と、未来の母はふふっと笑い、その理由を話した。
「俺はこいつに気に入られてんのか?」
その話を聴いて、怪訝な顔になったケレスが顔に付いている雪を拭うと、
「キーー! キーー!」
と、嬉しそうに鳴きながら浩宇は飛び跳ねたので、
「わかったよ。ありがとう、ハオユー!」
と、ケレスが浩宇に笑い掛けると、浩宇はケレスの傍へ駆け寄ってきた。
そして、ケレスが浩宇の頭を撫でると、浩宇は満足そうに笑った。
「浩宇。アイス食べる?」
ケレスと浩宇が楽しく触れ合っていると、微笑んでいる未来の母が間に入り聞いたので、
「キィィーーーー!」
と、嬉しそうに答える様に浩宇が鳴くと、
「じゃあ、持ってきてあげる! 皆さんの分もね」
と、言った未来の母は上機嫌で部屋を出て行ったが、
「寒い所なのに、アイスとかあるんだな」
と、その背を見送ったケレスの口からこの言葉が漏れると、
「ケレス、暖炉の前で食べるアイスは、スッゲェ格別なんだぜ!」
と、子供の様にはしゃいでいるジャップがそう言った
「へぇ。そうなのか!」
そして、ジャップの言葉でケレスの腹に余裕が出来ると、
「はい。どうぞ」
と、アイスクリームを持って来た未来の母がアイスクリームを見せ、
「キィーー!」
と、鳴いた浩宇が一番初めにアイスクリームを取り、
「やっぱり、浩宇はそれね!」
と、未来の母が、笑いながら言うと、
「キィ! キィーーー!」
と、浩宇は鳴き、アイスクリームを持ったまま飛び跳ねた。
「あらあら。そうなの?
はい、ケレスさん。浩宇があなたとお揃いがいいんだって!」
すると、その浩宇を見た未来の母はそう言ってケレスに白いアイスクリームを渡してきたので、
「へっ⁉ あっ、はい!」
と、言って、ケレスはそれを受け取った。
白いアイスクリームは棒に刺さったタイプで、長さは油条と同じくらいだった。
ケレスがそのアイスクリームを見ていると、
「ケレスちゃんのは、バニラだ!」
と、未来から教えられ、
「へぇ。じゃあ、未来のは何だ?」
と、ケレスが聞くと、
「私のは、りんごだ!」
と、答え、未来は自身のアイスクリームを見せてくれたが、
「俺のは、ぶどうだ! 美味いぜ!」
と、ジャップは半分以上食べたアイスクリームを見せつけてきた。
「兄貴……。早すぎだ……」
そして、ジャップに少々呆れたケレスがアイスクリームを一口食べると、
「キィ?」
と、浩宇がケレスを見上げて鳴いたので、
「どうした、浩宇?」
と、言ったケレスが首を傾げると、
「浩宇が、『美味しいか?』て聞いてる!」
と、アイスクリームを食べ終えたジャップから教えられ、
「そうなのか。兄貴⁉」
と、ケレスは言って、
「美味いよ。浩宇!」
と、言いながら浩宇に笑い掛けると、
「キィーーーー!」
と、浩宇は嬉しそうに鳴き、自身のアイスクリームを食べだした。
そうやって珍客の突然の訪問もあったが、夕食も無事に終わり、
ケレスは床につく準備をした。
「なあ、長殿」
そして、ベット代わりのソファーに横になったケレスは長に声をかけた。
「ふぬ? どうした。小童よ?」
そのケレスに長が返事をすると、
「俺、兄貴にも言ったけど、長にも聞いてほしい……」
と、ふるえた声で、ケレスは長に頼み事をし、
「何をじゃ?」
と、長から聞かれ、
「俺、箸渡しをした時、姉ちゃんの心の闇を見たんだ」
と、ケレスが答えると、
「そうか……」
と、言った長の声は深刻になり、
「姉ちゃんの心の闇は、とても深かった……。
俺一人じゃ、支えられそうにない」
と、ケレスが続けると、
「そうじゃろうな……」
と、何かを知っていそうな声で長はそう言った。
「長殿……。もう一度、聞くけど、長殿は、姉ちゃんの味方だよな?」
その長の意味深な声に、ケレスが期待を込め、そう言うと、
「当然じゃ!」
と、語気が強まった長の言葉に信頼感を持つ事が出来、
「そうだよな! じゃあ、頼むよ。
俺達と一緒に、姉ちゃんを支えてくれ!」
と、声にふるえが無くなったケレスがもう一度頼むと、
「わかっておるわい!」
と、長は威厳に満ちた声でそう言った。
「良かった……」
それからその長の声を聞いたケレスは、グーグー鼾をかくジャップのいる部屋で眠りについた。
ケレス君!
深夜帯にお引越ししての初めてのお話だったけど、楽しく笑えていい感じだったね!
何となくでもみんなの気持ちがわかって良かったよ!
うんうん……。
それに長にまで説教が出来る様になるなんて、成長したね♪
さぁ~て、やらなきゃいけない事を再確認した処で、次に進んでね~。
で、そんな次話のタイトルは、【ケレス、静かなる白山を脅かす音を聞く】にゃのだ☆
次のお話は、また新たなキャラの登場か……。
でも、その前に【番外編 龍宮 アルトの憂鬱 9】が入ります!
こちらもよろしくお願いします~☆




