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№ 29 ケレス、白き山で何かを教えられ、そして笑顔になる

 未来の家の前でケレスの足は動かなかった。

 それはケレスが皆に取り残されていたと思い込んでいたからである。

 そんなケレスに未来の母が伝えた事とは……。

「そんな事はないですよ……」

 ケレスの左肩に伝わって来た優しい温もり。

 それは、未来の母の右手から伝わって来た優しい温もりだった。

 そして未来の母はその手同様、暖かく優しい言葉をケレスに掛けてくれたのだ。

 それからその未来の母の優しさは続いた。

「今のあなたにしか出来ない事を、あなたはしっかりやってるじゃない!

 そして、これからもやらなくっちゃね。 ラニーニャさんをみんなで守るのでしょう?」

 未来の母はケレスをこう励まし、これからやるべき事を示してくれた。

 だが、

「俺、兄貴や未来、それにフェイトみたいに強くない……。

 姉ちゃんを守る自信、ありません……」

としか、俯いたままのケレスは言えなかった。

 すると、未来の母はケレスの右肩にも優しく手を置いてきた。

 その両手からは未来の母の色々な温もりがじんわりと伝わって来て、

ケレスは顔を上げる事が出来た。

「力がある事だけが、守る事になる訳じゃないわ。

 それに、あなたのお姉さんは強い人よ。その強さを引き出せたのは、あなただと私は思うわ。

 さあ、元気を出して! みんなで朝食を食べましょう!」

 そして、そのケレスに未来の母は言葉にのせた大切な何かを教えてくれた。

 だが、今のケレスにはそれが何なのか、それがどういう事なのかわからなかった。

 しかし、ケレスは前に歩みを進める事が出来、未来の母と家に入った。

 そして、ケレスが朝食を取る部屋に着くと、既に朝食の準備は整っており、

あとはケレスが座るだけとなっていた。

「あれ? へなちょこも食うのかよ?」

 それからケレスが着席すると意地悪な顔のフェイトが小馬鹿にしてきたが、

ケレスがそれを無視したので、

「何だぁ? シカトかよ?」

と、つまらなさそうな顔で言ったフェイトは机に肘を置いてケレスを横目で見たが、

「フェイトちゃん、行儀、悪いぞ? お姉さんが呆れてる!」

と、未来から注意されてしまい、

「姉さん……」

と、気まずそうな顔になったフェイトがそっとラニーニャに目をやって呟くと、

少し困った様な顔のラニーニャと目が合い、

「ははっ! フェイト。怒られてヤンの!」

と、それを見たジャップからフェイトは茶化され、

「なっ、赤いの⁉ うるせぇ!」

と、言ったフェイトの顔は赤くなり、

「ふふっ、フェイトちゃん。その通りだぞ!」

と、言った未来から笑われると、

「てめっ、未来‼」

と、怒鳴って机から肘をどかしたフェイトの顔がさらに赤くなったので、ケレスは失笑してしまった。

「なっ⁉ へなちょこまで‼ 俺を馬鹿にすんのか‼」

 すると、ケレスの笑い声を聞いたフェイトは立ち上がってケレスを睨んできたが、

「馬鹿になんかしてないさ。唯、何となくさ……」

と、言ったケレスが穏やかに笑うと、

「それを馬鹿にしてるって言うんだ‼」

と、怒鳴ったフェイトがケレスに近づこうとすると、たぬてぃが急にケレス目掛け浮遊してきた。

「た、たぬてぃ⁉ どうしたんだ‼」

 そして、頭の上に乗ってきた たぬてぃにケレスが慌てていると、

「のわぁ⁉ 何をするんじゃぁーーー‼」

と、長の命の危機を知らせる様な叫び声が聞こえ、

「まさか、たぬてぃ⁉ 長殿は餌じゃないぞ‼」

と、叫んだケレスは たぬてぃを捕まえたが、たぬてぃはじたばたしてまだ長を狙っている様だった。

「こら、たぬてぃ‼ やめろって‼ 長殿は餌じゃないし、おもちゃでもないぞ‼」

 それからケレスがそう注意しても、たぬてぃはまだ暴れていたが、

「たぬてぃ。姉貴の所で大人しくしてな」

と、言ったジャップから捕まると、たぬてぃはしょんぼりして大人しくなり、

「ははっ、たぬてぃ。また、俺がおもちゃを作ってやるから、悄気るな!」

と、ジャップが笑いながら言うと、ふふっと、ラニーニャが笑った。

「ね、姉ちゃん⁉」

「お姉さん‼」

「姉さん‼」

「ラニーニャさん⁉」

 そのラニーニャに各々は驚きのあまり叫んだが、

「ほい! 姉貴。たぬてぃの悪戯も大変だな!」

と、唯一人だけ落ち着いていたジャップがそう言って、たぬてぃをラニーニャの膝へ置くと、

ラニーニャは膝に来た たぬてぃを優しく撫で、穏やかに笑ったが、

(姉ちゃん。良かった……)

と、その穏やかな空気を壊すケレスの腹の音が、グゥーーーーと鳴り響いた。

「はっ⁉ 何だぁ、そのへなちょこな音は?」

 すると、フェイトは噴き出して笑ったが、グギューーーーっと、フェイトの腹も鳴り、

「ははっ、お前も変な音だな!」

と、言ったケレスもその音で噴き出して笑うと、

「何だと‼」

と、喧嘩腰になったフェイトが怒鳴ったが、

「はーーい、はい! そこまで。朝食を始めんぞ!」

と、言ったジャップがフェイトの頭をグシャグシャにし、それを治めた。

「赤いの‼」

 それから頭を押さえられているフェイトが歯を喰いしばりながらジャップを見上げていると、

「フェイトちゃん。御飯だ。座って!」

と、未来からくすくす笑いながら言われ、

「未来……」

と、言ったフェイトはしぶしぶ座り、

「さあ、食事を始めましょうか?」

と、笑っている未来の母の言葉で、食事を皆で始める事となった。

 朝食は、揚げパンに、トロトロとした温かい白いスープだった。

 白いスープには、ネギとエビが入っている様で、それぞれの席の前に置かれていた。

 揚げパンは、テーブルの真ん中にいくつも置かれ、好きな分だけ取っていい様だった。

 その揚げパンは棒状で、大きさはケレスの手を拡げた時よりも大きく、

周りはサクサクで、中はふんわりしていた。

(ニョルズの塩バターパンより劣るけど、これはこれで、美味いな!)

 ケレスが美味しくその揚げパンを食べていると、

「ケレスちゃん。油条ヨウティアオ鹹豆漿シェントウジャンにひたして食べてみて!」

と、未来から言われ、

「ヨウティアオ?」

と、ケレスが首を傾げると、

「その揚げパンの事だ。

そして、この豆乳スープが鹹豆漿だ。塩気があって美味いんだ!」

と、ジャップから説明され、

「へぇ。やってみるよ!」

と、言って、ケレスが油条を鹹豆漿にひたして食べてみると、触感が変わり、

鹹豆漿の塩味の後に爽やかな酸味が口にじんわり広がった。

「美味いよ、これ!」

 そして、ケレスの口から思わずその言葉が漏れると、

「良かった。お口に合って!」

と、言った未来の母は嬉しそうに笑い、

「ラニーニャさんには、ちょっとした豆乳スープと、油条です。

 食べれるだけでいいので、食べてくださいね」

と、ラニーニャにも同じ笑顔を向けて言った。

 すると、ラニーニャは小さく頷き、自ら豆乳スープを匙で掬い、口に含んだ。

「姉ちゃん……」

 そのラニーニャをケレスがじっと見つめると、ラニーニャは少しだが笑ってくれ、

「美味しいよな。未来の母さんの料理って!」

と、言ったケレスも笑うと、ラニーニャは軽く頷いて、スープをまた食べだした。

(良かった……。姉ちゃん……)

 そして、そのラニーニャの様子を見たケレスは感動に浸っていたが、

「……ちょいと、小童……」

と、長のひそひそとする声がケレスの髪の間から聞こえたが、

「長殿? どうしたんだ?」

と、ケレスが普通に言うと、

「これっ、静かにせぬか……」

と、長はまだひそひそと話し掛けてきたので、

「何だよ?」

と、首を傾げながらもケレスがひそひそと話し掛けると、

「儂の分の油条を取るのじゃ」

と、長はそのままの声のボリュームで妙な頼み事をしてきた。

「へっ⁉ 自分で取ればいいんじゃないのか?」

 その頼み事を聴いたケレスが拍子抜けし、また普通のボリュームで言うと、

「無理じゃ。見てみよ! あの娘の膝にいる奴の目を‼」

と、言った長はケレスの右肩に降りてきたので、

「たぬてぃの事か?」

と、ケレスはたぬてぃを見た。

 すると、たぬてぃは、じぃーーっと一心に長を見つめ、左右に尻尾をピンピンと動かしていた。

 そう、それはまるで獲物を狙う恐ろしい獣の様に……。

「ははっ。たぬてぃの奴、まだ長殿を狙ってんな!」

 その たぬてぃを見たケレスが笑いながらそう言うと、

「笑い事ではないわ‼ あやつ、まぁーーーだ、儂を狙っておるのじゃぞ‼

 儂はそこいらの動物ではないというのに‼」

と、ケレスを見上げている長から怒鳴なれたが、

「大丈夫だよ、長殿。姉ちゃんが停めるさ!」

と、言って、ケレスは油条を二つ取り、皿に置いた後、

「はい、どうぞ、長殿。俺が見張ってるから、食べなよ!」

と、言って、その皿へ自身の右手で道を作ると、

「しっかり、見張るのじゃぞ!」

と、言って、そろりとその道を通り皿の前へ行った長は、

たぬてぃを見ながらカリカリと油条を齧りだした。

 それを見てケレスは たぬてぃを見るついでにラニーニャを見た。

 ラニーニャは他の者より小さな皿に入った豆乳スープを少しずつゆっくり食べていた。

(姉ちゃん。がんばれ!)

 その様子を見たケレスがそう思いながら食事を再開すると、

「ふぅ、満腹じゃ!」

と、満足そうに言った長の腹は、ぱんぱんに膨れており、

「長殿⁉ もう全部食べたのか‼

 自分よりヨウティアオの方が大きいって言うのに……」

と、言ったケレスの食事の手がまた止まると、

「これぐらい、赤子の手を捻る様なものじゃ! ふうぃ……」

と、長はぱんぱんに膨れた腹と言葉と息を出してケレスを見上げ、

「そういう時に使う言葉なのか? てか、長殿は精霊なのに、普通の物を食べるんだな!」

と、溜息交じりにケレスが言うと、

「ふむ。儂は元は霊獣じゃからの。普通に食べるのじゃ。 ぅいっぷ!」

と、言った長はゲップまでも出し、

「へえ。じゃあ、ベコ殿や、たぬてぃも食べるのか?」

と、ケレスが聞くと、

「ベコは儂と同じじゃから食べるが、あの野蛮精霊は違う!

 あれは元から精霊じゃて。マナは獲っても、食事はせぬわ‼」

と、腹を摩りながら長は答えたが、

「ふーん、そうなのか……。

 でも、長殿、 言葉を慎まないと、たぬてぃの奴、怒ってんぞ?」

と、ケレスが教えると、

「なぬ⁉」

と、思わず叫んだ長は勢いよく上半身を起こし、たぬてぃを見た。

 すると、眉間にしわを寄せ、舌舐めずりをしているたぬてぃが尻尾をピンピンと横に振り、

今にも長に飛びかかろうとしていた。

「どわぁ‼」

 すると、それに気付いた長が叫び、ケレスの頭の上へ一目散に駆け上って来たので、

「ははっ、長殿! たぬてぃは喋れないけど言葉はわかるんだぞ?」

と、ケレスが笑いながら教えると、

「ぐぬぬ……。余計な事は、わかりおってからに……」

と、言っている長はケレスの髪の中に隠れ、体をふるわせた。

 そんな事もあったが、ケレス達は無事に朝食を終えた。

 ケレスは油条を五つ食べ、鹹豆漿を感触した。

 ラニーニャはケレス達より小さめの皿に入っていた豆乳スープを感触していた。

「御馳走様でした!」

 そして、食事に満足したケレスがそう言うと、ラニーニャは頷き、

「さて、姉貴。どうする?」

と、ジャップが言ったその時、フヴェルゲルミル達の何かを知らせる異様な叫び声が轟いた。

 ケレス君、少しでも前に進めて良かったね!

 しっかりしなきゃ!

 まだまだするべき事は山の様にあるんだからね!

 でも……、君にしても、長にしても何て食欲なの⁉

 どこにあんな量の食べ物が入るスペースがあるのやら……。

 えっ?

 お腹がいっぱいになって、眠たくなってきたって⁉

 そんな事を言っている場合じゃないよ!

 今、フェンリル山では大変な事になってるんだから‼

 ん? それはどんな事だって?

 ふふん♪

 それは次回のお話でわかるのだよ!

 そんな次回の話のタイトルは、【ケレス、白山の騒めきに耳を傾ける】なのだ!

 さぁ~て、何が起きているのかしらね?


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