表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/57

№ 28 ケレス、さざ波で集まり師願の奇跡を見る

 色々な思いを抱いたままケレスは眠っていた。

 すると、不思議な音で目が覚める。

 そして、ケレスはその音の正体を知り、フェンリル山が起こした奇跡を目の当たりにする……。

 ……、コツンッ、……コツンッ!

(な、何だ⁉ この音は?)

 不思議な音でケレスは目が覚めた。

 だが、ケレスが窓の外を見ると、外はまだ真っ暗だった。

「こんな夜遅くに何の音だ?」

 その不思議な音にケレスが首を傾げると、

「もう、朝の八時近くじゃぞ。小童

と、ケレスの枕元にいる長に言われ、

「へっ⁉ もう、そんな時間か! でも、外はまだ真っ暗だぞ?」

と、驚いて言ったケレスが長を見ると、

「ここはヘルヘイムの一部じゃから、日の出は遅いのじゃ。そして、日の入りは逆に早いのじゃ」

と、長から教えられ、

「そっか。じゃあ、陽の光はあまり来ねえんだな」

と、ケレスが理解すると、

「その通りじゃな!」

と、言った長は小刻みに数回頷いた。

「ふーん……。じゃあ、あの音は何だ?」

 そして、先程から聞こえる音にケレスが目を転がすと、

「あれは、フヴェルゲルミル達の牙砥じゃな」

と、長から教えられ、

「キバトギ? 何か戦闘するみたいだな!」

と、ケレスが思った事を言うと、

「ふむ。牙を砥ぐとかけた言葉で、自分より強い牙で自分の牙を砥ぐ行為の事じゃ」

と、言った長は、コクんと頷き、

「それはどんな事をしてんだ?」

と、さらに牙砥に興味を持ったケレスが聞くと、

「儂が説明するより小童の目で確かめた方が早かろう」

と、答えた長はケレスの頭の上に駆け上って来て、

「何をしておるのじゃ? 早く、外へ行かぬか!」

と、ピョンピョン飛び跳ねながら命令したので、

「でえぇ‼ わかったよ! 全く、朝から何なんだ……」

と、文句を言ったケレスはしぶしぶ外へ出て行く事となった。

 それからケレスが外に出ると鼻を通る風が痛く、肌が凍てつく程寒かった。

「はぁ……。フヴェルゲルミル達の毛を使ってても、寒いものは、寒い!」

 まだぶつぶつ文句を言いながらケレスが露出した肌を隠す様に肩を窄めると、

先程の音が大きく聞こえ、反響音まで加わり、迫力がある音となった。

「凄い迫力……。何処で何をしてんだ?」

 そして、その迫力でケレスが、ぶるっと身震いすると、

「あっちじゃな」

と、言った長から音が聞える方角に髪を引っ張られ、

「痛たた‼ そんなに引っ張るなよ‼」

と、言いながら、ケレスが痛みがある方を見ると、暗闇の中で何かが動いているのがわかり、

(何がいるんだ?)

と、言ったケレスが目を凝らして見ていると、丁度朝焼けがしてきて、

「あれは、エーリガルと、ユルグ⁉」

と、音の正体がわかった。

 ケレスが見た光景は以前見た時より少しだけ大きくなった大きさのエーリガルとユルグの二体で、

ユルグがエーリガルに牙で体当たりし、エーリガルがそれを牙で受けとめている姿だった。

「あれが、牙砥か?」

 その大迫力の光景を見ているケレスがそう言って息を飲むと、

「そうじゃ。あのユルグとかいう奴が牙を砥いでいるみたいじゃの。

 ああやって幼いフヴェルゲルミルは牙を砥ぎ大人になり、家族を守ってきたのじゃ」

と、長から教えられ、

「へぇ……。何か、格好良いな!」

と、ケレスが言った瞬間、カツーンッ!と一段と大きな音がして、

朝日の輝きにユルグの牙の飛び散った破片がキラキラと混じった。

「スッゲェ……」

 そして、ケレスがその輝きに唯、息を飲む事しか出来ずにいると、

「あの破片が新雪の結晶じゃ。良き牙とマナ、それに陽の輝きがなければ生まれぬ代物じゃて」

と、長から、また教えられ、

「そっか。長はアルトみたいに何でも知ってんな!」

と、言ったケレスは褒めたつもりだったが、

「ふぬ? あの青色童なんぞより、儂の方が博識じゃがな‼」

と、言った長は剥れてしまった。

 そんな会話をしていると、カラカラと音を鳴らしながら車椅子に乗ったラニーニャと、

それを押しているジャップと、ウェイライが現れた。

「姉ちゃん⁉ どうしたんだ?」

 その三人に気付いたケレスがそう聞くと、

「姉貴が牙砥を見たいんだとさ!」

と、答えたジャップはラニーニャに笑い掛け、

「へぇ。俺も同じ様なもんだけど、凄かったよ!」

と、言いながらケレスもラニーニャに笑い掛けると、

「ははっ! ユルグの奴はりきってるからな!

 ウェイライ。今日も良い新雪の結晶が出来たみたいだぞ!」

と、言ったジャップはユルグ達の方を見つめた。

 すると、

「はいな。お兄さん!」

と、言ったウェイライはユルグ達の傍へ走って行き、新設の結晶を拾い集め出したので、

「ああやって、新設の結晶は出来てたんだな」

と、その光景を見ているケレスが言うと、

「ああ、そうさ。と言っても、俺も数日前に見たばかりだがな」

と、言ったジャップはケレスを見て、ふんっと軽く息を吐き、

「そっか。新雪が戻ったのも、つい最近の事みたいだしな……」

と、言って、ケレスがラニーニャを見ると、ラニーニャはぼんやりとユルグ達を見ている様だった。

 そのラニーニャの首元にはジャップがつけた雪桜が朝日に照らされ、美しい輝きを見せていた。

「姉ちゃん。おはよう。それ、似合ってるぜ!」

 そして、ケレスがラニーニャにそう声を掛けると、ラニーニャは笑った様に見え、

」おっ! 姉貴、昨日より顔色がいいじゃんか!

 もしかしてケレスが言い事言ったのが嬉しかったか?」

と、言ったジャップがラニーニャの右肩に手を置くと、

「お兄さん! お姉さん! ケレスちゃん! 見て見て!

 こんなに綺麗な新設の結晶が獲れたぞ‼」

と、言いながら両手一杯に新設の結晶を持ったウェイライが走ってきたので、

「おお! 良かったな、ウェイライ。

 また俺が高値で売ってきてやるぜ!」

と、そのウェイライを見て言ったジャップが笑い掛けると、

「頼もしいな!」

と、ウェイライもジャップに笑い掛けた時、

ユルグが、トトッと足音を鳴らしながらケレス達に近づいてきた。

「ヒャーーゴ!」

 それからユルグは何か言いたそうに鳴いたので、

「ユルグちゃん。どうした?」

と、首を傾げたウェイライがユルグを見て聞くと、

「ヒャーーゴ!」

と、ユルグはラニーニャを一心に見つめ、また鳴いた。

 ケレスにはそんなユルグが何を言ってるのか全くわからなかった。

 だが、

「おっ! ユルグ。お前からもらった新設の結晶だ。いい感じだろ?」

と、言ったジャップにはわかっている様で、

「ヒャーーーゴ!」

と、ユルグは返事をする様に高い声で鳴き、ラニーニャに牙を見せつけた。

 すると、奇跡が起きた。

 何と、ラニーニャはユルグの牙を撫で、少しだけだが笑ったのだ。

「ね、姉ちゃん⁉」

「お姉さん……」

「姉貴。良かった……」

 そう言った各々は、それから三者三様の反応をした。

 ケレスの口は開けっ放しになり、ウェイライはぽろぽろと涙を流し、

ジャップは目を潤ませたが涙を流さなかった。

 だが三人共、心の奥底から嬉しさが体中に溢れ、辺りに広がるのがわかった。

(良かった……。本当に、良かった‼)

 その嬉しさが涙となりケレスの頬を温かく伝わると、

「ヒャーーーーーゴ‼」

と、いつの間にか傍にいたエーリガルが叫び、

「エーリガル⁉ びっくりするじゃないか‼」

と、驚いてその涙が吹き飛んだケレスがエーリガルを見て言うと、

他のフヴェルゲルミル達がケレス達の傍に集まって来た。

 そして、彼等は一斉に叫んだ。

 すると、その叫び声はケレスの全身に響き、ケレスは頭の先まで鳥肌が立った。

 そして、その叫び声はフェンリル山中に木霊し、小さくなったかと思うと、

何処からか跳ね返って来たものは何か温かいものをのせて大きくなるといった事を繰り返していった。

 そう、それは、さざ波が一点に集まり大きな波になるかの様に。

 そう、まるで何かを呼び寄せるかの様に、何度も木霊し、大きくなっていった。

「どうしたんだ⁉ こいつ等?」

 やっとそれだけ言えたケレスが、フヴェルゲルミル達を見渡すと、

「みんな、お姉さんに感謝してる。お姉さんのおかげで、元気になれた。

 雪のマナが戻った。そう言ってる!」

と、嬉し涙が止まらないウェイライに教えられ、

「そうか……。そう言ってんのか。

 でも、俺はお前達に感謝してる‼」

と、言って、ケレスはユルグの牙を撫でた。

「ケレスちゃん?」

 すると、口を窄めたウェイライが首を傾げたので、

「こいつ等のおかげで……。いや、ウェイライ、お前達全員のおかげで姉ちゃんがまた笑えたんだ。

 感謝するよ!」

と、ケレスが笑ってその言葉を伝えると、

「おっ⁉ ケレス。良い事言える様になったな!」

と、言ったジャップからケレスは頭をグシャグシャにされたので、

「だあぁ⁉ 兄貴、それはやめろって‼」

「こぉーーれ! 儂がおると言っておるじゃろうが‼」

と、ケレスと長は、同時に叫んだ。

「ははっ。悪い 悪い!」

 そして、苦笑いをしながらジャップがその手で自身の頭をグシャグシャッと掻くと、

「ヒャーーーゴ!」

と、鳴いたヨルが何かを言いたそうにウェイライを見つめ、

「……そうか。だったら、嬉しい!」

と、頬を赤く染めたウェイライが言ったので、

「今のって、どういう会話をしたんだ?」

と、ジャップが聞くと、

「ヨルちゃん。私の名前通りになって良かった、って言ったんだ……」

と、口を窄めたウェイライは、ジャップと目を合わさずに答えた。

「名前通り?」

 その言葉にケレスが首を傾げると、ウェイライは小さく頷き、

「私の名前、未来って書くんだ。

 そして、姓は、白で、白紙の未来に希望が来る様にって名付けてもらったんだ」

と、未来は嬉しそうに紹介した。

「へぇ。未来にはそんな意味があったんだな!」

 そして、未来の名前の由来を知ったケレスの顔は綻んだが、

(俺の両親もどんな事を考えて俺に名前を付けてくれたんだろうか……)

と、顔も知らない両親の事を想像し、胸にチクッと何かが刺さった気になり眉が下がってしまった。

 すると、未来の母が家の中から出て来た。

「みんな、朝食が出来ましたよ」

 それから未来の母にそう声をかけられ、

「よっしゃぁ! また美味い飯にありつけるぜ‼」

と、言ったジャップは飛び跳ねて喜びを全身で表したが、

「おっ⁉ 姉貴……、大丈夫なんか?」

と、言って、ラニーニャを心配する様に見つめたので、

「兄貴? 姉ちゃんどうしたって?」

と、そのジャップの顔で不安になったケレスが聞いたが、

「姉貴、自分で歩きたいんだとさ」

と、ジャップの答えはそうではなかった。

「マジか⁉ 大丈夫か?」

 そのジャップの言葉で思わず叫んだケレスがラニーニャを見ると、

ラニーニャはユルグの牙を持ってゆっくりと立ち上がったが、

「……姉貴。あまり無理すんなよ……」

と、言った複雑な顔のジャップは透かさずラニーニャの腕を持って支え、

「未来。車椅子頼むわ!」

と、言って、未来に目を転がすと、

「はいな、お兄さん! ケレスちゃん、これ、持ってて!」

と、言った未来は持っていた新設の結晶をケレスの手に全てのせたので、

「ああ。わかった」

と、言ったケレスは、新雪の結晶を受け取った。

 その新設の結晶は不思議な冷たさがあった。

(冷たいけど、何か柔らかい感じがして、温かいな!)

 そんな感想を持ったケレスが新雪の結晶をまじまじと見ていると、

ジャップ達はゆっくりと家の中へと入って行った。

 そして、それにケレスが続こうとすると、

「良かったですね、ケレスさん……。もう、ジャップさんが作った車椅子も、いらなくなる」

と、言った未来の母は声をふるわせ、

「はい。みんなのおかげです!」

と、ふるえた声を隠す様にケレスが大きな声で言うと、

「あなたも、がんばったじゃないですか!」

と、言った未来の母の声は凛々しくなったが、

「俺は、何もしてません……」

と、その声を聴いたケレスは自信を無くし、俯いてそう言った。

 それはケレスの心の中に、ずっとその事がこびり付いていたからだ。

 どんなに拭おうともそれを拭う事は出来ず、その事実だけが残っていた。

 未来の母の励ましは、逆にその事をケレスに思い知らせてしまったのだ。

 改めてその事実を受け止めきれずにいるケレスが俯き動けずにいると、

ケレスの左肩にそっとのってきたものから優しく温かい温もりが伝わって来た。



 ケレス君、良かったね!

 ほんの少しだけどほっと出来たでしょ?

 それに、凄い奇跡を見る事も出来た!

 なのに君はまた落ち込んじゃって……。

 しっかりしておくれなさいな!

 君はこれからもっと多くの事に立ち向かわなければいけないのだから……。

 んじゃ、次のタイトル言っときますね♪

 ばーんっ!

 次話のタイトルは、【ケレス、白き山で何かを教えられ、そして笑顔になる】だ!

 そうそう! 笑ってなきゃ駄目だよ~☆



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ