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№ 27 ケレス、人に思いを伝え、そして受け取る

 ジャップの相変わらずの突拍子もない思い付きにケレスは付き合う事にした。

 そして、ケレスはラニーニャがいる部屋へと向かう。

 そこでケレスが目の当たりにした奇跡とは……。

「さて、みんなで姉貴の所へ行こう!」

 いきなりそれを提案したジャップはケレスを見て笑った。

「さっきのを渡すんだな!」

 すると、そのジャップの顔を見てそう言ったケレスの肩は元に戻り、

「ああ、そうさ!」

と、言ったジャップが作った雪桜の蕾に紐を通してネックレス風にすると、

「ほう……。これはまた、美しいの……」

と、その作品を見て言った長からは儚く消える感動の溜息が漏れ、

「モウ、モウ、モウ……」

と、ベコが首を縦に振りながら同じ様に鳴いたので、

「そんなに褒めてくれるんなら、今度いい素材が入ったらベコにも作ってやんよ!

 助けてくれた礼だ!」

と、言ったジャップがベコにその作品を見せながら笑い掛けると、

「ちょいと⁉ お前さんも小童の様に差別するのかえ?」

と、拗ねた長から聞かれ、

「長の分も作ってやんよ! でも、まずは姉貴にこれをあげてぇんだ!」

と、陽気に答えたジャップは部屋を出て行ってしまい、

「あっ⁉ 待ってくれ、兄貴‼」

と、言いながらケレスはジャップに付いて行った。

 そして、ケレスがジャップに付いて行き、ラニーニャの部屋の前まで行くと、

「おーい、姉貴。俺だ。入るぞ!」

と、声を掛けたジャップは返事も聞かずにドアを開けてしまったので、

「おい⁉ 兄貴! ノックぐらいしろよ‼」

と、ケレスが注意すると、

「ん? 何でだ?」

と、不思議そうな顔をしたジャップから聞かれたので、

「常識だ‼」

と、そのジャップの言動等にケレスは漏らした溜息が聞えなくなる程の声で答えると、

「そうか? 俺、いつもこんな感じだがな!」

と、ジャップには通用せず、そう言ったジャップはそのまま部屋へ入って行った。

(兄貴、それは非常識って言うんだ‼)

 そんなジャップにケレスは心の中でそう突っこみ、

「姉ちゃん。俺だ。入るよ!」

と、ノックをして声を掛けてから部屋へと入った。

 それから部屋に入ると、部屋はベットの傍のランプの明かりがあるだけで、薄暗かった。

 だが、その灯りに照らされ、ベットには横になっているラニーニャ、

その傍には座っているウェイライと、たぬてぃがいるのが見えた。

「お兄さん、どうした?」

 そして、急なケレス達の訪問にウェイライが首を傾げると、

「ちょっと、姉貴に用があってな!」

と、陽気に言ったジャップはラニーニャに近づき、それにケレスも続くと、

「ほーら、姉貴。見てくれ! 俺の自信作だ!」

と、言ったジャップは嬉しそうに作った雪桜の蕾のネックレスをラニーニャに揺らして見せ、

「綺麗! お兄さん、それ、どうした?」

と、それを見て言ったウェイライからは笑顔が零れ、

「ユルグから新雪の結晶をもらってな。俺が丹精込めて作ったのよ!

 姉貴、今回はネックレス風にしたんだ。着けてくれ!」

と、ジャップはラニーニャに話し掛けた。

 しかし、ラニーニャの反応はなく、唯、虚ろな目で天井を見つめていた。

(姉ちゃん……。やっぱり、何も反応しない……)

 そのラニーニャを見たケレスは、顔を覆いたくなった。

 わかってはいたが、生きているのかそうでないのかわからないラニーニャのその姿を見る事は、

とても苦しかったのである。

 だから、瞳を閉じてしまった。

 だが、

「おお! 姉貴、気に入ってくれたか! 良い素材と、俺のこの魔法の手にかかればこんなもんよ!

 早速、着けてくれるんだな? 嬉しいぜ!」

と、ジャップの嬉しそうな声が聞こえたのでケレスが瞳を開けると、

ジャップがラニーニャの首元にそれを装着させているのが目に入り、

「似合ってんぜ、姉貴!」

と、言って、満足気に頷いたジャップの姿も続いて入った。

 そしてジャップの造った雪桜の蕾はラニーニャの浮き出た鎖骨と鎖骨の間に、

ちょこんっとはまって可愛らしく咲きかけていた。

 それに興味を持った たぬてぃが左前足で、トントンと叩いていると、

「本当だ! お姉さん、とても似合ってる! ねえ、ケレスちゃん?」

と、それを見たウェイライは笑顔の花を咲かせて言ったが、

「ああ、似合ってる……」

と、言ったケレスのその花が咲かないでいると、

「ちょっと、ケレスちゃん‼ もう少し気の利いた事、言えないのか?

 そんな事じゃ、女の子にもてないぞ?」

と、言ったウェイライは頬を怒りの蕾で膨らませてしまい、

「うぇ⁉ そんな事、言われても……」

と、言いながら困り果てたケレスの左口角が、ピクピク動くと、

「ははっ、ウェイライ。簡便してやってくれ。ケレスには悪気はないんだ!」

と、ジャップがフォローに入った。

「でも、こんなに似合ってるのに、何かないのか?」

 それでも、ウェイライから不服そうに言われ、

「ケレスには、それが精一杯なんだ。姉貴もわかってる。

 ほら、見てみろよ。姉貴、笑ってるぞ!」

と、言ったジャップがラニーニャに目を転がすと、

「本当? お姉さん……」

と、言って、ウェイライはラニーニャの顔を覗き込んだ。

 すると、

「お姉さん⁉ 嬉しいんだな!」

と、言ったウェイライに笑顔の花が戻り、

「姉ちゃん⁉」

と叫びながらケレスがラニーニャの近くに行ってラニーニャの顔を見ると、

そのラニーニャの顔は明かりの影のせいもあるが口元が緩み、笑っている様に見えた。

「姉ちゃん……、良かった!」

 そして、その笑顔でやっとケレスの顔に小ぶりだが笑顔の花が咲くと、

「良かったな。お兄さん、ケレスちゃん!」

と、言ったウェイライの目には光るものが見え出し、

「ああ、良かった……」

と、優しく言ったジャップの目にも同じものが見え出すと、

「そろそろ、退出するわ。姉貴、また明日な。おやすみ!」

と、それを隠す様に瞳を閉じてジャップは言ったので、

「お兄さん……。もう、行くのか?」

と、名残惜しそうにウェイライが聞くと、

「ああ。もう、遅いしな。

 後は頼んだ、ウェイライ」

と、答えたジャップはウェイライに笑い掛けてから部屋を出て行ったので、

「あっ⁉ 待てよ、兄貴!」

と、言いながらケレスはジャップを追い掛け様としたが振り返り、

「姉ちゃん、ウェイライ、たぬてぃ。おやすみ!」

と、言って、部屋を出ようとした。

 すると、急に、リーン……と、風霊鈴の音が聞え、

「ケレス君、おやすみなさい……」

と、風霊鈴の音にのり、ラニーニャの声が聞えた。

「へっ⁉ ね、姉ちゃん?」

 その声に驚いたケレスがまた振り返ると、

「どうした、ケレスちゃん?」

と、言ったウェイライから不思議そうな顔をされてしまったが、

「いや、なんでもない……。おやすみ」

と、ケレスは穏やかに言って、部屋を出た。

 それからケレスはジャップがいた部屋へと向かう途中、くすっと笑った。

 それは、ケレスの心の中で何かがくすぐってきたからだった。

 そして、それはじんわりとケレスの体に広がり消えていった。

 すると、

「小童よ、何がおかしいのじゃ?」

と、長に聞かれたが、

「内緒だ!」

と、答えたケレスは少し零れた涙を拭ってから笑い、

「何じゃ? 変な小童目……」

と、怪訝そうに言った長の声を無視し、

「長殿。俺、兄貴に謝るよ」

と、言って、ケレスがふっと笑うと、

「ふむ? 急に何を思いついたのかは知らぬが……、その方が良いじゃろう」

と、少し引いている様な長だったが、そう言ってくれ、

「へへ。そうだよな! ありがとう、長殿!」

と、顔を上げて言えたケレスはジャップのいる部屋に入った。

 すると、その部屋ではジャップが無言で窓の外を眺めていた。

「兄貴、ちょっと、いいか?」

 そして、ケレスが、ジャップの背に声を掛けると、

「ん? どうした、ケレス?」

と、言ったジャップは振り返り、

「いや、その……」

と、言った後に、ケレスは深呼吸して、

「さっきは悪かった。ごめん、兄貴‼」

と、続け、勢いよく頭を下げた。

 すると、

「何であやまるんだ?」

と、ジャップに不思議そうに聞かれ、

「だって、俺……。強く言い過ぎたって言うか……。

 やり場のない気持ちを兄貴にぶつけちまって……」

と、頭を下げたまま申し訳なさげにケレスが答えると、ジャップはゆっくりと歩いて近づいて来た。

 そして、ケレスの左肩に、ポンっと優しく手を置いた。

「気にしてねえよ!」

 それからジャップはいつもの様に陽気に言ってくれたので、

「兄貴……」

と、綻んだ顔のケレスが頭を上げて言うと、

「元気出せよ! 俺達が悄気るてたら、姉貴が元気出ねえだろ?」

と、言ったジャップはケレスの頭をグシャグシャにしてしまい、

「こぉーれぇ‼ 儂がおると言っておるじゃろうて‼」

と、忘れられていた長がケレスの頭の上からジャップの右手の上に移動して怒鳴ると、

「そうだった。すまんな!」

と、言ったジャップは苦笑いを浮かべた。

「全く……。赤色戦士は単細胞じゃの!」

 そして、長が、ジャップの右手の上でぼやくと、

「まあまあ! 今日はもう遅いから寝ようぜ!」

と、言ったジャップは靴を履いたままベット代わりのソファーに寝転んでしまい、

「兄貴……、行儀が悪いぞ?」

と、言いながらケレスがベット代わりのソファーに座ると、

「……ケレス。お前、アルトみたいな事、言うんだな……」

と、目を細めたジャップはチラッとケレスを見て言った後、灯りを消した。

 それから真っ暗になった部屋でジャップは静かに話し出した。

「なあ、ケレス……。

 辛いかもしれんが、高杉さんがいなくなったら、真実をしる事が出来るのは、お前だけなんだ。

 その時は、俺も全力で協力する。だから、頼んだぞ」

 何も見えない真っ暗な部屋の中で、この静かなジャップの声がケレスの耳元をかすめた。

 その声は視界のない部屋で、ケレスの心に深く刺さった。

「兄貴……」

 そんなケレスはジャップがいるであろう処を見たが、

ジャップは既に、グゥグゥと鼾をかいて眠っており、

「兄貴、そんな怖い事、言うなよ……」

と、ソファーに座ったままでいるケレスがぽつりと呟くと、

「小童よ……。それは、可能性の一つとして考えねばならぬ事じゃ。

 じゃが、あの高杉とかいう髭眼鏡は、アマテラス様の恩恵を享けておる様じゃから、

そう安安安と死なんじゃろうて」

と、いつの間にかケレスの右肩にいた長から言われ、

「長殿⁉ 本当か?」

と、闇の中で希望の光が見えたケレスが長の方を見て言ったが、

「本当じゃ! じゃが、あのグラマー娘の気分次第じゃがな……」

と、暗闇の中で長から現実を突きつけられ、

「長殿ぉ……。また、突き落とす様な事、言うなぁ……」

と、言ったケレスが肩を落とすと、

「まあ、髭眼鏡を信じるしかないわ。小童と違って、出来そうじゃからの!」

と、長はまた違う現実を見せた。

「そうだけど……」

 次々と厳しい現実を突きつけられたケレスがソファーで座ったまま俯く事しか出来ないでいると、

「さっさと寝るのじゃ‼ 今、小童に出来る事はそれしかないからのう‼」

と、長は命令し、ケレスの頭の上で、ピョンピョン飛び跳ねたので、

「だぁあぁ⁉ わかった。寝るよ。だから、それはやめてくれ‼」

と、言って、靴を脱いだケレスは横になった。

 そして、

(どうか、高杉先生が無事でありますように……)

と、瞳を閉じ、強く願った。

 それからケレスは前日、眠ってない事と、疲れと、何故か安心出来るジャップの鼾によって、

すぐに睡眠状態へと誘われたのだった。



 いや~、今回は特にケレス君の活躍はなかったね!

 もう少し主人公らしく何か活躍させたいんだけど、ケレス君じゃねぇ……。

 いや、だってケレス君でしょ?

 私だって君を活躍させたいのは重々わかっているのだよ。

 でぇも、ケレス君でしょ?

 次の話だっていきなり君は……⁉

 おっと、危ない危ない!

 まだ話しちゃいけないんだった! てへへ♪

 そんな次話のタイトルは、【ケレス、さざ波で集まりし願いの奇跡を見る】なのだ!

 皆様、ケレス君とこれから起こる奇跡を一緒に見てねぇ~♪


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