表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/58

番外編 龍宮 アルトの憂鬱 7-2

 アルトは覚悟を決めていた。

 世界を敵に回してでも守るべき者の為に。

 だが、その覚悟をも超える事実がアルトの前に立ち塞がる。

 そして、アルトは自問自答した。

 そのアルトが出した答えとは……。

 企てた計画のその第一段階として、

「ケレス。ちょっと、いいかい?」

と、レーヴァレイティン号に乗ろうとした時、アルトはケレスを呼び止めた。

「何だ、アルト?」

 そして、ケレスが足を止めたのを確認し、

「聞きたい事があるんだ。こっちに来たまえ!」

と、言って、アルトは髪をかき上げ、

「姉上。僕は、彼と用事が出来たので、ここで失礼させてもらいます」

と、言って、イヴに頭を下げた。

 すると、

「わかりました。こちらは私に任せなさい」

と、イヴは軽く頷き、それから、レーヴァレイティン号はケレスとアルトを置いて飛び立った。

 それからレーヴァレイティン号の姿が小さくなった頃、

「アルト。聞きたい事って何だ?」

と、アルトの後ろからケレスが声を掛けてきたので、

「先輩の家に連れて行ってくれ」

と、振り返ったアルトは企てた計画の第二段階を実行する為、そう言った。

 すると、

「はっ⁉ いきなり何を言い出すんだ?」

 と、アルトの言葉を聞いたケレスが、目を見開いて言ったが、

「僕は先輩の家を知らないからね。君が案内してくれないと!」

と、それを実行すべく、ケレスの態度を気にしないアルトがそう言うと、

「だから、何で姉ちゃんの家に行きたいんだよ?」

と、言って、ケレスがまだそれを邪魔しようとしたので、

「つべこべ言わず、早く案内してくれ‼」

と、言って、アルトは有無も言わさず、決めてしまったので、

そのアルトの勢いに負けたケレスはそれ以上何も言わず、ラニーニャの家へ案内した。

 それから十数分程歩くと、ぽつんと平屋が見え、その家までケレスが案内をしたが、

その家のドアの前でケレスは尻ごみをし、動きそうになかった。

 なので、アルトがドアベルを鳴らした。

 すると、

「帰れ‼」

と、ガラッと、乱暴にドアが開き、大柄の老人から怒鳴なれたが、

「僕は、龍宮 アルトと申します。先輩に会わせて下さい。会うまで、僕は帰りません」

と、言ったアルトは臆する事なく、真直ぐその老人を見つめ、

「お前さんが何と言おうと、チビにはもう誰も会わさん‼」

と、またその老人から怒鳴なれても、

「お願い致します」

と、それに怯む事なく言ったアルトは頭を下げた。

 そして、アルトが頭を下げ続けている間、その老人の荒い息遣いが大きくなっていくのがわかり、

ケレスが、そわそわしている事もわかった。

 それでも、アルトは自身の願いを叶えるべく、頭を下げ続けた。

 すると、ふわっと、光る粉が落ちて来るのが見え、

「ん? 君は……」

と、言ったアルトが目線を上げると、そこには光る蝶がいて、

「アマテラス様の使いじゃと⁉」

と、その老人の驚いた声が聞こえ、暫しの静けさが訪れた。

(アマテラス様の使いだって⁉

 確か、光る蝶の御姿をした精霊で、アマテラス様の御意思を伝える使者……。

 彼がそうなのか⁉

 でも、どうしてアマテラス様の使いがここにいらっしゃるんだ?

 それに、どうしてこの老人は、アマテラス様の使いを知っているんだ?)

 その静けさの間、アルトの頭の中では色んな考えが巡っていたが、

「……入りなさい」

と、その老人の落ち着いた声が聞こえたので、

「ありがとうございます」

と、言って、顔を上げたアルトはその老人に続いて家の中に入る事にした。

 そして、その老人から案内された部屋には、大きな机があり、

そこに敷かれた座布団に座る様に指示され、アルトが座ると、部屋の隅にあのマンドレイクがいた。

「君は……」

 そのマンドレイクにアルトが声を掛けたが、マンドレイクは急いで老人の後ろへ隠れてしまい、

「バルや。こやつはお前さんに何もしたりはせんよ」

と、言って、その老人がマンドレイクの傍でしゃがむと、

「キャ?」

と、バルはその老人を見上げ、「本当に?」という様に鳴いたので、

「君は、バル君と言うのか。

 先程は、悪かったね。許してほしい」

と、そのバルにアルトが笑い掛けて優しく話し掛けたが、

「さっきの奇声の奴⁉」

と、後から部屋に入って来たケレスが、大声を出しながらバルを指差したので、

ショックを受けたバルは泣きそうになった。

「君は、やっぱり失礼な奴だね。少しはデリカシーを持ちたまえ‼」

 そのケレスの非礼な行為でアルトの眉間にしわが寄ってしまったが、バルの傍でしゃがみ、

「バる君。ごめんね。泣かないでくれ。お詫びに、いいものを見せてあげるよ」

と、アルトが穏やかな顔で優しくバルに話し掛けると、

「キャ?」

と、バルはアルトを見上げ、「いいもの?」と言う様に鳴いたので、

「紹介するよ。僕は、龍宮 アルト。それから、彼はパートナーの浦島。

 君に今から僕達で、ちょっとした芸をお見せするね」

と、言って、アルトはポケットから小さな浦島を取り出し、

(浦島、いくよ!)

と、心の中で語り掛け、浦島に自身の手を通じてマナを送った。

 すると、浦島の体が淡く青色に光り、浦島が口を開けると、

その口から浦島と同じ光の小さな泡がいくつか出て、バルの傍に集まって来た。

「キャ??」

 その泡を見たバルが、「これ何??」という様に不思議そうに鳴いたので、

「さわってごらん。バル君」

と、言ったアルトが優しくバルに笑い掛けると、バルは恐る恐るだが、泡を触った。

、すると、その泡は、パシャンと弾け、そして、その水しぶきがバルに降り注がれた。

「キャーア! キャー!」

 その水しぶきが気持ち良かったのか、バルは楽しそうな声で鳴き、

周りに集まっていた泡を全て割り、

「キャー‼」

と、鳴いたバルはアルトの傍に駆け寄り、泡を強請ったのでアルト達がまた泡を出現させると、

バルはその泡を全て壊して遊んだ。

(良かった! しゃぼんでバル君がこんなにも喜んでくれるとは!)

 しゃぼんとは、水のマナで作るしゃぼん玉の事である。

 これは浦島の一族 寿族が操る技の一つで、そこにアルトの力 水の盾の力を共鳴させ、

今回バルの遊び道具としたのだ。

 それからバルの喜ぶ姿でアルトの顔が綻んでいるのを見た浦島が二足で立ち上がり、

そのまま両前足を下して合図したので、

(わかってる! 次はあれをやろう!)

と、浦島を見て思ったアルトは頷き、

「バル君。今度はこんなのはどうかな?」

と、言って浦島の頭を撫でると、浦島は今度はバルより少し大きなしゃぼんを出した。

「キャア?」

 すると、そのしゃぼんを見たバルは、「今度は何?」という様に鳴いたので、

「バル君。さわってごらん?」

と、アルトが促すと、バルはそのしゃぼんを触ったが、今度は割れず、

「キャー⁉」

と「、何で⁉」という様にバルは鳴き、そのしゃぼんを何度か、ポンポン叩いた。

「多少な事では割れないから。乗ってごらん?」

 そして、そう言ったアルトはバルをしゃぼんに乗せ、

「しっかり捕まっててね」

と、言って、しゃぼんに意思を投影させると、バルを乗せたしゃぼんはどんどん宙に浮かび、

アルトの身長ぐらいまで浮かび上がった。

「キャー! キャー!」

 すると、そのしゃぼんの上でバルが楽しそうに、ポヨンと飛び跳ねながら、はしゃいでいたので、

「バル君。どうだい、そこからの景色は?」

と、アルトがバルに聞くと、

「きゃーー‼」

と、バルは「行くよ‼」と言う様に鳴いてアルトに飛び掛かって来たので、

「おっと! 腕白なのは良いが、気を付けないと!」

と、言いながらバルを受け止めたアルトがバルを撫でると、バルはアルトに擦り寄ってきた。

 そんなバルとの触れ合いは、アルトの心を穏やかにさせた。

 大抵の精霊、霊獣、動物といった生き物と心を通わせる事が出来るアルトだったが、

今までで一番心が和んだのである。

 それは、とても幸せな時間だったが、

「相変わらず、アルトは霊獣の扱いが上手いな。てか、バルは牡なのか?」

と、その光景を見ていたケレスが言って、空気をぶち壊してしまった。

(全く……、ケレス! 君ってやつは‼)

 そのせいでアルトの眉間に眉が寄っていくのがわかり、

「どう見ても、彼は男の子だろう?」

と、その反動で言葉がアルトの口から押し出されると、

「キャー‼」

と、バルがアルトの左肩に移動し、仁王立ちしてケレスを見て鳴いたので、

「ほら、バル君がそんな事もわからないのか?って言ってる」

と、バルの意思をケレスに伝えたアルトは優しくバルの頭を撫でた。

 すると、ケレスは、「何でアルトにはわかるんだ⁉」と言った顔をしたが、 

「バルちゃん?」

と、弱弱しいラニーニャの声がし、引き戸の隙間からラニーニャがアルト達を覗いてきた。

 そのラニーニャの顔色は悪く、目が腫れていたが、引き戸を全て開き、

「ケレス君、アルト。悪いけど、帰って……」

と、言って、悲しそうな顔でアルト達を見つめてきたので、

「姉ちゃん、そんな事言うなよ‼ どうしたんだ?」

と、叫んだケレスがラニーニャに近づくと、

「理由なんてない。もう、私には関わらないで」

と、言ったラニーニャは泣きそうな顔でアルト達から離れようとしたが、

「帰りません。先輩」

と、言って、アルトはそうはさせなかった。

「アルト……。お願いだから、帰って……」

 そのアルトにラニーニャは目でも訴えたが、

「嫌です。先輩をほっとけませんから」

と、言ったアルトも目を使って訴えると、

「どうして、私なんかをほっとけないの?」

と、言ったラニーニャの目に戸惑いの色が宿り、

「僕は、水鏡の国の者ですから」

と、アルトは優しい眼差しのままそう伝えた。

「だから、何でそれが関係あるの?」

 だが、そう言ってラニーニャはその眼差しから逃げ様とした。

 そのラニーニャを見て、アルトは決心した。

 はっきりと、伝えるべき事を伝えると。

「煩わしいのは、やめます」

 そして、そう言ったアルトは一つ息を深く吸って、それから、吐き、

「先輩はダーナですね」

と、伝えると、ラニーニャは、はっとし、黙ってしまった。

 だが、

「だったら何?」

と、言ったラニーニャはふるえた声で笑い、

「だったら、じゃないでしょ‼ しかも、先輩は代替わりを一人で成功させようとしている‼」

と、言ったアルトがラニーニャの傍に近づくと、

「さすが、アルト。秀才ね。何でもお見通しなんだから……」

 と、言ったラニーニャは悲しい目をして、ふふっと笑った。

 ラニーニャがダーナである事に気付いていたアルトは雪桜の園で感じた事、

それに聞えたあの声からある推論を立てていた。

 そして、そんなアルトはその推論から導き出した、

ラニーニャが代替わりを一人で成し遂げ様としている事をラニーニャの前で言葉にしてしまったのだ。

 だが、アルトはまさかラニーニャがこの様な反応をするとは思ってもみなかった。

 このラニーニャの反応は、世界の常識を覆すものだったのである。

「ふざけないでください‼ 先輩、どうして僕に相談してくれなかったんですか?」

 そして、真実に辿り着いてしまったアルトが、感情をぶつける様に訴えたが、

「相談した所で、何も変わらないでしょ?」

と、言ったラニーニャはすさんでしまい、

「そんな事はない‼ 僕を頼ってください‼」

と、アルトが、また気持ちをぶつけると、

「君も、そういう事を言うんだ……」

と、言ったラニーニャは、ふふっと笑い、

「じゃあ、頼ってみようかな?」

と、言って、悲しい目でアルトを頼ってきたので、

「何でも言って下さい」

と、言ったアルトは大きな心でそれを受け止めるつもりだったが、

ラニーニャの苦悩はアルトの想像以上のものだったのだ。

 そう、苦悩を語り始めたラニーニャの瞳から一粒の涙が零れ落ちた。

 だが、ラニーニャが落とした一粒の涙は苦悩という砂が入った砂時計の最初の一粒にすぎなかった。

 さらさらと落ち行くその砂時計の中の苦悩の砂は、止まる事を知らず積み重なっていっく。

 そして、アルトは知った。

 この地の守り神であるスレイプニルが寿命を迎える事を。

 そのスレイプニルは、何故か代替わりで生まれ変わる手伝いをラニーニャ一人に願っていた事を。

 しかし、それは即ち、スレイプニルの最期をラニーニャ一人で看取る事を意味する。

 スレイプニルは大切なラニーニャに、その重き荷を一人で背負わせる気なのだ。

 それがわかっているラニーニャは泣き崩れてしまったが、

そんなラニーニャにアルトが出来る事は一つしかなかった。

「先輩。僕はこう思います。そのスレイプニルは、先輩が大好きなんです。

 だから、最期の時まで、先輩に傍にいてほしいんだと。

 それに、代替わりは仕方がない事です。どんな生命にも、命に限りがある。

 逃れられない宿命なら、受け入れるしかない。

 その宿命をスレイプニルは、先輩と乗り越えたいんだと。

 先輩……。僕にも、一緒にいさせてください。

 一緒に乗り超えましょう、先輩!」

 アルトはラニーニャの傍でしゃがみ、その泣き顔を見つめてこう伝えた。

 アルトが出来る事は、ラニーニャの傍で支える事だけだったのだ。

 その思いを言葉で、目で、そして、優しく包み込む笑顔でアルトは伝えた。

 すると、

「アルト……。 一緒に、いてくれるの?

 頼っても、いいの?」

と、アルトの思いが伝わったラニーニャは声をふるわせて言った。

「当たり前じゃないですか!

 それに、お願いするのは僕の方です。一緒にいさせてください」

 そして、優しく包み込む様な笑顔で、ラニーニャの全てを受け止めたアルトがそう言うと、

「アルト。ありがとう……」

と、呟いたラニーニャはそのまま意識を失ってしまい、

「先輩‼」

「姉ちゃん⁉」

と、アルトとケレスは同時に叫び、先程の老人がラニーニャを部屋に運んで行った。

 それから暫く先程の部屋でアルト達が無言の時を過ごしていると、

黄色いひよこの様な霊獣がアルト達の傍に来た。

「えっと、君は……」

 その黄色い霊獣がアルトの傍で、じぃーとアルトの顔を見つめてきたのでアルトが首を傾げると、

「お、おい、ぴゅー兼⁉ また、悪い事を考えてんじゃないだろうな!」

と、焦ったケレスが言ったので、

「君は、ぴゅーけん君というのかい?」

と、わかったアルトが言って、ぴゅーけんに笑い掛けると、ぴゅーけんは、こくんと頷いたので、

「僕に何か用があるのかい?」

と、ぴゅーけんにアルトが聞くと、ぴゅーけんはアルトに付いて来てほしい様な顔をし、

「わかった。行こう」

と、言ったアルトがぴゅーけんに付いて行こうとすると、

「お、おい、アルト! そいつは妙な事をすんだぞ! 迂闊に信用すんなって‼」

と、言ったケレスが余計な心配をしてきた。

 すると、ぴゅーけんはあきらかに嫌な顔をしたが、ケレスは気付いていない様だった。

(全く……。どうして彼はこうあるかな?)

 いつもの事とは言え、ケレスのデリカシーのなさにアルトは溜息をついてしまったが、

「ぴゅー兼君、すまないね。

 彼に代わって僕が謝るよ」

と、言って ぴゅーけんに笑い掛けると、ぴゅーけんが右手を差し出してきたので、

「じゃあ、行こうか!」

と、アルトはその手を取り、ぴゅーけんと部屋を出た。

 それから ぴゅーけんがまず案内したのは、ラニーニャの部屋の前だった。

 そして、ぴゅーけんがその部屋の戸を叩くと、戸が静かに開き、先程の老人が姿を見せ、

「ぴゅーけん……」

と、部屋から出て来た先程の老人は何か言いたげに ぴゅーけんを見たが、

「こっちに来なさい」

と、アルトを見らずに言って、別の部屋へとアルトを案内したので、

「はい。わかりました」

と、言ったアルトが付いて行こうとすると、ぴゅーけんが心配そうな顔で見つめてきた。

「大丈夫だよ、ぴゅーけん君」

 そんな ぴゅーけんを心配させまいとアルトが微笑むと、ぴゅーけんの頬が赤くなり、

ぴゅーけんはアルトから顔を背けてしまったが、

「ありがとう。では、言ってくるね」

と、言ったアルトは、ぴゅーけんの頭を優しく撫で、その場を後にした。




 アルト君、素敵だ!

 どっかの誰かさんと違って紳士だねぇ~♪

 もっともっと君の素敵な活躍を描きたいんだけど、この話で○ー△は終了なのよ……。

 私の力不足なもので……。 んにゃーん……。

 番外編の話はこれからもちゃんと続くので、宜しければお付き合い願います☆

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ