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番外編 龍宮 アルトの憂鬱 7-1

 楽しかった時間はいずれ終わりを迎える。

 そんな事はわかっていたが、アルトは運命を恨んだ。

 だが、アルトは覚悟を決めた。

 世界を敵に回しても貫く覚悟を……。

 アルトはアルトの婆やに自家用機にある茶の稽古を行う部屋で話を聞くことにした。

 いつもの稽古以上に部屋の空気は張り詰め、アルトの背筋は伸びた。

「婆や、何の話があるんだい?」

 その空気の中、先にアルトが口を開き真正面にいるアルトの婆やの目を見つめると、

「イヴ様からの御伝言があります……」

と、思い口を開いて言ったアルトの婆やの眉間にはしわが出来、

「姉上から?」

と、言って、一つ息を飲んだアルトに、

「明日、花梨様を宝珠の国のニョルズに案内するそうです。

 そこに、アルトお坊ちゃまも同行する様に、と……」

と、アルトの婆やは静かに伝え、また口を閉ざした。

(やはり、こうなってしまった……)

 アルトは薄々こうなる事を恐れていた。

 何故なら、一週間程前、断ったがジャップから宝珠の国の皇女の誕生日会の誘いがあり、

そこに花梨が参加する事を聞かされていたからである。

(先輩は、ダーナだ! だけど、僕達は、その存在を知らなかった。

 何故だ⁉ 昴にいるダーナは龍宮家の者なら全て把握しているはずなのに……。

 僕達が、把握出来ていなかった?

 僕達が、先輩の存在を、知らなかった……⁉)

 この時、アルトはある事を確信した。

 だが、アルトはこの責任の重さで体が押しつぶされそうになった。

 救いの神子である花梨の護衛という任務に同行出来るという誉な事以上に、

その花梨をラニーニャに決して近づけてはならないという責が伸し掛かってきたのだ。

 しかし、アルトは覚悟を決めていた。

 それは何を犠牲にしても成し遂げなくてはならないものだったが、

その覚悟は不思議とアルトを、ふっと笑わせた。

 すると、

「その覚悟、しかと見届けました!」

と、言ったアルトの婆やは頷き、

「私は、アルトお坊ちゃまの味方です。

 何処までも付いて参ります!」

と言って、ほほっと笑ったので、

「婆や⁉ 君は、自分が何を言っているのかわかっているのかい⁉」

と、そのアルトの婆やの言動と態度でそう言ったアルトの笑みは消えたが、

「私はアルトお坊ちゃまの執事です。

 いつ、如何なる時もあなた様に付いて参りますわ」

と、言ったアルトの婆やの顔から笑みが消える事はなく、

「婆や……。ありがとう!」

と、言ったアルトには笑顔が戻った。

 それからアルトの婆やはどこからともなく取り出した閉じられた扇子を自身の膝に叩き付け、

「宜しいですね、アルトお坊ちゃま。

 最悪な場合を考えますと、昴の者にラニーニャ様の存在が知られる事になります。

 ですが、これはいずれ乗り超えなくてはならない宿命。

 いつまでもラニーニャ様が逃げ惑っていては何の解決にもならないのです。

 その時は……」

と、言葉を並べたが、

「わかってる。その時は、僕が命に代えても先輩を守るよ!」

と、穏やかな顔でアルトはその先の言葉を発したが、アルトの額に扇子が叩きつけられ、

「いっ痛っ⁉ 何で、そうなる‼」

と、思わず涙が出てしまったアルトが額を押さえて怒鳴ると、

「達!です!」

と、言ったアルトの婆やの目尻は釣り上がっており、さらに扇子を見せつけてきたので、

「わかってるよ。僕達、だろう?

 全く、唯の言葉の綾じゃないか!」

と、額を摩りながらアルトが口を尖らせて言うと、

「宜しいですね? 決して、お一人で解決なさろうとお考えなさらぬ事!」

と、目尻が下がらないアルトの婆やから釘を刺された。

 そして次の日を迎えたアルトが約束の時間より少し早めに、

約束の場所であるヴィーンゴールブ城に行くと既にそこにはジャップがいた。

「あれ? アルト⁉ お前も今日、花梨様の護衛なんか?」

 そこで不思議そうな顔をしたジャップに聞かれ、

「僕にも色々と事情があるんでね」

と、溜息交じりにアルトが答えると、

「ふーん。事情ね……」

と、言ったジャップは、何か意味深な顔をしたので、

「何だい、その顔は⁉」

と、そのジャップの顔にムッとしたアルトは言ったが、

「いや、別に?」

と、言ったジャップはアルトから視線を逸らし、その態度でアルトの眉間にしわが増えてしまった時、

「アルト、どうしてここに?」

と、ケレスとケレスの居候先の男性がそろって合流した。

(あれは、ケレスの処の……。

 一体、どうして彼がここにいるんだ?)

 そんなアルトがケレスの居候先の男性を窺っていると、

ケレスが何度も瞬きしながらアルトがここにいる理由を聞きたそうな顔をしてきたので、

「僕にも色々と事情があるんだよ、ケレス」

と、アルトは適当に遇う様に答えたが、

「ふーん。事情ね……」

と、ケレスはジャップと全く同じ事を言った。

(どうしてこういう所は兄弟そっくりなんだろう……)

 そして、そのケレスの言葉でアルトの眉間のしわがさらに増えてしまうと、

「皆の者、待たせたの」

と、花梨とイヴが合流し、アルトは気を引き締めたが、

「ほーぅ。そういう事か!」

と、言いながら含み笑いをしたケレスがアルトを見て来たので、

「何だよ、君は……」

と、言ったアルトはケレスから顔を背けた。

(全く、ケレスの奴、絶対に変な勘違いしてる‼

 困ったものだね‼)

 それからアルトの眉間のしわが直らないまま、

アルト達は宝珠の国の飛行船である レーヴァレイティン号に乗り込む事となった。

(レーヴァレイティン号、か……。

 宝珠の国の番犬である、フィード様の炎のマナの加護を享け、稼働している飛行船。

 この美しい紅蓮の炎は、かつて災いを祓ったと言うだけあるね)

 窓から時々見える紅蓮の火の粉にアルトが美しさの中に、ぞっとするものを感じていると、

楽しそうにはしゃいでいる花梨達の声が聞こえてきた。

 その方をアルトが見ると花梨とハマルの羽衣を纏った宝珠の国の皇女が特にはしゃいでおり、

時折ジャップも加わって三人で楽しそうにはしゃいでいた。

 そして、そんな三人をイヴとケレスの居候先の男性が静かに見守っていたが、

ケレスだけは蚊帳の外だったので、

(ケレスの奴どうしたんだ? いつもならジャップの傍にいるのに……。

 いや、意図的にあの中に入らない様にしているのか……)

と、アルトが観察している間に、レーヴァレイティン号はニョルズに当直した。

 それからお忍びだったはずだが、花梨がニョルズに降り立つや否やニョルズ中の人が集まり、

その場はお祭り騒ぎとなった。

 その観衆に花梨は手を振り、花梨の隣を歩いていた宝珠の国の皇女も手を振ると、

どよめきとも取れる声が沸き上がったので、

(ふーん……。あんな皇女でもこの国では人気があるみたいだね)

と、アルトは冷ややかな目で宝珠の国の皇女を見ながら花梨の後ろを護衛していた。

 一応、花梨と宝珠の国の皇女の周りには、イブによる水の盾 七里結界が張られており、

花梨達に仇なす者を寄せ付けない様になっていたが万が一に備え、アルトは任されていたのである。

 そんな事は露知らず、花梨と宝珠の国の皇女は楽しそうにニョルズを見て回り、

花梨が笑うとその周りの者、全てが幸せそうに笑った。

(さすが、花梨様だ。その存在だけで人を幸せに出来るなんて!

 だけど……)

 だが、アルトだけは、笑えなかった。

 どうしても幸せな気持ちにはなれなかったのである。

(婆やはああ言ってたけれど……。どうかこのまま、何事も起こらないでほしいものだね)

 そんなアルトは密かにそう願い、花梨の護衛を続けていた。

 すると、

「花梨。私ね、絶対見せたい場所があるの!」

と、宝珠の国の皇女がある提案をした。

 その提案は、ケレス達家族が知っている場所で雪桜が生えている場所、雪桜の園を見せる事だった。

 すると、宝珠の国の皇女から目配せされたケレスがケレスにしては魅力的にその場所を紹介し、

それにジャップの補足が加わると、アルトもその場所に興味をそそられた。 

「ほう。その様な所があるのか。是非行きたいぞ!」

 そして、興味をそそられた花梨が宝珠の国の皇女の腕をしっかりと握ると、

「じゃあ、今から行きましょう!」

と、言った宝珠の国の皇女は優しく花梨の腕を取り、皆で雪桜の園へと向かう事となった。

 それからアルトが皆に続き一五分程歩くと、日光に照らされているリンゴ園が見え出した。

 そのリンゴ園のリンゴ達は、赤く染めた頬を太陽に見せつけるかの様に木々で踊っており、

静かに収穫を待ち望んでいる様だった。

 そんなリンゴ園にアルトが目を奪われていると、

「あれは、果物園だよ。赤き女王も栽培されているんだよ!」

という、宝珠の国の皇女の声が聞え、それから宝珠の国の皇女は、赤き女王の話を始めたが、

その間、アルトは不安に襲われていた。

(赤き女王……。確か、先輩の祖父が育てている話を聞いた事がある。

 じゃあ、あそこは先輩の祖父の果樹園なのか。

 何だか嫌な予感がするよ……) 

 この時のアルトは、まだ知らなかった。

 運命の悪戯が触れたドミノが次々と倒れ、傍まで来ていた事を。

 そして、止まらないドミノ倒しの中にいるアルトが、その連なるドミノ倒しに翻弄される事も。

 そんなアルトはケレス達が言う雪桜の園へと到着した。

 そこには、絵にも描けない美しい雪桜の景色が広がっており、

アルトの全身を何かが下から上へと吹き抜け、アルトは身震いした。

「ここがそうか……」

 その美しさにアルトは言葉を失い、身動き出来なかったが、

そう言った花梨がアルト達より少し前に出ると、

「そうなんだけど……」

と、言った宝珠の国の皇女も言葉を失っており、

「ミュー、どうした? この様な素晴らしい景色がどうかしたか?」

と、花梨が振り返って言った時には、ここにいる者全てがアルトと同じ状態となっていた。

(何て美しさだ……。こんなに美しく儚い雪桜は見た事がないよ……。

 それに、ここのマナの豊富さは一体……?)

 花梨のその声が耳に入らない程アルトは白銀に輝く雪桜の景色に心を奪われ、

またアルトの全身が、ぶるっとふるえると、

「わらわ、もっと傍で見てみたい!」

と、言った花梨が雪桜の木の方へ駆け寄って行き、

「花梨様、お待ちください! 走ると危ないですよ‼」

と、叫んだイブが花梨を追い掛け、他の者もそれに続いた。

 すると、

「何じゃ、其方は?」

と、言った花梨は立ち止まった。

 その花梨の目の前には体長二〇センチメートル程の、

丸顔で人参の様なものが親指を咥え二足で立っていたのだ。

(まさか……、あれは、マンドレイク⁉

 間違いない!

 まだ幼いが、正しくマンドレイクだ!

 でも、マンドレイクは確かあの大恐慌で絶滅したはず……。

 なのに、ここで生き残っていたとは、嬉しいよ!)

 マンドレイクとの遭遇に、アルトの心が躍ると、

「其方は、もしや、マンドレイクか⁉」

と、嬉しさのあまり花梨は叫び、

「マンドレイク? 何だそれ?」

と、首を傾げて言ったケレスは何も知らなさそうだったので、

「植物の霊獣さ。僕も、本でしか見た事はない。

 もう、絶滅したと言われてたけどまさかこんな所でお目見え出来るとはね。驚いたよ!」

と、一心にマンドレイクを見つめているアルトが説明すると、

「へえ。そんなのがここにいるとは!」

と、言ったケレスはまじまじとマンドレイクを見つめ、

「マンドレイク。わらわの所に来い‼」

と、言った花梨が手を差し出した。

 だが、首を横に振ったマンドレイクは瞳を閉じ、この辺り一帯に響き渡る程の奇声を発した。

 その奇声はアルトの聴覚を奪い、体の内側から、

そして震えた空気で外側からもアルトの体を痺れさせ、アルトは意識を失いそうになった。

 だが、聞き覚えのある優しい声が聞こえると、その奇声は、赤ん坊が母親に甘える声へと変わり、

アルトの痺れ等は解消されつつあった。

 しかし、アルトは目の前の光景で体の自由を奪われてしまった。

(だ、駄目です……。

 今、あなたは、ここに来てはいけないんだ……、先輩‼)

 アルトは、運命の悪戯を恨んだ。

 アルトの目の前には、マンドレイクをあやし、楽し気にしているラニーニャがいたのだ。

 いずれこうなる運命だったとはいえ、ラニーニャと花梨は近づいてしまったのである。

 それから運命の悪戯が倒したドミノは速度を上げて倒れていき、

その中にいるアルトは、ラニーニャは翻弄されていった。

「お許しください。花梨様」

 翻弄されているラニーニャは怯えきって只管、土下座し続け、

花梨に許しを請い、花梨にこの場を去る様に嘆願し続け、

「姉ちゃん⁉ そんな事、すんなよ‼」

と、見兼ねたケレスが言っても、ラニーニャは頭を地面に擦りつけたままで、

「ミューの姉。やめてくれ。その様な事はするな‼」

と、言った花梨がラニーニャに近づいたが、

「どうか、ここから去って下さい」

と、嘆願し続けるラニーニャは土下座ををやめず、花梨が近づく事を拒絶した。

(やはり、先輩と花梨様の間には何かあるんだ……。

 だから、あの時も先輩は怯えきっていたんだ!

 だが、花梨様の様子からして、花梨様は何も知らないみたいだ……。

 一体、何故……)

 そんな風にアルトがラニーニャ達の様子を窺っていると、

「いい加減にして‼ お姉ちゃん、花梨が困ってるじゃない。どうしてそんな事するの?」

と、怒鳴った宝珠の国の皇女が花梨の傍に駆け寄った。

 それから宝珠の国の皇女は花梨を庇い味方した揚げ句、立て板に水が流れる様に言葉を続け、

ラニーニャの心を傷つけていった。

(どうして……、どうして、そんな事が出来るんだ‼)

 その宝珠の国の皇女が並べた言葉達はアルトの心も抉り、

アルトは全身が腹の底から煮えたぎっていくのがわかったが、

「おじ様……」

と、泣き出した花梨がそう言いながらケレスの居候先の男性の所に行き、しがみつくと、

「花梨……」

と、言ったケレスの居候先の男性がアルトの目の前で優しく花梨の頭を撫でたのだ。

(えっ……?

 おじさま? 花梨……⁉

 まさか……、彼は、花梨様の伯父上の高杉殿⁉

 でも、それなら先輩は……)

 アルトは、思い出した。

 花梨に伯父がいた事を。

 そして、その伯父が昴を去ったという事も。

 その花梨の伯父である高杉が何故ラニーニャの近くにいたのか、

その理由を考えたアルトは血の気が引いていくのがわかり、その一瞬アルトの思考回路は止まった。

 すると、

「先生……?」

と、ふるえた声で言ったラニーニャが呆然と花梨の伯父を見つめていたので、

それを見た花梨の伯父が、はっとすると、

「何が、俺を信じられんのか、よ……。嘘つき……」

と、俯いたラニーニャは呟き、

「おい。話を聞け」

と、言った花梨の伯父がラニーニャに近づこうとしたが、

「近づかないで‼ 大っ嫌い‼」

と、怒鳴ったラニーニャは花梨の伯父を軽蔑する目で睨んだ後、

涙の粒を零しながらマンドレイクお連れて何処かへ走って逃げてしまった。

 それを見た花梨の伯父は、苦虫を噛み潰した様な顔をしており、

そして、アルトは、唯ラニーニャの背を見る事しか出来なかった。

 そんなアルトの胸の中で何かがチクリと刺さり、その痛みは、ズンッと大きなものへと変わり、

それから余韻を残しながら薄れていったが、その痛みの余韻でアルトが俯いていると、

「お嬢さん。泣かないでおくれ……」

と、年老いた男の優しい声がアルトの頭を撫でる様に通り過ぎた。

「えっ⁉」

 その声に驚いたアルトが見上げると、

「誰だ⁉」

と、ケレスだけが叫んで周りを見わたしており、

「ケレス、どうした?」

と、首を傾げているジャップから聞かれ、

「いや。何でもない……」

と、答えたケレスは、空を見上げた。 

(今のは、空耳……じゃないんだ……)

 そして、空を見上げて目を細めたアルトはケレスを見て、ある企みを実行する事を決めて頷いた。

 いや~、アルト君はやっぱ格好いいね!

 どんどん応援したくなっちゃう♪

 でも、アルト君の企みって何だろう……。

 続きは数時間後に!

 と言っても知ってるか! てへへ♪

※イヴ様が使用している【七里結界】!

 ここ最近になって思いついた名前なので、【龍宮 アルトの憂鬱 4】で使わせてもらってます……。

 今更……(汗)

 なので、【七里結界】の技の内容はそちらを参考にしてくださいませ☆



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