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№ 25 ケレス、白山で起きていた奇跡の真実を知る 

 一人で孤独という殻に閉じ籠ろうとしていたケレスに、歩み寄る者。

 それは、長とベコだった。

 そして、彼等の優しさでその殻にヒビが入ったケレスに、もう一人歩み寄る者がいた。

 その者からケレスはゴンズが粉雪になった時の真相を聴かされるのだが……。


「モウ、モゥ、モゥ、モウ……」

 ケレスに歩み寄って来たのは、悲しそうに鳴いているベコだった。

 そして、ベコは徐にケレスに近づいて来た。

「ベコ殿?」

 ケレスがそのベコを見るとベコの体が赤く光り、

その光がケレスの拳に降り注がれるとその傷は癒えていき、

「小童よ……。その様に、自らを傷付けるでないわ」

と、後から四足歩行で歩いて来た長がそう言って悲しそうな顔でケレスを見上げてきたので、

「長殿……。ごめん……」

と、その長の顔と言葉はケレスの胸をきゅっと締めつけ、そう言ったケレスの拳を拡げさせた。

「まあ、小童の気持はわかるがの。それに、あ奴等の気持ちもな……」

 そんなケレスに長が諭す様に語り掛けてきたので、

「そうだな……。俺さ、何となく、兄貴の気持、わかってんだ。

 でも、俺、むしゃくしゃした気持ちをどこにぶつけたらいいのかわからなかったんだ……」

と、言ったケレスの目から止まらない大量の涙が溢れてしまい、

「ふむ。そうじゃな」

と、言った長はいつもの様にケレスの頭の上に駈け登って来た。

「なあ、長殿……。

 俺、特に何も出来ないけど、姉ちゃんの傍にいて守るよ。

 それしか、俺には出来ないから……」

 そして、嗚咽を吐く程泣いていたケレスだったが、それだけは長に きちんと伝えると、

「そうじゃな。じゃが、あまり背負い込むでないぞ?

 小童は、唯の人の子じゃからな」

と、言った長は温かいフヴェルゲルミルの毛布の様にケレスの気持を受け止めてくれた。

 すると、ドアをコンコンと叩く音がし、

「ケレスさん。入っていいですか?」

と、ウェイライの母が声を掛けてきたので、

「は、はい! すみません。どうぞ!」

と、涙を拭きながらケレスがそう言うと、ウェイライの母は部屋に入って来た。

 そして、ウェイライの母はケレスの前に粥と匙を置き、

「ケレスさん。食べなくては元気が出ませんよ?」

と、言って優しく笑い掛けてきたので、

ウェイライの母に変な安心感を覚えたケレスの腹は、グウーーーと鳴った。

「す、すみません‼ いただきます‼」

 それから顔が赤くなったケレスが恥ずかしさを隠す様に急いで粥が入った茶碗を持つと、

「食べながらで良いので、少し話をしてもいいですか?」

と、言って、ウェイライの母はケレスの隣に静かに座ったので、

「いいですけど?」

と、少し落ち着きを取り戻したケレスがウェイライの母を見て言うと、

「私達の至らない所を、許してほしい……」

と、言ったウェイライの母から、頭を下げられてしまい、

「ちょ、ちょっと⁉ どうしたんですか?」

と、また慌ててしまったケレスがそう言いながら茶碗を置くと、ウェイライの母はある話を始めた。

 ウェイライの母によるとゴンズの襲来でケレス達がこの地に来た時点で、

ここにいる者はフェイトを除いて、一三年前にヘルヘイムで起こった大いなる災いにより、

多かれ少なかれ、呪いを享けていた。

 そして、滅びの呪いを享けた者はニーズヘッグにある街、プレセペで療養が行われた。

 しかし、プレセペで療養するという選択肢があったにも関わらず、

ウェイライの母達はその選択肢を選ばなかった。

 何故なら、エーリガル達を見捨てる事が出来なかったからである。

「次々と、人や霊獣、動物が死んでいくのを見るのはとても辛かったわ。

 そして、人がこの地を去って行くのもね……」

 寂しそうな声のウェイライの母は話を続けており、

「俺の両親も一六年前の大恐慌で死んだんです。何となくですが、気持ちが、わかります」

と、自身の寂しさをそれに重ねてしまったケレスがそう言うと、

「そう……。あなたも苦労してたのね」

と、言ったウェイライの母は、ケレスを優しく見つめた後、

「あなた達が来る少し前の事よ。残っていたフヴェルゲルミル達が次々と倒れていったの。

 そして、ゴンズ、いえ、ゴンズ様が私達の前に姿を現したの」

と、まるで子供に絵本を読み聞かせるかの様に、ゴンズの真相を話し出したが、

「何で、ゴンズなんかに、様、付けるんですか⁉

 あいつのせいでアルタルフや、ユルグ達が酷い目に合ったんですよ‼

 なのに……」

 と、ケレスは、それを停める様に大声を出してしまった。

 すると、

「折角のお粥が冷めちゃうわ。食べながらでいいので、もう少し聞いててください」

と、その声のまま言ったウェイライの母は優しくケレスを見つめてきた。

 そのウェイライの母の優しさに押されたケレスが、匙に山盛りにした粥を口に含むと、

「ウェイライは、フェイト君にあなたのお姉さんの事を聞いてたみたいで、

あなたのお姉さんに、私達を救ってくれる様に頼みにあなた達の所へ行ったみたいなの。

 その時、あの朱雀のコが、ウェイライ達の滅びの呪いの気配を感じてしまったのね。

 だから……、本当に、申し訳なかったと思ってる」

と、話した後、ウェイライの母は、また深く頭を下げたので、

「だわわっ⁉ そんな事はしないでください‼」

と、慌てたケレスがそう言って、また匙を置くと、

「きっと、ゴンズ様もウェイライと同じ気持ちだったんだと思うの」

と、顔を上げたウェイライの母は、思いも寄らない事を言った。

「それって……、どういう意味ですか?」

 そのウェイライの母の言葉にケレスの口が、ぽかんと開いてしまうと、

「また、匙が止まってるわ?」

と、言ったウェイライの母から笑われ、匙を持ったケレスが粥を食べ始めると、

ウェイライの母は、ゴンズの真相を話し出した。

 そして、ウェイライの母は最初に驚くべき事実を話した。

 それはゴンズがフェンリル山の守り神だったという事である。

 ゴンズはこの地を滅ぼすのではなく、滅ばない様に呪いに侵された地のマナを食べ続けていた為、

ゴンズの体に滅びの呪いに侵されたマナがどんどん蓄積されてしまった。

 そして、ゴンズの体全体に滅びの呪いが広がってしまい、

遂にゴンズ一人の力ではどうする事も出来なくなり、ラニーニャの所へ救いを求めに行ったのだ。

 その途中、ゴンズは完全な祟り神になってしまった。

 これが、ウェイライの母が話したゴンズが宝珠の国に襲撃してきた真相だった。

「そんな馬鹿な⁉ 信じられない! 誰がそんな事を言ったんですか?」

 話を聴き終わるまで大人しかったケレスが押さえていたものを一気に吐き出す様に言うと、

「ゴンズ様よ」

と、それを受け止めたウェイライの母から教えられ、

「ゴンズ? だって……」

と、言ったケレスが息を飲むと、

「あなたも見たのでしょう? 浄化され、再生しようとしていた、ゴンズ様の姿を……」

と、ウェイライの母の言葉でその絵本の読み聞かせは終了し、

「もしかして、あの時⁉」

と、ウェイライの母の読み聞かせを全て聴き終わったケレスが、

ラニーニャが祈りを捧げ、透けていたが、ゴンズが姿を現したあの月夜の事を思い出していると、

「ゴンズ様は生まれ変わっても、

この地を守ってくださると

あなたのお姉さんに約束してくれたみたい。

 きっと、生まれ変わってる! だから、フェンリル山に雪と氷が戻ったの」

と、言ったウェイライの母は穏やかに笑い、

(あの時、姉ちゃん達はそんな事を話してたのか……)

と、思ったケレスの心の中で何かが揺れ動くと、

「あなたのお姉さんには、感謝してもしきれません。

 私達が呪いから解放され、ゴンズ様も助かり、この地も救われた……。

 それなのに……」

と、言ったウェイライの母の頬に、一粒の涙の道が出来ていた。

「いぃっ⁉ な、泣かないでください‼」

 その涙の道を見てしまったケレスが、おろおろすると、

「すみません。助けてあげたいけれど、私は彼女に何もしてあげれない……」

と、言ったウェイライの母の涙の道はさらに大きくなってしまい、

「そんな事ないですよ‼ 現に今、姉ちゃんを守ってくれてるじゃないですか‼」

と、励ますつもりでケレスは言ったが、

「何も出来ないのは、俺の方です……。

 それに、姉ちゃんをここまで追い詰めたのは、俺のせいなんです‼」

と、言いながら匙を握り締めて落ち込んでしまった。

「ケレスさん?」

 すると、泣き顔のウェイライの母からケレスは見つめられ、

「俺が、あんなに辛い目に合ってた姉ちゃんに頼まなきゃ、姉ちゃんはここまでにはならなかったんだ‼

 俺が、姉ちゃんに助けを求めなきゃ良かったんだ‼」

と、言ったケレスはさらに悔しさを滲ませ匙を強く握り締めると、

「あなたのお姉さんは、本当にお優しい方なんですね。だから、みんながんばれてる」

と、言ったウェイライの母は涙を拭い、

「じゃあ、猶更守らなくてはいけませんね。ケレスさん!」

と、言って、ケレスのその手を両手で優しく包み込んだ。

「俺、姉ちゃんを守りたい……。でも、俺に何が出来るんでしょうか?」

 そんなケレスがウェイライの母の手を辿ってウェイライの母を見て聞くと、

「何かしなきゃいけないわ。あなたも、私もね!

 あの子達は何とかしようとしてる」

と、答えたウェイライの母の顔は覚悟を決めていた様に見え、

「その為にも、まずはちゃんと食事を取らなきゃね!」

と、その覚悟を深い愛情と共に伝えられたので、

「はい‼」

と、言ったケレスは残りの粥を一気に食べ、

「御馳走様でした‼」

と、言って、深々と、頭を下げた。

 すると、ウェイライの母は軽く頷いて、

あなたのお兄さんは、以前、泊めた部屋にいるわ」

と言い残し、ケレスの食べ終わった茶碗を下げて行った。

「長殿。俺、もう一度兄貴と話してみるよ。さっきのままじゃ、いけないよな!」

 そして、ウェイライの母が部屋を出た後、ケレスが長に話し掛けると、

「その方が良いじゃろうな」

と、ケレスの頭の上にいる長から返答があり、

「モウ、モウ、モウ!」

と、ケレスの膝に居るベコも首を縦に振りながら返答したので、

「ちょっと、話は変わるけど、姉ちゃん本当に凄いんだな!

 俺達の国だけじゃなく、この地も救ってたなんて!」

と、言ったケレスには笑顔が戻り、ジャップがいる部屋へと足が進んだが、

「その優しさが、仇にならねば良いがのう……」

と、暫しの沈黙の後、呟いた長の声はケレスには聞こえなかった。

 それから、

「兄貴、俺だ。入っていいか?」

と、ジャップがいる部屋のドアをコンコンと叩いてケレスが聞くと、

「入れよ、ケレス」

と、中からジャップの声がしたのでケレスがドアを開けると、

ジャップは何かの工具を使い、作業をしていた。

「兄貴、何してんだ?」

 そして、部屋に入ったケレスがそれを覗き込んで聞くと、

「もう少しで出来るから、待ってくれ……」

と、答えたジャップは自身の手元にある指先程の白い何かを鑢で磨き始め、

(何をやってんだ?)

と、思ったケレスが静かにジャップを見守っていると、

「おっしゃぁ! 出来たぞ‼」

と、ジャップは嬉しそうに叫んで立ち上がった。

「兄貴、何が出来たんだ?」

 そのジャップにケレスはびっくりしたが、落ち付いて聞くと、

「見てみろ! 俺の自信作だ!」

と、言ったジャップは先程磨き上げた白い小さな物をケレスに見せてきた。

 それは、指先程の大きさの、ふっくらとした白い花の蕾だった。

 だが、良く見るとそれは本物の蕾ではなく、真っ白い石の様な物で作られた雪桜の蕾で、

その雪桜の蕾は、今にも咲きそうなくらい緻密に出来ていた。

「スゲェ‼ もしかして兄貴が作ったのか?」

 それを見たケレスが、目を輝かせると、

「勿論! ユルグの牙から出来た新雪の結晶で作ったんだぜ!」

と、言ったジャップは大きく頷き、

「へぇ……。相変わらず、兄貴は器用だな! 

 もしかして、それを工芸品として売るのか?」

と、ケレスは思った事を聞いたが、

「いいや。これは、姉貴にやるんだ!」

と、ジャップは作り上げた作品を確認する様に灯りに当て、じっくり見渡した後 そう答えたので、

「そうか! 姉ちゃん、きっと喜ぶよ!」

と、ジャップのその言葉でケレスの頭にラニーニャの喜ぶ顔が浮かんだのでそう言うと、

「だろ? 昔から姉貴には料理では勝てんかったが、他の事なら俺の方が上手くてな。

 姉貴は何でも出来る俺のこの手を好きだって言ってくれたんだ!」

と、言ったジャップは、自身の手を見ながら誇らしげに笑ったので、

「へぇ……。確か、姉ちゃんのあの鈴も兄貴の作品だったよな?

 本当、神様は狡い‼  兄貴には何個も才能を与えてさ。

 俺にも少しはそういう才能をくれたって良かったのに……」

と、眉を顰めたケレスが口を尖らせて言うと、

「まあ、そう言うなよ。それに、あれは絵付けをしただけだぞ?」

と、そのケレスを見て言ったジャップは、ふっと笑った。

「あぁーーー‼ やっぱ、そう思ってんだ‼」

 そして、ジャップのその笑いでケレスが大声を上げると、

「違う 違う! ちょっと、昔を思い出してな……」

と、言ったジャップは口から ふぅっと、息を吐き、

「昔?」

と、言ったケレスが首を傾げると、

「ああ、そうさ。

 本当は、姉貴と二人だけの秘密だったんだが……。

 まあ、お前になら話しても姉貴は許してくれるだろう」

と、言って、視線をケレスに移したジャップはラニーニャと初めて会った時の事を話し始めた。


 さあ、ケレス君!

 もう泣くんじゃないよ?

 君はしっかりと前を向かなきゃいけないんだから!

 ねえねえ、そう言えばウェイライちゃんのお母さんのお粥は美味しかったかい?

 ちゃんと味の感想を言わなきゃいけないよ?

 あとでちゃんと言う事!

 そして、ジャップ君にもちゃんと謝るんだよ?

 出来るかしら?

 ううっん⁉ ちゃんと見ててくれだって?

 わかったよぅ……。

 そんなケレス君の真相がわかる話のタイトルは、【ケレス、姉と兄の出会いを知る】にゃのだ☆


 

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