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№ 24 ケレス、誘われし地で、笑って涙を流す

 アマテラスの使いに導かれケレスが辿り着いたのは、フェンリル山だった。

 そこでケレスはジャップ達とウェイライの家へと向かい、ラニーニャと再会するのだが……。



 ケレス達を乗せたエーリガルが畜舎に入ると、

「ヒャーーー五!」

と、エーリガルが鳴き、

「ヒャーーーーーー五!」

と、畜舎にいた十数体のフヴェルゲルミル達が返事をする様に一斉に鳴いた。

「えっ⁉ こいつ等って、ヨルの家族か?」

 その光景を見たケレスが驚いたので、

「そうさ! みんな元気だぞ!」

と、ジャップが陽気に教えると、

「ヒャーーゴ!」

と、鳴いて、一体のフヴェルゲルミルがケレスの傍に近づいて来た。

「お前は……あの時、アルトに治癒術をかけてもらった奴⁉」

 そのフヴェルゲルミルの変貌にケレスが驚いて声が大きくなると、

そのフヴェルゲルミルは返事をする様に鳴いた。

 返事をしたフヴェルゲルミルは以前見た時より毛艶が良く、

真っ白な牙と真っ黒い目に力があった。

 そして、そのフヴェルゲルミルはエーリガルよりは大分小さかったが、

それでもケレスよりは大分 大きかった。

「お前、元気になったんだな!」

 そして、そのフヴェルゲルミルの変貌に喜んだケレスがそう言うと、

「こいつはユルグだ」

と、ジャップから名を教えられ、

「ユルグっていうのか!」

と、ケレスがその名を呼ぶと、ユルグは背伸びをしてケレスにさらに近づこうとしたので、

「どうしたんだ? ユルグ?」

と、ユルグのその態度に首を傾げたケレスが聞くと、

「お前に乗って欲しいみたいだぞ!」

と、答えたジャップには、ユルグの気持がやはりわかっており、

「そうなのか、ユルグ?」

と、ケレスがユルグの目を見て聞くと、

「ヒャーーゴ!」

と、鳴いて、ユルグは くるくるとエーリガルの周りを周り、

「ケレス、乗ってやれよ!」

と、ジャップに促されたケレスはユルグに乗る事にした。

 ユルグはエーリガルの様な体毛の感触だったが色はエーリガルより白く、

体毛には柔らかさがあった。

 そして、牙はエーリガルより小さく、色は同じ雪の様な色だった。

「ユルグ。お前も乗り心地がいいな!」

 ユルグに乗ったケレスは嬉しくなり、そう言ってユルグの背を ぽんぽんと叩くと、

「ヒャーゴ!」

と、ユルグは返事をしてくれたが、

「おーい、ケレス。ちょっと、手伝ってくれ!」

と、ジャップから声を掛けられたので、

「何をだ? 兄貴?」

と、ケレスがジャップを見て聞くと、

ジャップはエーリガルに積んでいた大きめの荷物を降ろしていた。

いいけど。兄貴、その荷物はどうしたんだ?」

 そして、そのジャップにケレスがそう聞くと、

「これは、テグミンで仕入れた物だ。ウェイライ達に頼まれててな!」

と、ジャップはケレスを見て答え、

「テグミン?」

と、言ったケレスが首を傾げると、

「フェンリル山の麓の街だ。アルタルフとは、逆方向にあってな。

 そこで俺が買い出しやら、工芸品を売るやらしてきたんだ!」

と、ジャップが陽気に説明したので、

「工芸品って、何があるんだ?」

と、ユルグから降りたケレスが聞いてみると、

「そりゃ、フヴェリゲルミル達の毛や、牙を使った物だ!

 俺が着ているこのコートや帽子がそうだ。

 そして、こいつ等の牙の破片は新設の結晶と言われててな、

結構な価値があるんだぜ!」

と、ジャップは、エーリガルの牙を触りながら答えた。

「はあ。凄いんだな……」

 ジャップの説明に感心したケレスがユルグの牙をまじまじと見ていると、

「お兄さん、おかえり!」

と、言って、ウェイライが畜舎に入って来たが、

「あっ⁉ ケレスちゃん? どうしてここにいるんだ?」

と、ケレスを見たウェイライが聞いて目をパチクリさせたので、

「どうしてと、言われても……」

と、どう答えて良いか考えているケレスが右手で頬を掻くと、

「拾ったんだ!」

と、ジャップは説明し、

「そっか。拾ったのか!」

と、言ったウェイライは、素直に納得した。

(そっか、の一言で、いいんかい⁉ それに、俺は拾われたのか⁉)

 その二人の態度でケレスの左口角は、ピクピク動き出したが、

「ウェイライ。お前に頼まれてた物、全部 良い値で売れたぞ!

 それも全部、お前が言ってた値より大分高値だ!」

と、陽気なジャップは別の話を始め、

「本当か⁉ お兄さん。お兄さんの売り方が上手かったんだ!」

と、言って、喜んだウェイライの瞳が輝くと、

「それと、頼まれてた物も全部買っても、こんなに金が出来たぜ!」

と、言いながらジャップは金貨でパンパンに膨れた小袋を掲げ、

「こ、こんなに沢山⁉ 信じられない……」

と、驚きを隠せないウェイライはそう言って溜息までもを飲んでしまった。

 そんな会話をしていると、

「おーい、赤いの。無事にお使いは終わったのかい?」

と、言いながら、畜舎にフェイトが現れ、

「はぁっ⁉ なぁーーーんでへなちょこがいるんだ?」

と、ケレスを見て小馬鹿にする様に言って笑ったので、

「俺は、へなちょこなんかじゃない‼ それにお前こそ何でここにいるんだ‼」

と、怒鳴ったケレスの中で、何かがプツリと切れる音が聞えた。

「ここは俺様の家だぜ? へなちょこ?」

 すると、その音が聞えていないフェイトがケレスをまた馬鹿にする様に言って笑ったので、

「俺様の家? 違うだろ?

 ここは、ウェイライの家だ。お前はただの居候じゃあないか?」

と、言ったケレスが顔を少しだけ上げて鼻で笑ってみせると、

「はぁ? へなちょこのくせに、生意気なんだよ‼」

と、笑みが消えたフェイトはケレスを睨みつけて怒鳴り、

「生意気は、お前の方だ‼ 俺より年下のくせにぃ‼」

と、ケレスも怒鳴り返し、二人は喧嘩腰になったが、

「はーーい! そこまでだ!」

と、言って、ケレスとフェイトの頭をグシャグシャにしたジャップが仲裁に入った。

「な、何すんだ⁉ 兄貴‼」

 すると、ケレスはジャップを見て怒鳴り、

「赤いの‼ てめぇ‼」

と、フェイトもジャップを睨んで怒鳴ったが、

「はいはい。喧嘩はやめて、さっさと手伝え、二人共!」

と、二人を無視した陽気なジャップはそう言って笑い、

「そうだ! フェイトちゃん。ケレスちゃん。やる事、多いんだ。手伝え!」

と、ウェイライもジャップの様に陽気に言うと、

「はあ……。しゃあない」

と、言ったフェイトは、しぶしぶと荷物を運び出した。

 そのフェイトをケレスが目で追っていると、ドサッとケレスの足元に大きめの荷物が置かれ、

「ケレス。これを運べ!」

と、ジャップから指示があり、

「えっ⁉ 運べって言っても、何処に運ぶんだ? 兄貴?」

と、聞いたケレスがジャップを見ると、

「外の倉庫だ。ケレスちゃん!」

と、ウェイライから教えられ、

「ああ、わかった」

と、言ったケレスは成り行きに任せ荷物を持ったが

「ぅでぇっ⁉ お、重い……⁉」

と、思わず言葉が出た。

 その荷物は持つ事は出来たが、ケレスの腰にまで重さが伝わって来る程 重たかった。

 それでも、ケレスが何とか荷物を持ち上げると、

「ケレスちゃん。大丈夫か?」

と、声を掛けてきたウェイライの眉は下がって下り、

「大丈夫さっ‼」

と、見栄を張ったケレスが笑って言うと、

「おやぁ? へなちょこは、まぁーーだ一つも運んでねえのかよ?」

と、荷物を運び終えたフェイトが戻って来て、ケレスを馬鹿にする様に言って笑った。

(本当にムカつく‼ こいつ、大っ嫌いだ‼)

 だが、ケレスはその怒りを力に変え、荷物を運ぶ事が出来た。

 そして、ケレスが五分程かけ荷物を倉庫へ運び終えると、

「ふーぅ。重かったぁ……」

と、言って、しゃがみ込んでしまったが、

「あれぇ? へなちょこは、たったそれだけですかぁ?」

と、フェイトは自身の周りに置かれた五つのケレスが運んだ大きさの荷物と同じ大きさの荷物の傍で、

それを見せつける様にし、意地の悪い顔でそう言ってケレスを見た。

「何おう‼」

 そのフェイトに、喧嘩腰になったケレスが勢いよく立ち上がると、

「おっ! ケレス。良く運んだな。お疲れ!」

と、言ったジャップがケレスが運んだ荷物と同じ大きさの荷物を二つ両手に抱えながら入って来て、

「ケレスちゃん、フェイトちゃん、ありがとう!」

と、ヨルに同じ様な荷物を二つ載せたウェイライもそう言いながら入って来たので、

「ああ、俺は、一つしか運んでないけど……」

と、その三人を見たケレスが自信なく言うと、

「これ、一つ二〇キロはある!

 ヨルちゃん達の餌だ。一つでも持てたら凄いぞ!」

と、嬉しそうにウェイライが言ったので、

「これは、ヨル達の餌だったのか……。

 てか、エーリガルはこれを一〇個も載せてきたのか⁉」

と、驚きのあまり目を丸くしたケレスが言うと、

「そうだ! エーリガルちゃんは力持ちなんだぞ!」

と、自慢する様に言ったウェイライは頷き、

「良し! こんなに餌もあるし、新雪も沢山あるから暫くは困らないな!」

と、倉庫に積み上げられたそれ等の餌を見て嬉しそうに大きく頷いた。

「新雪? そんな物をどうするんだ?」

 だが、新雪に何故かウェイライが満足しているのでケレスが聞くと、

「何、言ってんだ? ヨルちゃん達の餌だぞ?」

と、ウェイライは不思議そうな顔で答え、

「えっ⁉ ヨル達は雪を食うのか?」

と、ケレスが、パチパチと瞬きしながら聞くと、

「フヴェルゲルミル族は、この雪からマナを摂取するんだ」

と、一つ息を吐いたジャップから教えられ、

「へえ、そうなんだ……」

と、感心したケレスがそう言って一つ息を吐くと、

「ははっ! へなちょこはそんな事も知らねえんだな!」

と、言ったフェイトは思わず噴き出して笑った。

 その態度にイラっとしたケレスがフェイトを睨むと、

「そう。ずっと雪がなかった。だから、フヴェリゲルミル族の多くは死んじゃった……」

と、ウェイライの悲しそうな声が聞こえ、

「ウェイライ……」

と、眉が下がったケレスがウェイライを見て呟くと、

「でも、大丈夫! 雪、こんなに戻って来た。全部、お姉さんのおかげ!」

と、潤んだ目のウェイライは、嬉しそうに笑って言ったので、

「姉ちゃんのおかげ?」

と、言ったケレスが首を傾げると、

「そう。全部、お姉さんのおかげ。なのに……」

と、言ったウェイライは言葉に詰まり、泣き出してしまった。

「ちょ、ちょっと、ウェイライ⁉ どうしたんだ?」

 そして、慌てたケレスがウェイライに駆け寄ろうとすると、

「あーぁ‼ へなちょこは黙ってろってーの‼」

と、怒鳴りつけたフェイトはケレスを押しのけ、

「ぃって! 何しやがる‼」

と、ケレスがフェイトを睨みながら怒鳴ると、

「へなちょこには関係ねえ事だ‼ さっさと帰りやがれ‼」

と、フェイトも怒鳴り返し、また二人が喧嘩腰になると、

「お前等! いい加減にしろ‼」

と、怒鳴ったジャップがまた二人の頭をグシャグシャにした。

「何すんだ、兄貴‼」

「邪魔すんな! 赤いの‼」

 すると、ケレス達は同時に怒鳴ったが、

「そんな事するな。姉貴が悲しむ」

と、ジャップから低い声で言われ、それを聴いた二人は気まずい顔になり、黙った。

 そして、静けさが訪れると、

「なあ、二人共。今は、そんな下らん事するより、姉貴をみんなで守る方法を考えよう」

と、ジャップは提案したが、

「姉さんを守る? あれから何があったってんだ⁉」

と、言いながらフェイトがジャップに詰め寄ったので、

ジャップは事の成り行きを整理する様に、あの病院での惨劇からの事を順序だてて話した。

 その中でケレスが新たに知った事は、グラニューがラニーニャを助けてからの事だった。

 グラニューはラニーニャをのせたまま、フェイト達の所まで運び、

それからフェイト達全員を風の力で宝珠の国からフェンリル山まで運んだという事らしい。

(グラニュー様って、凄いんだ!)

 グラニューの雄姿を想像したケレスが大きく頷くと、

「くそ……。昴の奴等、何、考えてんだ‼

 それに、水鏡の国の馬鹿野郎共め‼」

と、肩で息をしてそう言ったフェイトからは、怒りの感情が伝わってきたが、

「そうだな。何を考えてんだろうな……。

 まあ、幸いな事にここは剣の国だ。

 迂闊に他の国の奴等は手を出せねえだろうし……」

と、低い声で言ったジャップは、落ち着いていた。

「何でだ?」

 そして、その理由を知りたいケレスが、ジャップを見て聞くと、

「剣の国は鎖国制度があってな。他の国は剣の国に干渉出来ねえんだ。

 まあ、逆もしかりだがな」

と、ジャップは答えたので、

「昴もか?」

と、ある期待を込めたケレスは聞いたが、

「まあ、そこは別だ。世界の中心だと思い込んでやがるからな!」

と、笑いながら答えたフェイトの答えは、それを打ち壊し、

「じゃあ、ここも絶対に安全とは言えねえんだな……」

と、期待を打ち壊されたケレスが肩を落として言うと、

「はぁっ? 俺様がいるんだぜ?

 姉さんには手を出させる訳ねえよ、へなちょこが‼」

と、右口角を上げて言ったフェイトは語気を強め、

「おぉ! フェイトは頼もしいな! 俺も、負けられねえな!」

と、ジャップが陽気な声で言うと、

「ヒャーーーーーゴ!」

と、ヨルが大きな声で鳴いて、存在感を示し、

「私もがんばる。お姉さん、絶対、守る!」

と、言ったウェイライは微笑んだ。

(本当は、何が正しいんだ? でも、こうするしかないのか?)

 明るく、そして、強く言ったジャップ達を見て、ケレスはそう考えていた。

 すると、

「みんな、ご苦労様。夕食の準備が出来ましたよ」

と、元気そうなウェイライの母がそう言いながら倉庫に入って来て、

「よっしゃぁ! 俺、腹減ってたんだ‼」

と、言ったジャップは颯爽と倉庫から出て行き、

「あーぁ。俺は、誰かさんとは違って、荷物、多く運んだから、腹減ったなぁ……。

 あっ⁉ へなちょこは荷物を運べなかったから、腹なんか減ってねえ、よな?」

と、フェイトはケレスを馬鹿にする様に言った後、倉庫を出て行ったが、

「ケレスちゃん。気にするな。フェイトちゃん、意地悪してるだけ。早く行こう!」

と、ウェイライから誘われてもケレスがどうするか考えていると、

「あの……。ケレスさん。何故、ここにいらっしゃるの?」

と、ウェイライの母から聞かれた。

「それは、その……」

 そして、答えに困っているケレスがそう言いながら右頬を掻くと、

「お兄さんが拾ってきたんだ!」

と、にっこりと笑っているウェイライが答えたので、

「そう。わかった、ケレスさん。こちらにいらっしゃい」

と、ウェイライの母は、にこっと笑い、ケレスを誘ってくれたので、

(そう、の一言でいいんかい⁉ さすが、親子‼)

と、思いながらケレスはウェイライ親子の背を交互に見ながら付いて行った。

 そんなウェイライ達は暖炉のある部屋で夕食を始める様だった。

 その部屋にあるテーブルの真ん中に、ウェイライの母により大きな鍋が置かれ、

その中には、粥が入っていた。

 粥は、米に鶏肉や貝柱等を入れ、じっくりと煮込まれた物の様で、

漂ってくる匂いはとても美味しそうだった。

 そして、ケレスが席に座ると、その香りを漂わせた粥が装われた茶碗がケレスの前に置かれ、

食事が始まろうとしたが、

「お待たせ、お姉さん。御飯だ!」

と、ウェイライが、ラニーニャを乗せた車椅子を押して部屋に入って来た。

 そのラニーニャを見たケレスは、言葉を失った。

 何故なら、ラニーニャは、頬は痩け、目は虚ろなあげく窪み、髪は艶がなく、短くなっていて、

以前の面影が全く無くなっていたからである。

「おっし、ウェイライ。後は任せろ!」

 だが、ジャップはそう言って、ラニーニャの隣に座り、

コーヒーカップぐらいの器に入った粥を、ゆっくりと匙で食べさせ始め、

「姉貴、どうだ、美味いだろ? ウェイライの母さんは、料理が上手だからな!」

と、小さな匙に粥を一杯掬ってラニーニャの口元に近づけ、

流し入れる様に食べさせながら聞いたジャップは笑った。

 だが、ラニーニャは無反応だった。

「そうか、美味いか……。良かった!」

 それでも笑って言ったジャップはまた、食べさせたので、

「何してんだよ、兄貴……」

と、その様子を見たケレスは、背筋が凍る様にぞっとし、口からその言葉が漏れてしまった。

 すると、

「お姉さん。ずっとあんな状態なの……」

と、動けないケレスの耳にウェイライのふるえた声が聞こえ、

「いつから?」

と、ウェイライを見れないケレスが聞くと、

「馬の精霊さんから預かった時から」

と、静かに答えたウェイライの声が聞え、

「そんなぁ……」

と、それを聞いたケレスの頭は真っ白になり、何も考えられなくなったが、

「まだ、お兄さんが来てくれたから、ましな方。私達じゃ、御飯、食べさせれなかった」

と、言ったウェイライのふるえた声は、かろうじて聞こえ、

「あれで一食分なのか?」

と、意識を保つ為にケレスがウェイライを見て聞くと、

「ううん。あれは、一日分だ……」

と、答えたウェイライは首を横に振った。

「嘘……だろ?」

 そして、そう呟いたケレスの目の前は真っ暗になり、ふらっと倒れそうになったが、

「おーい。ケレス、ウェイライ。そんな顔するな。姉貴が泣くじゃないか」

と、言ったジャップがハンカチをラニーニャの頬に当てると、ラニーニャの目から涙が零れたので、

「えっ⁉ 何で、兄貴……姉ちゃんが泣くのが、わかったんだ?」

と、その光景を見たケレスの意識がはっきりとし、そう聞くと、

「わかるさ。俺達、姉弟だからな!」

と、答えたジャップは笑顔だったが、

「ん? もういいのか……。もう少し食ってほしかったな。まあ、良く食ったよ。部屋に戻るか?」

と、ラニーニャに話し掛けるとジャップの眉は下がってしまい、

「ウェイライ。姉貴、もう横になりたいんだって。頼むわ」

と、それでも食器を置いたジャップはまた笑ってウェイライに声をかけると、

「わかった。お兄さん」

と、言ったウェイライはラニーニャを別の部屋へと連れて行った。

「おっし、ケレス。俺達も食事を始めようぜ!」

 それからジャップは何事もなかった様に席に座り、粥を食べ始めたが、

ケレスは粥を食べようとは思えなかった。

 すると、

「ケレス。ちゃんと食っとけ!」

と、粥を食べているジャップから言われたが、

「兄貴……」

と、言ったケレスが匙すら持てずにいると、

「へなちょこは働いてねえから、腹が減ってねえんだ!

 そんな奴は、ほっとけばいいんだ!」

と、粥をおかわりしているフェイトから言われてしまい、

「うるさい‼ お前等、どうかしてる‼

 何でそんな物食ってられんだ‼」

と、ジャップ達の態度でケレスの怒りが一気に沸き上がり、この言葉を投げつけてしまった。

 だが、

「そんな物とは、どういう事だ? こんな美味い物に対して、失礼だぞ、ケレス?」

と、一杯目の粥を食べ終わったジャップから普通に言われ、

「そういう事じゃなくて‼ 姉ちゃんが、あんな状態でよく普通でいられんなって言ってんだ‼」

と、怒りが爆発したケレスが怒鳴ると、

「あんな状態? 姉貴は、普通だ!」

と、言ったジャップは表情を崩さずに粥を茶碗に装ったので、

「どこが普通なんだよ‼ あんなに窶れて、反応もないんだぞ‼」

と、ジャップのその態度でケレスが匙を投げ捨てて怒鳴ると、

「反応は、ある。お前が、わからんだけだ」

と、言ったジャップは、粥を並々に注いだ茶碗を自分の前に置き、

「兄貴には、わかるってんのか⁉」

と、さらに大声で怒鳴ったケレスの肩は大きく上下に動いたが、

「ああ、わかる……。俺には、な」

と、低い声でそう言ったジャップの肩は、動いていなかった。

「わかる訳ないだろ‼ 兄貴が思い込んでるだけだ‼」

 ジャップの落ち着き様に苛立ちが頂点になったケレスは怒鳴って、逃げる様に部屋を出た。

 そして、逃げ込む様に別の部屋へ行き、ドアを閉め、泣いた。

(何でだ‼ 姉ちゃんが、どうしてあんな目に合うんだ‼

 おかしいだろ‼ あそこまで追い込んで、まだ、姉ちゃんを傷付けるのか⁉

 それに、兄貴も強がり言って、わかる訳ない癖にぃ‼)

 泣いているケレスは逃げ込んだ部屋で拳を握り締め、床を何度も叩いた。

 拳が痺れ、血が滲んでも、叩き続けた。

 自身の無力さが情けなく、自身を傷つける事でしかその感情を晴らす事が出来なかった。

 そして、今、他の者を見たら何をするのかわからない。

 何を言うのかわからない。

 きっと、傷付けてしまう。

 傷付くのは、もう自分だけで十分だ。

 そう思ったケレスは一人になり、自身を傷つけたかったのである。

 しかし、そんな事をしてもケレスのむしゃくしゃした気持ちは晴れる事はなかった。

 だが、そんなケレスに優しく歩み寄るものがいた。

 



 ケレス君。そんなに自分を傷つけないで……。

 君が悪いんじゃないのだから。

 それに、泣いている暇はないんだよ!

 しっかりと前を向かなくっちゃ!

 あっ⁉ でも、次回の話のタイトルは、【ケレス、白山で起きた奇跡の真実を知る】でした!

 だから、ちょっと前の方に目を向ける事になるのよねぇん☆


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