№ 23 ケレス、アマテラスの使いに導かれる
光の神殿での惨劇の後、ケレスは水鏡の国で囚われの身となってしまった。
そして、ケレスが囚われている間に、水鏡の国では恐ろしい計画が練られ、実行され様としていた。
ケレスはそれを止め様としたが囚われの部屋から出る事すら出来ず、成す術がなくなってしまう。
だが、そんなケレスの前に現れたのは、光る蝶のアマテラスの使いだった。
そして、アマテラスの使いは金色に輝き、ケレスをある所へ導き、
そこでケレスが目にしたものとは……。
「いい加減にしろぉーー‼
それ以上その人を傷付けたら、喜蝶をぶっ殺してやるんだからぁーーーーー‼
わかってんの? あいつの命は私達が握ってんのよ‼」
轟いた声の主は、大きく肩を上下に動かしている洲之だった。
その洲之の顔は鬼と化していた。
「あんた……、まだ、そんな事、言うんだ……。でも、そんな事は、させない‼」
だが、根の一族の女は洲之を冷ややかな目で見つめながらそう言って、
「ロキ‼ 古の戒めを解いてあげる‼ 暴れなさい‼」
と、叫び、鞭を地面に強く叩きつけた。
すると、グラグラとケレスが立っていられなくなる程の地震が起きた。
「でえぇぇ⁉ 今度は何なんだ?」
腰を低くし、ケレスが地面にしがみついて言うと、
「ロキじゃと⁉ とんでもない奴を目覚めさせおって‼」
と、長の焦った声が聞こえ、
「長殿ぉぉーーーーーーーーーーーーー! ロキって、誰だぁーーーーーーーーあぁ⁉」
と、引きずられている地面の上でケレスが叫ぶと、
ドボンッとケレスは、何故か水の中へ落ちて行った。
「げっ⁉ 今度は水??」
そして、ケレスは溺れながら流され、水の流れが激しく、ケレスは藻掻くだけで精一杯だった。
しかし、そんなケレスを水のヴェールが優しくとり囲み、
水のヴェールで出来た泡の中で、ケレスは水の上に浮いていた。
「えっ? これって、アルトのあれか?」
そんなケレスがその水のヴェールを見ながら言うと、
「ほーう……。龍宮の娘もやりおるわ。
この様な立派な水の盾を作るとはのう!」
と、長が水のヴェールを触りながら言ったが、
「龍宮の娘? 水の盾?」
と、理解出来なかったケレスが言うと、
「龍宮の娘とは、龍宮 イヴの事じゃ!
そして水の盾とは、水のマナを盾として扱う龍宮一族が使う術じゃ!
今回、小童を守っておるのはその内の冬夏青々(トウカセイセイ)と呼ばれるものじゃな。
冬夏青々とは術者の硬い意志の下、対象となるものをあらゆる仇から守るのじゃ!」
と、長から色々と教えられた。
「そうなんだ……。じゃあ、近くにイヴさんがいるのか」
その長の説明でやっとケレスが状況を理解すると、
「じゃろうな」
と、静かな長の声が聞こえ、
「みんな、無事かな?」
と、長の声の様にケレスが静かに聞くと、
「そうであると良いのう」
と、長は静かに答えた。
ケレス達の会話はこの様に続かない寂しいものだった。
そして霧がさらに濃くなる中、流されながらケレスは不安を抱えたまま、こう願い続けた。
(これからどうなるんだ……。
先生、無事でいてくれ……。
それに、ミュー、クリオネ、花梨様、無事でいてくれ‼
そして、姉ちゃん……)
それから暫くしてケレス達は水鏡の国の者達に救助された。
そして、龍宮家へと招かれ、部屋を用意されたケレスはそこで待機していた。
(みんな、どうなったんだ? 誰も何も教えてくれないし……。
長はいなくなってるし……。イライラする‼)
落ち着きなくケレスが部屋をウロウロしていると、
「ふーう、やれやれ。疲れたわい!」
と、何所からともなく長の声が聞こえ、
「長殿⁉ 何処だ?」
と、言いながらケレスが辺りを見渡すと、
「ここじゃ!」
と、言った長はケレスの足元から頭の上まで一気に駆け上がってきた。
「何処に行ってたんだよ?」
そして、ケレスが見上げて聞くと、
「ちょいと、情報収集にな!」
と、長は答え、
「情報収集? 何かわかったのか?」
と、聞いたケレスが首を傾げると、
「それがのう……」
と、長は言い難そうに仕入れた情報を話し出した。
長が言うには、救出され龍宮家にいるのは、ケレス以外に、ミュー、クリオネ、
それに、洲之だった。
高杉と花梨は根の一族の女が人質として光の神殿に拘束しているらしい。
「人質⁉ 何が目的なんだ‼」
長の話を聴き終わったケレスが大声を出すと、
「あの娘と交換じゃそうじゃ」
と、長は静かに恐ろしい話の序章を話し出し、
「姉ちゃんとだって⁉ そんなの、絶対に駄目だ‼」
と、ケレスは頭が揺れる程怒鳴ったが、
「そうは言っても、事はその方向へむかっておる」
と、長はケレスの頭の上から落ちる事なく、続きを話し、
「駄目だ‼ やめさせなきゃ‼」
と、言ったケレスは、その話を序章で終わらせ様としたが、
「無駄じゃ」
と、長のその一言で話は進まされ、
「何でだ⁉」
と、焦ったケレスが言うと、
「奴等は事を小童を置いて進め様としておる。
しかも、奴等は人質交換等、考えてはおらぬ様じゃぞ?」
と、言った長の話は本章へ突入していった。
「どういう事だ⁉」
そして、そう言ったケレスが続きの話を待つと、
「小童よ……。扉を確かめてみよ」
と、言った長の言葉は本章のページを一枚めくり、
めくられたページの中でケレスが部屋の扉を調べると施錠されており、開かなかった。
「どうなってんだ⁉ 開けてくれ‼」
ケレスはそのページの中で叫んだが何も反応はなく、扉は閉まったままで、
「くそっ! こうなったら窓から……」
と、言って、ケレスは窓の所へ行ったが、窓格子がはられ、出る事は叶わなかった。
ケレスが次にどうするかと考えていると、
「小童よ……。無駄じゃ。奴等は小童を事が終わるまで、ここから出さぬきじゃ」
と、言って、長は静かに、また本章のページを一枚めくり、
「事が、終わる……? 何をする気なんだ⁉」
と、めくられた音が聞えたケレスがそう言って息を飲むと、
「あの娘諸共、グラマー娘を殺すきじゃ」
と、暫しの沈黙の後、長は恐ろしい結末を述べた。
「そんな⁉ 姉ちゃんまで、何でそうなるんだ‼」
その結末を聞かされたケレスの血の気が引いて行くと、
「奴等にとって、邪魔な者を排除する為じゃろうな」
と、溜息交じりに長は後書きを述べ、
「姉ちゃんが邪魔だって⁉ どうしてだ? 姉ちゃんは何も悪い事なんかしてない‼
それに、俺達の国を何度も救ったんだ‼
そんな姉ちゃんがどうしてそんな目に合わなきゃいけないんだ⁉」
と、ケレスが怒鳴りながらその後書き諸共修正しようとしたが、
「奴等にとって、あの娘は災いなのじゃろうな……。
それに、小童達の国を救ったが、それを誰が見たかの?
小童達以外、それを誰が証明出来るかの?
それが出来ぬ限り、奴等にそれを止めさせる事は出来ぬわ‼」
と、言って、長はそれを受け入れなかった。
「そうだけど……。何とかしなきゃ! 姉ちゃんを守らなきゃ‼」
そして、その結末をケレスが変えようとしたその時、
ひらひらと、光の神殿で見たあの光る蝶がケレスの前に飛んできた。
「この蝶は……アマテラス様の使い⁉」
その光る蝶をみたケレスが思わず叫ぶと、
「何じゃと‼ 小童よ、何故、アマテラス様の使いを知っておるのじゃ⁉」
と、長がケレスの頭の上で、ピョンピョン飛び跳ねながら叫び、
「だあぁあぁ! それはやめてくれ!」
と、ケレスは頭を押さえて頼んだが、
「話すまでやめぬ‼」
と、言った長は今度はケレスの髪を引っ張り、
「痛たたた! 毛が抜けるぅ‼ 姉ちゃんの家で見た時、うさ爺がそう呼んだんだ‼」
と、髪を抑えながらケレスは教えたが、
「んっなぁぁ⁉ 小童風情が、会った、じゃと……⁉」
と、言った長はケレスの髪を引っ張ったままだったので、
「痛いって‼ そうだよ! 光の神殿でも会ったよ‼」
と、大声でケレスはそれも話した。
すると、
「この小童に何が出来ると言うのじゃ?」
と、ケレスの髪を離した長はアマテラスの使いに尋ねたので、
「長殿? アルトみたいに霊獣とかと話せるのか?」
と、ケレスがそう言った瞬間、ケレスは目を開けれなくなる程の金色の光に包まれた。
「うわぁーー⁉」
そして、瞳を閉じたケレスが叫ぶと、ケレスは肌に突き刺す様な痛みから極寒を感じ、
「ひえぇぇ⁉ どうなってんだぁーーーー? 寒いぃーーーーーーーー‼」
と、体を窄め、絶叫した。
ケレスは何故か、暗い吹雪の中にいたのだ。
「こ、こ ここは、何処なんだ?」
ビュービュー吹雪いている中、悴んだケレスがそう言うと、
「ここは、フェンリル山じゃな」
と、長は普通に話し、
「はっ? 何で、俺はそんな所にいるんだ⁉」
と、ケレスが驚きのあまり叫ぶと、
「その様に大声を出すと、冷気で胸をやられるぞ?」
と、長は冷静に教えたが、
「もっと、早く言ってくれよ……。ゲホッ、ゴホッ……」
と、時既に遅く、そう言ったケレスは咳き込んでしまい、
「てか、そんな事言ってる場合か⁉ このままじゃ俺達、凍死しちゃう‼」
と、その状況に気付いたケレスは焦り、叫んだが、
「ふむ? 凍死するのは、小童だけじゃぞ? 儂は精霊じゃから、暑さ、寒さでは死なぬ」
と、言った長は、この極寒の様に冷たかった。
「そんなぁ……。長殿ぉぉ、見捨てないでくれぇぇぇ……」
その長の言葉を最後にケレスが倒れ、意識を失いそうになると、
「ヒャーーゴ‼」
という声が吹雪に紛れて聞え、
「えっ⁉ この声って……」
と、薄れゆくケレスの意識の中、
「ケレス⁉ 何でここにいるんだ?」
と、言ったジャップの声も聞こえ、
「ああ。兄貴かぁ……。遂に、幻聴まで聞える様にまでなった、か…………」
と、思ったケレスが瞳を閉じると、
「幻聴じゃねえぞ‼ ケレス、しっかりしろ‼」
と、防寒着を着たジャップからケレスは叩き起こされた。
「兄貴? 本物か?」
それから瞳を開けたケレスがそう言うと、
「話は後だ! エーリガルに乗れ‼」
と、言ったジャップはケレスを抱え、エーリガルに乗せた。
「た、助かったぁ……。暖けぇ‼」
そして、以前 見た時より一回りは小さくなっていたエーリガルの温かさに埋もれているケレスに、
「無事で良かったが、ケレス、何でこんな所にいるんだ?」
と、ジャップは聞いてきたが、エーリガルの温かさで体を温めてからケレスは話す事にした。
「俺も何が何だかわからないんだ。さっきまで龍宮家に閉じ込められてたんだけど……」
そうして体が温まったケレスがそう話し始めると、
「閉じ込められてたって……、どういう事だ⁉」
と、言ったジャップは何度も瞬きする程 驚き、
「それが、その……」
と、ケレスはそれ以上 話す事を躊躇っていたが、
「はっきり言え‼」
と、ジャップに怒鳴なれ、
「兄貴……」
と、言ったケレスがどう話してよいものか考えていると、
「儂が説明しよう」
と、ケレスの頭の上にいる長がそう言って助け舟を出した。
すると、
「おっ、長じゃねえか!」
と、長を見たジャップが言ったので、
「えっ、兄貴⁉ 長殿を知ってんのか?」
と、驚いたケレスが聞くと、
「ああ。俺が、ここに来れたのも、長と、こいつのおかげさ!」
と、答えた後、ジャップは服の中から ベコを取り出し、
「モゥ、モゥ、モゥ……」
と、ベコが、ゆっくり頷きながら鳴くと、
「おお! ベコよ。良くやったの!」
と、言って、長は、ケレスの頭からベコの背へと移動した。
「何なんだ⁉説明してくれ‼」
そのやり取りをみたケレスだけは長達の関係性がわからなかったが、
「まあ、話は帰りながらだ。頼むぞ。エーリガル!」
と、言ったジャップから後回しにされ、
「ヒャーーー五‼」
と、エーリガルは返事をする様に鳴き、動き出した。
エーリガルの体毛はヨルと違って少し硬かったが毛の間に比較的柔らかい毛があり、
とても温かかった。
「まず、俺から話す。一週間くらい前の事だ……」
そこでジャップがまず、そう話し始めた。
ジャップによると、あの病院での悲劇があった日。
ジャップは追ってから たぬてぃと上手く逃げ、ラニーニャを探す事となった。
そこで、長とベコに会ったらしい。
「俺は、たぬてぃと長から姉貴がフェンリル山にいる事を聞いてな。
早速、たぬてぃとベコとで向かった訳よ。
だが、ここに行くのにも色々と苦労してな、
たぬてぃやベコに助けられたんだ」
この様にジャップからここまでの経緯を話され、
「そうだったんだ……。てか、兄貴。姉ちゃんは何処にいるんだ?」
と、ケレスが一番重要な事を聞くと、
「エーリガルがいるんだ。わかるだろ?」
と、一つ息を吐いたジャップは答え、
「ウェイライの所か!」
と、答がわかってそう言ったケレスの表情が明るくなると、
「そうさ!」
と、陽気な声でジャップは言ったので、
「なあ兄貴! 姉ちゃんは無事か?」
と、ケレスは聞いたが、ジャップは、黙り込んでしまった。
「兄貴?」
そして、吹雪の音だけが聞える中、ケレスが口を開くと、
「ケレス。先にお前の話を聞かせろ。全てだ」
と、低い声のジャップに言われ、
「えっと……」
と、ケレスがどこまで話すかを考えていると、
「小童よ。儂が話す」
と、長があの病院での惨劇があった日からの事を全て話してしまった。
(うわぁ……。長殿、全部、話しちゃった……。
いいのか? 洲之のおばさんの事や、俺達の計画、それに、水鏡の国の事までもさ‼)
長の話を聴いている内にケレスの左口角はどんどん上がっていったが、
「そうか……。長、助かったよ。弟を良く守ってくれた!」
と、ベコを膝に乗せたジャップが低い声のまま言うと、
「ふむ。まあ、これぐらいで礼など及ばぬわ!」
と、ベコの上に起座姿勢で乗っている長はそう言って頷いたので、
「なあ、長殿。いつ、兄貴と知り合ったんだ? 俺の傍にずっといたんじゃなかったのか?」
と、ケレスは、ふと気になった事を聞いてみた。
すると、
「それがの。この赤色戦士が小童を助けに留置所に乗り込もうとしておっての。
そこで儂がそれを止め、ベコを託してあの娘の所へ行かせたのじゃ。
小童は儂が責任を取ると言っての!」
と、長は長々と説明したが、
「はあ、そうだったのか……。でも、長殿。さっき、俺を見捨て様としなかったか?」
と、ケレスが先程の長の悪行について追及すると、
「そんな事は知らぬわ!」
と、ケレスを見上げている長から白を切られ、
「そんなぁ……」
と、裏切られた気がしたケレスがそう言うと、
「なあ、ケレス、長。頼みがある」
と、言ったジャップが話に割り込んできた。
「兄貴? 何だ?」
そして、ケレスがジャップに視線を移すと、
「今までの話、姉貴には言わないでくれ」
と、吹雪の中、そう言ったジャップの低い声が聞こえ、
「えっ……。それじゃあ先生と花梨様はどうなるんだ?」
と、言ったケレスの頭に二人の顔が過ぎったが、
「お前は、姉貴とそいつ等、どっちが大事なんだ?
俺は考えるまでもなく、姉貴だ‼
これ以上、姉貴を傷付けたくない‼
何も知らないままでいさせたい……。
例え、全てを敵にしても、そいつ等を見殺しにしてもな!
それが、姉貴を守る事なんだ‼」
と、何の迷いもないジャップから、宣言され、ケレスは、何が正しいのかわからなくなった。
(姉ちゃんを助けたい。けど、そうすれば、先生達を見捨てる事になる……。
だからと言って、根の一族の奴等に、姉ちゃんを渡す訳にはいかない‼
水鏡の国や昴の奴等なんかにも、絶対渡せない‼
でも、一体、どうすればいいんだ?)
ケレスが俯き、悩み続けていると、
「ヒャーーーーーゴ!」
と、エーリガルが叫び、
「おっ! エーリガル。着いたか!」
と、言ったジャップの声が明るくなったので、
「兄貴。何処に着いたんだ?」
と、聞いたケレスが顔を上げると、
「ウェイライの家さ!」
と、ジャップは、明るく答えた後、
「それとな、ケレス。もう一つ、頼みがる……」
と、また、低い声で言った。
「言ってくれ、兄貴」
その声の重さにケレスが深く息を吸うと、
「今の姉貴を見ても、出来るだけ普段と変わらない態度をしてくれ」
と、ジャップからは霧が掛った様な物言いをされ、
「どういう意味だ?」
と、聞いてケレスはその霧を覗いたが、
「見たら、わかる……。頼んだぞ」
と、ジャップの答えからはその霧の中を覗く事は出来ず、
ケレス達を乗せたままエーリガルは畜舎へと入って行った。
ケレス君、今回も大変だったね!
ずっと大変な事しかないねぇ……。
でも、良かったじゃないかね?
ジャップ君にも会えたんだし、長の性格も知る事が出来たんだし♪
それにね、君はまた多くの人と再会するんだよん!
あっ、でもでも⁉
次の話は、アルト君を題材にした、【龍宮 アルトの憂鬱 6】でした!
へぇ……、アルト君、何か楽しそうですな☆
ちなみに、本編の次話のタイトルは、【ケレス、誘われし地で、笑って涙を流す】なのよ。
ケレス君、泣いちゃうの?
それとも、笑うの?




