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№ 20 ケレス、再び、姉と別れる

 ラニーニャの力のおかげで、ジャップも、高杉も救われた。

 そして、ラニーニャが戻ってくる事を祈っていたケレス達の下に、サキが戻って来る。

 しかし、サキは、ケレスが知っているサキではなかった……。

「姉貴。ここにいるんだな」

 ジャップはラニーニャがいる部屋を見つめそう言った。

「そうだけど……。その前に、兄貴、さっきのはどういう意味だ?」

 だが、先程のジャップの言葉の真意が気になったケレスがそう聞くと、

「ん? そのままの意味だが?」

と、ジャップは普通に答えたので、

「兄貴……。姉ちゃんの事、知ってんのか?」

と、ケレスが、その真意の重要な部分を問い詰めると、

「ああ、知ってる」

と、ジャップは答え、ケレスを真直ぐ見つめた後、

「実を言うと、俺はな、姉貴に救われたのは、今回で二回目なんだ」

と、告白した。

「二回目って……。兄貴、もしかして滅びの呪いを享けた事があるのか?」

 そして、ジャップの言葉の真意に辿り着いたケレスはそう言ったものの呆然となったが、

「ああ、そうだ。そして、一二、三年くらい前に姉貴に助けてもらったんだ。

 だから、わかるんだ。今度も俺を助けたのは、姉貴だって事がな!」

と、ジャップから力強く告白されると、

「そうだったのか、兄貴……」

と、心の中がじんわり温かくなってきたケレスの口から言葉が漏れたが、

「おっ⁉ ちょっと、待ってくれ!」

と、言って、ジャップは服の中から たぬてぃを出した。

 すると、たぬてぃはラニーニャのいる部屋の前まで浮遊して行き、悲しげに部屋を見つめた

「た、たぬてぃ? そんな所にいたのか⁉」

 たぬてぃのいきなりの登場に驚いたケレスがそう言うと、

「そうなんだ。こいつったら、病院の前で、うろうろしてやがってさ。

 姉貴に会いたいんだと思って連れてきてやったのよ!」

と、言ったジャップは、笑い出したが、

「ところで、ケレス。姉貴の容体はどうなんだ?」

と、急に眉を顰めて聞いてきたので、

「その……」

と、言い出したケレスが、ラニーニャの容体と、これからの事を話すと、

その話を聴き終わるまで、ジャップはケレスを優しく見つめていた。

 そして、

「そうか」

と、話を聴き終わったジャップはそれだけ言うとラニーニャのいる部屋を見つめ、

「姉貴は、大丈夫だ。必ず、戻って来る!」

と、力強くケレスの左肩を握ってそう言ったので、

「そうだな」

と、ケレスは言う事が出来た。

 すると、サキが戻って来て、

「失礼」

と、そのままラニーニャのいる部屋に入ろうとしたので、

「あの、サキさん。召集命令はどうなったんですか?」

と、ケレスが聞くと、

「そんなものより、友達の傍にいたいんだ」

と、答えたサキは部屋に入ろうとしたが、たぬてぃがサキにしがみついて邪魔をすると、

「何なの⁉ この獣は‼ こんな奴、病院に連れて来ないで‼」

と、怒鳴ったサキは乱暴に たぬてぃを突き放し、部屋へと入って行った。

(サキさん⁉ 何か、変だ……)

 そのサキにケレスが違和感を覚えると、たぬてぃが部屋のドアを爪で、ガシガシとひっかきだし、

(たぬてぃ……。獣? サキさんは、たぬてぃを獣なんて言わないはずだ‼

 たぬてぃを獣なんて言ったのって、あのおばさんぐらいだ……。

 それにサキさんは、姉ちゃんを友達なんて、絶対、言わない‼)

と、ケレスの頭の中で点と点が繋がり、

(まさか、あれはサキさんじゃない……。あのおばさん⁉)

という答えに辿り着き、ケレスは、ラニーニャがいるはずの部屋に入ろうとした。

 しかし、そこは施錠されており、入る事は出来なかった。

「開けてください‼」

 それから叫びながらケレスがドアを何度も叩いたが、返事はなく、

「おい、ケレス⁉ どうしたってんだ?」

と、首を傾げているジャップから聞かれ、

「どうしたも、こうしたもない‼ さっきのはサキさんじゃない‼ 姉ちゃんが危ないんだ‼」

と、取り乱したケレスが、大声で答えると、

「姉貴が危ないって、どういう事だ⁉」

と、言ったジャップも取り乱し、

「今は説明している暇はない‼ 早く、このドアを開けなきゃ‼」

と、怒鳴っているケレスがドアを叩き続けていると、

「どけ」

と、ケレスの後ろから静かな高杉の声が聞えた。

「先生?」

 その声でドアを叩くのをやめたケレスが高杉を見ると、

「いいから、どけと言ってる‼」

と、高杉から怒鳴りつけられ、ケレスがドアから離れると、

高杉はドアを、ドガシャーンッ‼と音がする程蹴破った。

「なっ⁉ 先生。いいのかよ……」

 そして、ケレスがそう言った時にはドアは破壊されて中に入れる様になっており、

高杉が突入すると部屋には誰もいなくなっていた。

「どうなってんだ⁉ 点滴が抜かれてる跡があんぞ⁉」

 部屋の異様な状態を見てそう言ったジャップの顔が青ざめると、

「行くぞ‼ マズイ事になった‼」

と、既に時読みを終えてそう言った高杉の顔色も悪く、

「先生⁉ マズイ事って何なんだ?」

と、ケレスは聞いたが、

「話は後だ‼」

と、答えた高杉は部屋の奥へと走って行ってしまった。

 ケレスがそれに付いて行くとエレベーターの前で高杉は止まっていたが、

「くそっ‼ スノの奴、早まるな‼」

と、エレベータの行き先の r という文字を見て怒鳴った高杉は、

エレベーターのドアを、ガンッ‼と叩きつけた。

(スノ? 誰だ?)

 その言葉を聞いたケレスが首を傾げると、高杉は非常階段の方へ走って行き、

「先生⁉ 何処に行くつもりなんだ?」

と、聞いたケレスが高杉を追いかけると、高杉は非常階段を登ろうとしていたので、

「まさか、これで屋上まで登る気なのか⁉」

と、ケレスが非常階段を見上げ言うと、

「黙っていろ。舌を噛むぞ‼」

と、怒鳴った高杉はケレスを右手で抱え、

「せ、先生⁉ 何をする気だ?」

と、ケレスが言ったと同時に、高杉はケレスを抱えたまま階段の踊り場まで飛んだ。

 そして、止まる事無く、踊り場から次の階まで飛び、それを何度か繰り返し、

高杉はケレスを抱えたまま息を乱す事無く屋上まで上り詰めた。

(何て力だ⁉ これが、力の民の力なのか?)

 そう思いながら軽いめまいに襲われているケレスを高杉が離したので、

ケレスはそのまま地面に落ち、

「うわあ⁉ いきなり手を離すなよ‼」

と、怒鳴ったケレスを無視し、高杉は青褪めた顔をして屋上へと進んだので、

「先生! 待てよ‼ 大体、スノって、誰なんだ?」

と、言ったケレスは尻を摩りながら高杉を追い掛けた。

 そして、屋上に行くと空は昼過ぎの晴天で太陽が眩しく、綺麗だった。

 だが、ケレス達の目の前の景色は、それを瞬時に消してしまった。

「サキさん⁉ 何をしてるんですか‼」

 恐怖でケレスはそう叫んだ。

 何故なら、サキはぐったりしているラニーニャを乗せた車椅子と屋上のフェンス越しにおり、

あと少しで落ちる所にいたからである。

 その光景にケレスが混乱していると、

「スノ、やめるんだ……」

と、高杉は静かにサキに話し掛け、

「スノ? 先生、あの人はサキさんじゃないのか?」

と、ケレスが言うと、サキは振り返った。

「なぁーんだ。もう、バレちゃったの?」

 そして、振り返ったサキが高杉を見てそう言うと、

サキの姿は光、硝子が割れてヒビが入った様に砕け落ちた。

 すると、そこにいたのはサキではなく、あの赤い着物の女性と、アンだった。

「お前は、さっきのおばさん‼」

 その二人を見たケレスが目を丸くして叫ぶと、

「ほーんと、失礼なクソガキね……。私は、まだ二四歳よ‼」

と、赤い着物の女性から怒鳴なれ、

「メーー、メメーーー‼」

と、アンからも同じ様に鳴かれ、ケレスは二人から睨まれたが、

「そんな事より、何をする気だ⁉」

と、ケレスが怒鳴り返すと、

「何って、決まってるでしょ? 今から、この女を殺すの」

と、赤い着物の女性から平然と言われ、

「ふざけるな‼ そんな事はさせない‼」

と、怒鳴ったケレスがラニーニャに近づこうとすると、

「どうやって? あんたみたいなク、ソ、ガ、キ、に、何が出来るって、い、う、の?」

と、赤い着物の女性は、クスクス笑った後、聞いてきた。

 そして、その場から動けずにケレスがどうやってラニーニャを救出するのか考えていると、

「スノ。やめてくれ……」

と、言った高杉がケレス達の間に入ってきたので、

(スノ? じゃあ、このおばさんがそうなのか……)

と、思ったケレスが二人を見ていると、

「高杉さん。どうしてそんな事言うの?

 私、あなたの為にもこの女を殺すっていうのに……」

と、言ったスノは切なそうに高杉を見つめたが、

「俺は、そんな事は望んでない」

と、言った高杉はそれを拒絶する様な顔をした。

 すると、スノはクスっと笑い、

「高杉さん……。騙されないで。思い出してもみてよ。

 この女のせいで、どれだけの人が苦しんだと思ってるの?

 この女がいる限り、まだアマテラス様はお怒りなのよ?

 私達がどれだけ大変だと思ってるの?

 それに、高杉さんもこの女のせいで昴に戻れないのよ?」

と、必死に訴え続けたが、

「スノ。俺はそうは思ってない。

 それに、俺は昴に戻るつもりは、ない」

と、それでも高杉からそう言われ、

「どうしちゃったの? 高杉さん……。気は、確かなの?」

と、スノは呆然となりながらもそう聞いたが、

「ああ、確かさ。

 俺はあいつを殺す気はないし、昴に戻る気も、ない」

と、何の迷いもない高杉からの返答に、

「ずっと、待ってるのに……。どうして、そんな事言うの?」

と、スノは俯き、声をふるわせそう言った。

 しかし、

「いいわ。高杉さん! 目を覚まさせてあげる‼」

と、高杉を見て怒鳴ったスノの顔はこの先に起こす事を物語っており、

「馬鹿な事はやめろ‼」

と、それを察したケレスは叫んだが、

「馬鹿な事じゃないわ‼ 見てて、世界が望む事を見せてあげる‼」

と、スノは叫び、ラニーニャをのせている車椅子を押し、落とした。

「姉ちゃーーーーーーーーーーーーーーん‼」

 そして、ケレスの叫びが屋上に空しく響き、離れた所で、ガシャーンと何かの破壊された音がした。

 すると、愕然となったケレスと高杉は動けずにいたが鼻歌交じりでスノがケレス達に歩いて近づき、

「メエ、メエーー、メエ、メェーーーメェ!」

と、その鼻歌に合わせアンも楽しそうに鳴きながらスノに付いて来た。

 そして、スノがケレスを通り過ぎ様とした時、

「姉ちゃんは……、友達、だったんじゃないのか?」

と、俯いているケレスが声を掛けると、

「そうよ……。だから、私が殺してあげたのよ♡」

と、立ち止まって鼻歌をやめたスノからはその言葉と微笑みが返ってきて、

その顔を見たケレスは背筋が氷つき、全身の力が抜け座り込んでしまった。

 それからスノはまた鼻歌を始め、アンもまたそれに合わせて鳴いて屋上をあとにし、

その鼻歌が聞えなくなってもケレスは動けなかった。

 すると、

「おい。行くぞ」

と、しっかりと立っている高杉から声を掛けられたが、ケレスがまだ動けずにいると、

「しっかりしろ‼」

と、高杉から怒鳴なれてしまったが、それでもケレスが動けずにいると、

「一番悲しいのは、あいつだ……。早く、行ってやろう」

と、言った高杉の頬を伝った涙が太陽に照らされ、悲しく光った。

 それを見たケレスの目からも涙が流れ、ケレスは立ち上がって高杉と屋上をあとにしたが、

地上ではケレス達の予想に反した事となっていたのだ。

 ラニーニャをのせた車椅子が落ちた所ら辺に行くと、多くの人が集まっており、

(きっと、あそこだ……)

と、思ったケレスが近づくと、そこにはラニーニャの姿はなく、無残に壊れた車椅子だけがあった。

「どうなってるんだ⁉」

 その光景に驚いたケレスがそう言って立ち尽くしていると、

「酷い悪戯をする奴がいるんだね。病院の高い所から車椅子を落としたんだ。

 全く、あきれてものも言えないよ」

と、集まっている人の中から誰かのそう話す声が聞こえ、

「じゃあ、姉ちゃんは何処に行ったんだ?」

と、拍子抜けしたケレスが言うと、

「それもそうだが、厄介な事になってる」

と、言った高杉は眉を顰めており、

「どういう意味だ?」

と、ケレスが聞くと、

「事故の後にしては検察、警察の奴等来るのが早すぎだ。

 まるでこの事が起きるのを予想していたかの様に、な……」

と、高杉は険しい顔の理由を答えた。

 そして、それは高杉の言う通りだった。

 何故なら、ケレス達を取り囲む様に警察官が近づいて来たかと思うと、

「君達、少し事情を聞かせてくれ」

と、その内の一人にいきなり言われ、

「何のですか?」

と、怪訝な顔になったケレスが聞くと、

「この事件のだよ」

と、その警察官は無表情で答え、

「えっ⁉ でも、俺達、関係ないですよ!」

と、ケレスは訴えたが、

「それがね、君達を見たって言う人がいてね。とりあえず、話を署で聞かせてくれ」

と、言ったその警察官はケレスの言い分を全く聞かなかった。

「そんなぁ……」

 それから何も出来ないままさらに多くの警察官が集まり、ケレス達は完全に包囲されてしまい、

「先生。どうしよう?」

と、言ったケレスは助けを求める顔で高杉を見たが、

「仕方ない。従おう」

と、観念した顔の高杉はそう言って一つ息を吐き、

「でも、先生……」

と、あきらめきれないケレスがそう言うと、

「俺が言った事を覚えてるな?」

と、聞いた高杉は何か言いた気にケレスを見たが、

「先生が言った事って、何だ⁉」

と、叫んでいるケレスが思い出せない内に、ケレス達は連衡されてしまった。

 そして、

(何で、こんな事になってるんだ……)

と、思いながらケレスは取り調べを受けていた。

「だから、さっきも言ったろ! 何度も言わせるな! 俺達は、そんな事をしてない‼」

 ケレスが何度同じ事を言っても、

「でもね。君達が屋上から降りてくるのを見たって人がいるんだ。正直に言ってくれ」

と、捜査員は何度も同じ言葉で返し、

「いい加減にしろ‼」

と、ケレスは何度も同じ事を叫んだ。

 この様に、ケレスは何度も同じ事を聞かれ、それに、何度も同じ事を説明した。

 しかし、堂々巡りで何も変わらなかった。

 それが一日続き、次の日も、同じ事が繰り返された。

(何なんだ⁉ こいつら。一体、何がしたいんだ?)

 ケレスは考えたが答えは出ず、そういった日をまた過ごす事を強いられた。

 だが、三日目から少し取り調べの内容が変わった。

「君のお姉さんが行方不明になってね。何か、知らないか?」

「君のお姉さんについて、教えてくれ」

 この様なラニーニャについての質問が出されてきたのだ。

「姉ちゃんが行方不明なら、探してくれよ‼

 命を狙われてるんだ‼」」

 そう言われたケレスは必死に訴えたが、

「命を狙われる? どうして?」

と、何故か聞かれ、

「理由なんて、どうでもいいだろ‼」

と、ケレスは答えたが、

「言ってくれなきゃ、保護出来ないよ」

と、言われ、また、堂々巡りの取り調べとなった。

 しかもそれが長時間になり、食事も一日二回へと減らされていった。

(何か変だ……。先生の言う通りだ!

 それなら姉ちゃんの事は絶対、教えねえぞ‼)

 ケレスはそう強く心に決め、過ごした。

 しかし、さすがに五日も過ぎればケレスは疲れてきた。

 しかも、睡眠をロクに取らしてもらえず、さらに食事も減らされていた。

(おかしい……。何が目的なんだ?)

 疲労困憊のケレスがそう考えていると、初めて見る一際顔の怖い中年の男性が取り調べに来た。

(また、ゴツイのが来たな……。何とか終わってくれないかな?)

 今のケレスは、これから起こる不可思議な事をまだ知る余地もなかった。

「さて、ケレス君。そろそろ教えてくれ。君のお姉さんについて、ね……」

 その中年の男性は静かにそう話始め、

「断る‼」

と、ケレスは大声で怒鳴ったが、

「君とお姉さんは、いつから知り合ったのかな?」

と、聞いた中年の男性の声は静かなままで、

「だから、姉ちゃんの事を話す気はない‼」

と、それに違和感を覚えつつも、ケレスは大声でそう言った。

「君のお姉さんは、治癒術が使えるね?」

 だが、中年の男性はラニーニャについて、静かに質問を重ねていき、

「それが何の関係があるんだ‼」

と、怒鳴ったケレスの頭にラニーニャの事が浮かぶと、

「他に、どんな力があるのかな?」

と、聞いた中年の男性は、不気味な笑みを見せ、

「お前……、何を聴きたいんだ⁉」

と、その笑みにケレスは警戒したが、

「そろそろだな……。教えてもらおう!」

と、にやりと笑って言った中年の男性はケレスの腕を掴み、記憶見を始めた。

(嘘だろ……。このおっさんも、記憶見が出来るのか⁉)

 ケレスに為す術はなかった。

 ケレスの目の前が真っ暗になると、

「その通りだよ」

と、中年の男性はケレスの心の中に土足で入って来てそう言った。

「お前、何をする気だ⁉」

 その中年の男性に対し、そう言ったケレスは身構えたが、

「これか……。君のお姉さんの情報は」

と、言った中年の男性は笑いながら、ある光る糸をケレスに見せつけたので、

「どういう意味だ?」

と、言ったケレスがその糸を見ると、

「私は優しいから、ヒヨッ子の君に教えてあげよう。

 これは、君の記憶の糸だ。

 見てご覧? この糸が、何所から出ているのかを、ねぇ……」

と、言われ、中年の男性が持っていた糸をケレスが辿ってみると、

その糸はケレスからいくつか出ている糸の内の一つだった。

「な、何だこれ⁉」

 その糸達を見たケレスがたじろぐと、

「これは、君の記憶の一部と言ったらいいのかな?

 簡単に言えば、その糸全部が君の今までの記憶なのだよ。

 その中から、我々に必要な記憶が欲しくてね

 そう……、君のお姉さんの記憶が、ね!」

と、言って、中年の男性は、ニヤリと笑い、

「まさか……。それが、姉ちゃんの記憶、なのか?」

と、その笑みにケレスが不気味さを覚えて息を飲むと、

「そう……。中々、君もしぶとかった。我々も、手を焼いたよ。

 だがそれも、もう終わりだ。もらっていくよ」

と、言って、中年の男性はその糸をケレスから引き抜こうとしたが、

「やめろーーーーーーーーーーーーーーー‼ 絶対、渡さない‼」

と、ケレスは、腹の奥底から叫んだ。

 すると、ケレスの体が緑色に光輝いて中年の男性を弾き飛ばし、

「な、何なんだ⁉ こんなヒヨッ子にこんな事が出来る訳がない‼」

と、叫びながら中年の男性はケレスの心の中から消えて行った。

「やったぁ……」

 そして、フラフラな状態でケレスは元の空間に戻れたが、

「このガキがぁ‼ どんな事をしても、吐かせてやる‼」

と、怒鳴った中年の男性から首元を掴まれてしまい、

(ヤバい……。力が、入らない……)

と、ケレスの意識が遠のくと、部屋のドアを乱暴に開ける音と共に誰かが入り、

ケレス以外の者を次々とのしていくのがわかったが、

(誰だ……?)

と、思いながらケレスは気を失った。

 それからどれだけの時間が経ったのかはわからないが、ケレスは目を覚ました。

 そこは、白い天井が見え、どうやらベットの上の様だった。

「ここは、何処だ……?」

 ぼんやりとする中、ケレスがそう呟くと、

「大丈夫かい? ケレス君。ここは、病院だよ」

と、ニックから話し掛けられ、

「ニックさん⁉ どうして、あなたが?」

と、叫んだケレスがニックの方に顔を向けると、

「すまない。僕達がもっと早く気付いていれば、君をこんな目に合わせなかったんだが……」

と、胸を撫で下ろしたニックだったが眉を顰め、申し訳なさそうに言った。

「こんな目って……」

 ニックのその言葉を聴いたケレスはそう言って、何があったのかを思い出そうとし、

(俺、何か怖い目に合った様な……)

と、考え、

「そうだ‼ あのおっさんは?」

と、何があったのか思い出したケレスはそう叫んで飛び起きた。

 すると、

「彼らは、拘束したよ」

と、少し表情が緩んだニックから報告があり、

「そ、そうですか……」

と、言ったケレスは胸を撫で下ろした後に、

「そう言えば、俺を助けたのって、ニックさんですよね?」

と、思い出した事を聞いてみると、

「気付いてたのかい?」

と、ニックは恥ずかしそうに頭を右手で掻きながらそう言って頷き、

「凄かったです! あの時間で数人を倒して俺を助けてくれたんですから!」

と、そのニックの答えにケレスが頷いてそう言うと、

「一応、僕はヒロの右腕だからね」

と、ニックから相変わらず爽やかに言われ、

「そう言えば、先生は無事なんですか?」

と、思い出した事をケレスが聞くと、

「ああ。彼なら無事さ」

と、笑ってニックは答え、

「そうだよな……」

と、苦笑いしながら言った後にケレスは一番大切な事を思い出した。

「あ……。姉ちゃん……」

 そして、それを思い出したケレスの顔が青褪めると、

「すまない」

と、言ったニックは顔を顰め、

「じゃあ、姉ちゃんはどうなったんだ?」

と、聞いたケレスの顔がニックと同じ様になると、

「行方不明なんだ。必死で、探しているんだが……」

と、ニックは声をふるわせてそう答えたので、

「行方不明って……、どういう事ですか?」

と、ケレスが聞くと、

「それが、その……。

 彼女はあの日、手術室からいなくなってしまったんだ。まだ、一人で動けるとは思えないのだが……。

 それに、彼女を探していると君達が何故か拘束されているという情報が入ってね。

 それで、君達を救出する運びとなったんだ」

といったニックの説明の際中に、ドアをノックする音がした。

 すると、

「ミュラー殿。ちょっと、宜しいでしょうか?」

と、部屋の外から声を掛けられ、

「ああ。何だい?」

と、返事をしたニックがドアを開けると、

「ここでは何ですので……」

と、言われ、首を傾げたニックは部屋を出た

(どうしたんだろう?)

 それからケレスがドアの向こうに聞き耳を立てていると、

「何だって⁉」

と、ドアの向こうから叫ぶニックの声が聞こえ、

部屋に戻って来たニックは深刻そうな顔をしていたので、

「ニックさん? どうしました?」

と、ケレスが聞くと、

「君達を不当に拘束していた者が、一人を除いて、全て殺害された」

と、ニックは淡々と答えた。

「殺されたって⁉」

 そして、驚いたケレスはそれ以上何も言えず、

「すまないけど、僕はこれで失礼する」

と言って、ニックは部屋を出て行ってしまい、

「何が起こってるんだ?」

と、ニックを見送ったケレスがそう言うと、

「何かが起こってるのは、確かだな」

と、言いながら高杉が部屋へと入って来た。

「せ、先生‼ 良かった!」

 その高杉の無事な姿を見たケレスの表情は晴れそう言うと、

「お前も無事で良かった」

と、高杉は当然だといった顔で頷いた後、そう言って、

それからケレス達は互いに何があったのかを話し合う事にした。

「先生は、何もされなかったのか⁉」

 そして、高杉から話を聴き終わったケレスがそう言うと、

「ああ。俺からはあいつの情報は得られないと相手は思ったんだろう。

 そして、足止めをしたつもりだろうな」

と、高杉は分析した事を話し、

「そうか……」

と、ケレスは言った後に、ケレスの事を話した。

 すると、

「そうか。良く、がんばったな」

と、高杉は言ってくれたが、

「でも、俺……。大した事、出来なかったんだ」

と、言ったケレスが肩を落とすと、

「いや。大したものだ」

と、言って、高杉はケレスの頭の上に右手を置き、

「しかし、そいつ等は何者なんだろうな」

と言った後に、ケレスの頭の上から手を離すと、

「そうなんだ! そいつらの内、一人を除いて殺されたらしいし‼」

と、ケレスは鼻息荒く、その後の経過を話したが、

「まあ、お前に記憶見の様な事をした奴が生き残ったんだろう」

と、冷静に高杉に言われ、

「だろうな! あいつ、かなり悪そうな顔をしてたし‼」

と、言ったケレスの鼻息はさらに荒くなったが、

「顔はさておき。そいつ等は、どうにかしてお前の中のあいつの記憶を奪いに来たみたいだな」

と、言った高杉は落ち着いたままだった。

「何で、そんなに姉ちゃんの記憶が欲しかったんだ?」

 それからケレスの鼻息が少しだけ落ち着いたので、そう聞くと、

「さあな。だが、そいつ等と関係あるかはわからんが、やっかいな事になってる」

と、高杉はある事を話しだした。

 高杉の話によると、ケレスは解放されてから一日間眠っていた。

 その間、高杉はラニーニャの行方を追っていた。

 そして、例の車椅子を探ろうとしたが、それは出来なかった。

「どうして?」

 高杉の話を遮り、ケレスがそう聞くと、

「その車椅子が、後生大事にしまわれていてな。持ち出し禁止だそうだ。

 俺がどうにか出来る問題じゃないんだ」

と、不服そうな顔で高杉は説明し、

「そんなのおかしいだろ‼」

と、ケレスが怒鳴ると、

「そうだな。何かの陰謀があるだろう。

 それも、一つじゃなさそうだ」

と、高杉はフンと鼻息を出した後、冷静に言ったので、

「こうしちゃ、いられない‼」

と、何かを思いついたケレスはそう言いながらベットから降りたが、

「どうするつもりだ?」

と、高杉から聞かれ、

「決まってんだろ! あの現場に行って、何か残ってないか探すんだ‼」

と、答えたケレスが病室を出様とすると、

「それは、とっくに俺がした。そして、何もなかった。

 揚げ句の果てに、あいつがいた病院は立ち入り禁止だ」

と、高杉から、またもや冷静に言われ、

「だああぁぁ! どぉするんだ‼」

と、叫んだケレスが頭を抱えると、

「そうだな……」

と、言った高杉は難しい顔で考えだした。

(先生でも、どうする事も出来ないのか?)

 そんな高杉をケレスは見守っていたが、

「おおぉ‼ こんな所にいたのか‼」

と、大声で話す男性が部屋に入って来たが、その男性を見て、

 何だ⁉ この太ったおっさんは‼

と、率直にケレスは思った。

 その男性は、年齢、身長は高杉と同じくらい。

 眼鏡を掛け緩いパーマがかかった黒髪の単発頭で、瞳は黒色、褐色の肌を持っていた。

 しかし、不精髭を生やし腹が出ていたので、中年太りと言う言葉がピッタリ似合う体系だった。

「スクミード⁉」

 すると、その男性を見た高杉はそう叫び、

「何だぁ、何だ? その辛気臭い顔は?」

と、スクミードと呼ばれた男はそう言いながら何かの紙袋を高杉に見せ、

「ほれ、出所祝いだ‼ 食え、食え!」

と、言った後、スクミードは、ふぇふえと変わった笑い方で笑った。

(ふぇふぇっふぇっって、何て変な笑い方なんだ……)

 その笑い声を聞かされているケレスが引いていると、

「おっ? こちらのオチビさんは……」

と、言った後にスクミードは青褪め、

「ま、まさか……。高杉の子供かぁ‼」

と、一歩下がる程、叫んだが、

「そんな訳ないだろ」

と、高杉から溜息交じりに言われ、

「そうだよな。独身のお前に子供がいる訳ないわな! ふぇっふぇっふぇっぶぇふぇっ!」

と、言ったスクミードはまた変わった笑い方で笑ったので、

(何なんだ……。この人は⁉)

と、ケレスがスクミードを奇異の目で見ていると、

「そんなに謙遜しなさんな。僕は、レイク・スクミード!

 こう見えても、国家特殊科捜研の室長をやっとる者だ!」

と、胸を張ると言うより、腹が張っているスクミードから自己紹介され、

「え、えぇぇーーーーーーーーーーーっ‼

 あ、あ、あなたみたいな人が、特殊科捜研の室長⁉」

と、ケレスは眉を顰めて絶叫してしまった。

「そんな言い方しなくても……」

 すると、落ち込んだスクミードはその場に蹲る様に座り混んでしまい、

「すみません。つい、本音が……」

と、ケレスが言ってしまうと、さらに落ち込んだスクミードは床に、のの字を書き始め、

(どうしよう……。俺、この人を傷付けた⁉)

と、憧れとのギャップに動揺したケレスは焦ったが、

「仕方がないだろ? デスクワークが多いんだよ。それに、かみさんの料理が美味すぎるんだ。

 ついつい食べすぎちまう。ふぇっふぇっっふぇっぶぇっつふぇっ‼」

と、立ち直ったスクミードはそう言って笑った。

 しかも、その笑いは長かった。

 ふぇふぇふぇっと笑い続けるスクミードの前でケレスが唖然としていると、

「気にするな。こいつは、変人だ」

と、言った高杉からは溜息が漏れたが、

「何の用だ?」

と、怪訝な顔でスクミードに聞くと、

「そんな言い方するなよ。僕がいなかったら、あなた達、まだ檻の中だよ?」

と、答えたスクミードは笑うのをやめ、持参した紙袋を開け、

「さあ、食え 食え! 折角のハンバーガーが冷めちまう!」

と、言ったスクミードはハンバーガーを一つ取り出し、ガツガツと豪快に食べだした。

「こりゃ、美味い!」

 そんなスクミードは美味しそうにハンバーガーを食べながらそう言ったが、

「あの、スクミードさん。その、さっきの、あなたがいなかったらってどういう事ですか?」

と、ケレスが申し訳なさ気に聞くと、

「ん? 僕が国に報告したんだよ。あなた達が妙な事になってるってね」

と、答えたスクミードは最後の一口のハンバーガーを口に入れ、

「ダブルもいいが、やっぱ、チーズだな! ふぇっふぇっふぇっ!」

と、言って、またハンバーガーを取り出して食べだしたので、

「あなたが報告してくれたんですか⁉」

と、事実を知ったケレスが驚いてそう叫ぶと、

「だからどうした? そんな事だけを言いに来たんじゃないだろ?」

と、言った高杉がスクミードを睨むと、スクミードはハンバーガーを食べるのをやめた。

 そして、

「そうだね……。旧友として、忠告しに来たんだ」

と、真面目な顔になったスクミードがそう言って高杉と視線を合わせると、

「何のだ?」

と、怪訝な顔のままの高杉から聞かれ、

「あなたの所のホフマンちゃん。もう、あきらめなさいな」

と、スクミードは真顔のまま答えた。

(ホフマンって、姉ちゃんの事か⁉)

 その言葉を聴いたケレスに衝撃が走った。

 ラニーニャの祖父、うさ爺の本当の名は、ハーゼ・ホフマンである。

 だから、ラニーニャは必要な時、ホフマン姓を名乗っていたのだ。

「どうしてそんな事を言うんですか! 俺、姉ちゃんをあきらめたりしません‼」

 そして、スクミードにそう言いながらケレスが詰め寄ると、

「あなたは、ホフマンちゃんの弟かね?

 でも、あそこは他に姉弟はいないはずだろ?」

と、スクミードから聞かれ、

「血は繋がってないけど、大切な姉ちゃんなんだ‼」

と、肩を上げたケレスが答えると、

「じゃあ、なおさらだ。あきらめなさいな」

と、スクミードは冷たく言い捨て、

「何であなたなんかにそんな事を忠告されなきゃいけないんだ‼」

と、ケレスはスクミードに言い寄ったが、スクミードはハンバーガーをまた食べ始めてしまい、

(何なんだ、このデブおっさんは‼)

と、苛立っているケレスの頭に血が登って行ったが、

「スクミード……。俺は、あいつを見捨てたりは、しない。

 だが、旧友の忠告、感謝する」

と、高杉は笑って静かに感謝の意を伝えた。

 すると、スクミードはハンバーガーを食べる速さを上げ、

「やめときなよ。変なんだ……。ホフマンちゃんに関して、異様な事ばかり起きてる。

 それに動いてるのは、察だけじゃない。軍のヤツ、そして……」

と、言った後、言葉を詰まらせてハンバーガーも喉を通らなくなり、

「昴の奴等だろ?」

と、鼻で笑った高杉から詰まらせていた事を言われると、

「わかってるじゃない……」

と、スクミードは寂しく呟き、

「それでも、俺達はあいつを見捨てない」

と、高杉は静かに自身の決意を伝えた。

「このわからず屋めぇ‼」

 すると、スクミードは、残りのハンバーガーを一気に口に入れた後、大声で怒鳴り、

「もう知らんからな‼」

と、さらに大声で怒鳴ってハンバーガーの入っていた包装紙を握り潰し、それを高杉に投げつけ、

「ゴミの分別しなよ! それと、僕は、持ち出したりはしてない。持ち込んでないだけ‼」

と、言い残し、ドスどすと足音を鳴らしながら部屋を出て行った。

「何なんだ! あの太っちょおっさんは! 意味わからない‼」

 そして、そう怒鳴ったケレスはドアも閉めないスクミードを舌を出して見送ったが、

「あいつめ……」

と、呟いた高杉は、ふっと笑い、スクミードの背に頭を下げたので、

「先生⁉ 何をしてんだ‼」

と、高杉のその行為に驚きのあまりケレスが叫ぶと、

「話はこれを食べた後だ」

と、言った高杉はスクミードが持参した紙袋を開け、ハンバーガーを取りだして食べだしてしまい、

「先生‼ そんな物、食べてる場合じゃないだろ‼」

と、ケレスが怒鳴ると、

「いいから食うんだ」

と、言った高杉から最後のハンバーガーを渡され、

(何なんだ……。先生?)

と、思いながらもケレスはハンバーガーを食べだした。

 ケレスのハンバーガーは、ふんわりとしたバンズの中に、ぷるぷるした目玉焼き風の卵、

その下に、カリカリベーコン、その下に、肉厚のパテ、

さらにその下に、シャキシャキしたレタスが挟まっていた。

 それ等に、あっさりとしたソースが絡まり、ボリュームがあるわりに、軽く食べる事が出来た。

「で、話は?」

 それを食べ終えた後にケレスは聞いたが、

「話は俺の家に帰ってからだ」

と、意味深な顔の高杉は答え、それに従ったケレスは高杉の家へと向かった。

 それから高杉の家に着くと、

「これを見ろ」

と、高杉から小指の爪の先ぐらいの大きさの何かの金属の破片を見せられた。

「これは?」

 それを見せられたケレスが首を傾げると、

「あの車椅子の破片だろうよ」

と、笑いながら高杉は答え、

「えっ⁉ だって、それは持ち出せないし、残ってなかったんじゃないのか?」

と、困惑したケレスが言うと、

「スクミードの奴が上手く手に入れたみたいだな」

と、言った高杉は、ふっと笑い、

「そんな事して、あの人、大丈夫なのか?」

と、スクミードを心配したケレスは言ったが、

「大丈夫だろ。あいつのあの言い方からして、規律違反は侵してない」

と、高杉は冷静に言い、

「そんなのでいいのかよ?」

と、言ったケレスにはまだスクミードを心配する心が残っていたが、

「そうやって、上手く乗り超えてきてるから、あいつは今の立場にいれるんだ」

と、言った高杉には残ってはなく、

「そんなもんなのか⁉」

と、大声で言ったケレスが苦笑いをすると、

「さて。やるか」

と、言って、高杉が時読みを始めようとしたので、

「ちょっと待て! 俺にも見せてくれ‼」

と、慌てたケレスが言うと、

「いいだろう。但し、俺の声に耳を傾けておけ」

と、高杉は言った後、

「始めるぞ」

と、言って、すぐに時読みを始めた。

 そして、ケレスは心の準備が出来ないまま高杉の右肩に自身の両手を置き、

瞳を閉じて読心術をしたが、その瞬間ケレスの目の前の光景は変わった。

 ここは処置が終わった後の時だろうか。

 ラニーニャはベットに横たわり静かに眠っていた。

 部屋には悪い事にラニーニャの他に人はおらず、そこにサキに化けたスノが入って来た。

(あいつ、スノのおばさん⁉)

 そのスノを見たケレスがそう思うと、

 『サキ。ありがとう。私、もうどこも痛くないよ。あなたに感謝してもしきれない。

  早く元気になるから、また遊びに行こうね』

 と、ラニーニャの声が聞えたので、

(ね、姉ちゃん⁉ そいつは、サキさんじゃない!逃げろ‼)

と、焦ったケレスが叫ぶと、

「静かにしろ! こんな事ぐらいで動揺してどうする!」

 と、高杉の怒鳴り声が聞えた。

ー☆ー

(へっ? 先生?)

「心を乱さず、事の成り行きを感じるんだ」

(わかった……)

 心の中で高杉と話たケレスは事の成り行きを感じた。

 それは、サキに化けたスノが徐にラニーニャに近づく所から始まった。

 『サキじゃない……? あなたは、洲之スノちゃん⁉』

 「さあ、行こうか? あなたの行くべき場所へ……」

 ラニーニャの声がそう聞こえたが、

サキに化けた洲之がそう言って、ラニーニャをベットから車椅子へと移動させた。

 『洲之ちゃん。やめて。お願い!』

 そのラニーニャの必死の訴えも空しく、洲之はそのままラニーニャを車椅子で運んで行き、

エレベーターに二人で乗ると、洲之は rのボタンを微笑みながら押し、

 「今日は、天気がいいよ。あなたの最期に相応しい日だね♡」

と、静かに言ったが、その声は、まるで獲物を追い詰めた狩人の声の様に嬉しさを押し殺していた。

 『洲之ちゃん。どうしてこんな事するの? 私達、友達だったじゃない‼』

 そして、この最後のラニーニャの声が聞こえると同時に洲之は、話し出した。

 「私ね……。ずっと、あんたなんか、大嫌いだったの

  だってぇ。何であんたなんかがダーナだったの? おかしいとは思ってた、ケ、ド」

と、洲之が言い終わると、エレベーターのドアが開き、徐に洲之は車椅子を押して歩き出した。

 「それにねぇ……、あんたのせいで、高杉さんの人生、壊しちゃったんだよ?

  どうしてくれんの?

  さらに、あんたって奴は、まだ高杉さんに付きまとって、ウザいとしか言えないよねぇ?

  私、ずっと、高杉さんを待ってたんだよ?

  なのにさぁ……。あんたが高杉さんを騙しちゃってるから、戻れないみたいなの。

  どうしてくれんのよ‼」

 すると、そう言った洲之は力を強め車椅子を押し出し、

 「これは、死ぬしかない、よね? 友達の私に懺悔する気があるんなら、さぁ……」

と、言いながら背筋も凍る冷酷な顔で微笑み、屋上のフェンスのドアを開け、

 「ほーら。アマテラス様もご機嫌みたい♡ 良い天気でしょ?」

と、言うと、屋上の晴天の景色の様な満面の笑みになり、

 「さぁ、死んで、罪を償いなさい! それしか方法はないの‼

  だって、あんたは生きてるだけで罪なんだからぁ! そして、私に高杉さんを返して‼」

と、言った時、ケレス達が屋上に到着した。

 それからケレスは見たくない光景をまた見る事となった。

(あんなのを見たくない。やめてくれ‼)

「しっかりしろ! 過去は変えれないんだ‼」

(先生……)

 それからケレスが瞳を閉じた瞬間、洲之がラニーニャを突き落とした。

 すると、ケレスの目の前の光景も足場が急に無くなった感覚で落ちていった。

(うわあああぁぁ! 落ちぃるぅぅ‼)

 そして、ケレスが心の中で叫ぶと同時に優しい風がラニーニャを包み込み

 「ダーナの者よ。きっと、この様な事を、貴殿は望まないと思うが、私は貴殿を失いたくない。

  許してほしい。どうか、生きて……」

と、言ったグラニューが風と共にラニーニャを何処かへ運んで行った。

「姉ちゃーーーーーーーーーん‼」

ー★ー

 車椅子から離れ行くラニーニャにケレスが手を伸ばして叫ぶと、ケレスは元の空間に戻っていた。

「先生⁉ 何で、やめたんだ‼」

 そんなケレスは目の前にいた高杉に怒鳴ったが、

「このままいったら、地面に落ちるのを見るだけだが?」

と、高杉から冷静に言われ、

「そうだけど……」

と、言ったケレスの眉が下がると、

「しかし、あの馬の精霊は一体、何者だ?」

と、言った高杉は首を傾げたので、

「あれは、グラニュー様だ。ニョルズの守り神だよ。

 姉ちゃんが代替わりを成功させて、生まれたんだ!」

と、ケレスは高杉にグラニューについて説明したが、

「何だって⁉ 詳しく聞かせろ‼」

と、取り乱した高杉から詰め寄られ、

「ああ……。わかった」

と、ケレスは、ラニーニャと再会してからの事を全て話した。

 すると、

「そうなると、やる事は一つだ」

と、その話を聴き終えた高杉は険しい顔になったがそう言って大きく頷き、

「やる事って、何をすればいいんだ?」

と、ケレスがその高杉を真直ぐ見つめ聞くと、

「昴に行って、一六年前の真相を確かめる。

 そうする事で、あいつが災いじゃない事を証明し、

昴の奴等に下らん事をやめさせる事が出来るかもしれん」

と、高杉はこれからやるべきことを示した。

(一六年前の真相か!)

 そして、高杉の言葉を噛みしめたケレスは大きく頷き、

「先生。俺も一緒に行くからな!」

と、自身の覚悟を伝えると、

「構わんが、何が起こるかわからんぞ?」

と、高杉からその覚悟を確認され、

「大丈夫、俺、絶対それを証明してやるぜ!」

と、覚悟を示したケレスは高杉と昴に行く事となった。


 ケレス君!

 いやぁ、今回も大変すぎたね!

 すまんな。

 サスペンスの見すぎの私の趣向が出てしまったのだよ!

 にゃはは!

 それに、あの変な笑い方をする人の相手も大変でしょう?

 君には、私と同じ苦労をさせたかったのよ!

 でも、いいでしょ?

 君には多くの味方がいるじゃない!

 ジャップ、高杉さん、それに……。

 あっ⁉

 危ない、危ない!

 これは、次のお話までの秘密だった♪

 そんな次の話のタイトルは、【ケレス、世界の真相を知る旅へ出発する】だ!

 うわぁ……。

 次回話からは、ちょいグロい所がありますので、気を付けてくださいねぇ。



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