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番外編 龍宮 アルトの憂鬱 4

 アルタルフにある廃墟で、アルト達は、真っ白な猪の霊獣を従えた紫髪の少女と出会う。

 その少女と、宝珠の国の皇女は何らかの因縁がある様だが、アルト達はフェンリル山にある、

その少女の家へと招かれる。

 そこでアルトの眉間にしわが寄ってしまう出来事が続き、アルトの心は荒んでしまったが、

 紫髪の少女の霊獣、ヨルの願いを聞くと、さらに、アルトの心は荒んだ。

 だが、アルトは自身で出来る事をし、ヨル達に寄り添っていると、

点と、点が繋がり、アルトはある真実に辿り着く。

 アルト達がいる部屋に紫髪の少女が両手に物を抱えて入って来たが、

「あ、あなた⁉ 何でここにいるの‼」

と、宝珠の国の皇女は怒鳴りつけた。

 すると、紫髪の少女は持っていた物を落とし、逃げ様としたが、ラニーニャがそれを停め、

色々と話を聞き出した。

(何やら宝珠の国の皇女と、あの少女は何かあったみたいだね。

 それにしても、あんな風に怒鳴ったら聞ける事も聞けなくなってしまうのに……。

 全く、宝珠の国の皇女はもっと考えて行動してほしいものだね!)

 そんな風にアルトが冷ややかな目で宝珠の国の皇女を見物していると、

「そのコ、お腹、空いてるんじゃないかと思った。だから、果物と、牛乳を持って来たんだ」

と、紫髪の少女は下を向いたまま理由を話し、

「そう、わかった。じゃあ、これ、クリオネにあげるね!」

と、言ったラニーニャは拾った果物を見つめ、

「アルト。この果物と牛乳をクリオネにあげてもいいかな?」

と、アルトにその果物を見せながら聞いてきた。

 紫髪の少女が持って来た果物は、どうやら柿の様だった。

「大丈夫とは思いますが……。まず、僕が食べても宜しいでしょうか?」

 そして、アルトがその柿を見てそう言って一つ息を吐くと、

「ウェイライちゃん、どうかな?」

と、ラニーニャは紫髪の少女に視線を移して聞き、

「いいよ」

と、紫髪の少女は俯いたまま呟く様に答えた。

 それからアルトがその柿の毒見をすると、その柿はあまり甘くはないが食べれたので、

「まあ、大丈夫でしょう。この果物にはクリオネ君にとって大切な栄養がありますから」

と、アルトは言ったものの、

(栄養だけではクリオネ君は回復しないのだが……)

と、内心はそう思っていたが色々と支持すると、

それをラニーニャがその通りに行いクリオネに柿と牛乳を与えた。

 クリオネにそれ等を食べさせ終え、

「クリオネ、おいしかった?」

と、ラニーニャが聞くと、

「ワン」

と、クリオネは一度だけ鳴き、その鳴き声は少しだが元気そうに聞こえた。

(まあ、これが限界だね。

 早くこの国から帰還してマナの豊富なものを与えなきゃ、クリオネ君は危ないな。

 でも、宝珠の国の皇女は自分の霊獣なのにどうして世話をしてあげないんだ?)

 そう思ったアルトは宝珠の国の皇女を怪訝な目で見ていたが、

「もしかして、リンゴをあげてって言ってるのかも!」

と、言ったラニーニャがリュックからリンゴを取り出すと、クリオネは体を起こし、

リンゴをほしがる様に、ヒューンと鼻で鳴きだした。

(まだ食べれるのかい? ちょっと、食べ過ぎだとは思うけど……。

 まあ、ここまで走って来たから大丈夫だろう)

 そのクリオネをアルトが観察していると、いつの間にかラニーニャの腰付近に真っ白なウリ坊がおり

その真っ白なウリ坊はリンゴを盗ろうとしていた。

 それを紫髪の少女は止めたが、ラニーニャはリンゴを半分に切り分け片方をクリオネに、

もう片方をその真っ白いウリ坊に与えた。

(先輩、それをあげてしまったら……)

 それを見たアルトは複雑な気持ちになり、少し口が開いてしまった。

 そんなアルトの気持は露知らず、

「このコ、ウェイライちゃんの霊獣? かわいいね」

と、言ったラニーニャは無邪気に笑い、

「はい。私の霊獣、ヨルちゃんって言うの」

と、紫髪の少女は顔を上げ言って笑った。

(ふーん……。彼女は、ヨル君というのか。恐らく、彼女はフヴェリゲルミル族。

 この地であんなに美しい姿でいられるとは、驚きだ!)

 そして、アルトが、じっくりヨルを観察していると、

「おっと! クリオネ。元気になったんだね!」

と、クリオネがラニーニャにじゃれてきたのでラニーニャはそう言い、

(えっ⁉ どうなっているんだ? クリオネ君は、もう回復したとでも言うのか⁉

 信じられない‼ もしかして、これも、アマテラス様の御加護のおかげなのか⁉)

と、目の前の後継に動揺したアルトの口が、ぽかんと開くと、

「クリオネ‼ そんな事しちゃ、駄目‼」

と、宝珠の国の皇女が怒鳴り、クリオネをヨルから引き離して紫髪の少女を睨んだので、

(全く……。ああうるさいんじゃ、考える事も出来ない‼

 しかし、余程の事があったんだろうけれど、あそこまでの態度をしなくとも良いだろうに……)

と、苛立ったアルトの口が、ギュッと閉まり、眉間にしわが寄りかかると、

「まあまあ、ミュー。落ち着けって! クリオネは見つかったんだし。

 それよりどうやって宝珠の国に帰るか?」

と、ジャップが言い出し、

「そうだね。海は氷が熔けている可能性が高いから海は使えないだろうね」

と、アルトは自身の気持ちを落ち着かせる様に冷静に分析した事を言うと、

「なあ、ウェイライ。この辺に街はあるか?」

と、ジャップが紫髪の少女に聞いた。

 すると、

「ない」

と、紫髪の少女は即答し、

(当然だろう。ここが何所かわかってないのかな?)

と、呆れたアルトが冷ややかにジャップを見ていると、

「そっか。どうしたもんかな……」

と、言ったジャップが後ろ頭を掻いて苦笑いをすると、

「街は、遠くにならある。

 でも、街に行くにはフェンリル山を越えてそれから歩いて二日はかかる」

と、紫髪の少女から教えられ、

「マジか⁉ そんなにかかるのか‼ はあ、あと何回野営しなきゃいけないんだ……」

と、その方法を聴いたケレスが叫んで大きな溜息をつき肩を落とすと、

「この国で野営なんて無理だ‼ 昼でも、夜でも魔物が出る。

 それにお前達の様な服ではフェンリル山で凍死するぞ‼」

と、顔を上げた紫髪の少女に当たり前の事を教えられ、

「そんな⁉ どうしたらいいんだ?」

と、絶叫したケレスが、両手で頭を抱えると、

「ウェイライちゃん。私達、宝珠の国に帰りたいの。何か方法知らないかな?」

と、ラニーニャが優しい声で紫髪の少女に聞くと、

「ある」

と、紫髪の少女は頷いてそう答え、

「ウェイライちゃん、その方法を教えてほしいんだけど……」

と、ラニーニャから頼まれると、

「いいよ、お姉さん。付いてきて」

と、紫髪の少女は快く引き受けてくれた。

(さすが、先輩だ。宝珠の国の皇女は見習わないといけないね!

 だが、あの少女は何所に僕達を案内する気なんだ?

 それに、例え一時的に僕達が助かったとしても、ここは剣の国って事には変わらない。

 面倒な事になりそうだ……)

 そして、アルトに一抹の不安が過ったが紫髪の少女は部屋を出て行き、

ラニーニャがそれに付いて行こうとした時、

「お姉ちゃん⁉ あんなコの言う事、信じていいの?」

と、宝珠の国の皇女の声が響いた。

「大丈夫だと思うけど?」

 それに対し足を止めたラニーニャは平気な顔をして宝珠の国の皇女を見て言ったが、

「何でそんな事を言えるの? あのコはクリオネが警戒してたんだよ?

 また変な事をしたり、嘘をついてるかもしれない‼」

と、宝珠の国の皇女は険悪な顔で訴えたので、

(やはり、宝珠の国の皇女とあの少女の間には何かあったみたいだね)

と、アルトが革新すると、

「今はクリオネは警戒してないよ。仲良くしたそうだったし。

 それに、あのコは嘘をついてないと思う。信じていいと思うよ」

と、ラニーニャは宝珠の国の皇女の意見を否定した。

「お姉ちゃんは何も知らないからそんな事を言えるんだ‼

 クリオネだって、私の方が気持ちがわかるし。私、あんなコなんて信じないから‼」

 そのラニーニャを宝珠の国の皇女はさらに険悪な顔で睨みつけて怒鳴り、

その言葉を聞いたアルトは心の中で何かが燻っているのがわかった。

(宝珠の国の皇女は言い過ぎじゃないか? あんな風に言ったら、先輩が気の毒だ‼

 それに、クリオネ君は先輩の言う通り、ヨル君を警戒等していないのに……。

 全く、少しは状況を理解するべきだね‼)

 そして、アルトの心の中で何かが煮えたぎってきたが、

(まあ、僕が言い過ぎだなんて言える立場ではないけど……)

と、心の奥にある何かもやもやした気持ちがそれを冷やしていった。

 それからアルト達は紫髪の少女の祖父の家を出た。

 すると、そこにはアルト達全員が乗っても大丈夫な大きさに変化したヨルがいた。

(へえ……。あの少女も霊獣を扱えるんだね)

 そのヨル達を見たアルトが感心していると、

「うわあ! 温かくて、ふわふわしてるんだね!」

と、楽しそうに言ったラニーニャと たぬてぃがヨルの上に既に乗っており、

「先輩⁉ いつの間に……」

と、アルトは少し呆れたがヨルの傍に行った。

 すると、

「ははっ。姉ちゃん、意外と積極的だな。さて、俺達も乗るか?」

と、ケレスが宝珠の国の皇女に言ったが、

「私、乗らない」

と、宝珠の国の皇女は不貞腐れた言い方をし、ヨルに乗る事を拒絶した。

(何を言っているんだ⁉ 宝珠の国の皇女はここが何処だかわかっているのか?)

 その宝珠の国の皇女の態度を見たアルトの口がヨルの隣で開いたまま塞がらずにいると、

ケレスが宝珠の国の皇女に無茶ぶりをされ続け困っていた。

(さて、どうするか……。朱雀達は、疲れている。

 それに、恐らくこれから向かう場所は、フェンリル山だ。

 そこに行くとなれば彼等だけでも進むのが大変なのだが……)

 そして、アルトはケレスに同情しつつ、これからの事を考えていたが、

「よっと、オルト、頼むぞ! ケレスも、ララに乗るんだ!」

と、ジャップはオルトに乗り、そう言った後、アルトを見つめてきたので、

(なるほど、そういう事か……)

と、アルトがジャップの意思を汲み取り、表情を緩めると、

「アルト、姉貴を頼んだ!」

と、ジャップにもアルトの意思が通じた様で、そう言ったジャップの表情も緩み、

「君に言われなくても、わかってるさ」

と、アルトは言った後、ヨルによじ登り、

「ヨル君、頼んだよ」

と、言って、ヨルを優しく撫でた。

 すると、ヨルはこの一帯に轟く鳴き声を上げ、進み出した。

(さすが、フヴェリゲルミル族だ。この地を意図も簡単に進めるなんて。

 しかし、朱雀達は大丈夫だろうか?

 全く、何を拗ねているのかはわからないけれど……。

 宝珠の国の皇女は朱雀達の事を考えてほしいものだね!)

 そして、アルトがヨルの上で色々と考えていると、

「アルト、ごめんね……」

と、いきなりラニーニャから謝られ、

「どうして先輩が謝るんですか⁉」

と、驚いたアルトがそう言いながらラニーニャを見ると、

「だって、アルトは私が来たから一緒に来たんでしょ?

 迷惑を掛けちゃったっていうか、その……」

と、ラニーニャは申し訳なさそうに言ったが、

「そんな事を気にしていたのですか? 僕は迷惑だなんて思っていませんよ?

 それに、先輩がどうこう言わなくとも、ジャップから無理にでも連れて来られたでしょうし」

と、言ったアルトが、ふっと笑うと、

「アルト……。アルトは、本当に優しいんだね。ありがとう」

と、言ったラニーニャに穏やかに見つめられてしまい、

「せ、先輩⁉ そ、そんな事は、な、ないですよ……」

と、言ったアルトの目は泳ぎ、指は勝手に遊び出してしまった。

 すると、

「あーーっ! お姉さんと、青色お兄さん、顔が、真っ赤だ‼」

と、叫んだ紫髪の少女は、キャッキャッと笑い出し、

「な、何を言っているんだい⁉」

と、怒鳴った顔が赤いままのアルトの目と指が止まると、

「わあ! 青色お兄さんたら、照れてる‼」

と、言って、紫髪の少女はさらに揶揄ってきたので、

「いい加減にしないか‼ 大人を揶揄うな‼」

と、アルトが少し背伸びして注意したが、

「ごめんなさーい!」

と、紫髪の少女は適当に謝ってきた。

 その紫髪の少女がまだ、キャッキャッと笑い続ける中、

「もう、ウェイライちゃん! そんなに揶揄わないで‼

 アルトは私なんかには不釣り合いなくらい、凄い人なんだよ?」

と、顔が赤いままのラニーニャが顔を顰めて紫髪の少女を見て言うと、

「そうか? お姉さんと、青色お兄さんは、とても似合ってるぞ?」

と、紫髪の少女はそう言って口を窄めて瞬きしたので、

(全く‼ 彼女は何を考えているんだ⁉

 それに、先輩だって僕より自分の方が凄い癖に‼)

と、アルトがやきもきしていると、

「おーい、ウェイライ。悪いが、俺達もヨルに乗せてくれないか?」

と、ジャップに言われ、

(そろそろフェンリル山か……。この辺が妥当だろうね。

 さすが、ジャップ。こういう事には気付くんだから)

と、思ったアルトがジャップを見て一つ頷くと、

「いいよ、お兄さん」

と、紫髪の少女がヨルの足を止めさせた。

 そして、

「ケレス、ミュー。お前達、ヨルに乗り換えるぞ!」

と、言ったジャップがオルトから降りたが、宝珠の国の皇女はまだヨルに乗る事を拒んでいた。

(全く……、いつまで駄駄を捏ねているんだい?

 これ以上、朱雀達に負担を掛けさせても良いと言うのか⁉)

 その宝珠の国の皇女に呆れたアルトの眉間にしわが寄ると、

「ミュー、兄貴の言う通りだ‼ ララ達にこれ以上負担をかけさせられない‼

 みんなで宝珠の国に帰る為にはそうするのが一番だ‼」

と、ケレスの説得で、宝珠の国の皇女は嫌々ながらもヨルに乗り換えた。

 それから、

「いくぞ、少し急ぐから、しっかり捕まっていろ!」

と、紫髪の少女がヨルに急ぐ様に命令するとヨルはスピードを上げ走り出し、

それに朱雀達は遅れずに付いて来ていた。

(ああやって見るとケレスも大変だね。僕にあんな我儘な妹がいなくて本当に良かったよ!)

 そんな中、朱雀達への心配がなくなったアルトの眉間のしわが無くなると、

「本当だ! ララとは違う温かさだ⁉」

と、ケレスが不思議がったので、

「ヨルちゃんの体毛は寒さを弾き返すんだ!」

と、紫髪の少女が教えたが、

「寒さを弾き返す?」

と、ケレスがわからない様だったので、

「ヨル君は、フヴェリゲルミル族だ。

 彼女の一族は極寒の寒さを生きぬく為、体毛がそれに適応し、

温かいだけでなく寒さを受け入れない様に進化している。

 だから、彼女達の毛は剣の国では大変重宝されている」

と、アルトがケレスに視線を移して説明すると、

「ほう、さすが博識のアルト! と言うか、ヨルは雌なのか⁉」

と、ケレスは感心したが驚いていたので、

(彼は本当に失礼だね……。もう少しデリカシーを持たないと、いずれ失敗するだろうね)

と、呆れたアルトの口から溜息が漏れると、

「そうだ! ヨルちゃんは女のコだ。だから、特に毛は ふわふわしてる!」

と、紫髪の少女から言われ、

「ははっ! それはわからなかった。何にせよ、温かいな。ミュー?」

と、ケレスが宝珠の国の皇女に話を振ってしまい、

「クリオネだって女のコだよ‼

 しかも、炎のマナのおかげでそんなコよりずっと、温かいんだから‼」

と、宝珠の国の皇女は怒鳴ってクリオネを抱きしめ剥れてしまったので、

(ほら、思った通りになってしまったじゃないか……。

 今は宝珠の国の皇女はあの少女を毛嫌いしていたというのに……)

と、それを見て瞳を閉じたアルトの口からまた溜息が漏れた。

 それでも紫髪の少女の好意によりこれから紫髪の少女の家に向かう事となり、

ヨルはフェンリル山をどんどん登って行った。

 そして、

「着いたぞ、あれが私の家!」

と、紫髪の少女に案内された家は家というより牧場だった。

 しかし、そこには何の動物もおらず、使われていた形跡はほとんど見られなかった。

(ここが、あの少女の家か……。しかし、何故彼女はこんな所に残っているんだ?)

 そんな紫髪の少女をアルトが考察していると、

「帰った!」

と、言いながら紫髪の少女は家に入り、

「何処に行ってたんだ、ウェイライ?」

と、家の中にいた中年の女性に聞かれると、

「母さん、遅くなってごめん。それと、客人だ」

と、紫髪の少女はその中年の女性を見上げて答え、

「客人? そう……。皆さん、とりあえず、お入りなさい。霊獣の方もね」

と、紫髪の少女の母はアルト達を招き入れてくれ、

「お邪魔します」

と、言って、ラニーニャが家の中に入ろうとすると、

「お姉さん、遠慮は無用だ! こっちに来て、暖炉があるんだ!」

と、言いながら紫髪の少女がラニーニャの手を引っ張って暖炉の傍に連れていってしまい、

「すみません、うちの子が⁉」

と、焦った紫髪の少女の母が紫髪の少女を止め様としたが、

「いえ。こちらこそ、すみません。いきなりこんな大勢で押し寄せてしまって。ご迷惑をかけます」

と、言ったジャップが頭を下げ、アルト達は紫髪の少女の家に入る事となった。

 家の中は暖炉の温かさが充満しており、朱雀達は寛ぎ、そして、メタとパラがじゃれ出した。

(彼等は凄いな! ここまで僕等を導いて疲れているはずなのに遊ぶ余裕があるなんて……)

 アルトが朱雀達を観察していると、紫髪の少女の母とジャップ達が話しており、

その話の中で、猪の祟り神の事になると、

「猪の祟り神が……⁉」

と、紫髪の少女の母が言葉を詰まらせ、ふらついたので、

「大丈夫ですか⁉」

と、ラニーニャが紫髪の少女の母を支えると、

「母さん、どうしたの? まさか⁉」

と、紫髪の少女は泣きそうな顔をしたが、

「ウェイライ、唯の立ち眩みよ。心配しないで。

 皆さん、お疲れでしょう? 何か温かい物を作りますね。その間、部屋で寛いでください」

と、紫髪の少女の母は一人で立ち、微笑んだ。

 その紫髪の少女とその母の様子を見て、

(あの少女の反応からして、まさか、あの少女の母は……)

と、アルトの脳裏にある嫌な考えが浮かぶと、

「じゃあ、せめて、手伝わせてください!」

と、申し入れたラニーニャは紫髪の少女の母に付いて行き、それに たぬてぃも付いて行くと、

「私も手伝う!」

と、言いながら紫髪の少女も付いて行った。

 ラニーニャ達がいなくなった部屋で、

(相変わらず先輩は、お人好しなんだから……)

と、思ったアルトの眉は下がり、溜息をついてしまったが、急にパラがアルトにじゃれてきたので、

「おっと、パラ君⁉ どうしたんだい?」

と、言ったアルトがパラと視線を合わせると、

「食事まで、お前と遊びたいみたいだぜ?」

と、言ったジャップはメタを引き連れており、

「そうか……。僕で良ければ遊ぼう!」

と、言ったアルトがパラの頭を優しく撫でると、パラは尻尾を速く横に振り、

そして、メタまでもアルトの傍に来て尻尾を横に振り出したので、

「おいおい……。メタ、それはないんじゃないか?」

と、言いながらジャップが苦笑いをすると、

「まあ、君より僕の方が彼等に好かれているから仕方がないだろう?」

と、涼し気な顔でアルトは素直に思った事を言ってしまい、

「言ったなぁ……、アルト‼」

と、企みがそのまま顔に出ているジャップがそう言いながらアルトの髪を狙ってきたが、

アルトが優雅にそれをかわすと、メタがジャップの上に伸し掛かり、顔を舐めだした。

「こ、こらっ! やめろって、メタ‼ 降参するから、やめろって‼」

 すると、くすぐったそうにジャップは笑い転げ、パラはアルトを見つめてきたので、

「君の兄弟は強いね」

と、言いながらアルトがパラを撫でると、パラは目を細めて気持ちの良さそうな顔をした。

 そんなパラ達との触れ合いでアルトの心は和んだが、

「おーい、ミュー‼ こっちに来て、メタをどうにかしてくれよ!」

と、ジャップが宝珠の国の皇女を呼び、

「もう、メタは悪戯好きなんだから!」

と、言った宝珠の国の皇女がこちらに来ると、自然とアルトの眉間にはしわが寄ってしまった。

 そんなアルトをパラは心配したが、

「すまないね。僕は君達の主人とは気が合いそうにはないんだ……」

と、アルトはパラに寂しい言葉を告げ、ジャップ達から視線を外した。

 それからジャップはケレスも呼んだ様で、暫く家族で何かをしていたみたいだったが、

その間、アルトは何をする訳でもなく、何を考える訳もなく唯、その場にいた。

 すると、

「夕食、出来たよ!」

と、言いながらラニーニャが丼を持ってきて、

「美味そうな匂いだな。姉貴、何だそれは?」

と、鼻で多くの匂いを嗅いだジャップから聞かれ、

「チャンポンだ!」

と、答えた紫髪の少女も丼を持っており、人数分の丼が机に並べられ食事の準備が出来たが、

「なあ、この二本の棒は何だ?」

と、ケレスが箸を見ながら聞いた。

(ケレスは、箸を知らないのか……。まあ、箸を使う文化は宝珠の国にはないから仕方がないね。

 でも、ケレス達はどうやって食事をするんだろう……)

 そのケレスをアルトが心配し、観察していると、案の定、ケレスは困り、あたふたしていたが、

「こういう風に持って使うんだよ」

と、言ったラニーニャは箸を右手に持って動かし、

「俺も、使えるぜぃ!」

と、言ったジャップも箸を使える様だった。

(へえ、先輩は兎も角。ジャップまで箸を使えるのか!)

 そして、アルトが驚いていると、紫髪の少女の母からケレス達はフォークを受け取り、

ケレスは早速、チャンポンを豪快に頬張っていた。

 それに負けじとジャップもチャンポンを豪快に口に入れており、

(全く……。気持ちはわかるけど、二人共もっと静かに食べれないのかな?)

と、ケレスとジャップに呆れながらアルトが静かにチャンポンを食べていると、

バンッ‼と何かが叩きつけられた大きな音が響いた。

 すると、

「ミューちゃん、何かあったの?」

と、小さく寂しいラニーニャの声が聞こえ、

「別に」

と、小さく冷たい宝珠の国の皇女の声が聞こえると、

「お前、お姉さんに冷たくないか?」

と、怒っている紫髪の少女の声も聞えたが、

「あなたには関係ない事よ。黙って‼」

と、宝珠の国の皇女の怒鳴り声が聞こえ、

「ミューちゃん、そんなに怒鳴らないで。ウェイライちゃんがかわいそうよ」

と、ラニーニャの言葉が聞えると、宝珠の国の皇女は沈黙した。

 しかし、その後、

「何でお姉ちゃんはそんなコを庇うの? それに、何で赤き女王をそのコの霊獣なんかにあげたの? 

 そのコ達のせいで蕾とやどり木の家は焼けちゃったんだよ‼

 所詮、お姉ちゃんは蕾とやどり木の家の子供じゃないからわからないかもしれないけど、

私はそのコを許せない‼

 まして、そんなコと仲良くするお姉ちゃんなんか、大嫌い‼」

と、宝珠の国の皇女はラニーニャを睨み、怒りをぶつける様に怒鳴りつけた。

(蕾とやどり木の家……。確か、宝珠の国の先代の女王が創設した孤児院の名だったはず。

 恐らく、ケレス達はそこの孤児だったんだろう。

 そして、孤児院はあの少女達が何かしら関係して焼けてしまった、という事か……。

 だから、宝珠の国の皇女はあの少女達にあの様な態度をしていた……。

 でも、先輩は関係ないんじゃないのか?

 本当、気が合わない者は嫌いだね‼

 何か言ってやりたいが、今、僕が何か言えば、

さらに宝珠の国の皇女は先輩を傷付けてしまうだろうし……)

 そのやり取りを見ていたアルトがいつの間にか箸を握り締めて居ると、

「ミュー、言いすぎだ‼」

と、ケレスが怒鳴り、宝珠の国の皇女を諫めたが、

「ケレス君、いいの。その通りだから……。

 ごめんね、ミューちゃん……。私、ミューちゃんの気持、考えなかった。配慮が足りなかった……。

 姉として、失格だね」

と、ラニーニャは俯いたままケレスの優しさを拒む様な言葉を言い、

(先輩……。やはり、あなたは優しすぎる。

 それじゃあ先輩が傷付くだけですよ? だけど、こういう時僕は、どうしたら……)

と、思ったアルトの箸は止まったままで、

「ウェイライ、帰った。何か食わせろ」

と、言いながら金髪の少年が部屋に入って来ると、

「あっ、お前は⁉」

と、その少年を見たケレスが叫んだが、

「な、何で⁉ あんたがここにいるんだ‼」

と、それを無視し金髪の少年はラニーニャを見て叫んだので、

(ケレス達は何やら彼ともあったみたいだね……)

と、アルトがケレス達を窺っていると、

「こっちに来い‼」

と、怒鳴った金髪の少年がラニーニャの腕を掴んで何処かに連れて行ってしまい、

「あっ、フェイトちゃん。待ってよ‼」

と、言った紫髪の少女と、たぬてぃは二人を追いかけた。

 それからラニーニャ達が出て行った部屋でアルトは一人、食事を進めた。

 そして、

御馳走様でした」

と、言って、アルトは宝珠の国の皇女の姿が見えない部屋の隅へと非難した。

 何故なら、これ以上宝珠の国の皇女の傍にいたら何を言ってしまうかわからなかったからである。

 それからアルトはケレス達とも目を合わさず唯、自身に沸き上がる怒りを鎮めていた。

 すると、ケレス達も食事を終え、紫髪の少女の母から今日アルト達が休む部屋へと案内され、

男三人で休む事となった。

 そして、着替え等を渡し、

「あなた達は早くここを立ち去った方がいい。ここにいたら良くない事ばかり起きるわ……」

と、紫髪の少女の母は言い残し、静かに部屋を出た。

 その紫髪の少女の母が消えた部屋で、

「良くない事って何だ?」

と、聞いたケレスが首を傾げると、

「さあな。まあ、とりあえず今日は休んで明日みんなで帰る事を考えようぜ」

と、欠伸をしながらジャップはケレスを見ずに素気無く答え、

「そうだな。なあ、兄貴。姉ちゃん大丈夫かな?」

と、空気を読めないケレスはジャップを見て、もう一度聞いたが、

「姉貴は大丈夫だ‼ いいから早く寝ろ‼」

と、怒鳴ったジャップは毛布を頭まで掛け、横になってしまった。

 そして、アルトもケレスを見ずに横になり、

(さすがのジャップも宝珠の国の皇女にお怒りの様だね。

 まあ、当然だが……。

 しかし、先輩とあの金髪の少年とは、どんな関係があるんだ?

 あまり雰囲気は良いとは言えないが、先輩が変な輩と関りがあるとは思えないし……)

 等々と色々考えていると、アルト以外眠った様で、二人の鼾が聞えてきて、

(全く……。兄弟そろって何所でも鼾をかいて、ぐっすり眠れるなんて羨ましいね!)

と、アルトがケレス達の鼾の交響曲を聞かされ苛立っていると、

部屋のドアの方から、ガシガシッと何かで引っかく音が紛れてきたので、

「何だい?」

と、起き上がったアルトがドアを開けると、そこにヨルがいた。

「君は確か……ヨル君? こんな夜更けにどうしたんだい?」

 そのヨルにアルトが聞くと、ヨルは何かの意思を伝える様にその場で、くるくる回り、

「僕に何か用があるんだね?」

と、アルトがしゃがんで優しく見つめながら聞くと、

「ヒャーゴ!」

と、ヨルはアルトを見て鳴いて何処かへ案内し始めたので、

「わかった……」

と、言ったアルトはヨルに付いて行った。

 それからヨルは紫髪の少女の家を出て行き、外にある畜舎の前でまた鳴いたので、

「ここに入ればいいのかい?」

と、言ったアルトがその畜舎に入ったが、アルトは言葉を失ってしまった。

 何故なら、そこにヨルが大きくなった時より少しだけ大きな姿の、

老いたフヴェリゲルミル族が辛うじて息をした状態で横たわっていたからである。

「どうしたんだい⁉」

 思わずそう叫んだアルトがその老いたフヴェリゲルミル族に駆け寄ると、

「こ、これは、滅びの呪い⁉ しかも、ここまで拡がっているのか……」

と、呟いたアルトの眉間にはしわが寄ってしまい、

(これじゃあ彼は、一日も持たない……)

と、アルトが変えられない未来を想像していると、

「ヒャーゴ……?」

と、悲し気に鳴いたヨルがアルトを見上げてきた。

「ヨル君……。彼は、君の家族なんだね?」

 そのヨルにアルトが視線を合わせ聞くと、

「ヒャーゴ!」

と、ヨルは返事をする様に鳴き、

「他にも、こんな状態の家族はいるのかい?」

と、聞いたアルトの声がふるえ出すと、

「ヒャーゴ……」

と、ヨルはまた返事をする様に悲しく鳴いた。

(そうか……。

 ヨル君は奇跡的に滅びの呪いを享けてはいないが、

他のフヴェリゲルミル族達は滅びの呪いを享けてしまったんだね……。

 でも、滅びの呪いを僕ではどうする事も出来ない……。

 だが、何か出来る事はあるはずだ‼)

 そんなヨルを見たアルトがある事を決心すると、アルトの眉間のしわは無くなった。

 それから、

「僕に君の家族を診せてもらえるかい?」

と、アルトがヨルに視線を移して聞くと、

「ヒャーーゴ!」

と、ヨルは鳴き、アルトを案内した。

 だが、他のフヴェリゲルミル族も老いたフヴェリゲルミル族と同じく、滅びの呪いを享けており、

アルトが出来る事は、全く無かった。

(くそっ‼ 僕じゃ何も出来ない‼ 結局、何所でも僕は無力なのか⁉)

 そして、アルトが立ち尽くして唇を噛みしめていると、

「ヒャーゴ?」

と、ヨルは他のフヴェリゲルミル族の傍に寄り添い、励ます様に鳴いた。

「君は、強いんだね……。僕も見習わなきゃいけないな!」

 そのヨルの姿を見たアルトはこの畜舎で横たわっているフヴェリゲルミル族達に近づき、

自身が出来る事を始めた。

 まず、彼等は怪我をしているものが多く、アルトはその彼等に治癒術を施した。

 それからアルトはフヴェリゲルミル族達の汚れを取ろうと考え、

一旦紫髪の少女の家に戻り、布と水を借りて彼等を拭いた。

 その作業を他の畜舎でも数回行うと、

紫髪の少女の家に何故か、毛布に包まったケレスがいたので、

「君、何してるのさ? そんな格好で……」

と、アルトは思わず声を掛けてしまった。

 すると、

「アルト⁉ お前こそ何をしてんだ?」

と、毛布に包まったままのケレスは驚いて聞いて来たので、

「僕が先に質問してるんだけど……。

 まあ、いいさ。僕はヨル君に頼まれて彼女の家族の様子を診せてもらっていたんだ」

と、アルトが溜息交じりに答えると、

「ヨルの家族? どうかしたのか? と言うか、ヨルと、アルトは話せるのか?」

と、それでも毛布から出ないケレスに質問を続けられ、

「話せないけど僕は彼女達の気持は、わかる。

 君もヨル君の家族を見てみるかい? 僕が話すより、早いから」

と、答えを示すべくアルトはそう言ってヨルの家族の所へケレスを案内した。

 そして、

「この霊獣達がヨルの家族なのか⁉ だけど、何か弱ってないか?」

と、言ったケレスの体から毛布がするりと落ちていき、

「ああ、そうだね。彼らはヨル君の家族で、手の施しようがない程弱っている」

と、その落ちる音が聞えたアルトが説明すると、

「何かの病気なのか?」

と、ケレスがまた聞いてきたので、

「病気と言えばそうなのかもしれないが、これは滅びの呪いだ」

と、アルトは溜息をつきながら答えた。

 すると、

「滅びの呪いだって⁉ じゃあ、こいつらは、もう……」

と、言ったので、ケレスでも滅びの呪いの末路を知っている様だったが、

「アルト、お前でも呪いを何とか出来ないのか?」

と、ケレスは無茶な事を言い出し、

「無理だね。

 僕が出来る事と言えば彼等の傷を治して少しでも負の気持を減らしてあげる事ぐらいだ。

 そうする事で彼らを魔物や祟り神にする可能性を減らす事が出来るかもしれないからね」

と、アルトは答え、横たわっているフヴェリゲルミル族に治癒術を施していると、

「なあ、アルト。

 一三年前の事もあるけど、災いはアマテラス様によって全て消えたんじゃないのか?

 それなのにこの国はどうしてまだこんなに土地も生き物も寂れていて、呪いがあるんだ?」

と、アルトの後ろから聞いたケレスの声が聞こえ、

「アマテラス様は太陽の化身だ。

 一二年前のアマテラス様の加護は君達の国や僕達の国を照らしたけど、

剣の国は照らさなかったんだ。

 だから、この国は災いや呪いを享けたままみたいだね」

と、振り返らずアルトは答え

「はい、終わったよ。少しは痛みがとれたかい?」

と、治癒術をかけ終わったフヴェリゲルミル族に聞くと、

「ひゃー……」

と、返事をする様にそのフヴェリゲルミル族はか細い声を出した。

 その声を聞いて、

(こんな国、か……。

 君達の様に何も悪い事をしていないものにまで対し、

どうしてアマテラス様は加護を授けなかったんだろうね……)

と、思ったアルトは胸が苦しくなり、

「君は、祟り神とか、魔物になっちゃ駄目だからね」

と、贖罪の意を込めそう言ってそのフヴェリゲルミル族を優しく撫でた。

「アルト。祟り神や魔物は普通の霊獣からなるのか?」

 すると、ケレスにまた聞かれ、

「霊獣だけじゃないよ。どんな生き物からもそうなってしまう可能性はある。

 災いが滅びの呪いを生む限り、それは避けれないんだ。

 そして、弱く、清らかなものから呪いは侵し始める。このコ達みたいにね」

と、アルトは振り返って答え、

「そろそろ部屋に戻ろう」

と、言って、畜舎を出て行った。

 それには、理由があった。

(恐らく、あの老いたフヴェリゲルミル族は今夜が峠だろう。

 僕に出来る事は、彼の最期を看取る事だけだ。

 それを、ケレスにまで強いる訳にはいかない)

 その理由とは、この様に老いたフヴェリゲルミル族の末路をアルトは知っていたからである。

 その老いたフヴェリゲルミル族にアルトが出来る事はなかった。

 それをわかった上で、アルトはその老いたフヴェリゲルミル族の傍にいる事を決意したのである。

 そしてアルトが畜舎を出ると、そこにラニーニャと、たぬてぃ、それに金髪の少年までもがいて、

「姉ちゃん⁉ どうしてここに?」

と、後から来たケレスが聞いた。

 しかし、

「お前には関係ねえだろ?」

と、金髪の少年が意地悪く答え、

「フェイト、あの……」

と、ラニーニャは何かを言おうとしたが、

「あんたは黙ってろ‼」

と、怒鳴った金髪の少年はラニーニャの前に立ち、何も言わせなかった。

 それからケレスと金髪の少年が睨み合っていると、地響きの様な唸り声がこの辺り一帯に轟いた。

(この声は、まさか⁉)

 そして、アルトがその声の主を想像していると、

「いやぁ……。こいつは、アレのお出ましだ!」

と、その正体がわかっている金髪の少年はそう言いながら笑みを浮かべ、

「あれ、だって?」

と、わかっていないケレスが不思議そうに言うと、朱雀達が、集まって来て、

「おーい、ケレス、アルト!」

と、大声で言いながらジャップと宝珠の国の皇女が近づいて来た。

 その二人に、

「兄貴、ミュー。どうしたんだ?」

と、ケレスが聞くと、

「俺にも良くわからないが、朱雀達が警戒しだしてな。

 だから、外に出てみたんだが。何か、ヤバい事になりそうだ」

と、ジャップが答えると、畜舎から一際大きなフヴェリゲルミル族が出てきた。

 だが、そのフヴェリゲルミル族の姿を見て、アルトは驚きのあまり言葉を失った。

(彼は、先程のフヴェリゲルミル族じゃないか⁉ ど、どうして、彼が動いているんだ⁉

 いや、そもそも、どうして生きていられるんだ⁉

 あそこまで滅びの呪いが拡がっていたというのに……。

 まさか、誰かが彼の呪いを浄化したとでも言うのか⁉

 そんな事が出来る者なんているはずが……)

 そして、アルトの頭にある仮定が過ぎった。

(まさか……。もし、そうなら、どうして先輩はこんな所にいるんだ?

 もし、僕の予想が正しければ、先輩を一刻も早くこの国から逃がさなきゃいけない‼)

 その過程が確信になりつつあるアルトが密かに考えていると、

「エーリガルちゃん。どうした?」

と、紫髪の少女がそのフヴェリゲルミル族の名を呼びながら近づいて行き、

「エーリガルちゃん? こいつもウェイライの霊獣か?」

と、聞いたケレスがエーリガルから紫髪の少女に目を転がすと、

「そうだ! エーリガルちゃんは私達の霊獣で、ヨルちゃんのお父さんだ。

 そして、皆のリーダーだ!」

と、紫髪の少女はエーリガルの横で紹介したので、

「リーダーねえ……。確かに頼りになる貫禄があるな!」

と、言いながらケレスがエーリガルをまじまじと見ると、エーリガルは何処かに行こうとし、

「エーリガルちゃん⁉ 何処に行くんだ? 一人じゃ危ない‼ 行くな‼」

と、言った紫髪の少女は停めたが、エーリガルはそのまま何処かに言ってしまい、

「エーリガルちゃん待って‼」

と、紫髪の少女が追いかけようとしたが、

「ウェイライちゃん待って! そんな格好で行くのは危険よ‼」

と、ラニーニャから止められた。

「お姉さん。私、エーリガルちゃんをほっとけない‼」

 それでも、紫髪の少女がエーリガルを追いかけ様としたが、

「わかってる。だから、ちゃんと準備してから行動しよう。私も一緒に行くから」

と、ラニーニャは優しく言って、紫髪の少女の前でしゃがみ、微笑みかけた。

 そのラニーニャを見て、

(先輩⁉ あなたは、自分が何を言っているのかわかっているのですか?

 全く……、どこまでお人好しなんだ‼)

と、思ったアルトが拳を握り締めると、紫髪の少女とラニーニャ、

それと、たぬてぃは家に戻って行き、それに笑いながら金髪の少年が付いて行った。

 そして、ケレスは狼狽えていたが、

「仕方がない。俺も行くか」

と、言いながらジャップも家に戻って行き、

「はあ、まあ、僕も付き合うよ」

と、アルトは言ったが、

(もし僕の予想が正しければ、先輩はこの国のもの、全てから狙われるという事になる……。

 だが、僕が必ず守る‼ 水鏡の国の者としてね‼)

と、本当は思っていた。

 そして、紫髪の少女の家で防寒着を借り、アルトが装着していると、

「兄貴、大変だ‼ ミューの奴がエーリガルを追い掛けてララとクリオネと行ってしまった‼」

と、ケレスの全身を使ったジェスチャーを交えた報告があり、

(全く……。宝珠の国の皇女はいつも考えなしに行動するんだから‼

 少しは協調性を身に着けるべきだね‼)

と、呆れながらもアルトが準備を整えていると、

「あの、ミューちゃんのもお願いできませんか?」

と、泣きそうな顔のラニーニャが紫髪の少女の母に申し入れ、

(全く、先輩はどこまでお人好しなんだ?

 あそこまで言われて、宝珠の国の皇女の心配をするなんて……)

と、思ったアルトは腹の底から湧き出る何かを懸命に抑えた。

 それからアルト達は支度を終え、ヨルに乗り込んだ。

 だが、座る順は金髪の少年が勝手に決め、アルトはラニーニャの後ろで、ジャップの右横だった。

 さらに、ケレスがジャップの後ろに乗り込むと、

紫髪の少女の号令でヨルは、月も星も輝いていない夜を走り出した。

 すると、

「なあ、ちょっと聞くけど。ヨルは、前ちゃんと見えてるのか?」

と、予想通りケレスが聞いて来たので、

「ヨル君は目より鼻が良いから暗くても、ちゃんと目的地に向かっている」

と、冷静にアルトは答えた。

 そんな会話をしている間も、ヨルはどんどんフェンリル山を登っていたが、

(しかし、僕達だけで祟り神を消滅させれるのだろうか?

 人の子とは言えないけれど、あの宝珠の国の皇女は、恐らく炎の瞳は開眼していない。

 となると、頼みはクリオネ君だけか……。

 とは言ったものの、

彼女の正のマナだけであの祟り神の負のマナを打ち消す事が出来るとは言い難いし……)

と、アルトは内心、不安だらけだった。

 すると、何も解決策がないままヨルが急に止まり、

「いってぇ! 鼻を打った‼」

と、ケレスの叫び声が聞こえ、

「ケレス、用心しろ‼ 囲まれてる‼

 ウェイライ、ヨルを小さくしろ‼」

と、大声でジャップが支持する声も聞こえると、

「わかった‼」

と、紫髪の少女の声と共にヨルがどんどん小さくなり、そして、アルトは地上へ下り立った。

(これは、あの祟り神の御供のもの達だね……。あまり得意ではないが、僕も闘わなきゃ!)

 それからアルトが心に決めると、浦島が無数の青色に輝く掌サイズの泡を出し、

「わかってる。共に闘おう、浦島‼」

と、瞳を閉じたアルトはさらに決意を固め、浦島のマナに自身のマナを共鳴させ、こう念じた。

ーー

 我、汝に問う

 我の守りし者に、仇なすか

 汝、然りと申すならば、我は汝の仇となろう

 彼の者の強固な盾となりて

 七里結界!

     ーー  

 すると、浦島はさらに多くの青色に輝く泡を出現させ、

その泡はケレス達を守る様にケレス達を取り囲んだ。

 そして、何も知らない闇夜から襲いかかる魔物達はその泡に直進したが、

その泡はシャボン玉の如く弾け、ゴギッと鈍い音が聞えた。

 さらにその泡の雫までもが魔物達の体を深く抉り、揚げ句の果てに、

「グギャアァ‼‼」

という、悲痛な叫び声と共に魔物達を何処かへ弾き飛ばした。

 そして、遠くで、ドサッと魔物達が地面に落ちる音がした。

(ふう……。浦島の協力のおかげだ。僕がこんなに龍宮家の秘術を使えるのは!)

 その音を聞いたアルトが瞳を開けて一つ息を吐き頷くと、

「おい、青いの‼ そっちは任せた‼」

と、金髪の少年の声が聞こえ、いつの間にかアルトの傍にはケレスとジャップだけになっていたので、

(どういう事だ⁉ あの少年たちは一体、何所に行ったんだ?)

と、思ったアルトが辺りを見渡していると、

「恐らくな。すまん、ケレス。

 俺は、お前を守ってやれる余裕がないかもしれん」

と、余裕をなくしているジャップの声が聞こえ、

「そんなに状況は良くないのか⁉ 俺はどうしたらいいんだ⁉」

と、ケレスの慌てふためく声も聞こえたが、

「うわぁあぁ⁉ な、何だぁ‼」

と、叫んだケレスの声は小さくなっていった。

 すると、

「お、おい⁉ ケレス‼ アルト、どうなってんだ⁉」

と、混乱したジャップが聞いてきたが、

「恐らく、あの少年がケレス達を安全な所へ運んだんだろう」

と、アルトが説明すると、

「そうだったのか‼よしっ‼ これで思う存分暴れられる‼ 覚悟しやがれ‼」

と、ジャップの声に余裕が戻り、魔物との戦闘が始まった。

 だが、闇夜だというのにジャップは次々と正確に魔物を倒していった。

(どうなっているんだ⁉ 彼は、こんな中でも魔物が見えているとでも言うのか⁉)

 そして、アルトが音だけを頼りに周りの様子を窺っていると、

気配でアルトの近くにも魔物が数体いるのがわかり、

「僕を、舐めないでくれるかい?」

と、アルトはその魔物達の周りに浦島と協力し、龍宮家の秘術、七里結界で防壁を張り、

次々と魔物達を倒していった。

 だが、魔物は湧き出る様にどこまでも現れ、

「しつこいね……」

と、眉間にしわが出来たアルトがまた防壁を張ろうとしたその時、アルトはあのふるえに襲われた。

(なっ⁉ これは、あの猪の祟り神の力……? まずい事になった……)

 そして、そのふるえで脱力したアルトはその場に崩れてしまった

 すると、有ろう事か、アルトの周りに沢山の魔物達が集まって来た。

 その魔物達は追い詰めたアルトを見て、仲間の仇を取る気でアルトに殺意を向けたが、

誰がそれをやるのかで醜い争いを始めた。

(これが、万事休す、てやつだね……)

 アルトがその争いを前に瞳を閉じたその時だった。

 あんなに寒く、ふるえが止まらなかったのに、それを打ち消す炎の壁が突如現れ、

アルトのふるえは消えたのだ。

 そして、

「この力は……。パラ君だね?」

と、言ったアルトが立ち上がると、炎の壁の中からパラが出現し、

「やはり、君の力だったんだね。ありがとう、助かった!」

と、言ったアルトの表情が緩むと、パラはアルトの傍に近寄り、尻尾を速く動かした。

「わかった。パラ君、力を貸してくれ‼」

 そして、アルトがパラの頭を撫でると、パラは口から強力な炎を出して目の前の魔物達を一掃し、

「僕達も負けてられないよ、浦島‼」

と、アルトも負けじと浦島と協力し、魔物達を次々と倒していった。

 そうやって魔物達を倒していくと、朱雀達の炎によりあの猪の祟り神の居場所がわかった。

 だが、そこはケレス達の所だった。

「まずい……。やはり、あの祟り神の狙いは、先輩だ‼ 何とか先輩を守らなきゃ‼

 アルトがラニーニャの傍に行こうとしたが、宝珠の国の皇女がララとクリオネと共に現れ、

ケレス達を猪の祟り神から炎の壁で守り、猪の祟り神はラニーニャ達の傍から離れ、

(さすがは、朱雀だね……。さて、僕は龍宮家の秘術で先輩を守るとしよう……)

と、それを見届けたアルトは浦島と協力し、水の盾をラニーニャ達の傍に、そっと出現させ、

(必ず、先輩を守ってみせる‼)

と、強く願い、その意志を水の盾に宿らせた。

 アルトが水の盾でラニーニャ達を守っている間、朱雀達やジャップ、

それに、金髪の少年とエーリガルが猪の祟り神と残りの魔物達と戦っていた。

 そして、徐々に戦況が有利になり、敵は猪の祟り神のみとなった。

 すると、朱雀達、それにエーリガルが一斉に自身のマナで猪の祟り神に攻撃し、

猪の祟り神の恐ろしい悲鳴の様な鳴き声が轟き、猪野の祟り神は朱雀達の炎の渦に閉じ込められた。

(もう一歩だ。あと少しで、祟り神は滅ぶ‼)

 アルトが猪の祟り神の様子を窺っていると、

猪の祟り神は最後のあがきに出て、炎を纏いながら見境なく暴れだした。

 だが、その時だった。

 何故か、ラニーニャが猪の祟り神の傍に行こうとし、それをケレスが必死に止めていた。

(先輩⁉ 何をしようとしてるんです⁉)

 その光景を見たアルトが動揺すると、

「ゴギャーーーーーーーーーーーゴオオ‼‼」

と、断末魔の叫びが響き渡り、猪の祟り神は何故か氷漬けになって粉々になり、

風に流され、そして、消えた。

 それからこの地に月明かりは戻ったが、そこにこの国で最も会ってはならない男が立っていた。

 アルト君、遂に気づいちゃったんだね……。

 じゃあ、君がすべき事は一つ!

 頼んだよ?

 彼女が頼れるのは、アルト君なんだから。

 えっと、それは、そうと……。

 如何でしたかね?

 結構、がんばって格好良くアルト君を書いてみたんだけど……。

 あっ……、そうでしたか……。

 まあ、次こそ、がんばります!

 それでも、本編の話は進のだ♪

 次回のタイトルは、【ケレス、姉の力を目の当たりにする】だ。

 ここでも、アルト君は登場するね!


 

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