番外編 龍宮 アルトの憂鬱 3
アルトは、また、ジャップに呼び出され、ラニーニャの手伝いをする事となった。
そして、手伝いを終え、ケレスの誕生日会をジャップ達と開いた。
だが、そこに猪の祟り神が出現し、クリオネが追い払ったが、
クリオネは、そのまま、猪の祟り神を追い掛けてしまう。
それを宝珠の国の皇女が追い掛け、アルトは、ラニーニャ達と、一緒に、宝珠の国の皇女を追い掛けるのだが……。
アルトはケレス達家族を見守る事にした。
それは、ケレス達家族の関係に引かれたからである。
しかし、遠くから見守りたかったアルトだったがジャップから毎日の様に連絡があり、
大した要件がないまま電話を切られるといった日々が続いた。
そして、またそういったある日、
「おう、アルト。元気か?」
と、ジャップからいつもの様に電話があり、
「ジャップ……。いい加減にしたまえ‼ 毎日、毎日、同じ事を言わせないでくれ‼
僕は変わりなく、元気だ‼ 君に心配されなくともね‼」
と、アルトがいつもの様に対応すると、
「そうか! それは良かったぜ‼」
と、ジャップからいつもの返答があり、
「用がないのなら電話を切るよ? 前も言ったけど、僕は忙しいんだ。
これから論文も仕上げないといけないし……」
と、言ったアルトが電話を切ろうとすると、
「そっか……。忙しいんなら、姉貴にそう言っとくわ!
姉貴がアルトにも手伝ってほしい事があったみたいなんだがな……」
と、言ったジャップが電話を切ろうとしたので、
「そういう事は早く言いたまえ‼」
と、怒鳴ったアルトはジャップから大切な要件を聞き出す事に成功した。
そして、
「ケレスの誕生日会だって? で、僕は何を手伝えば良いのかい?」
と、ふぅーと息を吐いたアルトが聞くと、
「うーん。何か姉貴がケレスには内緒で誕生日会をしたいみたいでな……。
そこで、大食いのケレスの為に手料理を作りたいんだとさ!」
と、楽しそうにジャップは答えたが、
「大食いは兄弟そろってみたいだね」
と、ジャップのつまみ食いを思い出したアルトがつっこんでみると、
「姉貴は大食いじゃねえぞ?」
と、ジャップにはアルトの思いは伝わらなかった。
(先輩じゃなくて、君の事だったんだが……。言っても、わからないだろうから、放っておこう!)
そう思ったアルトは大きな溜息をついたがラニーニャの手伝いをする事となり、
「よし、ジャップめ! こういう連絡ならいつでも待ってるんだ!」
と、言って、気合いを入れた。
何故なら、ラニーニャにずっと礼を言いそびれているからである。
そんなアルトは色々と調べ、ある事を決意していた。
その決意とは、大切な事を言うには直接ラニーニャ本人に言う事だった。
アルトはラニーニャに光の神殿での事の感謝に加え、
アカデミーでの非礼を謝りたかったのである。
「今度こそ、絶対に言うぞ‼」
アルトがその決意を言葉にすると、
「何をです?」
と、アルトの婆やに声を掛けられ、
「婆や、聞いてたのかい?」
と、言ったアルトがアルトの婆やを見ると、
「申し訳ありません。耳に入ってしまったもので……」
と、言ったアルトの婆やから話を聴きたそうな顔をされたので、
アルトはジャップの連絡の内容からアルトの決意までを話した。
すると、アルトの額に扇子が、バシッ‼と叩きつけられた。
「い、痛っ⁉ 何をするんだい?」
額を抑えたアルトがアルトの婆やを睨んで怒鳴ったが、
「何をなさっておられたのですか‼ まだ、あの方々にちゃんと、伝えておられなかったのですか⁉
直接だろうと、間接だろうと、早く、伝えなさい‼」
と、ここからアルトの婆やの説教が始まり、それは、一時間以上も続いた。
そして、アルトは解放された。
「婆や……。そんなに怒らなくとも、良いだろうに……」
それから解放されたアルトは呟き、考えた。
(わかってるさ……。言わないといけない事ぐらい。でも、それが出来たらこんなに悩まないよ……。
どういう風に言えば彼等は僕を許してくれるんだ?
本当は僕の事なんか良くは思ってはないだろうし……。
今更、礼を言ったところで呆れられるかもしれない……)
色々と考えたがアルトが納得する答は見つからず、
アルトはそのまま約束の時間、約束の場所へ向かった。
すると、
「おっ! アルト、こっちだ‼」
と、ジャップに声を掛けられ、
「わかってるよ」
と、不機嫌なアルトがそう言いながらジャップの所に行くと、
「おはよう、アルト。今日は付き合わせちゃって、ごめんね」
と、右肩に たぬてぃをのせたラニーニャから言われ、
「せ、先輩⁉ き、気にしないでください!」
と、アルトの機嫌はすぐに直った。
そして、今日は色々な食材が手に入るスーパーで買い物をし、
明日ケレスの誕生日会を催す計画をアルトは聞かされた。
「で、何を作るんですか?」
話を聞き終わったアルトはラニーニャを見て聞いたが、
「それがね、まだ、決めていないの……」
と、溜息交じりのラニーニャからの答えに、
「えっ⁉ そうなんですか?」
と、言ったアルトが瞬きすると、
「こんな時、ミューちゃんがいてくれたら良いアイデアをくれるんだけど……」
と、言ったラニーニャは落ち込んだが、
「まあ、ミューは忙しいだろうから。俺達だけで考えようぜ!」
と、透かさずジャップがそう言って励ました。
(むっ⁉ ジャップめ。先輩に良い格好して‼)
そのジャップを見たアルトは焦り、
「先輩、ケレスは何が好きなんですか? それと、何所で誕生日会をするのです?
それに、参加者の人数は?」
等々、色々と聞き、誕生日会に向けて計画を立てた。
そして、ラニーニャ達と話し合い何を作るのかが決まった。
「ピザか! 俺、好物なんだよな‼」
計画が決まりジャップがはしゃいだので、
「ジャップ……。君の誕生日会じゃないんだよ? 君の好きな物ばかり 選ばない事!」
と、眉間にしわが寄りかけたアルトが注意すると、
「でも、アルト。ケレス君とジャップの味覚って似てるんだ。
だから、ジャップが好きな物を選んでくれたらいいの!」
と、言ったラニーニャは、ふふっと笑い、
「そ、そうなんですか?」
と、言ったアルトの眉間のしわが無くなると、
「おうよ。俺に任せろ‼ んじゃあ、行くぞ、アルト‼」
と、言ったジャップから背中を押され、アルトは買い出しに向かう事となった。
その買い出しは二手に分かれる事となり、
ラニーニャと、たぬてぃは、ピザの生地の材料を探しに行き、
アルトとジャップは、具材を探しに行った。
(本当は先輩と行きたかったんだけど……。
先輩に頼まれたから、しっかり見張らないといけないね!)
アルトは二手に分かれる前にラニーニャにある事を頼まれていた。
☆*☆*☆
「ねえ、アルト。お願いがあるの」
「何でも言ってください!」
「ジャップは何でも大量に買い込む癖があってね。気を付けててほしいの」
「大量に?」
「そう。大は小を兼ねる、って、言うの」
「彼らしいですね。任せてください。僕が、そんな事は、させませんから!」
☆*☆*☆
そうやって、アルトはラニーニャに頼まれたのだ。
ラニーニャの期待を背に、アルトは意気揚々としていたが早速、
「見ろよ、アルト‼ 牛肉ブロック、五キロだ‼」
と、ジャップが考えなしに行動した。
「ジャップ……。僕等、五人でそれを食べれるとでも思っているのかい?
それに、それを使ったらピザが牛肉まみれになるだろう?
いくらケレスが食い意地が張ってるとは言え、それだけでは飽きてしまうよ。
さらに言うと、先輩の先生の家を借りて作るのならば、大きなピザは作れないよ」
等々と言って、アルトはジャップを諫め、
「そうだな! さすが、アルト‼」
と、ジャップは理解したが、次々と考え無しに材料を買い物籠に入れていき、
アルトはそれを全て食い止めていった。
そして、何とかアルトの理想の買い物が出来ると、買い物を終えたラニーニャと合流出来た。
「姉貴。買えたか?」
そこでジャップに聞かれ、
「うん。買えたよ。そっちはどう?」
と、頷いたラニーニャも聞くと、
「見ろよ。沢山、買ったぜ‼」
と、言ったジャップが買い物の内容を見せつけたが、
「凄い! ありがとう、アルト」
と、アルトを見てラニーニャは微笑んでそう言ってくれ、
「当然です。先輩に頼まれてましたから!」
と、期待に応えられ嬉しかったアルトはそう言って髪をかき上げ、ふっと笑った。
そして、昼過ぎ、アルト達は解散した。
ラニーニャに感謝され機嫌が良いアルトがアルトの飛行艇に帰り着くと、
「お帰りなさいませ」
と、アルトの婆やに出迎えられ、
「婆や、聞いてくれよ!」
と、アルトはにこにこしながら今日あった事を全て話した。
しかし、アルトの額に扇子が、バシンッ‼と強く叩きつけられた。
「ぃ、痛っ‼ 何をするんだい⁉ 毎回、毎回、そんな乱暴な事をしなくてもいいじゃないか‼」
額を押さえながら涙目のアルトが怒鳴ると、
「こんな事ぐらいで済むだけで宜しかったと思いなさい‼
どうして肝心な事を伝えなかったのです?」
と、目じりが釣り上がっているアルトの婆やから怒鳴り返され、
「そ、それは、言うタイミングがなかったんだ……」
と、眉が下がってしまったアルトが言い訳をすると、
またアルトの婆やが凄い剣幕で捲し立て、二時間以上の説教タイムへと突入した。
そして、アルトの婆やの説教から解放されたアルトは、
「全く……、婆やのせいで、足が痺れてしまったよ。あんなに、怒らなくたって、いいじゃないか‼」
と、足を摩りながら愚痴を漏らし、
「明日こそは、言わないといけないな……」
と、反省から生まれた決意を口にして、一夜を過ごした。
その決意を胸に次の日アルトが集合時間、集合場所であるラニーニャの職場に行くと、
既に二人は集まっていた。
そして、
「おはよう、アルト。今日も無理を言って、ごめんね」
と、言った笑顔のラニーニャに、
「おはようございます、先輩。気にしないでください。それと、あ、あの……」
と、アルトは昨日からの決意を伝え様としたが、
「おっしゃぁーー‼ アルト、今日は頼むぜ‼」
と、叫んだジャップからアルトは背を押されてラニーニャの職場の中まで強引に連れて行かれ、
「ちょ、ちょっと、ジャップ‼」
と、振り返ってアルトは言ったがラニーニャにあれを伝えられなかった。
それからあまり時間がない為、アルトはあれを伝える事が出来ず誕生日会の料理を作る事となり、
そして、そのまま料理は完成してしまった。
さらに、料理はラニーニャの職場の庭に次々と運ばれジャップによる適当な配置が行われたが、
それをアルトなりに綺麗に配置し直し、ケレスの誕生日会の会場は完成した。
そして、
「ありがとう、アルト。こんなに素敵になるなんて思わなかった!」
と、嬉しそうに言ってくれたラニーニャに、
「当然です。料理は配置も大事ですからね!」
と、アルトは返し、
「あ、あの、先輩! 聞いてほしい事があります‼」
と、意を決しあれを伝え様としたが、
「パンッ‼」
と、大きなクラッカーの音がして、
「どうよ? ケレスの奴、びっくりすると思わないか?」
と、またもやジャップの邪魔が入った。
「ジャップ⁉ びっくりするじゃないか‼」
それからアルトが怒っても、
「すまんすまん。昨日、買い出しの帰りに見つけてな。
久しぶりにこういうやつ、やりたかったのよ‼」
と、言ったジャップはクラッカーを見せつけてきて、あまり反省の色が見えず、
「ジャップ……。いいかい? 前にも言ったけれど、君は乱暴な所がある。
気を付けないと、人に嫌がられるよ?」
と、呆れたアルトが注意しても、
「まあまあ、悪かったって!」
と、ジャップには通じていなかった。
そんなやり取りをしていると、
「ミューちゃん‼ こっち、こっち‼」
と、嬉しそうなラニーニャの声がして、
「おぉっ! ミュー、良く来たな‼」
と、言ったジャップは宝珠の国の皇女の所に行き、
「ねえねえ、ミューちゃん、どう? みんなに手伝ってもらったんだ‼」
と、はしゃいでいるラニーニャとは対照的に、
「凄いね。高杉さんに迷惑じゃなかったの?」
と、宝珠の国の皇女は素気無い態度をし、
「先生には許可もらってるし。それにね、先生は今日は出張でいないんだ。
だから、多少ならはしゃいでも怒られないよ!」
と、言ったラニーニャはまだはしゃいでいたが、
「そう……」
と、宝珠の国の皇女は素気ない態度のままだった。
(どうしたんだ? 宝珠の国の皇女の様子が変だ……)
その宝珠の国の皇女の態度にアルトは違和感を覚えていたが、
「ほら、ミュー。見てみろよ‼ このクラッカー、いいと思わないか?」
「そうだ、ジャップ! みんなで一緒に鳴らそうよ!」
「いいねぇ‼ 俺がケレスの気を引くから、その後みんなで鳴らそうぜ‼」
等々と、ジャップとラニーニャはいつも通り、宝珠の国の皇女と接していた。
そして、軽く計画が練られケレスに伝えていた時刻となると、ケレスの姿が見えた。
「ケレス、早く来いよ!」
そのケレスをジャップが大声で呼ぶと、
「兄貴、どうしたんだよ?」
と、不思議そうな顔をしたケレスが近づいて来て、
「ケレス、誕生日おめでとう!」
という言葉を皆で言って、パンパン‼と、いくつかのクラッカーを鳴らした。
「な、何だ? これって⁉」
すると、ケレスは計画通り驚き、
「ケレス、遅くなってすまん。姉貴とアルトとで、用意したんだ!」
と、言ったジャップが笑いながらラニーニャを見ると、
「ケレス君、あの日、出来なかったから、二人に頼んだの。
ちょっとしたお祝いと、ケレス君の功労をねぎらって今日は楽しもうね!」
と、言ったラニーニャは喜んだ。
(良かった。先輩が嬉しそうだ!
昨日は少し様子がおかしかったから心配していたけれど……、
このサプライズが成功するのかを悩んでいたのかな?)
そのラニーニャを見てアルトが、ほっとすると、
「じゃあ、乾杯からしよう」
と、ジャップの言葉から、
「乾杯!」
と、集まった皆で乾杯をし、ケレスの誕生日会は始まった。
そして、三人で作ったピザをケレスが食べると、
「ケレス君、美味しい?」
と、言ったラニーニャはケレスを見て、にこっと笑い、
「凄く美味いよ、姉ちゃん!」
と、二つ目のピザを食べ終わったケレスがそう言って三枚目を取ると、
「良かった! ジャップとアルトに昨日から手伝ってもらってて、結構大変だったの」
と、言ったラニーニャは喜び、
「良かったな、姉貴。アルトと手伝ったかいがあったぜ!」
と、言いながら豪快にピザを食べているジャップに、
「僕が手伝ったんだ。上手く出来るに決まってるさ!」
と、昨日からの事を思い出しているアルトはピザを上品に食べながらジャップをチラッと見て言った。
すると、
「ミューちゃん、どうしたの? 美味しくなかった?」
と、宝珠の国の皇女を心配したラニーニャが聞いたが、
「そんな事はないよ……」
と、また宝珠の国の皇女は素気ない態度をし、
(やはり、宝珠の国の皇女の様子が変だ……。光の神殿に行った時は、あんなに元気だったのに。
まあ、立場が急に変わったんだ。少しは苦労しているのだろうけれど……)
と、アルトは分析しながらケレスの誕生日会に参加していた。
そして、ピザも無くなり、デザートが出て来た時、
「姉貴、そろそろ、あれを……」
と、言ったジャップがラニーニャを見ながら、そわそわしだし、
「ジャップから渡してよ……」
と、言ったラニーニャは顔を少し赤くし、二人で照れていて、
(むっ⁉ 何だ、この二人⁉)
と、イラっとしたアルトがジャップ達を睨んでいると、
さっきまで晴天だった空が重い雲に包まれ、ひらひらと雪が舞いおりて来た。
「あれ、雪? 珍しいね……」
舞い落ちて来る雪を見ながらラニーニャはその雪を拾ったが、
「何か変だ、この雪⁉」
と、危険を感じたアルトが叫ぶとラニーニャがその場にしゃがみ込んでしまい、
「先輩⁉」
と、アルトはラニーニャの傍に駆け寄り声を掛けたが、
ラニーニャは何かに怯え、ふるえている様だった。
(やはり、この雪は唯の雪じゃない‼ 嫌な予感がする……)
そう感じているアルトがラニーニャの傍に寄り添っていると、朱雀達が一斉に唸り声をあげ、
「君達、どうしたんだい?」
と、言ったアルトが朱雀達に目をやると辺りが急に寒くなり、
その寒さは体の芯から冷える異常な寒さで、ふるえが止まらないのがわかった。
「みんな仕事場に入ろう。何か変だ‼」
そして、ケレスの提案で皆で非難しようとしたが、それは出来なかった。
何故なら、地面が凍り付き、凍った地面の下の草は何故か枯れていたからである。
(これは、まさか滅びの呪い⁉ どうしてこの国にそんな事が起きるんだ?)
それを見たアルトが息を飲むと、
「ヤバいな、これは……。お前ら気を付けろ‼ 祟り神が来る‼」
と、ジャップが叫び、
(祟り神だって⁉ そんな馬鹿な‼)
と、アルトがそう言って身構えると降ってくる雪も多くなり、
そして、その雪までもが有ろう事か草木を枯らし始めてしまった。
「このままじゃ僕達も危険だ。何処かに非難しないと……」
アルトが、この状況を打開しようとしたその時、それは、現れた。
それは、禍々しい気配を纏った、巨大な猪の姿をした祟り神であった。
そして、その猪の祟り神は、赤黒い瞳で、アルト達に殺意を向けてきた。
(これは、また立派な猪の祟り神だね……。でも、この姿からして、この国のものじゃないな。
まさか、剣の国から来たとでも言うのか⁉)
、身震いしながらもその猪の祟り神をアルトが分析していると、
その猪の祟り神から禍々しいマナが溢れ出した。
そして、雪に猪のマナが溶け込みその雪は、辺りの草木を枯らしていった。
さらに、その猪の祟り神の禍々しさはどんどん増していき、
その威圧感にアルトは背筋が凍る程、恐怖を感じ、ウルブルふるえ何も言えなくなった。
それはアルトだけでなく皆が動けずにいると、その猪の祟り神は徐にアルト達に近づいてきた。
(マズイね……。祟り神とはこんなにも恐ろしいものだったのか……)
為す術が全く無くなったアルトはふるえる事しか出来ずにいたが、
アルト達の前に朱雀の五体が立ちはだかった。
そして、朱雀達の水晶が赤く光り、朱雀達の体は炎を纏わせ、体全体に炎が宿ると、
その朱雀達を見た猪の祟り神は怯み、足を止めた。
だが、その猪の祟り神はまた前に進み出し、
朱雀達は炎のマナで攻撃したが、その猪の祟り神は全く怯まなかった。
(朱雀達の攻撃が効いてない⁉ どうすればいいんだ?)
近づいて来る猪の祟り神に打つ手が無いアルト達が動けずにいると、
今度はクリオネが全身の毛を逆立て、牙を剥き出しにした。
すると、クリオネの模様のタビーから金色の火の粉が溢れ出し、
その火の粉でクリオネはまるで金色の炎の羽を生やした別の生き物と化した。
そして、その炎と共鳴する様にクリオネの宝珠が輝き出すと、
その輝きに猪の祟り神は怯み、逃げた。
(さすが、アマテラス様の御加護を享けただけあるね。
彼女の宝珠は災いを祓う力が宿っているんだ‼、)
動ける様になったアルトが状況を確認していると、
「クリオネ⁉ 待って‼ ララ、お願い‼」
と、宝珠の国の皇女が叫び、ララの背に乗ってクリオネを追い掛けて行き、
「ミュー、待て‼」
と、ジャップが叫んだがララは宝珠の国の皇女を乗せたまま凄い速さで去ってしまい、
(全く、また勝手に突っ走るんだから‼
本当、こういう所は血は繋がってない癖に、兄妹そっくりなんだから‼)
と、思っているアルトの眉間にしわが寄ると、
いつの間にか動ける様になっていたラニーニャが、たぬてぃとオルトの背に乗っていた。
「先輩⁉ 待ってください‼」
それを見て、今度はアルトがそう叫ぶと、
「俺も、行く‼」
と、叫んだジャップがメタの背に乗ったので、
「僕も、行きます‼」
と、パラの背にアルトはそう言って乗った。
すると、
「ちょ、ちょっと待って⁉ 俺はどうすれば……」
と、どうするか決まっていないケレスが三人の顔を見渡していたが、
「ケレス、後ろに乗れ‼」
と、言ったジャップがメタの背に乗れる様にスペースを作り、
「ええぇぇ⁉ わ、わかった‼」
と、言ったケレスはメタの背に乗り込み、
「よし、ケレス‼ しっかり捕まってろよ‼ じゃあ、メタ、頼んだぜ‼」
と、ジャップが言うと、メタは勢いよく走りだした。
しかし、ケレスはジャップに必死に捕まり、揚げ句の果てに目を閉じていた。
(ケレスの奴、朱雀に乗れなきゃ、アカデミーの試験に受からないぞ?
前も思ったけれど、彼は本当にアカデミーにいく気はあるのかな?)
そのケレスを見ていたアルトが呆れるやら心配するやら色々な気持ちでパラに乗っていると、
パラが軽く振り返りアルトを見つめてきたので、
「すまない。君の事じゃないんだ
と、言って、そのパラの頭をアルトが撫でると、パラはまた真直ぐ前だけ見て走り続けた。
そして、数時間パラ達は走り続け、目の前に広がる氷の海の前で止まった。
すると、
「海が凍ってる⁉」
と、やっと目を開けたケレスは驚いてそう言ったが、
「ケレス、これからどうする?」
と、そんなケレスを見らずにジャップは聞き、
「はっ⁉ どういう事だ、兄貴?」
と、答えたケレスはジャップの背を必死に見つめたが、
「ここは宝珠の国の果ての地、メンカルだ。ここから先は危険だ。どうなるかは、わからん‼
だが、俺達はこの海を渡ってミュー達を追いかける。ケレス、残りたかったら降りろ‼」
と、ジャップは他の者の意見も聞かず、そう決めた。
「そんな⁉ 姉ちゃんは、どうするんだ?」
そして、ケレスがラニーニャを見て聞くと、
「私、行くよ」
と、氷の海を真直ぐ見つめているラニーニャは即答し、
(全く、二人共、考えなしに言うんだから……)
と、アルトは呆れていたがアルトの答えは決まっており、
「先輩が行くんなら、当然、僕は御供しますよ!」
と、言って、髪を軽くかき上げると、
「兄貴、このまま行ってくれ‼」
と、言ったケレスはジャップの背をしっかり掴み、
「わかった。しっかり捕まっていろ、ケレス‼ みんな、行くぞ‼」
と、ジャップの号令で、パラ達は走り出した。
それからまた数時間、氷の海を走り続け、ある島にジャップを乗せたメタが上陸した。
「メタ、ここで休むぞ。今日は、ここで野営するから、準備を、アルト、ケレス、手伝ってくれ」
そして、ジャップの指示にアルトが従おうとすると、
「ジャップ⁉ まだ進めるよ! こんな所で休めない‼」
と、ラニーニャはオルトから降りず、必死に訴えたが、
「駄目だ! 今日はここで休む‼」
と、ジャップからその訴えを退けられ、
「そんな⁉ まだミューちゃんに追いつけてない‼ 早く見つけなきゃ‼」
と、それでもラニーニャがしつこく訴えたので、
「先輩。ここはもうじき暗くなります。彼はここにいる皆の命を預かっているんです。
ここは彼の言う事を聞きましょう」
と、アルトはラニーニャを説得したが、
「そうね、そうなんだけど……」
と、言ったラニーニャがまだオルトから降りずにいると、
「姉貴。ミューにはララが付いてる。ララは一番頼りになる御庭番犬だ。だから、ララを信じろ!」
と、ジャップに諭され、
「わかった……。ごめんね、ジャップ」
と、納得したラニーニャはそう言ってオルトから降りた。
「よし! 実はここは、俺が軍の訓練で来た事がある所だ。だから、野営する為の物は任せろ!」
それからジャップはアルト達に色々と支持を出し、野営の準備を始めた。
そして、野営の準備を終えると、辺りは暗くなってきて、
「よし、こんなもんか!」
と、ジャップが言って、皆で食事を始めたがラニーニャだけはほとんど手をつけなかった。
「姉貴、食わないのか?」
そんなラニーニャを心配したジャップがラニーニャを見て聞くと、
「ごめん。私、ミューちゃんが心配で……」
と、言ったラニーニャは俯いてしまい、
(せ、先輩が気落ちしてる⁉ こういう時、何て言えばいいんだ? えーと、調べなきゃ‼)
と、考えているアルトが焦ると、
「そっか……。まあ仕方がない。でも、出来るだけ食えよ!」
と、透かさずジャップがそう言って励まし、ラニーニャは軽く頷いたので、
アルトが入れる場所は全くなかった。
(また、ジャップに良い所を持って行かれてしまった‼)
そして、アルトが後悔していると、メタがラニーニャのリュックをゴソゴソと匂いだし、
「メタ、どうした?」
と、ジャップがメタに目を転がして聞くと、
「あっ! メタ、もしかして……。これ、食べたいの?」
と、言ったラニーニャが、自身のリュックから、リンゴを取り出したので、
メタは、ヒューンっと鳴き興奮してラニーニャに擦り寄った。
そして、ラニーニャのリンゴも加え、野営で集めた食材を全て食べ終えて皆で眠る事となり、
アルトが横になろうとすると、パラがアルトにくっついてきた。
「パラ君、今日はありがとう。凄いね、君達の一族は」
そう言ってアルトがパラの頭を優しく撫でると、
パラはもっと褒めてほしいのか、前足を並べ舌を出し、尻尾を速く横に振ってアピールした。
「わかった、わかった。でも、少しだけだよ? 君は、休まなきゃ」
それから一〇分程、アルトはパラに感謝を伝え、そして、二人で横になった。
すると、パラは疲れからかすぐに眠ってしまい、アルトもパラの温もりでうとうとしてきたが、
「ケレス君、眠れないね。ちょっと、話、しよっか?」
と、ラニーニャの声が聞こえ、
「いいよ、姉ちゃん」
と、ケレスの声も聞こえた。
(むっ⁉ ケレスの奴、何をしてるんだ? 先輩は、気疲れしてるんだ‼
余計な心配事を増やさないでほしいね‼)
イライラしているアルトがその二人に聞き耳を立てると、
「姉ちゃん。あのさ、昴の事なんだけど、あの後大丈夫だった?」
と、ケレスが話を始めたので、
(昴だって⁉ どういう事だ?)
と、さらにアルトが聞き耳を立てると、
「うん、大丈夫。でも、私ね、あの時の記憶があいまいで……。
何であんな所で眠っていたのかな?」
と、ラニーニャは不思議そうに答えたが、
「それよりケレス君。イザベルにはもう慣れた?」
と、話を変えた。
(先輩が、昴に行ってた⁉ しかも、そこで何かあったんだ‼
だから、先輩の様子が変だったんだ……。なのに、僕には何も話してくれなかった……)
アルトは落ち込んだ。
それからケレス達は暫く何かを話した後、眠った様だった。
(仕方がない……。僕じゃ先輩は頼ってはくれないんだ……)
そう痛感したアルトは眠れない夜を唯、瞳を閉じて過ごした。
そして、朝日が昇りかけた頃、ケレス以外の者は起きて出発の準備を終えた。
それからケレスが起き、出発してまた、数時間パラの背に乗っていると、
「陸地が見えたぞ‼」
と、ジャップが叫び、ジャップが言った陸地がはっきりと見え出し、徐々にその陸地に近づいていき、
その陸地に上陸したがもう時は昼を過ぎていた。
すると、オルトがある方向を見て他の二体に鳴き声で何かを知らせた。
「オルト、どうしたの?」
と、ラニーニャに聞かれたオルトはいきなり走り出し、
それに他の二体も続いたのでアルト達もそれに続いた。
そして、オルトが向かった所には宝珠の国の皇女とララがいた。
その宝珠の国の皇女達に向かい、
「ミュー‼」
と、ケレスが呼ぶと、
「ケレス⁉ どうしてここに?」
と、ケレスを見て宝珠の国の皇女は驚いたが、
「ミューちゃん‼ もう、心配したんだからね‼ 勝手に突っ走るんだから‼」
と、泣いているラニーニャがそう言いながら抱き着いたので、
「お、お姉ちゃん⁉ もう、心配症なんだから‼ でも、ごめんね……」
と、宝珠の国の皇女は、恥ずかしがったが、喜んだ。
そして、
「ミューちゃん、お腹、空いてない?」
と、少し泣いているラニーニャが宝珠の国の皇女から離れてそう聞くと、
「実は、空いてるんだ」
と、宝珠の国の皇女は恥ずかしそうにそう答えて頷き、
「はい、これ」
と、言ったラニーニャが残った軽食とリンゴを出してリンゴを半分に切り分けると、
「うわ! お姉ちゃん、ありがとう。しかも、赤き女王だ!」
と、言った宝珠の国の皇女は半分のリンゴを食べ、
「はい、ララ。あなたの分。ミューちゃんを、ありがとうね!」
と、言ったラニーニャは残りの半分のリンゴを出し、
それをララは美味しそうに、シャリシャリと音を出しながら食べた。
それを見てまたメタがリンゴを欲しそうに鼻で、ヒューンと鳴いたので、
ラニーニャはアルト達にもリンゴを均等に分け、配った。
「あ、あの、先輩……」
そのラニーニャの行為を見たアルトが気になった事を言おうとすると、
「ここは、何処なの?」
と、リンゴを食べ終わった宝珠の国の皇女からその声をかき消されてしまい、
(ああっ‼ タイミングが悪い‼)
と、アルトがむしゃくしゃしていると、
「だって、ここがアルタルフなら雪や氷は何処にあるんだよ?」
と、ケレスの声が聞こえたので、
「一三年前のヘルヘイムの災いがここまで及んでいるんだろう。
だから、雪や氷がなくここも滅びを迎えようとしているみたいだね」
と、アルトは自身を落ち着かせる様に説明したが、
「俺、この国の者じゃないけど何とかならないのか?」
と、無知過ぎているケレスから聞かれ、
「ならない事はないけど……」
と、答えたくなかったアルトは言葉を濁したが、
「アルト‼ 何か知っているんなら方法を教えてくれ‼」
と、言ったケレスが必死にアルトを見つめてきた。
(ああっ、もう‼ 何も知らないから、こんな国を助けたいとか考えるんだよな‼
この国は自業自得だというのに‼)
そのケレスの言葉に、カチンッときたアルトは、
「知った所で、君がどうか出来る話じゃないんだけど?」
と、意地の悪い言い方をしたが、
「アルト、頼む‼」
と、ケレスからまた嘆願されると、
(本当……、無知な者は嫌いだ‼
それに、自分では何も出来ない癖に何でも出来るなんていつまで思ってるんだい⁉)
と、遂にアルトは押さえていた何かが外れてしまい、
「……。救いの神子様の力なら出来るかもね」
と、大きな溜息の後、ケレスと目を合わさず教えてしまった。
「それって、花梨様なら出来るって事か?」
すると、そう聞いたケレスはアルトと目を合わそうとしたが、
「そうだ! 花梨様の浄化の力なら、きっと出来る。
でも、君も知っての通り花梨様は昴から出られないんだ。
だから無理だろうね」
と、答えたアルトの眉間にはしわが寄ってしまい、
「そんな‼ 無理の一言で解決するのかよ?」
と、しつこく言ったケレスに、
「仕方がないだろう‼ だから、君がどうにか出来る話じゃないって言ったんだ‼
それに、君達がこんな国を助けなくともいいだろう‼」
と、アルトはむしゃくしゃした気持ちをぶつけてしまったが、
「ケレス! 私、花梨に頼んでみる‼ だから、そんな顔しないで。花梨なら、きっと助けてくれる!
私達が災いを祓って花梨に安心して世界をまた救ってもらおう!」
と、宝珠の国の皇女がまた呆れる事を言い出した。
(何も知らないから、そんな事を平気で言うんだ……。
この国が今まで何をしてきたのか知らないのか?
まあ、いいさ。花梨様はこんな国を救ったりはしない。いずれわかるだろうね)
そして、冷ややかな目でアルトがケレス達を見ていると、
ララが急に顔を上げ、宝珠の国の皇女に何かを伝え様とした。
それからララの先導である平屋まで行くと、
宝珠の国の皇女は勝手にある家の中へ入ってしまった。
(全く……、これで宝珠の国は大丈夫なのか?)
アルトは心配しながらも宝珠の国の皇女に付いて行った。
すると、ある綺麗な部屋にクリオネはいて、宝珠の国の皇女はクリオネとの再会に喜んでいたが、
(これは……。かなり彼女は弱っている。
恐らく、あの猪の祟り神を追い払うのにマナを使い過ぎたんだろう。
さてさて……。彼女のマナをどうやって回復させようか。
この国にマナに溢れているものがあればいいんだけど……)
と、色々と考えているアルトがクリオネを見ていると、誰かがこの部屋に入って来た。
アルト君、大変だったね。
でも、無事に、クリオネと再会出来て良かった!
けど、そこは、剣の国。
この意味がわかってるかな?
きっと、君なら意味がわかってるね!
頼んだよ♪
さて、次回は、また本編のお話に戻り、そのタイトルは、【ケレス、祟り神の誕生を見る】だ。
えっ⁉ 祟り神って、滅んだんじゃ……。




