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番外編 龍宮 アルトの憂鬱 2

 龍宮アルトは、光の神殿の事件以降、今まででは考えられない人間付き合いを始める事となった。そして、今までで付き合った事のないタイプの人間、ジャップから龍宮アルトは呼び出され、ある手伝いをする事になったのだが……。

 光の神殿での事件以降アルトの心は軽く眉間にしわが寄る事も大分減った。

 それは、ケレス達との出会いが大きな要因である。

 特にアルトはラニーニャを尊敬し、しれっと光の神殿からの帰りに連絡先を入手していた。

 だが、それを入手する時とんでもない邪魔者が入っていたのだ。

☆*☆*☆

「アルト。今日は本当にありがとう!」

 宝珠の国に帰り着いてラニーニャとの別れ際にそう言われ、

「あ、あの、先輩! お願いがあります‼」

と、意を決したアルトはそう言ってラニーニャを見つめた。

「お願い? 私に出来る事ならいいよ」

 すると、不思議そうな顔をしているラニーニャにそう言われ、

「連絡先を、教えてください‼」

と、アルトが瞳を強く閉じて頭を深く下げ頼み込むと、

「何だ、そんな事なの? いいよ、私ので良ければ!」

と、ラニーニャは快くアルトの申し入れを受けてくれたのでアルトの顔は綻んだ。

 だが、アルトの顔が綻んだのも束の間だった。

「おっ、じゃあ俺のも教えるぜ‼ アルト、お前の連絡先を教えな!」

 そう言ったジャップが割り込んできたのだ。

「い、いや、君のは別にいいんだけど……」

 そして、アルトは遠慮したが、

「まあまあ、アルト! 俺とお前の仲だ‼」

と、言ったジャップからアルトは強引に連絡先を交換させられた。

☆*☆*☆

 アルトは自分の携帯電話のアドレス帳を見ていた。

 隙間だらけだったアドレス帳に増えたラニーニャの連絡先。

「先輩の連絡先……」

 それを見て嬉しそうにアルトは呟いたが、

「そ、そうだ‼ よく考えたら僕は先輩にお礼を言ってない‼」

という事に気付き、

「ちゃんと言わなきゃ悪いけど……。こういう時は電話した方がいいのか?

 それとも、メッセージを送ればいいのか……。どちらにしても何て言えばいいのかわからない⁉

 えぇっと……こういう事は何所で調べたらいいんだ?」

等々と悩んでいるとアルトの携帯電話が鳴り出した。

 そして、アルトは思わず電話に出てしまった。

 すると、

「おーい、アルト。元気にしてたか?」

と、それは陽気なジャップからで、

「な、何で君が電話してくるんだ⁉」

と、叫んだアルトは電話を落としそうになったのに、

「昨日、連絡先を交換したからだ‼ それより、元気にしてたか?」

と、言ったジャップは陽気なままで、

「何を訳の分からない事を言ってるんだい? 昨日、会ったばかりだ‼ 元気に決まってるさ‼」

と、怒り気味のアルトが当然なことを伝えると、

「それは良かった! じゃあな!」

と、言って、ジャップは電話を切った。

「てっ⁉ こらっ! 勝手に切るな‼ 君は何が言いたかったんだ?」

 そして、呆れたアルトがその電話に文句を言って机に置くと、

「どうかなされましたか、アルトお坊ちゃま?」

と、言いながらアルトの婆やがにこにこしながら部屋に入って来たので、

「婆や、聞いてくれよ! いきなりさ……」

と、アルトは言いかけたが、

「話は茶の稽古の時で宜しくて?」

と、言ったアルトの婆やに目配せされると、

「ああ、わかった」

と、言って、アルトは茶の稽古を始めた。

 アルトはアルトの婆やに頼み、もう一度初めから茶の心を学ぶ事にした。

 それは、ケレス達との出会いでアルトが何かを掴んだ気がしたからである。

 そんなアルトは茶を点て終わったが、

「やっぱり、唯の緑汁だ……」

と、いつも通りの茶を見たアルトがそう言って肩を落とすと、

「ほほほ。ですが味はとても宜しゅうなっております」

と、アルトの婆やに褒められたが、

「と言う事は、以前のはもっと不味かったという事かい?」

と、聞いたアルトの眉が下がると、

「そうですね」

と、アルトの婆やから即答され、

「やっぱり、不味かったんだ……」

と、言ったアルトが溜息をつくと、

「いえ、そういう意味ではありません」

と、言って、アルトの婆やは飲み終えた茶碗を置いた。

「では、どういう意味なんだい?」

 それからアルトに聞かれ、

「何と言いましょうか……。味に優しさが生まれたという感じでしょうか?」

と、アルトの婆やは穏やかな顔で答えたが、

「味が優しいだって? さっぱりわからないよ」

と、言ったアルトが首を傾げると、

「例えば、先程の電話の方を思って茶を点てたのでは?」

と、言って、アルトの婆やがそのままの顔でアルトを見ると、

「な、何を言うんだい⁉ 僕が彼なんか思う訳ないだろう?」

と、言ったアルトは正座を崩してしまい、

「ほほほ。では、先程、私に言いかけた事を話していただけますか?」

と、アルトの婆やに促されアルトはジャップについて話す事になった。

「でね、彼は何度言っても僕を呼び捨てにするし髪を滅茶苦茶にするし 人の話は聴かないし、

勝手に僕に任せてくるし……。

 兎に角、変わってるんだ‼

 この間だって一点集中で僕を信じて突っこんでいくし見ず知らずの僕に先輩達を任せたりするし……」

 アルトの婆やはこの様なアルトの長い話をずっと穏やかな顔で聴いていた。

 そして、

「そうでしたか……。

 ジャップ様はお優しい方みたいですのでアルトお坊ちゃまの茶の味がそうなったのですね」

と、アルトの婆やから穏やかな顔のままで思わぬ事を言われたので、

「婆や⁉ 僕の話を聴いてたのかい? どうして、彼が優しいってなるんだい?」

と、動揺したアルトが聞くと、

「ジャップ様はアルトお坊ちゃまの非礼を責めなかった……。

 そんな非礼なアルトお坊ちゃまを信じた……。

 これは、心が広く優しい方でなくては出来ませんよ?」

と、アルトの婆やからの答えに、

「婆や……。そうかもしれないけど、結構、言うね」

と、ショックを受けたアルトの眉が下がると、

「これは、失礼いたしました!」

と、言って、アルトの婆やはほほほっと笑った。

「肩の力を抜いてジャップ様の期待に応え、そして頼りなされ」

 そして、アルトの婆やはそう助言し、

「婆や……。でも、僕は彼がわからないんだ。どうやって期待に応えたり、期待されるかなんて……」

と、言ったアルトが、答えを求める様にアルトの婆やを見つめると、

「ほほほ。会ったばかりでわかるはずがありませんわ」

と、答えたアルトの婆やから優しい目で見つめられ、

「そ、そうだね! 一つの研究対象として観察してみるよ!

 でも、電話を勝手に切る事は一生わからない気がする……」

と、何かが吹っ切れたアルトはわかった気になりそう言ったが、

「そうですね。電話の件だけは、私にもわかりかねます」

と、アルトの婆やもそこだけは同じ考えだった。

 そして、

「では、次にラニーニャ様の事を思い、茶を点ててみてください」

と、言って、アルトの婆やは茶の稽古を続け様としたが、

「せ、先輩の事だって? え、えっと、そのぉ……」

と、言ったアルトの顔は緩み手遊びを始めてしまったので、額に扇子がバシッ‼と叩きつけられた。

「痛って‼ 何するんだい?」

 すると、額を押さえながらアルトは怒ったが、

「真面目になさい‼」

と、目尻が釣り上がっているアルトの婆やから叱られ、

アルトは逆らえずラニーニャを思い、茶を点てた。

 そうして茶を点てるといつもは泡はほとんど出来ないが薄っすらと泡が出来た。

「婆や、見てくれ‼ 綺麗な泡が出来た‼」

 その泡を見たアルトは喜び声が弾むと、

「そうですね。では、お味の方を確認させていただきます!」

と、言って、アルトの婆やはアルトが点てた茶を一口飲んだ。

「ど、どうだい?」

 それから恐る恐るアルトが聞くと、

「はい。今までで一番、美味しゅうございます。ですが……」

と、感想を述べたアルトの婆やは何かを言えず、

「はっきり言ってくれ。先輩に美味しい茶を飲んでもらいたいんだ‼」

と、言ったアルトが身を乗り出すと、

「ですが、アルトお坊ちゃまはラニーニャ様に何か気掛かりな事があるんですね?」

と、アルトの婆やにアルトは心を見抜かれていたので、

「婆や……。君は何でもお見通しなんだね……」

と、言ったアルトが一つ息を吐くと、

「私で宜しければ話していただけますか?」

と、アルトの婆やに促されアルトはラニーニャについて話した。

「先輩は人に気を使ってばかりいてね。もっと自分にも気を使った方が良いと思うんだ。

 それにしても、先輩の力は凄いよ。僕なんか足元にも及ばない。

 でも、あの力は……」

 ここまで饒舌に話していたアルトだったが言葉に詰まると、

「あの力は?」

と、アルトの婆やに聞かれたが、

「いや、有り得ない事だから……」

と、アルトが答えられずにいると

「見守ってあげなさい」

と、アルトの婆やは助言した。

「どういう意味だい?」

 すると、そう聞いたアルトは首を傾げたが、

「ラニーニャ様もジャップ様も放っておけないのでしょう?

 話を聴いている限り、二人共、危なっかしいみたいですし……。

 そういう時にアルトお坊ちゃまが必要だと私は思います」

と、アルトの婆やからまた助言を受け、

「ぼ、僕が必要……⁉」

と、その言葉を聴いたアルトの胸は高鳴り、

「わかった。僕は先輩を見守るよ!

 ついでにジャップもね! 彼が無茶したら先輩が気疲れしそうだから!」

と、言って、胸を張ると、

「期待しております。では、今日の稽古はここまでです!」

と、アルトの婆やの言葉で茶の稽古は終了した。

 それからアルトはラニーニャに何度と連絡を取ろうとしたが勇気が出ず、一週間が経った。

 その代わりジャップが毎日の様に連絡を取ってきて、

「こ、こらっ‼ 特に用がないのに電話するのはやめたまえ‼

 あっ‼ また、勝手に電話を切ってる⁉」

という日々が続いた。

 そして、

「おう、アルト。元気か?

と、いつも通りのジャップからの電話に、

「君……。毎日毎日、同じ事を言わせないでくれるかい? 特に変わりなく過ごしてるさ‼」

と、怒ってアルトが返事をすると、

「おお、それは良かったぜ!」

と、言ったジャップは喜んでいたが、

「用がないのなら電話を切っても、いいかい? こう見えても僕は忙しいんだ‼」

と、怒鳴ったアルトが電話を切ろうとすると、

「そっか、忙しいんなら仕方がない。姉貴にそう言っとくわ」

と、言って、ジャップが電話を切ろうとしたので、

「ちょ、ちょっと待つんだぁーーーーーーっ‼」

と、叫んだアルトはそれを阻止しジャップの要件を聞く事に成功した。

 それから、

「えっ‼ せ、先輩の手伝いを、頼まれたって?」

と、ジャップの話を聴き終わったアルトはわくわくしていたのに、

「そうなんだよ……。何か急で悪いんだが、仕事関係で色々と頼まれたみたいでな。

 俺一人でも良かったんだが、まあ忙しいんなら俺一人で手伝うわ!」

と、ジャップは平気にそれを打ち壊す事を言い出し、

「忙しくない‼ 僕も手伝うよ‼」

と、叫んだアルトが電話に齧りつくと、

「おっ、そっか! じゃあ、明日、姉貴の職場で会おうぜ‼」

と、言っただけでジャップは電話を切ってしまい、

「こ、こらーーーー‼ 明日の何時なんだ? それに、僕は先輩の職場なんて知らないよ⁉」

と、絶叫したアルトはジャップに電話をするはめになった。

 そして、ジャップから必要な事を全て聴き終わった後、

「いいかい? 君のその癖は直さないといけないよ。こうやって二度手間になるだろう?」

と、アルトは忠告したが、

「おお、それは悪かった。だが、電話ありがとな!」

と、嬉しそうに言ったジャップはまた電話を勝手に切ってしまい、

「僕の話を聴いてたのかい⁉」

と、呆れたアルトは叫んだが何故か左程、怒りは湧かなかった。

「全く……。ジャップには呆れるよ。でも、何だろう……。不思議な感じがする」

と、呟いたアルトはジャップの事を考えた後、

「で、でも、先輩に会える⁉ ど、ど、どうしよう⁉ な、何を言おう?」

と、悩み続け一日を過ごし、次の日を迎えた。

 そして、待ち合わせの時刻、待ち合わせの場所であるラニーニャの仕事場にアルトは到着した。

 すると、

「あっ、アルト、おはよう。今日はごめんね。付き合わせちゃって」

と、言ったラニーニャと視線が合い、

「そ、そんな事を言わないでください!」

と、緊張してしまったアルトの声は大きくなったが、

「おう、アルト‼ よく来たな‼」

と、そんな声より大きな声で言ったジャップからアルトは髪をグシャグシャにされてしまい、

「何するんだい⁉ あっ⁉ 髪が滅茶苦茶じゃないか‼」

と、怒鳴ったアルトはジャップから逃れた。

「まあまあ、気にすんな!」

 そして、全く反省をしていないジャップに、

「気にするよ‼」

と、言って、アルトは怒ったが、

「さて、姉貴。買い出しに行こう!」

と、それを無視したジャップはラニーニャに話し掛け、

「うん。行こう!」

と、言ったラニーニャは頷き、アルト達は買い出しに向かった。

 ラニーニャの買い出しはコーヒーや茶菓子、

洗剤やティッシュペーパー等といった日常生活品ばかりだった。

 だが、それ等を一人で抱える事は出来ない量だった。

 そこでアルトはラニーニャに良い所を見せ様と多くの荷物を持とうとしたが、

ほとんどの荷物をジャップから軽々と持たれてしまった。

(ジャップめ……。先輩の前で良い格好してどういうつもりなんだい⁉)

 身軽のアルトが眉間にしわを寄せジャップを横目で見ていると、

「姉貴、あと何を買えばいいんだ?」

と、ジャップに聞かれ、

「うーんと、何か甘いお菓子がほしいって言われてるんだけど……。何がいいかな?」

と、答えたラニーニャは迷っていたので、

「せ、先輩! それなら僕に任せてください‼」

と、言ったアルトはアルトお薦めの茶菓子店へ案内した。

 そこは季節限定の落雁や煉切り、色々な種類の饅頭が並べられている店で、

特に最近アルトは茶の稽古でこの店の茶菓子を購入しているのだ。

 なので、

「どうです、ここの店の茶菓子は? この店の茶菓子はとても抹茶に合うんです。

 だから最近、僕は茶の稽古の茶菓子をここで購入してるんですけど……」

と、アルトは説明したが、ラニーニャは少し切ない顔になった。

「あ、あの、お気に召しませんでしたか?」

 すると、そう言ったアルトの眉は下がったが、

「ううん。何か懐かしい感じがしただけ。とっても可愛い! きっと先生も喜ぶ!」

と、言ったラニーニャは微笑んだので、

「そ、それじゃあ……?」

と、言ったアルトの眉が戻ると、

「うん。ここのお菓子にするよ。アルト、一緒に選んでくれる?」

と、ラニーニャに頼まれ、アルトはラニーニャと一緒に茶菓子を選んだ。

 そして、無事に茶菓子を購入すると、

「おーい、買えたか?」

と、両横に荷物を置いて たぬてぃをあやしているジャップに聞かれ、

「うん。アルトのおかげでいい買い物が出来た!」

と、言ったラニーニャが笑い掛けると、

「おお、そうか……。アルト、良くやった!」

と、ジャップはアルトを褒めたが、

「当然だ。僕が薦めるんだから良い物に決まってる!」

と、言ったアルトが髪をかき上げると、

「ふーん。まっ、そりゃそうだ……」

とだけ言って、ジャップは たぬてぃをラニーニャに渡した。

 しかし、そのジャップの顔は何かを言いたそうだった。

「何が言いたいんだい?」

 すると、そう言ったアルトの眉間にしわが出来てしまったが、

「いや、別に?」

と、ジャップからはぐらかされ、

「別に、じゃないだろう? 言いたい事があるんならはっきり言いなよ!」

と、アルトが追及すると、

「おっ、もうこんな時間だ⁉ 姉貴、戻るぞ!」

と、ジャップはまたはぐらかし、荷物を抱え歩き出した。

 それからジャップの態度は謎のままだった。

(全く……。ジャップは何が言いたいんだ?)

 その間、アルトは苛立ち続けラニーニャの職場へ帰り着き、ラニーニャの職場に入る事となった。

 それから、

(ここが、先輩の職場……)

と、アルトがラニーニャの職場を見渡しているとラニーニャ達は手際良く荷物を片付けていき、

「あ、あの、何か手伝います!」

と、申し入れたアルトがラニーニャを見ても、

「うーんと、今の処、大丈夫だから。たぬてぃを頼めるかな?」

と、ラニーニャに言われ、たぬてぃを見ると、たぬてぃはアルトにじゃれてきたので、

「たぬてぃ君……」

と、呟いたアルトは肩を落としたが、たぬてぃに小さい鼻を目一杯上に向け目を輝かせられると、

「わかった。何をして遊ぼうか?」

と、言ったアルトは優しく笑い、たぬてぃをあやした。

 一五分程度だったが、たぬてぃをあやすと たぬてぃは満足していたが、

(先輩……。やはり、僕を頼ってはくれないんですね……)

という考えがアルトにはあった。

 今日一日ラニーニャを見ていてアルトは気付いていた。

 ラニーニャの様子がおかしいという事に。

 だから、ラニーニャに少しでも良い所を見せたかったが悉くジャップに阻止された。

(まあ、僕じゃ頼りないから仕方がないな……)

 そんな傷心のアルトが溜息をつくといつの間にか たぬてぃは床で眠っていたので、

「たぬてぃ君。寝るならもっと良い所で眠らなきゃ」

と、言いながらアルトが たぬてぃを抱きかかえると他の部屋でラニーニャが泣いているのが見えた。

 それに気づいたアルトは たぬてぃを抱きかかえたままその部屋に駆け込み、

「ああーーーっ⁉ ジャップ‼ 君は先輩に何をしたんだい?」

と、叫びながらジャップに詰め寄ったが、

「ごめん。何もされてないよ。唯、ジャップ達が手伝ってくれた事が嬉しかったの」

と、言ったラニーニャは笑って涙を拭い、

「そうだぞ‼ 俺は姉貴を泣かせたりしねえ‼ 失礼な奴だな‼」

と、眉間にしわが寄っているジャップからアルトは文句を言われながら髪をグシャグシャにされ、

それにびっくりした たぬてぃは起きてアルトから逃げた。

「こ、こらっ⁉ 髪が滅茶苦茶じゃないか‼ やめたまえ‼」

 そして、アルトがジャップから離れながらそう言って髪を整えると、

「濡れ衣を着せたアルトが悪い!」

と、言ったジャップから鼻で大きく息を吐かれ、

「君は乱暴な所があるだろう? 疑われても仕方がないんじゃないのかい?」

と、右眉が上がったアルトが指摘すると、

「うーん。まあ、そりゃそうだが……。モグモグ……」

と、ジャップは素直に認めたがその手にはある物が見え、

「あっ⁉ こ、こらっ‼ 何を勝手に食べてるんだい?

 それは僕と先輩が一緒に選んで買った茶菓子だぞ‼」

と、アルトはジャップの手にある茶菓子を指差しながら怒鳴ったが、

「すまん。腹が減ったんでな!」

と、言ったジャップは悪びれる事はなく、

「どうするんだい? 折角、先輩が買ったのにさ‼」

と、言ったアルトの怒りは増したが、

「気にしないで。アルトのおかげでいっぱい買えたし!」

と、笑っているラニーニャから宥められ、

「先輩はジャップに甘すぎます。偶には厳しくしないと彼の為になりませんよ?」

と、眉間にしわが寄ってしまったアルトが忠告しても、

「いいの。ジャップにはいつも頼ってばかりだから」

と、言ったラニーニャは全然怒ってなく、

「おう。姉貴はいつも俺を頼ってくれてるんだぜ!」

と、調子に乗ったジャップからそう言われた。

(全く先輩は甘すぎる‼ 僕の忠告を聞いてほしいよ!)

 そんな二人を見たアルトは呆れて肩を落としてしまい、

「そ、そうなんですか……」

の一言しか出なかったが、

「そう言えばアルト。お前、姉貴に何か言いたい事があるんじゃねえか?」

と、ジャップから不意に聞かれ、

(僕が先輩に言いたい事? そう言えば、何かを言わなきゃいけなかった様な……)

と、アルトは暫く考えた。

「そ、そうだった‼」

 そして、思い出したアルトはしゃきっとし、

(先輩にお詫びとお礼を言うんだった‼ ジャップめ、偶には良い事を言う。感謝するよ!)

と、心の中でジャップに感謝した。

 そのアルトを見て、

「何?」

と、ラニーニャは不思議そうな顔をでアルトを見つめ、

(え、えっと……。何から言い出せば良いんだっけ? 調べたんだけど、ド忘れしてしまった⁉)

と、アルトが思い出そうとしたその時、

「あの、こんにちは」

と、いきなりケレスが部屋に入って来た。

 そして、

「おっ、ケレス。どうした?」

と、ジャップが声を掛けると、

「三人共、何してるんだ?」

と、ケレスが聞いてきたので、

「姉貴の手伝いだ。それに、アルトが姉貴に会いたいって言うからさ。連れて来てやったのよ!」

と、ジャップはアルトが恥ずかしくなる事を平気で言ったので、

(あぁーー、もうっ‼ 兄弟そろって僕の邪魔をするんだから‼)

と、色んな感情が駆け巡っているアルトは顔が赤くなり、

「先輩に用があるだけだったんだけど……。何で、君までいたんだい?

 話が出来なかったじゃないか、ジャップ!」

と、それを隠す為、そう言ってジャップに八つ当たりをすると、

「まあまあ、いいじゃないか! 手伝いも終わった事だしさ!」

と、言ったジャップからアルトは肩をバッシッと、叩かれ、

「いったいな! 全く、君は乱暴なんだから!」

と、怒鳴ったアルトはジャップを睨みつけたが、

「二人共、ありがとう。今度、何かお礼させてね」

と、ラニーニャの言葉を聞くと、

「先輩⁉ そんな、礼なんていりませんよ‼」

と、アルトは謙遜してしまったが、

「おっ! じゃあ、姉貴、俺達にアップルパイ作ってくれよ! アルトにも、食わしてやりたいし!」

と、ジャップが提案し、

(ア、アップルパイ⁉ しかも、先輩の手作りだって‼)

と、アルトの胸が高鳴ると、

「いいよ。でもアルトはそれでいいのかな?」

と、聞いたラニーニャからアルトは見られ、

「そ、そんな⁉ 僕こそ、作ってもらえるんですか?」

と、言ったアルトは真面にラニーニャの顔を見れず指が勝手に遊び出してしまったが、

「勿論よ。任せて、アルト!」

と、言ったラニーニャは微笑んでくれ、

「姉貴、俺の分、忘れんなよ!」

と、ジャップが割り混んでも、

「わかってるって!」

と、ラニーニャは快く引き受けてくれた。

「ケレス君、ところで、どうしたの? 何か用があるの?」

 そして、ラニーニャがケレスにそう聞くと、

「姉ちゃん、ただいま!」

とだけケレスは答えた。

(ケレスの奴……。何か、言いたそうだが、あえて言わないのか……)

 そのケレスを見てアルトが分析していると、

「おかえり、ケレス君。お疲れ様!」

と、ラニーニャもそのケレスの言葉を聞いて嬉しそうだったので、

(先輩もあえて聞かなかった事に感謝しているんだ……。こういう事が家族には必要なのか?

 僕にはわからないや……。けど、婆やの言う通り僕は見守るよ。彼等は危なっかしいからね。

 ついでに、ケレスも見とかなきゃね! あんな顔をしてたら先輩が気付くだろうに。

 全く、少しはデリカシーを持つ事だね‼)

と、アルトはこの事を心に秘め、これから先ケレス達と付き合っていく事にした。

 アルト君、どうかな?

 大変だけど、頼むよ!

 まだまだ、ケレス君達には、君が必要なんだから……。

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