№ 11 ケレス、姉妹喧嘩に巻き込まれる
祟り神は滅んだ。
だが、そこでケレスはラニーニャの不思議な力を目の当たりにする。
その事について何も聞けないままケレスは剣の国の皇帝に招かれ、
剣の国の皇帝の屋敷で宝珠の国の迎えがくるまでの間過ごす事となった。
しかし、そこでもケレスはまたラニーニャについての不思議な現象を目の当たりにする。
その事をラニーニャに聞こうとするがラニーニャからケレスは嘘をつかれ、
さらに悪い事に何故かミューとラニーニャの仲が悪くなってしまい、
その間に挟まれたケレスは剣の国で気まずい思いで過ごさなければならなくなってしまう。
祟り神は滅んで粉雪の様に消え空には月明かりが戻り、少しだが辺りが見える様になった。
そして、その月夜に現れた男をケレスは無言で見ていた。
(何とか姉ちゃんが泣き止んだのは良かったけど、
まさか、あの人が剣の国の若き皇帝 帝 氷月様だったとは!)
ケレスはそう思いながら、帝を見ていた。
ゴンズの止めを刺したのは、剣の国の若き皇帝 帝 氷月だった。
彼はゴンズを殺す為、ゴンズを探していたらしい。
そこでケレス達に会い、今はゴンズについて事情をミュー達から聴いている。
帝 氷月の身長はジャップと同じくらい、髪は短髪の黒色、瞳も黒色だった。
肌はベージュ色で服は軍服の様な物を着ていて、腰に立派な長い刀を差していた。
(しかし、帝様は顔は良いんだけど怖い……。
しかも、一人で祟り神を倒す為行動してたなんて無茶な人だ‼)
ケレスがそう思いながら帝を見ていると、
「ケレス、よく無事でいたな!」
と、陽気なジャップから話し掛けられ、
「兄貴。まあ、何とかな……。
それより、もう話は終わったのか?」
と、ジャップに目を転がしたケレスが聞くと、
「一応な。仕方がなかったとはいえ、俺達は不法入国した訳だし。
話が長くなったぜ!」
と、ジャップは陽気なまま答えたが、
「うぇ⁉ ま、まさか、俺も何か取り調べられんのか?」
と、言ったケレスの体が硬くなってしまうと、
「いや、お前達はいいみたいだ。宝珠の国と連絡が取れたみたいでさ。
それより朗報だ! これから俺達ニーズヘックに行って、それから宝珠の国に帰れるみたいだ!」
と、ジャップから聞かされ、
「ニーズヘッグ? 何処だ?」
と、首を傾げたケレスが聞くと、
「剣の国の現在の帝都だ」
と、ジャップから教えられ、
「へぇ。じゃあ、そのニーズヘッグにはどうやって行くんだ?」
と、ケレスがまた聞くと、
「ニーズヘッグから飛行機が迎えに来てくれるらしい。
あと一時間程で到着するんだとさ」
と、ジャップは頷いて答え、
「そうか! 何とか宝珠の国に戻れそうだな!」
と、ほっとしたケレスが言うと、
「ああ、そうだ! みんなで帰れるんだ!」
と、言ったジャップからケレスは頭をグシャグシャにされてしまった。
「だあぁ⁉ 兄貴それやめろって‼」
それから怒ったケレスはジャップから逃れ、
「じゃあ、俺はその事を姉ちゃんに教えてくる!」
と、髪を整えながら言ってラニーニャを探しに行った。
そうしてケレスがラニーニャを探しているとラニーニャを見つけたが、
ラニーニャはゴンズが消えた辺りでウェイライ達に囲まれながら静かに祈りを捧げている様だった。
(姉ちゃん。何をしてるんだ? 何か話せる雰囲気じゃない……)
その光景に神聖な雰囲気を感じたケレスは声を掛けれずラニーニャ達を静かに見守る事にした。
暫く月明かりの下でラニーニャは祈りを捧げた。
それは不思議な光景で祈りを捧げているラニーニャの姿は正に神聖な儀式を行っている様に見えた。
すると、ラニーニャの体が淡い白銀に輝き、
その周りに何所からともなく輝く粉雪が導かれる様に集まってきた。
そして、その粉雪達は透けていたが猪の精霊の姿となった。
(なっ、あれはゴンズじゃないか⁉)
それを見たケレスはそう思った。
透けている精霊は正しくゴンズだった。
しかし、禍々しさはなく瞳は穏やかでラニーニャ達を見つめ何かを伝えている様だった。
そして、そのゴンズの訴えに悲しみの表情が残るラニーニャは何度も頷いていた。
だが、何度かそのやり取りが続くと段々ラニーニャの顔は穏やかになって微笑み一粒の涙を流した。
それからラニーニャがまた祈りをゴンズに捧げるとラニーニャの白銀の輝きが増し、
それに共鳴する様にゴンズの体も輝き出した。
そして、二人の輝きは二人の姿が見えなくなる程まで増しそれから輝きは消えた。
すると、そこにはラニーニャしか残っておらず涙が消えたラニーニャは空を見上げ何かを呟き、
それを見ていたウェイライは喜び、フェイトは賺した顔をしていたが嬉しそうだった。
(何が起こったんだ?)
そして、ケレスが呆然とその光景を見ているとフェイトはケレスに気付いた。
だが、フェイトはケレスを意地の悪い目で見つめ、
「お前には何も教えてやらねえよ」という様な顔で笑った。
そんなフェイトはケレスからラニーニャを見えなくする様に自分の場所を変えた。
(何だ、あいつ⁉)
そのフェイトに苛立ちが顔に出てしまったケレスがフェイトの傍に行こうとしたが、
「どうした、そんな顔をして?」
と、ジャップから声を掛けられ、
「兄貴⁉ その、今の見たか?」
と、今の今までジャップが傍にいた事に気付かなかったケレスが足を止め聞くと、
「何をだ?」
と、ジャップは何も知らなそうに答えたので、
「いや、何でもない……」
と、冷静さを取り戻しケレスはそう言った。
「そっか。姉貴にはニーズヘッグの事言ったのか?」
すると、ジャップからそう聞かれ、それにケレスが首を横に軽く振ると、
「ふーん。まあ、俺が言うわ」
と、言って、ジャップはラニーニャの所に行き、それにケレスは付いて行った。
しかし、
「姉貴、あのさ俺達、ニーズヘッグに行く事になった。
そこから宝珠の国に帰るんだとさ!」
と、ジャップからの知らせを聞いたラニーニャの顔は明らかに強張ったので、
「姉貴どうした?」
と、心配そうにジャップが聞くと、
「何でもないよ!」
と、ラニーニャは笑いながら答えたが、
「あんた。行くな‼」
と、怒鳴ったフェイトがラニーニャの腕を掴み行かせない様にした。
それからフェイトはラニーニャの腕を掴んだまま必死に行かない様に訴え続けたが、
「大丈夫、フェイト。あなたにはやる事が出来たでしょ?
それに、私には たぬてぃがいるから心配しないで」
と、言って、優しくラニーニャはフェイトの手を退け、
「でも……」
と、フェイトは何かを言いたげにラニーニャを見つめていたが、
ラニーニャがフェイトの耳に何かを囁くと、
「ふざけるな‼」
と、怒鳴ったフェイトは顔を真っ赤にしてラニーニャから離れた。
そして、
「ウェイライちゃん、フェイトをよろしくね!」
と、ラニーニャがくすくす笑いながら言うと、
「わかってる。お姉さん、約束、忘れるな!」
と、言ったウェイライも笑い、それに対してラニーニャは大きく頷いた。
それからウェイライ達はヨルに乗ってエーリガルと家に帰って行き、ケレス達はそれを見送った。
すると、二〇分程でニーズヘッグからの迎えの飛行機が到着し、
その飛行機は場所が場所だけあり小型だったがケレス達を乗せるには十分な大きさだった。
そして、その飛行機はケレス達全員を乗せニーズヘッグへ飛び立った。
その飛行機の中は座席がいくつか盾に並んでおりそこの一つの席にケレスは座り、
ケレスの隣にミューが座ってその前にジャップが座った。
その飛行機の中で、
「ミュー、無事で良かった。勝手に突っ走って行ったから心配したぞ!
でも、凄かったな! あんな奴等相手に怯む事なく立ち向かうんだから!」
と、ケレスが話し掛けると、
「朱雀達のおかげだよ。このコ達がいなかったらどうなっていたか……。本当、ありがとう、みんな」
と、言ったミューはクリオネ達を撫で、特にクリオネとメタは嬉しそうに撫でられていた。
「ミューも立派だったよ。さすが、宝珠の国の次期女王だ!」
そんなミューをケレスが褒めると、
「まだまだだよ。私、もっと力を付けてみんなを守らなきゃ‼
災いなんかこの世界から全部消してやる‼ そして、花梨にこの世界を見せなきゃ‼」
と、言って、ミューは力強い決意を見せ、
「ははっ、頼りにしてるよ!」
と、言ったケレスが笑うと、
「おーい、俺を忘れるな! 一応、がんばったんだぜ?」
と、陽気に笑っているジャップが話しに入ってきたので、
「お兄ちゃん⁉ わかってる。頼りにしてるよ!
今回だって凄かったもんね!」
と、ミューが嬉しそうに言うと、
「わかってるんなら、よし!」
と、言ったジャップは満足し、
「はぁ……。兄貴も凄いのに、俺は情けない……」
と、言ったケレスが肩を落とすと、
「そんな事ないよ‼ ケレスだって頼りにしてるんだから‼
それに、私、ケレスがいたからがんばれたんだよ?」
と、ミューから必死に訴えられ、
「ミュー……。ありがとな! 俺、もっと成長して頼りになる男になるから!」
と、顔を上げたケレスは決意を見せたが、
「おぉ⁉ 頼もしいな。少しは大人になれたか?」
と、ジャップから揶揄われてしまい、
「お兄ちゃん⁉ ケレスは十分頼りになる大人の男性よ‼」
と、言ったミューは困った顔になった。
すると、ミューの所にメタとパラが来て、尻尾を速く横に振ってミューの顔を見つめてきたので、
「はいはい、あなた達も頼りにしてるから!」
と、笑って言ったミューはパラ達の頭を撫でた。
そうやってケレス達と朱雀達で楽しい時間は過ぎたが、ケレスはふとラニーニャが気になり、
(姉ちゃん、静かだな……)
と、ラニーニャの方を見ると、ラニーニャはアルトと静かに何かを話していて、
(姉ちゃん。こっちに来ないのか?)
と、寂しい気持ちのまま、飛行機はニーズヘッグに到着した。
そして、ニーズヘッグに着き外に出るとそこは朝焼けをしていた。
その外は息が白くなる程寒く空は濃い紫色でもうじき朝を迎える感じがした。
そんなニーズヘッグで美しい女性にケレス達は出迎えられた。
その女性は身長はミューより低く、肌はベージュ色、
黒髪を二つのおだんごにまとめそのおだんごに赤いリボンが付けられていた。
そして、瞳は黒色で赤色のアイラインと口紅が際立ち、着物の様と似ているが違う服を着ていた。
「お帰りなさいませ。氷月様」
そして、そう言ったその女性が頭を下げ、両手を前で合わせると、
「ホン、後は任せた」
と、氷月からその女性は目を合わさずに言われたが、
「招致しました。準備は整っております」
と、ホンと呼ばれた女性はそう言って、さらに深く頭を下げた。
すると、何処からかカラン、コロンと大きな鐘の音が響き渡った。
その音は紫の空から夜明けを待ち望む様なとても美しい音で、
その音にケレス達が聴き惚れていると、
「グリンカムビの鐘ですわ」
と、顔を上げたホンから微笑みと共に教えられ、
「グリンカムビの鐘?」
と、言ったケレスが不思議そうな顔をすると、
「この国に幸せを齎す鐘と言われております。
この鐘の音を聞いて国民は幸せの朝を迎えるのです」
と、微笑んでいるホンから教えられ、
「へぇ。何か綺麗な音で本当に幸せが来そうですね!」
と、嬉しそうにケレスがいうと、
「ホン、部屋はどこだ?」
と、氷月が話に割り込んできた。
「氷月様。どうかなされました?」
すると、ホンが尋ねた先には氷月が青白い顔をしたラニーニャを抱えていたので、
「姉ちゃん⁉ どうしたんだ?」
と、慌ててケレスは呼んだが、ラニーニャの反応はなく、
「こちらですわ‼」
と、叫んだホンが屋敷に案内した。
だが、屋敷内にある部屋に行くのも大変だった。
やはり屋敷は広く、屋敷の中に立派な庭園があり、そこに川とそれを渡る橋までもあった。
その橋を越えて屋敷に入り、やっとの思いで部屋に着きラニーニャを休ませる事が出来た。
そして、
「ホン。医者を呼んでおけ」
と、言った氷月がそのまま部屋を出様としたので、
「あ、あの、ありがとうございました」
と、眉が下がっているケレスが礼を言うと、
「誰もあの女を見てねえんだな」
と、足を止めた氷月はそう言ってケレス達を蔑む様に見た後、部屋を出て行った。
その言葉と目にケレス達は何も言えずこの場が思い空気となってしまった。
「皆様、お疲れでしょう。
皆様の部屋を御用意しております。そこでゆっくりお休みくださいませ。
そして、この方は私にお任せください」
すると、ホンが優しい言葉を掛けてくれ、ケレス達はそれぞれ用意された部屋で休む事となった。
しかし、用意された部屋は豪華すぎた。
ケレスに用意された部屋はテーブルや小部屋の様なカーテン付きのベットがあり、
そして窓際には装飾された長椅子までもがあったのだ。
(ここも豪華な造りだ……。緊張して休めそうにないや……)
その豪華すぎる部屋に肩を落としたケレスは窓際の長椅子の端に申し訳なさ気に座り、
ぼんやりと窓の外を眺めた。
その窓からの景色には川があり多くの屋敷が並んでおり、まるで一つの街だった。
だが、その景色は物寂しいものだった。
何故なら、人の気配が全くなかったからである。
(屋敷がいっぱいだ。でも、生活感はないな……)
ケレスがその人の気配がない街並みを見ていると、
「お茶が入りました」
と、ホンがティーセットを持って部屋に入ってきたので、
「あ、ありがとうございます!」
と、言ったケレスが慌ててホンを見ると、
「そんなに遠慮はせず、この部屋を御自由にお使いくださいな」
と、言ったホンから、ふふっと笑われ、
「すみません。慣れていないもので……。
ところで、その隣に浮いている物は何ですか?」
と、ホンの右隣に浮いている物を見ながらケレスは聞いた。
ホンの隣には掌サイズの長方形の機械の様な物が浮いており、その画面は白く光っていた。
「これは、執事ロボットのp?ですわ」
すると、ホンはそう答え、
「執事ロボット?」
と、いったケレスが不思議そうにp?を見ると、
「あなた専用の執事ロボットで、ここにいる間、世話をします。
何なりとお申しつけくださいな」
と、ホンはにこやかに説明したが、
「お申しつけくださいって、具体的にどうすればいいんですか?」
と、ケレスが苦笑いしながら聞くと、
「そうですね……。例えば、p?、お茶をケレス様にお持ちして」
と、ホンが言うと、p?は「ピコッ」と音を出し自身の向きを床と平行にし、
ホンの持っていたお茶を自身の背に載せケレスの所まで運び、
「どうぞ。ケレス様」
と、喋った。
「すげえ⁉ 凄い機能だ‼」
そのp?の機能にケレスが驚くと、
「他にも色々と機能はございます。
このp?を持っている人と電話等も出来ますよ?
連絡を取りたい人の名前を申し付ければ後はp?が教えてくれます。
色々とp?と会話して機能を試してくださいね」
と、ホンはくすくす笑いながら説明を続け、
「ありがとうございます。ホンさん!」
と、ケレスが言うと、
「いいえ。それと宝珠の国からの迎えは二日後の朝になる様です。
その間、この敷地で寛いでください。
そして、何かあればp?を介し私にお申しつけくださいませ」
と、ホンは、ケレスが待ち望んでいた話を話してくれたが、
「あの、すみません。ホンさん、姉ちゃんの具合はどうなんですか?」
と、ずっと気になっていた事をケレスが聞くと、
「あの方は先程お目覚めになりました。
ですが、疲れからか少し熱がある様で、安静にする様にと医師から申し付けられております」
と、あまり良くないホンからの返答に、
「そうですか……」
と、ケレスが肩を落とすと、
「安心してください。我が国は医療技術にとても優れております。
お姉様はすぐに元気になりますよ」
と、微笑んでいるホンから優しく教えられ、
「何から何まで本当にありがとうございます!」
と、言ったケレスは頭を下げた。
そして、ホンは静かに部屋を出て行った。
(しかし、こいつで何をしようか……)
それからホンが出て行って何もする事がないケレスがそう考えながら浮いているp?を見ていると、
p?から「リリリン」とベルの音が鳴り、
「何だ⁉ これはどういう事だ?」
と、ケレスがあたふたすると、p?の画面には【ジャップ】という文字が映し出されており、
「ケレス様。ジャップ様から、お電話です。どうなされますか?」
と、さらにp?はケレスに問いかけてきて、
「どうしろっていうんだ⁉ 兄貴から電話? えっと、p?、電話に出る?」
と、ケレスがあたふたしたまま答えると、
「おお、ケレス。どうだ? p?の使い心地は?」
というジャップの声と共にジャップがp?の画面に映し出され、
画面越しにジャップが手を振ってきた。
「ええぇっ⁉ 兄貴。どうなってるんだ?」
そのジャップを見たケレスが目を丸くすると、
「こいつはテレビ電話という、p?の機能の一つだ。互いの顔を見ながら電話出来るみたいだぜ!」
と、ジャップは陽気に説明し、
「へぇ……。本当、色々と機能があるんだな!」
と、感心したケレスが言うと、
「そうだな。あと、簡単な機能としては軽い連絡は文字で伝えられるみたいだぜ!」
と、ジャップは補足し、
「何でもありだな……」
と、ケレスが溜息交じりに言うと、
「そうだな。剣の国は色々な技術が発達してるからな。
そう言えばケレス、夕食までしっかり休め。食事会をするみたいだぜ?」
と、唐突にジャップから伝えられたので、
「食事会⁉ 何でそんな事をするんだ?」
と、驚きを全面に出したケレスが聞くと、
「何でも皇帝様が言い出したんだとさ」
と、答えたジャップは平然としており、
「うえぇ……。あの人が?
という事は、あの人と一緒に食事をするのか⁉」
と、ケレスは言葉だけでなく顔でも嫌悪感を出してしまったが、
「まあ、そう言うなよ! 世話になっているんだし。
あまり変な事考えずに休んでおけよな」
と、言いながらジャップは何かを食べていたので、
「わかってるけど兄貴……、それ、何だ?」
と、ケレスが聞くと、
「ん? これか?
これは胡麻団子だ。中に餡子が入っていて甘くて美味いぞ!
ケレスも欲しけりゃ、p?に言えば持って来るぞ! 他にも沢山食べる物はあったぜ!」
と、ジャップは答えながら胡麻団子の最期の一口を口に放り込み、
「はあ……。さすがp?。何でも出来るんだな!」
と、感心したケレスが言うと、
「そうだな! まあ、そんな所でそろそろ切るぞ!」
と、言ったジャップは笑い、
「あっ、待って……」
と、ケレスは言ったが、p?の電話は切れた。
「全く‼ 兄貴はいつも勝手に電話をきるんだから‼」
そして、呆れたケレスはホンからもらったお茶を飲みながら長椅子で休んだ。
すると、ケレスはそのままぐっすりと眠ってしまった。
ここ数日の疲れからか、朝から夕方まで一度も起きる事なくケレスは眠っていた。
だが、
「ケレス様。ホン様からお電話です。どうなされますか?」
という、p?の音声と「リリリン」というベルの音が鳴り、
「何だ⁉ もう朝か?」
と、電話の音と時計のベルの音を間違えたケレスが目を覚ますと、
p?の画面には【紅 湖藍】と文字が映し出されており、
(紅 湖藍? ホンさんはこういう字を書くのか⁉)
と、ケレスは理解し、
「p?。電話に出てくれ!」
と、言うと、p?の画面には紅が映し出された。
「ケレス様。もうじき食事会のお時間となります。
着替えは用意しておりますので、お着替えになってp?の指示に従い会場までお越しくださいませ」
そして、紅から色々と指示されたが、
「わかりました。あの、紅さん。そこには姉ちゃんも来るんですか?」
と、ケレスは聞いてみたが、
「あの方は出席なされません」
と、少し困った顔で紅は答え、
「姉ちゃん、まだ悪いんですか?」
と、その紅の顔で心配になったケレスが聞くと、
「まだ体調が優れないみたいでして、部屋でお休みになりたいそうです」
と、紅は答えた。
「そうですか……。その、せめて姉ちゃんと、話は出来ませんか?」
そして、ラニーニャの顔を一目でも見たかったケレスは聞いたが、
「今はおやめになさった方がいいですわ」
と、言った紅は首を横に振り、
「わかりました……。じゃあ、俺は準備をします」
と、ガッカリしたケレスが言うと、
「では、後程」
と、紅はそのまま電話を切った。
それからケレスは仕方がないので準備を始める事にした。
(姉ちゃん。大丈夫か?)
そして、ラニーニャを心配する気持ちでいっぱいのケレスがクローゼットを開けると、
(この服の種類の多さは一体……⁉)
と、思ったケレスは動けなくなってしまった。
何故ならクローゼットの中にはケレス達が着ている様な服から水鏡の国で着られている物、
それに類似している物まで十種類以上の服が掛っていたからである。
(うわあ……。どれも高価そうで着難い……。けど、着替えなきゃ悪いしな……)
それ等の服はどれも豪華すぎたのでケレスは気が引けたが、
しぶしぶ着やすかった服に着替える事にした。
そして、
「p?、会場に案内してくれ」
と、着替え終わったケレスがp?に言うと、
「承知しました。こちらです」
と、返事をしたp?はケレスを会場まで案内した。
そんなケレスがp?に案内され食事会が行われる会場に到着すると、
会場には円卓があり、そこにはケレスとラニーニャ以外全員が揃って座っていた。
そして、ケレスが席に座ると食事会は始まったが、この会場に帝 氷月はいなかった。
「あの、帝様はいらしゃらないのですか?」
その事が気になったケレスが聞くと、
「氷月様はいらしゃいませんよ」
と、紅からそう返答があり、
「はあ、そうですか……」
と、言ったケレスは内心、ほっとした。
そんなケレスの前に食事がロボット達により次々と運ばれてきた。
まずケレスの席に置かれた長方形の皿にはいくつもの種類の前菜が綺麗に並べられており、
そのおかげで皿の模様が映えていた。
だが、やはりその横にはケレスの天敵である箸が添えられていた。
(やっぱり、こいつで食べるのか……)
その箸とケレスがにらめっこをしていると、
「ケレス様。これをどうぞ」
と、p?からフォークとスプーンを差し出され、
「ああ、ありがとう。p?」
と、言って、ケレスはそれ等を受け取った。
それから食事会は話も盛り上がり、順調に進んでいった。
食事はどれも美味しく段々とボリュームのある食事が出てきてケレスが満腹になってきた時、
デザートの白いプリンの様な物と、胡麻団子が出てきた。
「このプリン、白色なんだ⁉」
そのプリンが白かったので、まじまじとケレスが見ながら言うと、
「これは、杏仁豆腐ですわ」
と、紅からその名を教えられ、
「豆腐ですか⁉ 豆腐がデザートなんて‼」
と、言ったケレスが目を丸くすると、
「まあ、ケレス。食べてみろよ!」
と、ジャップが陽気に薦めてきたので、ケレスが杏仁豆腐を恐る恐る食べると、
「美味い!」
という言葉がケレスの口から思わず出た。
杏仁豆腐は滑らかな舌触りと仄かな甘さと香りがあって喉越しも良く、
ケレスの満腹の腹でもどんどん入っていった。
そして、杏仁豆腐を完食したケレスは次に胡麻団子を食べた。
胡麻団子は周りの胡麻がカリカリに油であげられており、
中の餡は漉し餡で仄かに温かく甘くて美味しかった。
このデザートの二種類で全ての食事が終わった。
それから、
「皆様、お食事はいかがでしたか?」
と、微笑んでいる紅に聞かれ、
「とても美味しかったです。紅さん!」
と、ミューは笑顔で答え、ジャップも同じ様な事を答えると、
「皆様に満足していただけて良かったですわ。
それと、皆様、明日はどうなされますか?
もし、宜しければ明日、剣の国をご覧になりませんか?」
と、紅から提案され、
「ええ、そんな⁉
こんなに良くしていただいた上にそんな事までしていただいては迷惑なのでは?」
と、戸惑ったミューは言ったが、
「遠慮はなさらないで。皆様、明後日には宝珠の国に戻られるのでしょう?
それまでに私は皆様に剣の国を見ていただきたいのです」
と、紅が訴えてきたので、
「どうして見てほしいんですか?」
と、不思議に思ったケレスは聞いた。
「一三年前を乗り越えたこの国を世界に見てほしいのです。
もうここまで復興したという事を、是非、皆様に見てほしいのです」
すると、そう答える事で紅はその心内を知らせ、
「わかりました、紅さん。是非、行かせてください!」
と、言ってミューは快く承諾し、
「よし、俺も行く! ケレス、お前はどうする?」
と、言って承諾したジャップから聞かれ、
「ああ、俺も行くよ」
と、特に断る理由もなかったケレスはそう言って承諾したが、
「僕は遠慮させてもらいます」
と、アルトは断ったので、
「そうですか……」
と、言った紅は少し残念そうな顔をしたが、
「では、皆様。明日、ニーズヘッグの街をご案内させていただきますね」
と、微笑んで言うと、
「あの、紅さん。私、グリンカムヴィの鐘を見てみたいんですけど……」
と、ミューが唐突に申し入れたが、
「グリンカムヴィの鐘ですか? 構いませんよ」
と、紅はにこやかに微笑んでそう言うと、
「本当ですか! 嬉しい!
あんな綺麗な鐘を鳴らせる鐘ってどんな物か私、見てみたかったんだぁ!」
と、言ったミューの笑顔が弾け、
「では、明日はグリンカムヴィの鐘をメインにニーズヘッグの街を巡る事にしましょう。
それでは皆様、良い夜をお過ごしくださいませ」
という紅の言葉で食事会は終了した。
それからケレス達はそれぞれの部屋に戻る事となった。
その途中、
「ねえ、ケレス。明日、楽しみだね。またみんなで観光出来るなんて、ついてる!」
と、御機嫌のミューから話し掛けられ、
「ああ、そうだな。四人で行けるといいな」
と、ケレスはそう返し、
「ケレスは明日どんな服で行く? 私はこの国の伝統衣装で行こうと考えているんだけどさ!」
と、うきうきしているミューから聞かれ、
「そうだな。俺は着やすいやつで行こうと思う。
姉ちゃんも明日、行ければいいな!」
と、ケレスが普通に答えると、
「知らない」
と、言ったミューはケレスから顔を背けクリオネと足早に部屋に戻って行ったので、
「何だ? ミューの奴、怒ってないか?」
と、言ったケレスが首を傾げると、
「ケレス。少しは空気を読め」
と、眉を顰めているジャップに注意されてしまい、
「何だそれ⁉ 俺、何か気に障る事でも言ったか?」
と、目を丸くしたケレスが聞くと、
「その内お前にもわかる時が来るさ。おやすみ」
と、ジャップはそれには答えず、そう言って部屋に入ってしまい、
「おい、兄貴⁉ どういう意味だ?」
と、言って、ケレスがジャップを呼び止めると、
「おやすみ」
と、言い残しアルトも部屋へと消えてしまったので、
(何なんだ⁉ 全く‼ 何か言いたい事があるんなら言ってくれ‼)
と、苛立ちながらケレスも部屋に入った。
それから色々と準備をしケレスは小部屋の様なベットに入ったが、
(しかし如何にも高価そうなベットだ。眠れそうにない……)
と、不安になってしまい目が冴えた。
そして、ケレスは寝る向きを変えてみたり掛け布団の位置を変えてみたりしたが、
一向に眠れそうにはなかった。
(昼間、あんなに眠ったから、全然眠れない……)
そう思って眠れない時間が二時間程するとケレスはベットから離れ窓の近くの長椅子に座った。
(意外とここの方が眠れるんじゃないか?)
そして、ケレスがそう考えていると、部屋の外で誰かが歩いて行く音が聞えたので、
(誰だろう? こんな時間に……)
と、気になったケレスがドアの方を見ると、聞き覚えのある鈴の音が聞え、
(この音……姉ちゃんの鈴の音だ!)
と、思ったケレスは急いで部屋を出た。
しかし、急いで部屋を出たケレスだったがそこにラニーニャの姿はなかった。
(気のせいだったか?)
そして、そう思ったケレスが部屋に戻ろうとすると、ラニーニャの鈴の音が少し離れた所から聞え、
(姉ちゃん⁉ やっぱり外にいるんだ‼ でも、鈴の方角って外に行くんじゃないか?)
と、心配になったケレスは鈴の音が聞えた方へ足を進めた。
その鈴の音はやはり外へと続いていたのでケレスは外へ出た。
すると外は息が白くなる程寒く、その寒さの中、満月が星の光をかき消す様に煌々と光っていた。
(こんな夜遅く姉ちゃんは一体何をする気なんだ?)
そんな満月の光の下、ケレスがラニーニャを探していると、
(姉ちゃん、いた⁉ でも、何してるんだ?)
と、川の付近でラニーニャを見つけたケレスは足を止めラニーニャを見つめた。
そんなラニーニャは たぬてぃと橋の渡口付近で何かを見ており、
そのラニーニャの視線の先は橋の反対側で、そこにはケレスの見覚えのある男性が立っていた。
(あっ⁉ あの人は、昴で姉ちゃんを助けた人だ‼)
その男性を見たケレスが黙ってその光景を見ていると、その男性が何かを言った。
すると、それに答える様にラニーニャは頷き、
それを見たその男性は優しく微笑んで橋の中間まで歩いて行った。
それからその男性がまたラニーニャに何かを言うとラニーニャは目を潤ませながら頷き、
その男性と同じ様に橋の中間まで歩いて行きその男性に近づいた。
すると、その男性はいきなりラニーニャを抱き寄せた。
(なっ、何をするんだ⁉ あの男は‼)
その光景を見ていたケレスの顔が赤くなっていっても、
ラニーニャはそれを拒む事なくその男性の胸の中で幸せそうな顔をした。
そして、さらにその男性はラニーニャを強く抱きしめた。
暫く二人は抱き合った後その男性がラニーニャの耳元で何かを囁き、
ラニーニャは少し驚いた顔になったがその男性の顔を見つめ二人の顔は近づいていった。
(うわわわ⁉ 姉ちゃん、何をするんだ?)
この後どうなるか想像したケレスの顔がさらに赤くなったその時、
「大人の世界をいつまでも見てんじゃねえぞ……」
と、聞き覚えのある女の声が聞こえ、
「まただ⁉ 昴で聞えた声‼ 何処だ‼」
と、怒鳴りながらケレスが辺りを見わたすと、
さっきまで煌々と光っていた月に朧雲が掛かり辺りが暗くなりかけ、
「あっ、暗くなる⁉ 姉ちゃん……」
と、ケレスが言った時には二人の顔はすぐ傍にあった。
ケレスが何も出来ずにいても朧雲に隠れそうな月光はラニーニャの顔を魅力的にし、
いつもの優しい姉の顔ではなくケレスの知らない大人の女性の顔に変えてしまった。
そして、ラニーニャは静かに瞳を閉じた。
だが、二人がその後何をしたのかケレスにはわからなかった。
何故なら、朧雲により月明かりは全くなくなり辺りが真っ暗になり見えなくなったからである。。
さらに、朧雲が消えた後また月明かりが煌々と光出し辺りを照らしたが、
二人と たぬてぃの姿は何処にもなかったのだ。
「姉ちゃん? 数秒の間で何処に行ったんだ……」
それからケレスは橋を見たがやはり二人と たぬてぃの姿は何処にも見当たらなかった。
ケレスは橋まで歩いて行き暫く橋を眺めた後、屋敷まで戻った。
それからケレスは屋敷に入る事なく入り口にあった大きな石の上に座った。
ケレスはまだ顔が火照っていて、それは体全体まで広がっていた。
その火照りを落ち着かせる様にケレスは頭を整理した。
(あの人、誰なんだろう? 姉ちゃん、何処に行ったんだ?
俺の知らない姉ちゃんがまた出てきた……。あんな一瞬で、消えるなんて……)
等と色々とケレスは考えた。
考えても答え等出ないが、ケレスは考え続けた。
すると、空は薄紫色になりいつの間にかニーズヘッグは朝を迎え様としていた。
その時だった。
「ケレス君? こんな所で何をしてるの?」
ケレスはラニーニャから声を掛けられた。
「姉ちゃん?」
そして、ぼんやりとケレスが返事をすると、
「た、大変⁉ こんなに冷たくなってる‼
早く暖かい所に行かなきゃ‼」
と、慌ててケレスの手を握りながら言ったラニーニャの手は温かく、
その顔はケレスの知っているいつもの姉の顔だった。
しかし、ラニーニャの右手の薬指に見覚えのない指輪が一つ増えていた。
ラニーニャはいつもはシルバーの蝶の装飾の指輪を一つはめていたが、
今はその下にケレスの知らない他の指輪を一つはめていた。
「姉ちゃん。何処に行ってたんだ?」
その指輪を見つめながらケレスがラニーニャの手を強く握りながら聞いたが、
「何処って、朝の散歩だよ? 少し体調が良くなったし」
と、ラニーニャから普段と変わらぬ顔でそう答えられ、
(姉ちゃん……。俺に、嘘をついた⁉)
と、ケレスがショックを受けていると、
「二人共、何してるの?」
と、聞いたミューが冷たい眼差しをケレス達に向けながらクリオネと共に近づいて来た。
「何って……。
ミューちゃん、私は朝の散歩の帰りなんだけどケレス君がここで寒そうにしてて。
その……」
すると、ラニーニャはそう説明したが、
「お姉ちゃん。正直に言って」
と、冷たい眼差しのままで言ったミューから見つめられ、
「ミューちゃん。正直にって言っても、その……本当の事だし。信じて」?
と、ラニーニャは訴えたが、ミューは納得していない顔をしていた。
その時朝を迎える美しいグリンカムヴィの鐘の音が鳴り響いた。
だが、ラニーニャは乱暴にケレスの手を離し頭を抱えたのだ。
「姉ちゃん⁉ 大丈夫か?」
その行動に戸惑ったケレスだったがラニーニャに声を掛けると、
ラニーニャは苦しそうに頭を抱えていた。
そして、グリンカムヴィの鐘の音は余韻を残しつつ静まった。
すると、
「信じてもらえないんなら、仕方がないね……」
と、言ったラニーニャは頭を左手で抑えながら俯き、ケレスの傍から たぬてぃと離れ、
「あっ、姉ちゃん……」
と、ケレスは呼び止めたがラニーニャはそのまま屋敷に入って行ってしまい、
「あぁ、もうっ‼ ミュー、俺達、本当に今ここで会ったんだ‼
俺が昨日の夜、眠れそうになくてこの辺りをうろついて疲れたんでここで休んでいたんだ‼
別に姉ちゃんと何処かに行ってたんじゃない‼」
と、少し嘘を交えケレスはミューに話したが、
「ふーん」
とだけ言って、冷ややかな目のミューはクリオネと屋敷に戻って行ってしまい、
「何なんだ? 二人共さ‼ 俺が悪いのか?」
と、苛立ったケレスは怒鳴って部屋に戻った。
それから朝の食事会は始まったが、会場にはラニーニャの姿はまたなかった。
「あの、紅さん。姉ちゃんは?」
そのラニーニャが気になったケレスが聞くと、
「まだ体調が優れない様でして。部屋でお休みになりたいそうです」
と、紅は首を軽く横に振って答え、
「そうですか……」
と、ケレスががっかりすると、
「嘘をつく人はほっといて、朝食を始めましょう?」
と、ミューがケレスと目を合わさずに意地悪く言ったので、
「だから嘘なんてついてない‼」
と、立ち上がったケレスは怒鳴ってしまったが、ミューはケレスと目を合わそうとはせず、
(何なんだ⁉ ミューの奴、最近、変だ‼)
と、またケレスは苛立ってしまい、そのままの気分で朝食を始める事となってしまった。
それから朝食をアルトが一番早く終え先に部屋に戻り、残りの者達は一緒に会場を出た。
「では皆様、後程。連絡は、p?でいたしますので」
そして、紅はそう言い残し屋敷を去りケレス達も戻ろうとしたが、
様子が変なケレス達を見兼ねたジャップの提案でケレス達は部屋に戻る前に少し話し合う事にした。
「なあ、二人共。どうしたんだ?」
まずジャップにそう聞かれ、
「別に。ケレスとお姉ちゃんに聞いて」
と、不機嫌そうにミューが答えたので、
「だから姉ちゃんとは何もないんだってば‼」
と、機嫌が悪くなったケレスが怒鳴ると、
「どうだか? 朝方、二人で何をしてたのかしら?」
と、さらに機嫌が悪くなったミューは意地の悪い言い方をし、
「だから何度も言わせるなよ‼ 信じろって‼」
と、ケレスが喧嘩腰になって怒鳴ると、
「なあ、ミュー……。ケレスの言う事を信じられねえのか?」
と、ジャップがミューを見ながら話しに入ったきた。
「そうじゃないけど……」
すると、ミューの勢いは落ち、
「だったら、ケレスを信じろよ。
それに、ケレスと姉貴が一緒にいたからってどうって事ないだろ? 姉弟だしな」
と、ジャップに言われると、
「そうなんだけど……。何か二人で隠し事してるみたいで、嫌な感じがしたの」
と、言ったミューは俯いてしまったが、
「なんだって⁉ ケレス。俺にも隠し事か?」
と、叫んだジャップはケレスの頭をグシャグシャにし、
「だぁーかぁーらぁ‼ 何も隠してなんかなぁーーいっ‼」
と、ジャップの手を振り払ったケレスが怒鳴ると、
「おお、そうか! わかった、お前を信じるよ。なあ、ミューもケレスを信じろよ!」
と、陽気に言ったジャップが笑うと、
「わかった、信じる……。
ケレス、ごめんね」
と、顔を上げたミューはケレスをじっと見つめそう言い、
「ミュー……。良かった」
と、少しだけ安心したケレスはそう言えた。
「さあ、喧嘩はここまでだ! 今日は観光を楽しもうぜ!」
そして、ジャップの言葉で各々、支度を始める事となった。
(兄貴のおかげでミューの機嫌は少し良くなったけど……。
何でミューはあんな事を言ったんだ?)
ミューの事を考えながら支度を始めたケレスだったが、支度を始め、
(姉ちゃん。どうして俺に嘘、ついたんだろう?
あの人とどんな関係なんだ?)
と、ラニーニャの事も頭から離れなかった。
結局、ケレスがまたもやもやしながら支度を進めていると、
p?から「ピロリロリン」と電話の時とは違う音が鳴り出し、
「ケレス様。紅様からメッセージです」
と、p?から音声が流れ、
「紅さんからメッセージだって? p?、読んでくれ」
と、ケレスが言うと、
「承知しました」
と、p?はそう言った後にp?の画面に写し出された文字と同じ事を言った。
その内容は集合場所と、その時間、さらに今日のスケジュールだった。
今日のスケジュールはまずニーズヘッグのシンボルであるヴィゾーニヴルタワーに向かい、
そして、グリンカムヴィの鐘がある教会に行き、グリンカムヴィの鐘を見るものだった。
だが、それにはさらに屋敷に戻った後、屋敷から打ち上げ花火を見るというものまで加わっていた。
そして、喋らなかったがp?の画面には所要時間と地図までもが写っていた。
(はあ……。結構、移動するんだ。時間もかかるんだな)
それを見たケレスはそう思いながらも集合時間が近づいていたので、集合馬車へと向かった。
すると、集合場所には既にジャップが到着していた。
「おーい、ケレス。遅刻せずに来たな!」
そして、宝珠の国で着られている様な服装のジャップから声を掛けられ、
「兄貴。当たり前だ!」
と、同じく宝珠の国で着られている様な服装のケレスが返事をすると、
「そうだな。当たり前か!
なあ、ケレス。今日行くヴィゾーヴニルタワーってさ、メッチャ高さがあるみたいだぜ!
一番上の展望台まで行ってみようぜ!」
と、言いながらジャップがp?を見せてきた。
そのジャップが見せてきたp?の画面にはヴィゾーヴニルタワーの詳細情報が写し出されていた。
その情報によるとビゾーヴニルタワーは高さが八百メートルを超える電波塔で、
色々なショッピングスポットがあり展望台が三か所はある様だった。
「八百メートルだって⁉ 凄い高さだな‼」
その情報に驚いたケレスが大声を出すと、
「そうだろ? そして次はグリンカムヴィの鐘があるヴァルハラ教会だ!」
と、言ったジャップがp?に指示すると、p?の画面はヴァルハラ教会の情報に変わった。
その情報によるとヴァルハラ教会は歴史ある教会の様で、本来はヘルヘイムにこの教会はあった。
だが、ヴァルハラ教会はニーズヘッグにある。
それは一三年前の大いなる災いでヴァルハラ協会だけは滅びの呪いを享けずに残っていた為、
この国の希望のシンボルとしてニーズヘッグに幸せを運ぶグリンカムヴィの鐘ごと移転されたからだ。
といった照会文がジャップが見せてきたp?の画面に書かれていた。
「へえ。これはこれで凄い所だな!」
その情報にケレスが感心していると、
「だろ?
知らないで行くより、調べて行った方がその場所を見る目が変わるから調べておくもんだぜ!」
と、ジャップから陽気に教えられたが、
「そうだな……」
と、元気が出ないケレスに、
「ケレス。お前、姉貴を心配してんだろ?」
と、ジャップは優しく声を掛け、
「な、何でわかるんだ⁉」
と、驚いたケレスが聞くと、
「当たり前だ! 俺は何年お前と付き合ってると思ってんだ?
お前の考えなんてすぐにわかるさ!」
と、ジャップは陽気に答え、
「まあ、そうだよな……」
と、それでも元気が出ないケレスに、
「姉貴は大丈夫。信じろ」
と、ジャップが低い声で語り掛けてきたので、
「兄貴。どういう意味だ?」
と、首を傾げたケレスが聞くと、
「その言葉の通りだ」
と、答えたジャップはケレスの右肩に手を置いてきて、
「なあ、兄貴……。姉ちゃんとミューは仲直り出来るよな?」
と、不安そうな顔でケレスが聞くと、
「当たり前だ‼ 俺達、家族だろ?
ちょっとぐらいの事で壊れる絆なわけないし。
祟り神のせいで、みんなの心が荒んだだけさ‼」
と、答えたジャップはケレスの肩を強く握り、
「なあ、ケレス……。早く宝珠の国にみんなで戻ろう」
と、言った意思をその手からも伝えてきたので、
(兄貴、何か言いたそうだ。けど……)
と、ケレスは何か言おうと思ったが、
「ああ、そうだな」
とだけ言った。
それから暫くすると、ミューと紅が一緒に到着した。
今回もケレス君、色々な事に巻き込まれましたね。
そして、相変わらず何も出来なかった……。
でも、大丈夫!
次の話でやっと君が主人公らしく見えるから‼ 作者のこの私が言うんだから、絶対だ‼
そんな次回の話のタイトルは、【ケレス、時読みの力を使う】。
乞うご期待……かもしれない!




