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番外編 龍宮 アルトの憂鬱 1

 これは、宝珠の国の、とあるかたすみでのお話。いつも、何かが肩にのっていて、眉間にしわが寄っている龍宮アルトは、アカデミーの院生の一年のある日、今までにない不快な思いをさせられる。もう二度と、そんな奴等とは、関わらないはずだったが、次の日から、アルトを不快にさせた奴等と、関りを持つ事となってしまう。

「お帰りなさいませアルトお坊ちゃま。おや? どうかなされましたか?」

(どうかなされたどころかじゃない‼ こんなにイライラさせられるなんて‼

 折角こんな思いをしない様にしてたのに……)

 アルトは自家用機の自室の机の前でむしゃくしゃしていた。

 何故なら、アカデミーで恥ずかしい思いをさせられたからである。

(何なんだ、あの人達は⁉

 どう見ても姉弟じゃないのに、姉ちゃんやら、お姉ちゃんって言うなんて……。

 家族ごっこなら他所でしてくれ‼)

 ダンッ!っと右拳を机に叩きつけアルトは怒りを机に流した。

 そして、深く椅子に腰掛け、

「まあ、あのケレスとかいう奴がアカデミーに受かる訳ないさ!」

と、自身を落ち着かせる様に言って髪をかき上げるとパソコン画面にイヴからの連絡が写し出され、

「あっ、姉上からだ!」

と、わくわくしながらアルトがイヴからの連絡を見ると、

「えっ、明日、宝珠の国の皇女を光の神殿までお連れしろ、だって⁉ 何だ、つまらない……。

 と言うか、僕がお連れしなきゃいけない⁉ どうして?

 それに宝珠の国に皇女なんていたのか⁉」

と、がっかりやらびっくりしながらも、姉であるイヴのの言う事をアルトは素直に聞いた。

 そして、次の日の朝、

「いってらっしゃいませ。アルトお坊ちゃま」

と、言ったアルトの婆やが頭を下げると、

「行ってくる。婆や、今日は頼むよ」

と、アルトは振り返って言ったが、

「アルトお坊ちゃま。大丈夫ですか?」

と、言ったアルトの婆やの顔には不安が滲み出ていたので、

「どういう意味だい?」

と、アルトが首を傾げると、

「昨日、何か嫌な事があったのでは?」

と、アルトの婆やの口からその不安を出され、

「ああ、大した事じゃない。考えるだけ徒労に終わる事だから」

と、言ったアルトがふっと笑うと、

「そうでしたか。あまり御無理を成されぬ様に……」

と、言ったアルトの婆やは悲しそうにアルトを見送った。

(全く、婆やは心配性なんだから……)

 それから眉間にしわを寄せたアルトがヴィーンゴールブ城内を歩いていると、

聞き覚えのある楽しそうな声が聞こえてきた。

「ま、まさか……。この声って……」

 アルトのその嫌な予感は的中した。

 謁見の間には昨日アルトを不快にさせた三人組と霊獣、精霊に加え、

もう一人、どう見ても馬が合いそうにない青年がいたのだ。

()何なんだ、あの赤髪の彼は⁉ 兄貴だって? 彼も家族ごっこをしているのか‼

 それに、何だいあの大荷物は? 本当に知性のない者の考えはわからないね‼

 少し教えてあげなきゃ!)

 そう考えたアルトは四人組に近づいて行き、

「本当に馬鹿じゃないの? 日帰りに、そんな大荷物抱えてさ。

 それに、食事ぐらい龍宮家で提供され、そんな物を食べる事なんてないのに」

と、話し掛けると、

「お前は、龍宮 アルト⁉ 何でいるんだ?」

と、緑頭の少年から嫌悪感たっぷりな顔で怒鳴なれ、

「何だ? ケレス、知り合いか?」

と、言った赤髪の青年からは興味津々な顔をされ、

「知り合いじゃあない‼ すごぉーく嫌味で、性格が曲がった奴で、関わらない方が良い奴だ‼」

と、さらに緑頭の少年から非礼な態度をされ、

(本当、知性のない者って、嫌いだ‼)

と、思ったアルトの眉間にはしわが寄り、

「君……。随分、失礼だね。今日は僕が案内してやるって言うのに」

と、嫌悪感を前面に出して言ってしまった。

 その後も緑頭の少年は何かゴチャゴチャ言っていたがアルトが右から左へ流していると、

「まあ、今日は初めての家族旅行だ。楽しくいこうや!」

と、赤髪の青年は気が抜ける様な事を言い出し、

何故かその言葉はアルトの耳に残った。

(何なんだ⁉ あの赤髪の彼は⁉ 今から家族旅行に行くだって⁉

 本当、危機感を持ってほしいね‼ そんな態度じゃアマテラス様に認められる訳ない‼

 大事な妹君が認められなくても僕達のせいにするなよ‼)

 それからアルトはイライラしながらも四人組を飛行艇に案内した。

 すると、

「あれか……。俺、飛行機に乗るのって初めてだけど何か、変な形をしてるな」

と、カチンッとなる事を緑頭の少年に言われ、

「変わってて悪かったね! これを唯の飛行機と思わない事だね。

 いいかい? これは僕の自家用機で水陸両用の飛行艇さ!」

と、眉間にしわが寄ったままのアルトは思わず言葉を返してしまった。

 その後緑頭の少年が何か叫んでいたが、

(しまった⁉ あんな者達と話さないつもりだったのに‼

 僕とした事が無駄な努力はしたくないのに、何か調子が狂う……)

と、アルトは自身を押さえながら飛行艇に四人組を案内したが、

「スゲエ‼ これ、お前の飛行艇か?」

と、赤髪の青年から気軽に聞かれ、

「君……、聞いてたのかい? 僕の飛行艇って、言ったのに?

 まあいいさ。僕はこれで毎日アカデミーに水鏡の国から通ってるんだ」

と、アルトは答えてしまい、早速出鼻を挫かれてしまった。

(あぁー⁉ どうして、答えたかな‼)

 アルトは表情は崩さなかったが心の中で両手で髪を滅茶苦茶にする程後悔した。

 すると、

「これで通うのって大変じゃない? 凄いね」

と、黒髪の女性から溜息混じりに言われてしまい、

「除籍になった君から心配されるとは思ってもみなかったよ」

と、アルトが苛立ちをその黒髪の女性にぶつけると、

「アルト。姉貴は除籍になんかなってねえぞ?」

と、赤髪の青年から思いも寄らない事を言われてしまった。

(なっ⁉ 今、彼は何て言った? 見ず知らずの者が僕を呼び捨てにした⁉)

 アルトは内心狼狽えた。

「君も騙されてるだけじゃないのかい? それより、呼び捨てはやめたまえ!」

 だが、アルトは気をしっかりと持ち、赤髪の青年を睨んで言うと、

「何で姉貴が俺に嘘をついてるって思うんだ? アルト?」

と、赤髪の青年から笑いながら言われた揚句、また呼び捨てにされたので、

「僕が先に聞いたんだ‼ それに、僕を呼び捨てにするな‼」

と、また、カチンときたアルトは語気を強め言ったが、

「なあ、アルト。姉貴はアルトが思ってるより凄い奴だぜ?」

と、赤髪の青年は素直に他人を褒めた。

(どうして……)

 その赤髪の青年を見ているとアルトは言葉に出来ない複雑な思いになった。

「君さ……。何で他人を信じれるんだい?」

 そして、そう言ったアルトの声がふるえてしまったが、

「姉貴は、家族だ! それに、俺達、四人共な‼」

と、何の迷いもない赤髪の青年からの返答に、

「そんなの答えになってないよ……」

と、呟きアルトは逃げてしまった。

(何なんだ、彼等は⁉ 家族だって? 冗談じゃない‼ 偽りの家族だから、あんな事が言えるんだ‼)

 アルトは逃げ込んだ自室で壁を、ダンッ!と叩いた。

 すると、

「アルトお坊ちゃまの機嫌の悪さはあの方達のせいでしたのね」

と、穏やかな顔をしたアルトの婆やから話し掛けられ、

「婆や……」

と、何故か顔に疲労が滲み出ているアルトがアルトの婆やをみると、

「まあ、茶でも点てましょう。お座りになってお待ちくださいな」

と、言ったアルトの婆やは部屋を出て行った。

 そして、戻って来たアルトの婆やは両手に収まる大きさの茶碗に点てた茶を入れ、

しずしずと運んで来て、

「どうぞ、お飲みくだされ」

と、言って、アルトに、そっと茶を差し出した。

 アルトの婆やから出された茶は、薄黄緑色のきめ細かい泡がこんもりと茶碗の中心に集まっており、

アルトがその泡ごと口に入れるとまろやかな茶の味が口に優しく広がった。

「相変わらず婆やの点てる茶は美味しいね」

 そして、茶を飲み終え穏やかな顔になったアルトが茶碗をアルトの婆やに返すと、

「ほほっ。お褒めの言葉、感謝いたします」

と、言ったアルトの婆やは穏やかな顔で茶碗を受け取り、

「僕が点てても唯の緑汁にしかならないよ……」

と、言ったアルトが俯き溜息をつくと、

「そうですね。ですが、とても美味しゅうございます」

と、言ったアルトの婆やは優しくアルトを見つめてきた。

「婆や……、お世辞はやめてくれ」

 だが、アルトの婆やの気持を素直に受け取れないアルトの眉が下がると、

「茶は心です。アルトお坊ちゃまの心は私に伝わっておりますから。

 泡があろうが、なかろうが、美味しいのです」

と、アルトの婆やはアルトに点てた茶同様、穏やかな気持ちを伝えてきて、

「婆や……。ありがとう! 君は本当に優しいんだね」

と、それを受け取れたアルトが穏やかな顔で顔を上げ言うと、

「それはアルトお坊ちゃまも同じですよ」

と、アルトの婆やから優しい顔のまま言われ、

「僕が優しいだって? そんな事はないよ。それに婆や、君は僕に同情してるんだろ?

 そんな気遣いは無用だ‼ 君だって本当は……」

と、また眉間にしわが寄ったアルトがまだ言いかけたが、

バシッ‼とアルトの婆やが扇子をアルトの額に叩きつけた。

「い、痛っ‼ 何をするんだい⁉」

 そのあまりの痛さで額を押さえながらアルトがアルトの婆やを睨みながら怒鳴ると、

「何をめそめそしているのです‼ しっかりなさい‼」

と、目尻が釣り上がっているアルトの婆やから叱られ、

「でも、僕は龍宮家の恥さらしだ‼ 水鏡の国の者は皆そう思ってる‼

 そんな僕なんかに気を遣う事はないんだ‼」

と、アルトが言い寄ると、また扇子が額に叩きつけられ、

「痛いって‼」

と、それでも涙目のアルトが怒鳴ると、

「あなたは恥さらしなんかじゃありません‼ 少なくとも私は思っておりません‼

 それに、イヴ様もそうは思っていないからこそ、今回の役目をアルトお坊ちゃまに任せたのです‼そ

 その期待をアルトお坊ちゃまは裏切るというのですか‼」

と、アルトの婆やから凄い剣幕で怒鳴り返されてしまい、

「婆や……」

と、眉が下がったアルトが何も言えなくなると、

「もう少し肩の力を抜いて、人を信じてみては如何でしょう?」

と、顔に厳しさが少し残ったアルトの婆やから諭された。

「婆や……」

 そして、少し落ち着きを取り戻したアルトがアルトの婆やを見ると、

「彼等と何があったか話していただけますか?」

と、アルトの婆やに言われ、アルトはアカデミーで緑頭の少年達に会った事からの事を話した。

「僕はね、ケレスとかいう緑髪の彼がアカデミーに合格するとは思えないんだ。

 あんな失礼な彼がこの世界で上手くいく訳がない。

 なのに、家族ごっこをしている彼女達がおだてるから、もう合格した気でいるんだ。

 信じられないよ。そう世の中は簡単じゃないのに!

 まあ、何の責も負ってない者の考えはわからないけどね!」

 ここまで話し終わってもアルトはまだ愚痴を言い足りなかった。

 だが、アルトの婆やは穏やかな顔で、ほほっと笑った。

「婆や⁉ 何だい、その笑いは?」

 すると、その笑いに驚いたアルトは何度か瞬きしたが、

「いえ。随分アルトお坊ちゃまが他人に興味があるのかと思うと、つい……」

と、言ったアルトの婆やはまた、ほほっと笑い、

「な、何を言っているんだい⁉ 僕は彼等になんか興味ないよ‼」

と、アルトが反論すると、

「そうでしょうか?

 人に興味等持たれないアルトお坊ちゃまが理由はどうあれ、話し掛け記憶に残ったのです」

と、言ったアルトの婆やから真直ぐ見つめられ、

「婆や……」

と、図星を突かれたアルトが視線を外せずにいると、

「もっと、御自分に正直におなりなさいな。

 彼等に興味があるのならば素直に近づけば宜しいだけの事です」

と、アルトの婆やから諭されたが、

「でも、僕は……」

と、アルトが素直になりきれずにいると、

「それと、これは私の勘なのですが……。

 彼等はアルトお坊ちゃまが考えている程平凡に暮らしてきた訳ではなさそうですよ」

と、言った後、アルトの婆やは、すっと席を立った。

「婆や⁉ どういう意味だい?」

 そして、アルトもそう言って立ち上がったが、

「もうすぐ水鏡の国に到着いたします。彼等に知らせてきてください」

と、言ったアルトの婆やからは答えは返ってこなかった。

(どういう意味だ? 彼等が平凡な暮らしをしてないだって? そうかな?

 まあ、宝珠の国の次期女王は兎も角、後の三人はどう見ても平和呆けしてる‼

 あの黒髪の女性なんか特にそうだ‼

 何も苦労なんかしていないから、願えば何でも出来ると思ってるのさ。

 本当、ああいう者は、嫌いだね‼)

 そう考えているアルトはイライラしながらも緑頭の少年達の所へ行き、

そして、飛行艇は湖へと着水した。

 それから、

「婆や、開けてくれ」

と、アルトが言うと、飛行艇のドアは静かに開き、

「浦島、頼んだよ」

と、言ったアルトはしゃがみ、ポケットに入れていた浦島を湖に放した。

 すると、浦島は湖へ行き、アルトからマナを与えてもらい大きくなった。

(君は、頼りになるね。頼んだよ)

 その浦島を見たアルトは穏やかな顔になったが、

「はっ⁉ な、何だ、こいつは⁉」

と、驚いた緑頭の少年から嫌な言い方をされ、

「こいつとは⁉ 君は本当に失礼だね!

 いいかい? 彼は僕の霊獣、浦島。

 今から彼に乗って、我が龍宮家に行くんだ‼」

と、またカチンときたアルトが緑頭の少年を睨みながら怒鳴ると、

「こいつに乗るのか? 大丈夫なのかよ?」

と、緑頭の少年は眉を顰め明らかに嫌な顔をし、

「じゃあ、君は泳いで来たまえ」

と、言ったアルトは緑頭の少年から顔を背け浦島に乗り込んだ。

 そして、緑頭の少年以外の者が乗り込むと、

「ケレス、早く乗れよ! スゲエ、乗り心地良いぜ!」

と、赤髪の青年は緑頭の少年に声を掛けた。

(本当に、お人好しばっかだね……)

 その赤髪の青年を見たアルトはそれを言葉にしない様に唇を噛みしめた。

 そして、浦島に導かれ龍宮家が待ち構える陸に行くと、

豪華な歓迎とは裏腹に、アルトの気分は暗くなっていった。

 それでも、アルトは真直ぐ自身の両親を見つめた。

(父上、母上。やはり僕を見てくれないんですね……)

 しかし、そう思っているアルトと、アルトの両親との視線が合う事はなく、

歓迎の音が悲しくアルトの耳を通り過ぎて行った。

 そして、龍宮家の門の前で、

「あなた方はここまでです。後は任せた。アルト」

と、言ったアルトの父はアルトの後ろを見ており、

(ですよね……。僕は彼等の様に龍宮家の敷居を跨げませんよね……)

と、アルトの心は荒んでしまいアルトが下を向くと、緑頭の少年達が、何かを言い合っていた。

 どうやら、緑頭の少年以外の者は龍宮家の事をわかっていたが、

緑頭の少年だけはわかっていなかったので、

「彼を責めるなよ。悪いのは父上達の方なんだから」

と、ついアルトが話し掛けてしまうと、

「父上? さっきの男の事か?」

と、アルトを見た緑頭の少年に聞かれ、

「ああ、そうだよ。だが、あんなのを親と思いたくないけどね」

と、答えたアルトは荒んだ心を出してしまった。

「お前……。それ、どういう意味だ?」

 すると、険しい顔になった緑頭の少年からアルトは真直ぐ見つめられ、

「そのままの意味さ‼ あんなクズ野郎達と血が繋がっているなんて思いたくない‼

 反吐が出るよ‼」

と、怒鳴ったアルトは苦しい心をさらけ出してしまい、

「君、そんな悲しい事言わないで。君の御両親は立場上、仕方がないのよ」

と、泣きそうな顔で言った黒髪の女性を見て、

(ああ、もう、何なんだ……。何も知らないから、そんな事が言えるんだ‼)

と、アルトは何かがプツリと切れる音が聞え、

「ははっ。君には本当に呆れる。あんな下衆達を庇うとは‼

 君の様に両親に恵まれ、呑気に平和ボケし、幸せに生きてきた人間に

僕の苦労はわからないだろう‼」

と、怒鳴ったアルトは黒髪の女性に怒りをぶつけてしまったが、

「アルト……。姉貴には、もう両親はいねえぞ。それに、俺にも、ケレスにもな」

と、赤髪の青年から低い声で驚愕の真実を教えられた。

(嘘だ⁉ だって、それならどうして笑ってられるんだ? それじゃあ僕は……)

 その真実を聞かされたアルトが、はっとすると、

「アルト、俺達な、お前みたいに両親と何かあったとか、なかったとか言う前に両親を失っててな。

 お前の気持をわかってはやれんが、そんな悲しい事は言うな」

と、赤髪の青年は低い声のまま続け、

(僕は君達を傷付けたんだ。なのに、どうして君達は僕を責めないんだ?

 わからない。僕は君達がわからないよ。でも、僕は間違ってたんだ……)

と、アルトは赤髪の青年の言葉を噛みしめ、そして、深呼吸し、

「すまない……。少し、言い過ぎた」

と、俯いて心の底から謝ったが、

(まあ、許してもらえる訳がない。いつもそうだ。僕はこうやって人を傷付ける……。

 あのクズ両親と変わらないんだ‼)

と、俯いたままのアルトの頭の中に自身の両親の顔が浮かんでしまい考え込んでいると、

「まあ、気にすんな! でも、アルト。お前、やっぱ良い奴だな!」

と、笑っている赤髪の青年に言われたアルトは髪をグシャグシャにされた。

「何するんだい⁉ ああ‼ 髪が滅茶苦茶じゃないか‼ 全く、君は乱暴なんだから‼」

 すると、アルトは髪を整えながらいつもより崩れた言い方になり、

「ああ、すまんな。アルト」

と、赤髪の青年は笑いながら謝ってきたが、

(な、何なんだ⁉ 彼は一体何を考えてるんだ? ん? 今、彼は何て言った?)

と、アルトは混乱したが落ち着きを取り戻し、

「また、君は⁉ 僕を呼び捨てにするなって言ったろ? 大体さ……、君って、いくつな訳?」

と、冷静さを取り戻す様に聞くと、

「俺か? 俺はつい一か月前に二三歳になったぜ! アルトは何歳だ?」

と、赤髪の青年から返答があり、聞かれると、

「僕かい? 僕は二三歳だ。だが、君より前に二三になっている……。

 だから、僕の方が年上なんだ。呼び捨てはやめたまえ!」

と、眉間のしわがなくなって髪を整え終わったアルトは棘がない言葉使いで返した。

「まあまあ! そんな細かい事は気にすんな、アルト!」

 そして、赤髪の青年がまだ続けていると、

「ふふ! ジャップ。アルトさんと仲が良くなったね」

と、黒髪の女性から気が抜ける様な事を言われ、

「な、何を言っているんだい⁉ どこをどう見たらそうなるんだ?」

と、また調子を狂わされてしまったアルトが瞬きしながら言うと、

「さすが、姉貴! わかってんじゃん‼」

と、言った赤髪の青年は喜んでいた。

(本当、彼等といると調子が狂う‼ でも、何だろう……。こんなに心が軽く感じるなんて……)

 そうして何となくだがアルトはその二人と良い関係になりたいと思えた。

 すると、

「アルト? こんな所で何をしているのですか?」

と、イヴに声を掛けられ、

「姉上⁉」

と、アルトは畏まってしまったが、

「アルト、この方々はどうなされたのですか?」

と、イヴから優しく聞かれると、

「この者達は、宝珠の国の皇女の、そ、その、か、家族の者でして、今回、同行してきたのですが……」

と、アルトは説明出来て、その説明を聴いたイヴは暫く緑頭の少年達を見つめた。

「そうでしたか。私の名は、龍宮 イヴと申します。現龍宮家の当主です。以後、お見知りおきを。

 あなた方の名を聞いても宜しいですか?」

 そして、イヴが緑頭の少年達に聞くと、赤髪の青年が全て解決してしまったので、

(ふぅーん……。そういう所もあるんだ)

と、アルトが赤髪の青年を見直していると、

「そうですか。アルト、この者達を我が龍宮家に案内しますよ」

と、イブに優しく流れる水の様に言われ、

「あ、姉上⁉ 宜しいのですか?」

と、言ったアルトは目を見開いてしまったが、

「私が良いと言っているのです」

と、言ったイヴからにこっと見つめられると、

「はい、姉上! 承知しました!」

と、嬉しくなってそう言ったアルトの顔は綻び、

「君! こっちに来たまえ!」

と、顔を斜め右に上げて髪をかき上げながら緑頭の少年達に指示した。

 アルトは嬉しかった。

 イヴが自分の両親とは違い尊敬出来る人だと改めて感じれたからである。

 そして、イブの期待に応えるべく、行動する事を決意した。

 だが、龍宮家の屋敷内で緑頭の少年達が、こそこそ話し出し真面目な話を壊しかけた。

(全く、彼等には緊張感というものはないのかな?)

 そんな彼等を見たアルトはムカッときたが、

「君達、静かにしたまえ」

と、注意し、緑頭の少年達を黙らせる事に成功し、

「姉上。僕達も御供させてもらいます」

と、言ってイヴを見ると、

「あなた達も宜しくね」

と、イヴは吸い込まれる様な笑顔で緑頭の少年達を見つめ言った後、

「父上、母上、客人に失礼ですよ」

と、アルトの両親を制した。

(やはり、あの人達とは合わない……)

 そして、自分の両親の悲しい行為を見てアルトは失望した。

 それから宝珠の国の皇女を光の神殿に導くべく行動している間、

緑頭の少年が騒いでいたがそれを無視し、

「アルト」

と、イヴに言葉なく支持され、アルトは頷き浦島にマナを与えた。

「何かさっきよりデカくなってないか?」

 すると、ケレスが驚きたじろいだので、

「当たり前だよ。乗る人数が増えたんだから」

と、呆れたアルトが説明すると、

「そうじゃなくって‼ 何で、デカくなれんだよって言ってんの‼」

と、言った緑頭の少年は驚きを前面に出したので、

(彼は本当にアカデミーにいく気はあるのだろうか……)

と、アルトは心の底から心配になってしまい、

「はあ……。君は何も知らないんだね。

 いいかい? 霊獣に与えるマナの量や質によって霊獣は姿を変えれるんだ。

 わかったら、さっさと乗りなよ」

と、呆れながらも教えた。

 緑頭の少年は、何にでも驚き、騒ぐ。

 無視すれば良いのだが何故か放っておけなく、

「姉上の力さ。姉上の力のおかげで、僕等は守られているんだ」

「彼等は、龍神様の執事精霊だよ」

等と、教えてあげたくなった。

 だが、その合間にアルトは黒髪の女性が気になった。

(どうして彼女は怯えてるんだ? その癖、人に気を使ってばかりいる……。

 と言うか、家族なら誰か気付いてあげないのか?)

 そして、アルトが怪訝そうに黒髪の女性を見ていると浦島が龍神の滝を登りきり、

アルト達はこの世のものとは思えない光景に包まれた。

(凄い……。彼等がこんなにも歓迎するなんて⁉ そんなに、宝珠の国の皇女を認めさせたいのか?)

 そう感じているアルトがまるで天の川の様な空間を浦島に乗って進んでいると、

「姉貴⁉ 顔色が悪いぞ?」

と、赤髪の青年がやっとその事に気付き、

「へへ。私、酔っちゃったみたい……」

と、顔色が悪い黒髪の女性がそう言って赤髪の青年を見ると、

「大丈夫ですか? もうじき当直します。それまで、耐えれますか?」

と、美しい顔のイヴに心配され、

「はい。大丈夫です」

と、黒髪の女性は少し頬を赤くして頷いた。

(何を強がってるんだ? 大体、浦島に乗る前から君は気分が優れない顔をしていたじゃないか‼)

 その黒髪の女性の強がる態度にムッとしたアルトは、

「そんなんだったら、来なきゃ良かったのに」

と、言ってしまい、上手く気持ちを伝えられずにいると、

「アルト、その様な言い方はやめなさい!」

と、イヴに叱られ、

「姉上。すみません」

と、アルトは素直に謝るしかなかった。

 そして、光の神殿で異変が起こりアルト達はイヴを追い掛け光の神殿がある島へと上陸した。

 そこは惨劇が広がり、一目で倒れている二人が事切れている事にアルトは気付いた。

(彼等は力の民じゃないか⁉ 彼等を殺せる者が侵入してるとでもいうのか?)

 アルトがこの惨劇を起こした犯人について考察していると、

宝珠の国の皇女が光の神殿へ突っ走って行きそれを黒髪の女性が追い掛けて行こうとし、

「待つんだ‼ そっちは危険だ‼」

と、それに気付いたアルトがそれを止めたが、

黒髪の女性と赤髪の青年は、アルトの話を聞かず光の神殿の中へ向かってしまい、

「ああーーっ‼ 人の話を聞いてくれ‼ 全く‼」

と、言いつつも、アルトはその二人を追い掛けた。

 そして、アルトが追いついた先には花梨が見た事もない女性に襲われ、

イヴがそれを助け様としていた。

(花梨様⁉ 良かった、御無事の様だ。

 しかし、誰なんだ。あの女性は⁉ 彼女が力の民を殺したのか? しかも、二人も⁉

 だが、もしそうだとしてもその殺戮はここまでだ‼ 姉上に成敗されるのだから‼)

 アルトがそう考え状況を見守っていると、

「花梨様だって? じゃあ、あの方が?」

と、追い付いて来たケレスが言ったので、

「ああ、あの御方が救いの神子である花梨様だよ」

と、アルトは教えた。

 すると、花梨を襲った女性が鞭を地面に叩きつけ、巨大な土人形を地面から生やした。

(あれは、クレイドール⁉ まさか、彼女は根の一族なのか⁉)

 それを見たアルトが警戒すると、アルト達の近くにもクレイドールが生えてきて、

「ケレス、余所見すんな‼」

と、赤髪の青年が警告し、

(油断するなよ。あれは根の一族だ。恐らく、彼女が力の民を殺したのだから)

と、思っているアルトが冷ややかな目で緑頭の少年達を見ていると、

「お、お姉ちゃん、たぬてぃに影踏みを‼」

と、宝珠の国の皇女が思わぬことを言ったので、

(影踏みだって? それって、闇のマナを持った精霊のごく一部しか使えない技じゃないか⁉

 あの猫の精霊が使えるとでもいうのか⁉)

と、驚いたアルトの口が小さく開くと、

「同じ手に引っ掛かるとでも思ってる訳?」

と、言った根の一族の女は不敵に笑い、

「クレイドール‼ その目障りな黒髪の女を殺しちゃえ‼」

と、命令したが、

(何してるんだ⁉)

と、アルトは目の前の光景に身震いした。

 何故なら、黒髪の女性は逃げるどころか自分の精霊を抱きかかえ守ろうとしていたからである。

(馬鹿じゃないのか‼ 自分より彼女が大切なのか⁉

 何なんだ‼ あぁーっもう‼ イライラする‼)

 アルトはそう思い苛ついたが、それと同時に浦島にマナを与えていた。

 すると、クレイドールが両拳を振り上げそのまま黒髪の女性に振り下ろし、

「ね、姉ちゃぁーーん‼」

と、緑頭の少年が叫んだが、

「浦島、良くやった……」

と、言ったアルトが、ふっと笑うと、土埃の中から人影が見え、

「全く、君は何をしてるんだい?」

と、呆れながら言ったアルトが砂埃を見ると、

砂埃の中から巨大化した浦島に守られた自分の精霊を抱きかかえた黒髪の女性が現れた。

 そして、

「よぉーしっ、さすがはアルト‼」

と、言った赤髪の青年が黒髪の女性を助け出すと、

「ジャップ、ありがとう」

と、黒髪の女性は礼を言ったが、

「礼なら、アルトに言ってやってくれ」

と、言った赤髪の青年は腰に付けていた斧を右手で取り出し、

(また君は僕を呼び捨てに⁉ でも……、何だろう……。この気持ちは!)

と、アルトに今までにない感情が芽生えると、

「アルト、頼んだ‼」

と、赤髪の青年から頼られ、

(また君は僕を呼び捨てに⁉ 全く、君って奴は……)

と、アルトは何故か赤髪の青年の心がわかったが、

「何を頼んでいるのかわからないんだけど?」

と、首を傾げてみせると、

「お二人さん、連携がなってないんじゃなぁい?」

と、言った根の一族の女は余裕を見せたが、

「それはどうかな? アルトは天才だぜ?」

と、言って、赤髪の青年も余裕を見せると、

(どうして、君は僕なんかを褒めれるんだい?

 けど……。嬉しいよ、僕なんかを褒めてくれるなんて‼)

と、アルトはジャップの期待に応える様に浦島にマナを与え、

クレイドールより浦島を巨大化させた。

 そして、浦島は二足で立ち上がり、クレイドールに伸し掛かりクレイドールの動きを止めた。

「そのまま抑えててくれ、浦島‼」

 すると、ジャップがクレイドールに飛びかかり、持っていた斧を一刀両断の如く振り下ろすと、

クレイドールは真っ二つに割れ、崩れ、

「ふう、一体、終わりっと!」

と、笑いながら言ったジャップが斧を腰に戻すと、

「なんて馬鹿力なんだい⁉」

と、驚いたアルトは言ったが、謎の達成感に満ちていた。

 そして、

(まあ、こっちは大丈夫そうだ。後は姉上が根の一族を倒してくれる‼)

と、アルトが期待していると、

「アルト‼ 姉貴達を頼んだ‼」

と、言って、ジャップは勝手に押し付け、その場を離れてしまい、

「何で僕が……」

と、愚痴を言いながらもアルトは緑頭の少年達の傍に行った。

 そんなアルトはイヴを信じていた。

 イヴが負けるはずがない。

 そう信じ、戦況を見守りながらケレスに、

「姉上さ。あの様な芸当が出来るのは!」

と、イヴの雄姿を教えたが、

「ギャオーーーーーーーーーーーーーーーーーース‼‼」

と、この一帯に奇妙な鳴き声が轟き、

「何だ⁉ この鳴き声は‼」

と、アルトが辺りを見渡すと、

イヴが根の一族の女に斬り捨てられイブは、自身の血の海の中へ沈んだ。

 アルトは目の前の光景が信じられなかった。

(今、倒れているのは相手のはずだ……。

 なのに、姉上は何をしておられるんだ……?)

 アルトが信じたくない目の前の光景を見ていると、

「あーあ、きったないなぁ。まあ、いっか!」

と、言った根の一族の女は血を払いながら不気味に笑った。

「あ、あ、姉上? う、う、嘘だ……」

 そしてアルトの脳裏に根の一族の女の笑顔がくっきりと焼き付きアルトの周りが真っ暗になったが、

「アルトさん。君のお姉さんは死んでない。強い人だもの……」

という光の声がアルトの闇を照らし、

(何を言ってるんだ? どう見ても姉上は……)

と、その光の声を見たアルトはその光から目を背ける為俯き、

「無駄だよ……。姉上はもう……」

と、呟いて拳を握り締め涙を流したが、イヴは目を開け勢いを付ける為、黒髪の女性を突き飛ばし、

黒髪の女性は体を擦りながら吹き飛ばされたが、

「な、何で? あ、あんた、生きてんのよ?」

と、言った根の一族の女の背にイヴの刀は刺さり、根の一族の女はその場に倒れた。

(どうなってるんだ⁉ だって、あの怪我じゃ姉上は……。

 でも、今、立っているのは紛れもなく姉上だ‼

 まさか、あの非力な彼女が姉上を救ったとでもいうのか⁉)

 そして、アルトが頭を整理していると、

「良かった。姉ちゃん……、うぇっ⁉ ね、姉ちゃん‼」

と、驚いた緑頭の少年が変な声を出したのでアルトが黒髪の女性を見ると、

黒髪の女性はイヴを見て涙を流しており、

(どうして彼女が泣いてるんだ⁉

 それに、さっき突き飛ばされたせいで、怪我をしているじゃないか‼)

と、その涙を見たアルトが黒髪の女性に近づこうとすると、

「へ?」

と、黒髪の女性は我に返り、頬を伝わった涙を指で触り、

「何、これ……」

と、泣いている事に今、気付いた黒髪の女性はふふっと笑い、

逃げる様に自身の精霊と共にこの場を去ってしまい、

「待つんだ‼」

と、アルトがそれを止め様とすると、

「ギャオーーーーーーーーーーースッ‼‼」

と、先程轟いた奇妙な鳴き声がまた轟き、アルトが振り返ると、その泣き声の主が姿を現していた。

(あれは、まさかアルタイル族⁉ 絶滅したはずなのに、どうして生きてるんだ?)

 その声の主を見てアルトが考えていると、アルタイル族は根の一族の女を背に載せ、

突風と砂ぼこりを巻き起こし何処かへ飛び去って行った。

「根の一族……、それに、アルタイル族。一体、何が目的なんだ?」

 それからアルトは今あった事を整理する様に言った後、

「あ、あれ? ラニーニャ様がいない⁉ ついでに、ケレスとか言う奴もいないじゃないか‼

 全く、アルタイル族がまだ近くにいるんだぞ‼

 ケレスはどうでもいいけど、ラニーニャ様は守らなきゃ‼」

と、アルトはラニーニャを探しに行った。

「しかし、ラニーニャ様は何処にいらっしゃるんだ?」

 そして、アルトがラニーニャを探していると、小さくなっていた浦島がポケットから顔を出し、

何かを知らせる様に口から、青色に輝く泡を出したので、

「浦島。もしかして、ラニーニャ様はそっちにいるのかい?」

と、アルトが聞くと、浦島は返事をする様に両前足を上下に動かし、

「わかった。ありがとう、浦島!」

と、言ったアルトは光の神殿の外へ向かった。

 そして、水鏡の泉の畔まで行くと、ケレスとラニーニャが話していた。

(むっ⁉ あれは、ケレスとかいう奴じゃないか‼ 僕より早くラニーニャ様を見つけてたのか‼)

 その二人を見たアルトが嫉妬していると、

浦島がアルトのポケットから抜け出しのそのそとラニーニャの傍に歩いて行き、

アルトはそれに合わせ歩いてラニーニャに近寄って行った。

 そして、巨大化した浦島からアルトは抜け駆けをされてしまい、

浦島はラニーニャを慰める様に擦り寄った。

 すると、

「うわぁ。う、浦島さん⁉ どうしたの?」

と、言ったラニーニャはくすぐったそうに笑い、

「凄いのは、君のほうだ。ラニーニャ様‼」

と、言ったアルトは浦島に負けじと目を輝かせながらラニーニャの傷に治癒術を施した。

「あ、ありがとう。アルトさん。

 さっきも助けてくれたのに、浦島さんも、私、何もお礼してなくて……。でも、様って何?」

 そして、首を傾げたラニーニャに言われても、

「アルトって、呼んでください。ラニーニャ様‼」

と、アルトは真顔で頼み、

「無理だよ‼ アルトさん、君を呼び捨てにするなんて‼

 それに、私なんかに、様、なんてつけないで‼」

と、両手を前にし、凄い速さでその手と首を横に振っているラニーニャに拒まれても、

「じゃあ、お師匠様では? それに僕の事は、アルトって呼んでください‼」

と、言って、アルトは一歩も引こうとはしなかった。

 すると、

「どうしよう……。ケレス君⁉」

と、ラニーニャは緑頭の少年に助けを求めた。

(ここは一歩も引かないぞ‼ こんな素晴らしい方に僕は認めてもらうんだ‼)

 そして、アルトがそう企んでいると、

「じゃあ、先輩っていうのはどう? 姉ちゃんは、アカデミーの先輩にあたるんだし。

 姉ちゃん、この人は誰かさんみたいに一度決めたら譲らないみたいだから、

あきらめてアルトって呼んであげたら?

 それに、姉ちゃん。兄貴は呼び捨てに出来るんだから大丈夫でしょ?」

と、緑頭の少年は提案したが、

「そうだけど……。

 うぅーん‼

 アカデミーは、彼と私じゃ、比べ物にならないし、それに、ジャップと彼とは、違うよぅ‼」

と、まだ首を横に振っているラニーニャは渋っていて、

(先輩⁉ それもいい‼ あの緑頭の彼でも、偶には良い事を言うんだ‼)

と、アルトは思い、

「先輩!」

と、嬉しさのあまり言ってみたが、

「ほら、姉ちゃん!」

と、緑頭の少年が促してもまだ駄目で、

(どうすれば先輩が僕を、ジャップみたいに呼んでくれるんだ?)

と、願いを叶えたいアルトは知恵を巡らせ、

「ケレス! 君も、僕を呼び捨てで呼んでくれても良い‼」

と、思い付き、ケレスを見てそう言った。

「どういう風の吹き回しだ?」

 すると、不思議そうな顔をしたケレスに聞かれ、

「君がそう言えば、先輩も言いやすいだろ!」

と、気持ちを汲んでほしくアルトが眉間にしわを寄せ答えると、

「そういう事! では、生越ながら……。ア、ル、ト!」

と、目を細めたケレスに揶揄われ、

「何かムカつく……」

と、言ったアルトはケレスを睨んだが、

「ほら、姉ちゃん! アルトって、呼んでみて!」

と、それを無視したケレスがラニーニャを見て促すと、

「うぅ、ケレス君……。裏切者‼」

と、あきらめたラニーニャはそう言って、深く息を吸った。

「あ、アルト」

 そして、顔を真っ赤にしたラニーニャにやっと言ってもらえたアルトは大喜びで、

浦島までも喜んでおり、

(何だろう……。こんな気持ちは生まれて初めてだ!)

と、アルトが幸せを感じていると、水鏡の泉にアマテラスが出現した。

あ、アマテラス様⁉」

 そのアマテラスの神々しさに思わずアルトは叫び、アルト達は動けなくなったが、

花梨のアマテラスを呼ぶ声で動ける様になった。

 そして、無事にアマテラスの加護が宝珠へ授けられ何もかも上手くいったと思えたその時、

ラニーニャが倒れた。

「先輩⁉」

 アルトはラニーニャを呼んだが、ラニーニャは青白い顔で意識が無かった。

「早く、龍宮家へ戻りましょう‼」

 それからアルトがラニーニャを浦島へ運び、光の神殿にいた者全員が浦島に乗り込むと、

浦島は龍宮家へ向け泳ぎ出した。

「先輩‼ しっかりしてください‼」

 アルトは龍宮家に着くまでずっとラニーニャを呼び続け、無事を祈った。

 そして、龍宮家の前の湖に着くとラニーニャは目を覚ましたが、

「先輩! 良かった。大丈夫ですか? 僕がわかりますか?」

と、アルトが呼び掛けてもラニーニャはぼうっとして反応がなかったので、

「早く先輩を龍宮家で休ませましょう‼」

と、アルトが提案したが、

「大丈夫よアルト。ごめんね。ちょっと疲れてたにたい」

と、ラニーニャから断られてしまい、

「ですが、先輩。まだ、顔色が悪いです……」

と、ラニーニャを心配して言ったアルトの眉は下がったが、

「本当に大丈夫だから! それに早く帰らないと明日も仕事あるし。

 私でもいないと先生が困るんだ」

と、言ったラニーニャが笑うと、

「姉貴、それは大変だ⁉ 早く、帰ろう! 目的も達成したしな!」

と、ラニーニャを見たジャップに言われてしまい、

「そ、そうですか。では、僕がちゃんと送り届ますから……」

と、言ったアルトは肩を落としたが、

「アルト、しっかりと送り届けるのですよ」

と、イヴに任されると、

「はい、姉上。任せてください!」

と、明るく、凛々しくアルトは顔を上げて言えた。

 そして、帰りの飛行艇の中でアルトはラニーニャと色々と話した。

 だが、

「なあ、アルト。お前等いつからそんなに仲が良くなったんだ?」

と、それを見ていたジャップに聞かれ、

「いつからだっていいだろう? そして、いい加減に君は僕を呼び捨てにするな‼

 何度言ったらわかるんだい?」

と、眉間にしわが寄る事なくアルトは普通に答え、

「ふーん。まっ、いいけどな。アルト」

と、ジャップとの永遠に終わりそうにないやり取りを、続けたが、

それをラニーニャは嬉しそうに笑って見守っていた。

 それからアルトがケレス達を宝珠の国まで送り届け自分の屋敷で寛いでいると、

「アルトお坊ちゃま。お疲れ様でした」

と、言ったアルトの婆やが点てた茶を運んで来たので、

「ありがとう、婆や」

と、アルトがそれを受け取ると、

「どうなされましたか? 今日はとても良い顔をなされていますよ?」

と、言ったアルトの婆やが話を聞きたそうな顔をしていたので、アルトは今日あった事を全て話した。

「その様な事があったのですか」

 そして、話を聴き終わったアルトの婆やが言うと、

「そうなんだ。ちょっと生意気だけど、あのケレスって者も結構良い奴でね。

 まあ、先輩がいるから呼び捨てにさせてあげたんだ!

 それからあの赤い髪の彼はさ、呼び捨てにして良いって言ってないのに、

気安く話し掛けてくるんだ‼

 何なんだろうね。でも……」

と、言ったアルトが、ふっと笑ってしまうと、

「でも、良い方、なのですね?」

と、アルトの婆やからその続きを言われてしまい、

「さすが、婆やだね!」

と、言ったアルトはまた、ふっと笑った。

 しかし、

「でも、先輩のあの力は……」

と、ふと、ある事が気になったアルトは呟き、

「まさか、そんな訳ない……」

と、心の中で自身にそう言い聞かせた。


 アルト君。きっと、彼等との出会いは、君の運命を大きく変えるものになる!

 また、君を主人公にした話を書くから、君の融資を見せてくれ! 

 期待してるよん!

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